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3相異材接合体における応力場の理論的研究

(特異性成消失条件に対する新提案)

氏名 井上 忠信
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第118号
学位授与の日付 平成8年3月25日
学位論文の題目 3相異材接合体における応力場の理論的研究(特異性消失条件に対する新提案)
論文審査委員
 主査 助教授 古田 日出男
 副査 千葉工業大学 教授 矢田 敏夫
 副査 教授 武藤 睦治
 副査 大阪大学 教授 久保 司郎
 副査 助教授 長井 正嗣

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目次
第1章 序論
1.1 はじめに p.2
1.2 従来の理論的研究I(応力特異性のオーダーについて) p.4
1.2.1 単体が幾つかの境界条件を持ち場合 p.4
1.2.2 2相異材接合体 p.7
(a)表面力が作用している場合
(b)自由表面が存在しない場合(φ1+φ2=2π)
(c)き裂が母材内部にある場合(φ1=φ2=π)
1.2.3 n相異材接合体 p.11
1.3 従来の理論的研究II(母材内部の応力分布について) p.12
1.3.1 静弾性問題 p.12
1.3.2 熱弾性問題 p.13
1.4 本研究の背景 p.14
1.5 本研究の目的と構成 p.18
第1章の参考文献 p.27
第2章 3相異材接合体の特性方程式の導出
2.1 問題の定義 p.34
2.1.1 3相異材接合体の解析モデル p.34
2.1.2 二次元弾性境界値問題 p.35
2.2 Mellin変換の適用 p.37
2.3 特性方程式の導出 p.42
2.4 まとめ p.47
第2章の参考文献 p.48
第3章 3相異材接合体の特性方程式の性質
3.1 対称関数と非対称関数 p.50
3.2 3相異材接合体の特性方程式の性質 p.51
3.2.1 幾つかの境界条件を持つ単体の特性方程式 p.51
(a)材料1, 2と3が同材の場合
(b)材料1と3が剛体の場合
(c)材料2が剛体の場合
(d)材料2と材料3の領域が片側固定-片側自由の場合
3.2.2 2相異材接合体の特性方程式 p.54
3.2.3 K12→0の極限値に対する特性方程式 p.55
3.2.4 K12→∞の極限値に対する特性方程式 p.56
3.3 き裂問題への拡張 p.57
3.4 まとめ p.58
第3章の参考文献 p.59
第4章 応力特異性の次数の検討(端部角度、材料定数および接合順序に対する次数の変化)
4.1 解析方法
4.1.1 α12-β12とα23-β23平面 p.64
4.1.2 解析方法 p.67
4.1.3 α12-β12平面上における各種材料の組み合わせ p.69
4.1.4 まとめ p.71
4.2 接合体が半平面を形成する場合
4.2.1 端部角度(半平面)の定義 p.73
4.2.2 解析結果 p.74
4.2.2.1 φ1=60°, φ2=30°, φ3=90°の半平面 p.74
4.2.2.2 φ1=90°, φ4=60°, φ3=30°の半平面 p.77
4.2.2.3 φ1=30°, φ2=90°, φ4=60°の半平面 p.79
4.2.3 解析結果の検討 p.81
4.2.3.1 各case毎について p.81
4.2.3.2 接合順序について p.83
4.2.4 まとめ p.86
4.3 挟まれる材料の弾性特性が応力特異性に与える影響
4.3.1 解析結果 p.87
4.3.1.1 端部角度(φ1, φ2, φ3)が全て等しい場合 p.87
4.3.1.2 φ2, φ1+φ3が一定の場合 p.91
4.3.2 解析結果の検討 p.93
4.3.2.1 α12-β12, α23-β23平面上のP1曲線 p.93
4.3.2.2 φ2, φ1+φ3が一定の場合から p.95
4.3.3 まとめ p.97
4.4 挟む領域が同材の場合
4.4.1 領域Ω1(G1, v3)=Ω3(G3’v3)に対する特性方程式 p.99
4.4.2 解析結果 p.101
4.4.2.1 接合端部形状別のP1曲線 p.101
4.4.2.2 φ1+φ2+φ3=const, φ1=φ3の場合 p.104
4.4.2.3 φ1=φ3=const, φ1+φ2+φ3≦2πの場合 p.106
4.4.3 解析結果の検討 p.108
4.4.3.1 α-β平面上のP1曲線 p.108
4.4.3.2 φ1+φ2+φ3=const, φ1=φ3の場合から p.111
4.4.3.3 φ1=φ3=const, φ1+φ2+φ3≦2πの場合から p.114
4.4.4 まとめ p.116
第4章 参考文献 p.117
