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カー効果顕微鏡による薄膜磁気ヘッドの高周波磁化状成態の観察とヘッド特性の解析

氏名 由比藤 勇
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第70号
学位授与の日付 平成8年3月25日
学位論文の題目 カー効果顕微鏡による薄膜磁気ヘッドの高周波磁化状態の観察とヘッド特性の解析
論文審査委員
 主査 教授 一ノ瀬 幸雄
 副査 教授 神林 紀嘉
 副査 教授 松田 甚一
 副査 助教授 石黒 孝
 副査 助教授 北谷 英嗣
 副査 東北大学金属材料研究所教授 藤森 啓安

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 磁気ディスク装置の位置付け p.1
1.2 誘導型薄膜磁気ヘッドおよび磁気抵抗効果型のヘッドの位置付けと課題 p.6
1.2.1 誘導型薄膜磁気ヘッド p.6
1.2.2 磁気抵抗効果型ヘッド p.9
1.3 軟磁性薄膜の磁化状態評価の必要性 p.12
1.3.1 カー効果による磁化状態評価およびその課題 p.14
1.3.2 カー効果による高周波磁化状態の評価 p.21
1.4 本研究の目的 p.22
1.5 本論文の概要 p.22
1.6 参考文献 p.23
第2章 磁化状態評価法の開発 p.26
2.1 緒言 p.26
2.2 測定原理 p.26
2.3 装置構成および基本性能 p.28
2.3.1 装置仕様および基本構成の概略 p.28
2.3.2 装置構成上の課題と対策 p.32
2.4 磁化像の解析 p.40
2.5 位相差測定 p.43
2.6 磁化の向きの測定 p.43
2.6.1 測定原理 p.43
2.6.2 測定時間の短縮 p.50
2.7 結言 p.50
2.8 参考文献 p.54
第3章 磁気ヘッド用軟磁性薄膜の高周波磁化状態とノイズ p.55
3.1 緒言 p.55
3.2 実験方法 p.55
3.2.1 試料およびその作製 p.55
3.2.2 磁化状態評価 p.57
3.3 実験結果 p.59
3.3.1 軟磁性薄膜の高周波磁化状態 p.59
3.3.2 誘導型薄膜磁気ヘッド上部磁極の高周波磁化変化 p.70
3.3.3 記録再生特性と磁化変化 p.74
3.4 考察 p.83
3.4.1 軟磁性薄膜の高周波磁化変化 p.83
3.4.2 ウィグルの低減と磁歪定数および磁区構造 p.87
3.5 結言 p.90
3.6 参考文献 p.91
第4章 磁気ヘッド用軟磁性膜の磁区および磁壁の動的挙動 p.93
4.1 緒言 p.93
4.2 磁壁の動的評価法の開発 p.93
4.3 結果 p.95
4.4 考察 p.103
4.5 結言 p.105
4.6 参考文献 p.106
第5章 誘導型薄膜磁気ヘッドの再生出力と磁極磁化状態との関係 p.107
5.1 緒言 p.107
5.2 試料およびその作製 p.107
5.3 結果 p.108
5.3.1 再生出力のばらつき p.108
5.3.2 磁極磁性膜の磁化変化 p.112
5.3.3 磁極磁気特性の局所的劣化 p.116
5.3.4 局所的透磁率の低下と再生出力 p.123
5.4 考察 p.123
5.5 結言 p.125
5.6 参考文献 p.126
第6章 磁気抵抗効果膜の磁化状態とノイズ低減 p.127
6.1 緒言 p.127
6.2 試料およびその作製 p.128
6.3 結果 p.132
6.3.1 結合磁界および結合機構 p.132
6.3.2 磁区制御膜のバルクハウゼンノイズ抑止効果 p.140
6.3.3 磁気抵抗効果曲線と磁化状態 p.143
6.4 結言 p.151
6.5 参考文献 p.154
第7章 結論 p.156
謝辞 p.159
本研究に関する発表論文 p.160

