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コンクリート部材の曲げせん断耐荷機構の解明およびその設計法に関する研究

氏名 趙 唯堅
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第122号
学位授与の日付 平成8年3月25日
学位論文の題目 コンクリート部材の曲げせん断耐荷機構の解明およびその設計法に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 丸山 久一
 副査 教授 林 正
 副査 教授 鳥居 邦夫
 副査 教授 丸山 暉彦
 副査 助教授 下村 匠

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目次
1章 序論 p.1
1.1 背景 p.1
1.2 本研究の目的および範囲 p.2
2章 多段配筋を有する鉄筋コンクリートはりの曲げひび割れ試験 p.5
2.1 既往の研究の問題点 p.5
2.2 試験方法 p.7
2.2.1 供試体計画 p.7
2.2.2 使用材料 p.8
2.2.3 載荷・計測方法 p.8
2.3 実験結果と考察 p.9
2.3.1 荷重-変位-ひずみ挙動 p.9
2.3.2 ひび割れ間隔 p.11
2.3.3 ひび割れ幅 p.15
2.4 ひび割れ間隔およびひび割れ幅の分布特性 p.19
2.5 最大ひび割れ間隔の形状効果 p.20
2.6 まとめ p.24
参考文献 p.25
3章 鉄筋コンクリートはりの曲げひび割れ幅算定式の再評価 p.26
3.1 既往の研究の問題点 p.26
3.2 既往のひび割れ幅算定式 p.27
3.3 多段配筋はり実験結果による既往算定式の検討 p.31
3.4 ひび割れのメカニズムとひび割れ間隔基本式の構築 p.33
3.5 多段配筋の影響の評価 p.37
3.6 ひび割れ間隔に関する提案式の精度 p.40
3.7 ひび割れ幅 p.43
3.8 まとめ p.45
参考文献 p.46
4章 連続繊維補強材を用いたコンクリートはりの曲げ試験 p.49
4.1 研究の現状と問題点 p.49
4.2 試験方法 p.52
4.2.1 使用材料 p.52
4.2.2 載荷・計測方法 p.54
4.3 格子状CFRPロッドの横筋間隔が異なるはりの実験 p.56
4.3.1 供試体 p.56
4.3.2 実験結果と考察 p.57
4.4 格子状CFRPロッドの鉄筋の混合配筋を有するはりの実験 p.64
4.4.1 供試体 p.64
4.4.2 実験結果と考察 p.65
4.5 まとめ p.70
参考文献 p.71
5章 連続繊維補強コンクリートはりの曲げひび割れ幅およびたわみ評価 p.73
5.1 研究の現状と問題点 p.73
5.2 ひび割れ幅算定式の連続繊維補強および混合配筋はりへの適用 p.75
5.2.1 ひび割れ理論の検証 p.75
5.2.2 横筋間隔の影響のメカニズム p.78
5.2.3 付着係数K1の一般化 p.81
5.2.4 多段配筋係数K2の一般化 p.82
5.2.5 ひび割れ幅算定式の拡張およびその適用性 p.84
5.3 たわみに関するBranson式の連続繊維補強および混合配筋はりへの適用 p.87
5.3.1 Bransonの式および適用の問題点 p.87
5.3.2 たわみ算定法1-修正弾性係数法 p.89
5.3.3 たわみ算定法2-換算断面曲率法 p.93
5.4 まとめ p.95
参考文献 p.95
6章 連続繊維補強材を用いたコンクリートはりのせん断試験 p.97
6.1 研究の現状と問題点 p.97
6.2 試験方法の勘案 p.99
6.3 使用材料・供試体・測定項目 p.102
6.3.1 使用材料 p.102
6.3.2 供試体の形状寸法およびシリーズ構成 p.104
6.3.3 載荷方法および測定項目 p.109
6.4 実験結果と考察 p.114
6.4.1 ひび割れパターンおよび破壊断面 p.114
6.4.2 荷重変位曲線およびその特徴 p.116
6.4.3 破壊モードおよび終局耐力 p.118
6.4.4 諸要因がせん断耐力に及ぼす影響 p.121
6.5 せん断耐力に関する佐藤・上田式の適用性と問題点 p.128
6.6 まとめ p.134
参考文献 p.135
7章 連続繊維補強コンクリートはりのせん断耐荷機構とせん断耐力評価 p.137
7.1 本章の目的 p.137
7.2 連続繊維補強コンクリートはりのせん断耐荷機構 p.138
7.2.1 せん断補強筋のないはりのせん断耐荷機構 p.138
7.2.2 せん断補強筋を有するはりのせん断耐荷機構 p.140
7.3 コンクリートの受け持つせん断力 p.146
7.3.1 主筋比の影響およびその一般化 p.146
7.3.2 せん断補強筋の影響 p.148
7.3.3 せん断スパン比の影響の再評価 p.149
7.4 せん断補強筋の受け持つせん断力 p.151
7.4.1 せん断補強筋終局ひずみ分布のモデル化 p.152
7.4.2 諸要因がせん断補強筋終局ひずみに及ぼす影響の定量化 p.155
7.4.3 せん断補強筋耐力算定式の誘導 p.159
7.5 せん断耐力提案式およびその適用範囲と適合性 p.163
7.5.1 提案式まとめ p.163
7.5.2 提案式の算定精度および適用範囲 p.164
7.6 最小せん断補強筋量について p.171
7.6.1 最小せん断補強筋比の誘導 p.171
7.6.2 最小せん断補強筋比の設計用値 p.174
7.7 まとめ p.176
参考文献 p.178
8章 総括 p.182
8.1 結論 p.182
8.2 設計への提言 p.186
謝辞 p.189
付録 p.190
付録1 せん断試験体のひび割れ図 p.190
付録2 せん断試験体の破壊状況の写真 p.201
付録3 佐藤・上田のせん断耐力算定式 p.219
付録4 連続繊維補強材の曲げ成形部強度 p.225
付録5 発表論文目録 p.227