第1~4章の総括 p.119
第5章 表面力が作用した場合の接合端部近傍における応力場
5.1 応力および変位場のオーダー
5.1.1 接合端部近傍における応力および変位の定義式 p.132
5.1.2 材料の組み合わせに対する応力および変位の理論式 p.134
5.1.2.1 α(α-2β)<0の場合 p.135
5.1.2.2 α(α-2β)=0の場合 p.136
5.1.2.3 α(α-2β)>0の場合 p.138
5.1.3 考察 p.139
5.1.3.1 応力場について p.139
5.1.3.2 変位場について p.139
5.1.3.3 任意角度を有する異材接合体について p.140
5.1.4 まとめ p.142
5.2母材内部における応力強さの分布(全ての端部角度が直角の場合)
5.2.1 接合端部近傍の応力場 p.144
5.2.2 解析結果 p.149
(a)各材料の関係G1>G2>G3>, G1<G2<G3の場合
(b)挟む材料が同材の場合
5.2.3 解析結果の検討 p.154
5.2.3.1 結果の検討 p.154
(a)各材料の関係がG1>G2>G3>, G1<G2<G3の場合について
(b)挟む材料が同材の場合について
5.2.3.2 根が複素数の場合 p.158
5.2.4 まとめ p.160
5.3 母材内部における応力分布(端部角度が任意の場合)
5.3.1 応力場の理論解 p.163
5.3.2 理論・数値解析結果 p.166
5.3.2.1 rp-1型の特異性の場合 p.168
5.3.2.2 logr型の特異性の場合 p.173
5.3.3 考察 p.176
5.3.3.1 解析結果の検討 p.176
(a)接合端部近傍(r→0)における理論解
(b)接合端部近傍(r→0)における応力評価
(c)特異性を示さない根pj(Re(p)>1)の影響
5.3.3.2 応力場が特異性を示さない場合 p.184
5.3.3.3 挟む材料が同材および同端部角度の場合 p.185
(a)応力強さKhpaについて
(b)応力強さKhg’Khg′について
5.3.3.4 単体および2相異材接合体への適用 p.189
5.3.4 まとめ p.190
5.4 母材内部における変位分布(端部角度が任意の場合)
5.4.1 変位場の理論解 p.192
5.4.1.1 応力場がrp-1型の特異性を持つ場合 p.192
5.4.1.2 応力場がlogr型の特異性を持つ場合 p.194
5.4.2 理論・数値解析結果 p.195
5.4.2.1 応力場がrp-1型の特異性を持つ場合 p.197
5.4.2.2 応力場がlogr型の特異性を持つ場合 p.202
5.4.3 解析結果の検討 p.205
5.4.3.1 結果の検討 p.205
(a)接合端部近傍(r→0)における理論解
(b)各変位成分について
5.4.3.2 応力場と変位場の関係について p.207
5.4.4 まとめ p.209
第5章の参考文献 p.210
第5章の総括 p.213
第6章 一様な温度変化が作用した場合の接合端部近傍における応力場
6.1 熱応力および熱変位の理論解
6.1.1 一様な温度変化が作用する場合の問題点 p.222
6.1.2 熱弾性理論 p.224
6.1.2.1 問題の定義 p.224
6.1.2.2 Mellin変換の適用 p.226
6.1.2.3 特性方程式の導出 p.230
6.1.2.4 逆Mellin変換の適用 p.231
6.1.2.5 複素変数pに対する特性方程式SおよびSσの変化 p.234
6.1.3 熱応力の理論解 p.235
6.1.3.1 応力場がrp-1型の特異性を示す場合 p.235
6.1.3.2 応力場がlogr型の特異性を持つ場合 p.236
6.1.4 熱変位の理論解 p.238
6.1.4.1 応力場がrp-1型の特異性を示す場合 p.238
6.1.4.2 応力場がlogr型の特異性を持つ場合 p.240
6.1.5 パラメータの有効性 p.242
6.1.6 熱応力および熱変位と線膨張係数の関係 p.243
6.1.6.1 熱応力と線膨張係数の関係 p.243
6.1.6.2 熱変位と線膨張係数の関係 p.244
6.1.7 各種接合体への拡張 p.246
6.1.8 まとめ p.249
6.2 熱応力分布の基本的特性1(特解および特異性消失解の影響)
6.2.1 理論解析 p.253
6.2.1.1 応力場がrp-1型の特異性を示す場合 p.253
6.2.1.2 応力場がlogr型の特異性を持つ場合 p.257
6.2.1.3 応力特異性が消失する場合 p.261
6.2.2 考察 p.264
6.2.2.1 検討の結果 p.264
6.2.2.1.1 応力場がrp-1型の特異性を示す場合 p.264
6.2.2.1.2 応力場がlogr型の特異性を持つ場合 p.264