 磁気記録技術は情報化社会を支える重要な記憶技術であり、その高密度記録化には薄膜磁気ヘッドが必須の技術である。これは、量産性に優れていることの他に、微細かつ高速応答性に優れているなど、高密度記録に有利なためである。これまで、薄膜磁気ヘッドにはNi-Fe薄膜を磁気コアとする誘導型薄膜磁気へッドが広く使われてきたが、ギガビット/平方インチクラスの高密度記録に対しは、磁気抵抗効果型ヘッドを用いた記録・再生分離型ヘッドが使われていると考えられている。
 薄膜磁気ヘッドの実用化には、記録・再生特性を直接左右する磁性薄膜の制御が重要である。実際、特有のノイズ、再生出力変動が生じ、高密度化への大きな課題となっている。これらノイズ、再生出力変動は信号磁界の出入り口である磁極(磁性薄膜)の磁化状態に起因すると考えられているが、その詳細はあきらかでない。これは、従来の低周波、かつ、模擬的実験と実際のヘッド形状および動作周波数が大きく異なるためである。
 本論文は、このようなノイズ、再生出力変動の詳細な解析を通じ、高性能薄膜磁気ヘッドの開発を目的に、高周波帯域における磁極の磁気的挙動およびヘッドの特性との関連を新たに開発したカー効果顕微鏡を用いて研究した成果を「カー効果顕微鏡による薄膜磁気ヘッドの高周波磁化状態の観察とヘッド特性と解析」と題してまとめたもので、7章より構成されている。
 第1章「序論」では、磁気ディスク装置の優位性、誘導型薄膜磁気ヘッドおよび磁気抵抗効果型ヘッドの原理と構造さらには磁性薄膜の機能制御の重要性について述べ、そのためには磁性薄膜の磁化状態の詳細な解析が必要等、本研究の目的と意義を述べた。
 第2章「磁化状態評価法の開発」では、磁性薄膜の磁化状態解析を目的に新たに開発した走査型カー効果顕微鏡の原理、構成、機能および測定結果の1例を述べた。
 第3章「磁気ヘッド用軟磁性薄膜の高周波磁化状態とノイズ」では、はじめに閉磁路素子を用いて軟磁性膜の高周波磁化状態について検討し、1MHZ程度の周波数では90度磁壁の移動が顕著であること、90度磁壁近傍では磁化回転が抑制されること、さらに、10MHZ以上の高周波領域では三角磁区内でも磁化回転が生ずること等を実験的に初めて明らかにした。また、誘導型薄膜磁気ヘッドの評価から、ノイズの発生が磁区、磁化の向きの傾きに密接に関連していることをつきとめ、磁歪定数の適正化がノイズの抑止に重要であることを明らかにした。
 第4章「磁気ヘッド用軟磁性薄膜の磁区および磁壁の動的挙動」では、ノイズのより詳細な解析を目的に、磁壁の動的挙動の評価が可能なストロボカー効果顕微鏡の原理、構成等を述べ、また、軟磁性薄膜の磁壁移動を評価した結果、磁壁間で位相遅れがあるとともに、1つの磁壁内でも局所的に位相遅れの生ずる場合のあることを明らかにし、磁壁移動の位相遅れがノイズの1原因となることを示した。
 第5章「誘導型薄膜磁気ヘッドの再生出力と磁極磁化状態との関係」では、複数のヘッドに見られた再生出力のばらつきの原因を検討し、多くの場合はトラック幅とギャップ深さで説明が可能であるが、いくつかのヘッドでは磁極の磁化状態が原因と推定されること、その原因が磁極の記録媒体との対向面のカー信号強度と2次元計算機シミュレーションとの対応より、磁極の局所的な透磁率の低下によることを明らかにした。
 第6章「磁気抵抗効果膜の磁化状態とノイズ低減」では、次世代高密度磁気記録に不可欠の磁気抵抗効果型ヘッドを取り上げ、特に重要なバルクハウゼンノイズの抑止を目的に、Fe-MnおよびCo-Pt磁区制御膜の形成方法、磁化状態の観察を行い、表面酸化したNi-Fe膜でも、表面をエッチングし直ちにFe-Mnを堆積すれば、Ni-Fe膜にFe-Mnがエピタキシャル成長し直接交換相互作用が生ずること、Co-Pt磁区制御膜はエッチング無しでもNi-Fe膜と磁気的に結合することを明らかにした。また、再生波形歪の原因となる磁気抵抗効果応答曲線の歪みが、電極の応力による磁気抵抗効果膜の磁化の向きの傾きが原因であることを明らかにし、特に、Fe-Mn/Ni-Fe2層膜では顕著であることを示した。
 第7章「結論」では、本研究で得られた成果を総括した。
 以上のように、本論文は高密度記録用薄膜磁気ヘッドの、特に、磁性薄膜の高周波磁化状態とヘッド特性を新たに開発した走査型カー効果顕微鏡で解析した研究成果であり、磁性薄膜の高周波帯域における特異な挙動を初めて明らかにするとともに、薄膜磁気ヘッドプロセス技術を確立し、その工業化に大きく寄与した。

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