レーザビームの透過光方式によるエッジ位置検出法とその応用に関する研究
氏名 山田 隆一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第76号
学位授与の日付 平成8年3月25日
学位論文の題目 レーザビームの透過光方式によるエッジ位置検出法とその応用に関する研究
論文審査委員
主査 教授 柳 和久
副査 教授 秋山 伸幸
副査 教授 高田 孝次
副査 教授 久曽神 煌
副査 教授 矢鍋 重夫
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目次
第1章 緒論 p.1
1.1 緒言 p.1
1.2 従来の研究 p.5
1.2.1 いろいろな形状の開口における回折現象に関する研究 p.5
1.2.2 レーザ応用二次元幾何形状計測に関する研究 p.5
1.2.3 円筒回転体の振れ回り測定とワイヤ振動の測定に関する研究 p.6
1.2.4 工作機械の熱変位計測に関する研究 p.7
1.2.5 円筒の真円度測定に関する研究 p.7
1.3 本研究の目的 p.8
1.4 本論文の構成 p.9
1.5 本論文で用いる記号 p.10
文献 p.13
第2章 ガウス形小径レーザビームによる直線状物体エッジの位置検出 p.19
2.1 緒言 p.19
2.2 フレネル・キルヒホッフの回折理論に基づいたエッジ検出原理 p.21
2.3 エッジ位置検出装置 p.23
2.4 数値計算シミュレーションと実験結果の比較考察 p.25
2.4.1 光学パラメータが回折像に及ぼす影響 p.25
2.4.2 光学パラメータが透過ビームパワーに及ぼす影響 p.30
2.4.3 試作装置の検出精度 p.33
2.5 結言 p.36
文献 p.37
第3章 円弧状物体エッジの位置検出 p.38
3.1 緒言 p.38
3.2 円弧状エッジの検出原理 p.39
3.2.1 円弧状エッジと直線状エッジ p.39
3.2.2 凸形状エッジでの回折 p.41
3.2.3 凹形状エッジでの回折 p.43
3.3 エッジ位置検出装置 p.44
3.3.1 測定系のアラインメントの調整方法 p.44
3.3.2 検出装置の構成 p.44
3.4 数値計算シミュレーションと実験結果の比較考察 p.46
3.4.1 円弧状エッジの回折像 p.46
3.4.2 円弧状エッジの透過ビームパワー p.54
3.5 直線状エッジと円弧状エッジの比較検討 p.62
3.6 結言 p.64
文献 p.65
第4章 光軸方向のエッジ形状を考慮した場合 p.66
4.1 緒言 p.66
4.2 光軸方向に厚みを有するエッジ p.66
4.3 光軸方向に厚みを有するスリット p.69
4.3.1 スリット透過光の幾何学的モデルと実験装置 p.69
4.3.2 スリット透過光の回折像検出結果および考察 p.71
4.4 光軸方向に曲率を有する円筒面状エッジ p.75
4.4.1 回折光と反射光の複合ビームによるエッジ検出理論 p.75
4.4.2 反射光照度分布の数値計算シミュレーション p.77
4.4.3 回折像の検出結果および考察 p.81
4.5 切欠きを有する円筒面状エッジ p.83
4.6 結言 p.86
文献 p.86
第5章 小径円筒体軸心の位置検出 p.87
5.1 緒言 p.87
5.2 軸心の横方向変位検出 p.89
5.2.1 測定原理 p.89
5.2.2 数値計算シミュレーション p.92
5.2.3 検出装置 p.98
5.2.4 検出装置の基本性能 p.100
5.3 軸心の面内位置検出 p.102
5.3.1 検出システムの構成 p.102
5.3.2 直交方向への反射光が検出精度に及ぼす影響 p.103
5.4 結言 p.107
文献 p.108
第6章 スピンドル熱変位の直交三成分同時評価システム p.109
6.1 緒言 p.109
6.2 測定方法と測定原理 p.110
6.2.1 直交三成分変位の光学式測定法 p.110
6.2.2 楕円ビームによるエッジ位置の検出 p.111
6.2.3 ラジアル方向直交二成分変位の測定 p.114
6.2.4 アキシャル方向変位の測定 p.117
6.3 試作型熱変位評価システム p.121
6.3.1 システム構成 p.121
6.3.2 システムの基本性能 p.124
6.3.3 熱変位測定結果および考察 p.128
6.4 改良型熱変位評価システム p.130
6.4.1 システム構成 p.130
6.4.2 システムの基本性能 p.132
6.4.3 熱変位測定結果および考察 p.135
6.5 結言 p.140
文献 p.141
第7章 精密研削シャフトのVブロック式真円度測定システム p.142
7.1 緒言 p.142
7.2 測定原理と数値計算シミュレーション p.143
7.2.1 スリット開口を用いた測定原理 p.143
7.2.2 数値計算シミュレーション p.146
7.3 システム構成と基本性能 p.148
7.3.1 システム構成 p.148
7.3.2 システムの基本性能 p.151
7.4 実験結果および考察 p.154
7.4.1 真円度測定結果 p.154
7.4.2 真円度の大きさと測定可能山数との関係 p.157
7.4.3 シャフトのたわみの影響 p.159
7.4.4 市販の真円度測定器による測定結果との比較検討 p.159
7.5 結言 p.162
文献 p.163
第8章 結論 p.164
謝辞 p.169
