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窒素含有炭素膜成長過程中のECRプラズマ反応場における窒素挙動

氏名 井上 亨
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第119号
学位授与の日付 平成8年3月25日
学位論文の題目 窒素含有炭素膜成長過程中のECRプラズマ反応場における窒素挙動
論文審査委員
 主査 教授 植松 敬三
 副査 教授 松下 和正
 副査 教授 小松 高行
 副査 助教授 丸山 一典
 副査 講師 斎藤 秀俊

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目次
第1章 緒言
1-1 窒化炭素に関する最近の研究 p.1
1-1-1 β-C3N4結晶の予想される基礎特性 p.1
1-1-2 β-C3N4結晶合成の試み p.2
1-1-3 本研究における窒化炭素合成の基本的考え型 p.6
1-1-4 ECRプラズマCVD法 p.8
1-2 本研究の目的 p.9
1-3 本論文の概要 p.10
参考文献 p.17
第2章 a-C:H膜構造強化におけるイオン照射と添加ガスの効果
2-1 緒言 p.19
2-2 実験方法 p.23
2-2-1 ECRプラズマCVD装置 p.23
2-2-2 膜の作製方法 p.24
2-2-3 膜の作製条件 p.25
2-2-4 評価方法 p.25
2-3 結果 p.26
2-3-1 マイクロ波電力に対する膜の成長速度と硬さ p.26
2-3-2 イオン加速電圧に対する膜の成長速度と硬さ p.26
2-3-3 原料ガス流量比の変化 p.26
2-4 考察 p.27
2-4-1 ラマン分光分析法によるアモルファス炭素膜の構造評価 p.28
2-4-2 マイクロ波電力とイオン加速電圧がもたらす構造変化 p.31
2-4-3 添加ガス流量比による膜の構造変化 p.32
2-5 小括 p.33
参考文献 p.49
第3章 a-C:H膜の気相成長と反応過程の解析
3-1 緒言 p.52
3-2 実験方法 p.52
3-2-1 イオン加速電源の変更 p.52
3-2-2 a-C:H膜の合成 p.53
3-2-3 評価方法 p.54
3-3 実験結果 p.55
3-3-1 膜の成長速度 p.55
3-4 考察 p.56
3-4-1 反応場における窒素イオン挙動のシミュレーション p.56
3-4-2 窒素イオンによる炭素のエッチング p.59
3-4-3 気相反応場における反応生成物 p.63
3-5 小括 p.66
参考文献 p.83
第4章 a-C:N膜の微細構造の解析
4-1 緒言 p.85
4-2 実験方法 p.86
4-2-1 試料の合成 p.86
4-2-2 窒素含有量の評価 p.87
4-2-3 膜の微細構造の評価 p.87
4-2-4 押し込み硬さ測定による機械的性質の評価 p.88
4-3 結果 p.90
4-3-1 窒素含有量 p.90
4-3-2 炭素-窒素の結合状態 p.91
4-3-3 押し込み硬さ測定 p.94
4-3-4 a-C:N膜の構造 p.97
4-4 考察 p.97
4-4-1 ダイヤモンドにおける窒素固溶限 p.97
4-4-2 グラファイトにおける窒素固溶 p.98
4-4-3 DLCにおける窒素固溶 p.99
4-4-4 炭素の窒素固溶限と窒素の固溶状態 p.100
4-5 小括 p.101
参考文献 p.124
第5章 総括 p.127
謝辞 p.130
関連論文発表、関連学会発表