 近年、社会的ニーズに応じるために建設技術に関して新しい試みが数多く実施され、その中で、コンクリート構造物の補強材として、高強度、軽量、耐腐食性が高いなどの利点から、連続繊維補強材(Fiber ReinforcedPlastic)が期待されている。連続繊維補強材の使用は、今までの設計法の適用範囲あるいは枠組を越えるものが多く、合理的な設計の為には、コンクリート部材に関するより根本的な理解を必要としている。本研究は、コンクリート部材のより一般的な力学挙動の解明と、それに基づいたより適用範囲の広い設計法の確立を中心課題として、従来の鉄筋コンクリートを含め、曲げおよびせん断力を受ける連続繊維補強コンクリートはりの耐荷機構と変形挙動を実験および解析的に検討し、それぞれの問題について設計に役立つ評価方法を提案するものである。
 コンクリート構造部材の設計において、使用性および耐久性の観点から、使用限界状態で曲げひび割れ幅の制御が重要な問題である。土木学会コンクリート標準示方書をはじめとして、各国の示方書や基準においても、曲げひび割れ幅の算定方法をそれぞれ独自に定めている。しかし、いずれの算定方法も、基本的には、主鉄筋を一段に配置した部材の実験に基づいており、主鉄筋が鉛直方向に数段配置されるような大型構造物、および鉄筋以外の補強材を使用する部材への適用性は、ほとんど検討されていない。
 本研究では、多段配筋を有する鉄筋コンクリートはり、格子状連続繊維補強材を用いたコンクリートはり、および連続繊維補強材と鉄筋を併用したコンクリートはりの曲げ挙動を実験的に把握した。曲げ耐力は既往のRC理論より評価できるが、曲げひび割れ間隔および幅について、いずれの場合も従来の方法では十分に評価できないことが確認された。その原因は、主鉄筋が多段に配置されると、断面内の応力分布・ひずみ勾配、鉄筋とコンクリートとの付着応力分布、およびかぶりコンクリートの影響等が、一段配筋と異なり、それらが曲げひび割れ間隔に影響する。格子状連続繊維補強材を使用する場合、補強材とコンクリートの付着機構は鉄筋コンクリートと異なる。鉄筋と連続繊維補強材を混合配置する場合、さらに総合的な影響効果が存在する。そこで、本論文では、まず多段配筋比を導入することで主鉄筋が多段に配置された場合でも適用できる鉄筋コンクリート部材の曲げひび割れ幅算定式を提案し、その有効性を著者らの実験を含めた既往の実験結果により検証した。次に、付着強度比の概念を導入することにより、この算定式を連続繊維補強および混合配筋はりに拡張し、補強材の種類および配筋状態の違いによらない統一的な曲げひび割れ幅算定方法を提案した。
 鉄筋コンクリートはりのたわみ算定法として、Bransonの式がよく使われているが、連続繊維補強材を用いたはりのたわみは付着低下およびコンクリートの塑性変形に影響されるため、Branson式では過小の評価を与える。また、Bransonの式の適用範囲は引張鉄筋が降状するまでの領域となるが、連続繊維補強材と鉄筋を併用する場合、鉄筋の降状により荷重のたわみ曲線は途中から傾きを変えるので、鉄筋の降状による剛性変化を予測することが必要となる。本論文では、付着低下およびコンクリート塑性変形の影響をコンクリートの弾性係数を低減する方法で考慮し、Bransonの式を連続繊維補強コンクリートはりに適用できるように修正した。また、Bransonの有効断面二次モーメントの考え方を断面曲率に適用し、混合配筋も含めた全荷重たわみ曲線を求める方法を提案した。
 このように拡張した曲げひび割れ幅およびたわみの算定方法は、鉄筋のみならず連続繊維補強および混合配筋の場合にも実験結果を精度よく予測できることが示された。
 連続繊維補強材を用いたコンクリートはりのせん断性状に関しては、耐荷メカニズムを含めて不明な点が多い。また、従来の鉄筋コンクリートのせん断耐力算定式の適用は難しい。その原因は、従来のせん断耐力算定式はあくまで主筋に鉄筋を使用した場合の実験式であり、理論的に説明できるものではない。また、せん断補強筋の効果を算定する際に、鉄筋の降状を仮定しているため、連続繊維補強材のような降状点を持たない材料を用いる場合、せん断補強筋の負担するせん断力を定めることはできない。
 したがって、終局時のせん断耐力だけでなく、斜めひび割れが発生してから終局に至るまでのせん断変形挙動を把握しなければならない。本研究では、まず連続繊維補強材コンクリートはりのせん断耐荷性状、特に破壊メカニズムと深く関わるせん断変形挙動を実験より徹底的に調べ、鉄筋コンクリートと比較することによりせん断破壊機構の相違点を明らかにした。次に、コンクリートの受け持つせん断耐力に関する従来の算定式を再評価するとともに、連続繊維補強コンクリートに適用できるように修正を行った。さらに、せん断変形性状をもとにせん断補強筋のひずみ分布をモデル化し、せん断補強筋の受け持つせん断力の算定式を導いた。最終的に、鉄筋コンクリートと統一するせん断耐力評価方法を提案するとともに、既往の大量の実験データより提案式の有効性を確かめた。なお、本提案式は、異なる補強材を統一的に評価できること、異なる破壊モードを統一的に表現していること、および予測精度が高いなどの点でこれまでに提案されていた算定式より優れている。

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