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GdBa2Cu3O7-δセラッミクスにおけるホットスポットに関する研究

氏名 岡元 智一郎
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第120号
学位授与の日付 平成8年3月25日
学位論文の題目 GdBa2Cu3O7-αセラミックスにおけるホットスポットに関する研究
論文審査委員
 主査 教授 高田 雅介
 副査 教授 植松 敬三
 副査 教授 濱崎 勝義
 副査 教授 小松 高行
 副査 助教授 石黒 孝

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目次
第1章 緒言
1-1 ジュール熱と温度 p.1
1-2 GdBa2Cu3O7-δセラミックス線におけるホットスポット p.3
1-3 RBa2Cu3O7-δ(R=希土類元素)の欠陥構造と電気的特性 p.6
1-4 本研究の目的と構成 p.10
文献 p.12
第2章 ホットスポットの発生
2-1 はじめに p.14
2-2 実験方法
2-2-1 試料の作成 p.15
2-2-2 電圧変化時の電流値の測定及びホットスポットの観察 p.17
2-2-3 抵抗率の温度依存性の測定 p.18
2-3 結果
2-3-1 X線回折パターン及びSEM写真 p.20
2-3-2 電流値及びホットスポットの電圧依存性 p.22
2-3-3 抵抗率の温度依存性 p.25
2-4 考察
2-4-1 ホットスポットの抵抗率の評価 p.27
2-4-2 熱伝導方程式から得られる知見 p.30
2-4-3 ホットスポット発生機構 p.35
2-5 まとめ p.39
文献 p.40
第3章 ホットスポットの移動
3-1 はじめに p.41
3-2 実験
3-2-1 試料の作成 p.42
3-2-2 酸素分圧の変化に伴う電流-電圧特性及びホットスポットの挙動の変化 p.42
3-2-3 抵抗率の温度依存性 p.44
3-3 結果と考察
3-3-1 酸素分圧の変化に伴う電流-電圧特性及びホットスポットの挙動の変化 p.45
2-3-2 酸素分圧の変化に伴う抵抗率の温度依存性及びホットスポットの温度の変化 p.58
3-3-3 ホットスポットの移動速度 p.62
3-3-4 ホットスポットの移動機構 p.65
3-4 まとめ p.67
文献 p.68
第4章 ホットスポットの応用
4-1 はじめに p.69
4-2 定電流発生素子 p.70
4-3 流量計 p.73
4-4 酸素センサー p.74
4-5 熱処理効果 p.76
4-6 まとめ p.78
文献 p.79
第5章 まとめ p.80
謝辞 p.82
業績一覧 p.83
付録1「熱伝導の基礎」 p.85
付録2「定常状態の温度分布」 p.88
付録3「ホットスポットの速度と酸素イオンの速度」 p.90
付録4「GdBa2Cu3O7-δのイオン伝導性について」 p.92

 不定比化合物の電気的特性はその欠陥の量に強く依存する。高温超伝導体RBa2Cu3O7-δ(R=希土類元素)は典型的な不定比化合物であり、δはほぼ0から1まで変化する。δは400℃以上で高温ななるほど大きくなることが知られている。これに起因して、抵抗率は400℃以上で急激に増加する。さらに、300℃以上の高温において酸素イオン伝導性が報告されている。
 筆者は上記の欠陥構造に起因すると考えられる新しい現象を見出した。すなわち、GdBa2Cu3O7-δセラミックス線材に室温で一定以上の電圧を印加すると、線材上に局部的な赤熱領域(ホットスポット)が発生し、それが電流方向に毎分数mmの速度で移動するという現象である。その移動方向は、電圧の極性を反転させる度に繰り返し反転する事が分かった。
 本論文はホットスポットの発生機構及び移動機構の解明とその応用の検討を目的として、次の5つの章で構成されている。
 第1章「緒言」では、本研究の背景となるジュール熱との関係について説明した。次に本研究で扱うGdBa2Cu3O7-δセラミックス線材におけるホットスポットについて説明し、その発生及び移動機構の解明の必要性を述べた。またGdBa2Cu3O7-δの欠陥構造と電気的特性について従来からどの様な研究が行われてきたのか、その概要をまとめた。さらに本論文の目的と構成順序についても述べた。
 第2章「ホットスポット」では、発生機構に関する検討を行った。空気中室温での電流値及びスポットサイズの電圧依存性を測定した結果、ホットスポット発生後の電流密度は印加電圧に依存せず約80.5A/cm2で一定となった。これに対してスポットサイズは、電圧増加と共に直線的に増加した。これらの結果をホットスポット発生後の線材の抵抗のモデルにより解析した結果、ホットスポットの抵抗率ph=0.205Ωcm及びこれ以外の抵抗率po=0.014Ωcmが求まり、これらの値は電圧に依らず一定値であることが分かった。
 空気中での試料の抵抗率の温度依存性を測定した結果、抵抗率は約400℃以上で急激に増加し、約900℃でピークを持つことが分かった。phとこの特性とを比較し、さらに熱伝導方程式を考慮した結果、ホットスポットの温度は電圧に依らず、抵抗率がピークとなる温度より僅かに高い温度で安定することを明らかにした。
 これらの結果からホットスポットの発生機構に関して以下のような結論が得られた。室温で線材に電圧を印加するとジュール熱により線材の温度が全体的に上昇する。線材中に他よりも僅かに抵抗の高い部分が存在すると、その部分の温度はより速く400℃に到達する。400℃以上で抵抗率は急激に増加するため、この部分に、より電圧が集中する。従って、この部分の温度はさらに上昇する。温度が高温になると可視可能なホットスポットになり、その温度は抵抗率がピークとなる温度より僅かに高い温度で安定する。
 第3章「ホットスポットの移動」では移動機構の検討を行った。雰囲気の酸素分圧p02を1~100kPaの範囲で変化させた際のホットスポットの移動速度と電流及びスポットサイズの電圧依存性を測定した。その結果、P02=5kPa以上の酸素分圧で補とスポットが移動し、その速度はP02の増加に伴って約0~8mm/minの範囲で増加した。またホットスポット発生後の電流密度はP02の増加に伴って約35.5~94.7A/cm2の範囲で増加した。
 各P02での抵抗率の温度依存性を測定し、第2章で用いた手法を用いてホットスポットの温度を評価した結果、その温度P02の増加に伴って847~932℃の範囲で上昇する事が分かった。
 これらの結果からホットスポットの移動機構に関して以下のような結論が得られた。ホットスポットでは酸素イオンの移動が容易になるため、負の電荷を有する酸素イオンは正極方向に移動する。それに伴いホットスポットの正極側では酸素欠陥の量が減少し、抵抗率が低下する。一方、負極側では酸素欠陥の量が増加し、抵抗率が上昇する。従ってホットスポットは負極側、すなわち電流方向に動く。
 第4章「ホットスポットの応用」では、得られた知見を利用した幾つかの応用について検討した。まず、ホットスポット発生後の電流が電圧に依存せず一定となる現象を用いて、極めて簡単な、とかも製造コストが著しく低廉な定電流源を提案した。また、熱伝導方程式の考察から流量計としての応用、ホットスポット発生後の電流値が酸素分圧によって決まる事を利用した酸素センサーとしての応用も可能であることを明らかにした。さらにホットスポットの移動による熱処理を利用して、GdBa2Cu3O7-δセラミックスの超伝導臨界電流密度の改善に成功した。
 第5章「まとめ」では、各章で得られた結果を総括し、本論文の結論とした。

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