 仮想結晶β-C3N4を含む窒素含有炭素膜の新相を創製し、その基礎特性を明らかにすることが高圧合成法や気相合成法により試みられてきた。本研究では、これまで試みられてきた合成法を検討した結果として、炭素に対する窒素組成が充分多い結晶質膜を得るには組成強制制御性に優れた物理的気相析出(PVD)法と結晶成長に有利な化学的気相析出(CVD)法の長所を備えた電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマCVD法が最適であることを提案した。
 第1章「緒言」では本研究の目的がECRブラズマCVD法による炭素膜形成過程におけるプラズマおよび基板へのイオン加速の役割、窒素含有炭素膜形成の気相過程および成長表面における窒素挙動、および得られた窒素含有炭素膜に対する構造的定義付与と膜の内部における窒素挙動をそれぞれ詳細に検討することであると述べた。
 第2章「a-C:H膜構造強化におけるイオン照射と添加ガスの効果」では、ECRプラズマCVD法によるアモルファス水素化炭素(a-C:H)膜作製において、膜の構造を強靱なダイヤモンド様炭素膜(DLC)構造にするためのプラズマおよびイオン加速の役割と、物理的スパッタリング効果を有するAr炭素の化学的エッチングをおこなうH2の混合ガス添加によるa-C:H膜の硬質化の試みについてそれぞれの実験結果を検討して次の結論を得た。1)マイクロ波電力とイオン加速電圧を独立に変化して得られた膜の微小硬さおよび構造解析結果より、a-C:H膜をDLC構造として硬さを増加させるためにはイオン加速電圧の増加が大きく寄与することがわかった。従ってプラズマの主な役割は、加速照射されるイオンを供給することである。2)Ar+イオンは物理的表面衝撃により炭素膜の構造をDLC化し、H+イオンは脆弱な膜のC-H結合を化学的エッチングすることで膜を硬質化することが確認できた。また原料にArとH2の両方を混合することで、膜の硬質化をさらに促進できることが明らかになった。
 第3章「a-C:N膜の気相成長過程の解析」では、ECRプラズマCVD法によるアモルファス窒素含有炭素(a-C:N)膜の気相成長を試みた。膜の成長速度はイオン加速電圧を増加させると100V以上で減少傾向を示し、窒素流量のわずかな増大で急激な減少を示すことがわかった。そのためブラズマ反応場における窒素挙動がa-C:N膜形成プロセスの重要な位置を締めると予想し、プラズマ発光分光分析法と質量分析法により気相-膜表面反応および気相中反応の解析をおこなった。その結果、a-C:N膜の成長速度の急激な減少は1)成長中のa-C:N膜が窒素イオンにより化学的にエッチングされ、その結果炭素および窒素はHCNとして除去されること、2)気相中の窒素がプラズマ中の炭化水素分子とHCNを形成して容器外へ排出され、a-C:N膜の原料が充分供給されなくなること、以上の二点が原因であることが明らかになった。
 第4章の「a-C:N膜の微細構造の解析」では、ECRプラズマCVD法によって得られたa-C:N膜の組成分析と構造解析および機械的特性評価をおこない、本研究で得られたa-C:N膜の構造の定義と、膜内部における窒素挙動の解明を試みた。その結果、次の二点の結論が得られた。1)a-C:N膜の微細構造は基本的にDLC構造である。押し込み硬さ、ヤング率などの機械的性質がDLCに等しいという測定結果がこの結論を支持する。微細構造の検討から、膜内部の窒素はDLC構造内部で一部炭素に置換するかあるいは炭素のダングリングボンドを終端している。2)a-C:N膜は水素、炭素および窒素からなり、特に膜中の[N]/([N]+[C])組成比は最大0.08程度である。多くの報告例におけるダイヤモンドやグラファイトにおける窒素の固溶限の結果から、a-C:N膜中の窒素含有量はDLC構造における窒素固溶限によって制限されていると考えられる。
 第5章「総括」では各章の結果を詳細に検討し、第1章に述べた本研究の目的に関して次の結論を得た。炭素膜成長過程においてECRプラズマは反応系に対しカチオンを豊富に供給する役割を持つ。また基板方向へのイオン加速によるカチオン衝撃は、炭素膜の成長と硬質なDLC膜構造の形成を促進する効果を有する、a-C:N膜の作製過程における窒素の挙動は、気相中および成長中の膜表面におけるH-C-N間反応と、それによるHCN分子が中心である。HCN分子が炭素とともに容器外へ排出されることにより、膜の成長はa-C:H膜に比べて大きく抑制される。得られたa-C:N膜はDLC膜にほぼ等しい基本構造を有し、窒素は膜の内部で一部炭素位置に置換固溶するか炭素のダングリングボンドを終端している。ただし窒素含有量は、DLC膜の窒素固溶限によって制限されている可能性が大きい。

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