工業製品の高精度化に伴い、その幾何学的品質を保証するためにマイクロメータオーダ以上の測定精度が要求されるようになってきた。レーザを応用した二次元幾何形状計測法の一分野である透過光強度検出方式は、測定精度と測定装置の簡便さが比較的高い次元でバランスしているので、インプロセスを指向した高精度幾何量計測に適した測定方式であると考えられる。しかしながら、従来の研究報告中透過光方式に関するものは数例存在するのみで、しかもそれらは測定手段の提示に留まっており、測定原理に対する光工学的解析はまったく行われていない。
以上のような背景を踏まえて、本論文はエッジによって一部させぎられた開口を透過するレーザビーム光量の相対的変化からエッジ位置を同定する透過光型エッジ位置検出法を提案し、この検出法に回折理論に基づく光学的根拠を与えるとともに、本エッジ位置検出法を適用した変位計測システムの開発過程をまとまたものである。
本論文は全8章から構成されている。
第1章「緒論」では、光応用計測の特長と長さに関する光応用計測技術の現状および本研究に関連する従来の研究の流れを示し、本研究の位置づけと目的、意義を明らかにした。
第2章「ガウス形小径レーザビームによる直線状物体エッジの位置検出」では、鋭利な直線状エッジを対象として、小径のガウス形レーザビームを平行に走査する透過光型エッジ位置検出法を提案し、フレネル・キルヒホッフの回折理論に基づく測定原理を示した。そしてビーム径、開口面から観測面までの距離および光検出器の寸法を現実的な範囲内に限定して、これらのパラメータが回折像と透過ビームパワーに及ぼす影響を数値計算と実験により解析した。その結果、エッジによるビームさえぎり位置と光検出器での受光パワーとの間に線形関係が存在することを確認した。また、本検出法によるエッジ位置検出性能は、検出精度0.5~1μm、繰り返し精度±1μm、測定範囲約300μmであることを検証した.
第3章「円弧状物体エッジの位置検出」では、鋭利な凸形状と凹形状の円弧状エッジを対象として前章と同様の検出原理を示し、数値解析と実験解析を行った。エッジの曲率半径を3mm以上に限定した場合、円弧状エッジについてもエッジ位置と光検出器での受光パワーとの間に線形関係が存在することを確認した。さらに、エッジ形状とエッジ曲率は検出精度と検出感度にほとんど影響を与えず、直線状エッジと等しい精度と感度が得られることを示した。しかし、検出器での受光パワーを一定とした場合、円弧状エッジと直線状エッジの先端位置の差はエッジ形状とエッジ曲率とに大きく影響されることを明らかにした。
第4章「光軸方向のエッジ形状を考慮した場合」では、光軸方向に厚みのあるエッジとスリットおよび円筒面状エッジを検出対象とし、それらのエッジが回折像に及ぼす影響を実験的に解析した。厚みが45mm以下のエッジとスリットについては、その厚さが大きいほど最大照度は大きく、回折像の広がりは小さくなり、観測面までの距離が近いほど回折像がガウス分布から崩れること、スリット幅がビーム径の約1/2のとき最大照度が最も大きくなること、スリットにテーパがつくと最大照度は低下することを確かめた。半径22.mm以下の円筒面状エッジについては、円筒面での反射光照度は0次回折光にほとんど影響を与えないこと、および円筒背面部が回折光の拡がりにほとんど影響しないことを確認した。したがって円筒面状エッジを鋭利なエッジと同様に取り扱って差し支えないという結論を得た。
第5章「小径円筒体軸心の位置検出」では、公称ビーム径よりも直径の小さな円筒体軸心の位置を、2分割型光検出器を用いて測定する原理と方法を示した。まず2分割型光検出器による軸心の横方向変位測定原理を回折理論に基づいて提示した。そして数値解析と基礎実験の結果から、ビーム径に対する直径の比率が0.4以下の小径円筒体については、検出精度0.5μm以上、繰り返し精度1μmで軸心の変位を検出できることを明らかにした。続いて軸直角平面内の軸心位置の検出法を提案した。この場合、円筒面による反射光の影響が光軸の直交方向に大きく現れることを示した。
第6章「スピンドル熱変位の直交三成分の同時評価システム」では、本透過光型エッジ位置検出法を適用して、工作機械スピンドル部の三次元的熱変形挙動を定量的に計測・評価できるシステムを開発した。まず、測定治具としてスピンドルに装着したテストバーの変位を、機械運転中にリアルタイムで直交三成分同時に評価する方法を示した。次に、スピンドル回転軸長手方向の変位測定用に小球と楕円率の大きな楕円断面形状ビームを用いた結果、テストバーが軸直角方向に±30μm程度移動しても、長手方向の測定精度には影響を及ぼさないことを検証した。改良型熱変位評価システムの測定性能は、測定精度1μm、光学系の温度安定性0.2μm/℃、測定範囲0.4mmで、十分な実用性能を有していることを確認した。
第7章「精密研削シャフトのVブロック式真円度測定システム」では、スリット開口の透過光方式を応用した精密研削シャフトの真円度測定手段を考案し、それに基づいて三点測定馬乗り法による非接触式真円度測定システムを開発した。スリット開口の理論解析と静的基礎実験の結果、本システムはスリット開口によって線形性が向上し、測定精度0.5~1μmで真円度を測定できることを検証した。また、本システムは原理上測定可能な山数が制限されるが、被測定物の機能上重要な20山以下の低周波成分は十分測定できること、および被測定物のたわみを測定可能であることを示した。
第8章「結論」では、各章で得られた研究成果を総括した。