(a)熱弾性問題におけるlogr型の特異性
(b)静弾性問題におけるlogr型の特異性
6.2.2.1.3 応力特異性が消失する場合 p.266
6.2.2.2 数値解析による応力特異性の検討 p.267
6.2.2.3 r→0の極限値における応力場 p.272
6.2.2.4 特異性消失解で考慮する根pの範囲 p.273
6.2.3 まとめ p.274
6.3 熱応力分布の基本的特性2(logr⇔rp-1型の特異性の変化に対する応力強さの変化)
6.3.1 理論解析 p.277
6.3.1.1 解析結果 p.278
6.3.1.2 理論式の導出 p.282
(a)根pjに対する応力強さKhj
(b)根p=1に対する応力強さKhpa
6.3.2 考察 p.286
6.3.2.1 解析結果の検討 p.286
6.3.2.2 重根p→1による応力強さKhg p.288
6.3.2.3 応力場が最大となる角度θ p.290
6.3.2.4 剛性比K12に対する応力強さの変化 p.292
6.3.2.5 任意の端部角度を有する接合体の場合 p.293
6.3.3 まとめ p.294
6.4 熱応力分布の基本的特性3(応力強さからの特異性消失条件と強さの分布形)
6.4.1 理論解析 p.297
6.4.1.1 解析結果 p.298
6.4.1.2 応力強さが0となる端部形状 p.302
6.4.2 考察 p.306
6.4.2.1 解析結果の検討 p.306
6.4.2.2 Kh1=0となる端部形状と材料定数の関係 p.307
6.4.2.2.1 端部角度φ1+φ2が一定の場合 p.307
6.4.2.2.2 材料定数が一定の場合 p.309
6.4.2.2.3 ポアソン比が与える影響 p.314
(a)K12-φ1平面上におけるポアソン比の影響
(b)φ1+φ2-φ1平面上におけるポアソン比の影響
6.4.2.3 根p2に対する応力強さKh2について p.321
6.4.2.3.1 応力強さKh2の分布形 p.321
6.4.2.3.2 Kh2=0となる端部形状と材料定数の関係 p.323
(a)端部角度φ1+φ2が一定の場合
(b)材料定数が一定の場合
6.4.2.3.3 ポアソン比が与える影響 p.327
(a)K12-φ1平面上におけるポアソン比の影響
(b)φ1+φ2-φ1平面上におけるポアソン比の影響
6.4.2.4 その他の応力強さについて p.332
(a)根p3に対する応力強さKh3について
(b)根p=1に対する応力強さKhpa(特解)について
(c)重根p→1に対する応力強さKhg Khgについて
(d)複素根p=ξ±iηに対する応力強さKhξ Khηについて
6.4.2.5 根が複素根に近づく時の応力強さKhjについて p.340
6.4.3 3相異材接合体の応力強さの特性 p.341
6.4.3.1 応力強さが0となる条件 p.341
6.4.3.2 理論解析と結果の検討 p.345
(a)Kh1=0となる端部形状と材料定数の関係
(b)応力強さKh1の分布の分類
6.4.3.3 挟む材料が同材および同端部角度の場合 p.363
6.4.4 まとめ p.366
第6章の参考文献 p.373
第6章の総括 p.379
第7章総括 p.381
研究業績 p.381
Appendix
謝辞

 近年、機械の使用環境はますます厳しくなり、強度だけでなく、耐食性、耐熱性、耐摩耗性や軽量化・高機能化などが同時に要求されることが多くなってきている。このような種々の要求は、単一の材料では満足させられない場合が多く、機械的性質の異なる幾つかの材料を接合して使用される異材ないし複合材が各種分野(原子力機器、航空機、船舶、自動車、電子部品など)に利用されている。しかし、異材接合体の強度評価の際に問題となる界面上では、界面に沿う方向の応力が不連続となり、界面端では弾性学上応力が無限大となる応力特異性が生じ、さらに対数型や振動型の特異性も存在するなど、接合体は従来の均質材とは異なる力学的取り扱いが要求される。
 接合端における応力場は、簡潔に表すとσij=Kijrp-1(σij:応力、Kij:応力強さ、r:接合端からの距離、p:特異性の次数)によって定義できる。よって、接合体に対して適切な強度的評価を行うためには、強さKijとオーダーO(rp-1)の特性を詳細に検討する必要がある。従来の研究では、次数pを算出するための特性方程式が幾つかの境界条件を持つ単体、2相異材接合体、一方の材料内に界面に到達したき裂が存在している全平面をなす2相接合体などに対してそれぞれ導出され、pと各材料の端部角度および弾性定数の関係が明らかにされてきた。しかし、応力強さKijは理論式を導出することが困難であるため、Kijと各材料の端部角度や弾性定数の関係はあまり検討されておらず、Kijの特性(分布形・大きさ)については未だ明らかでない。しかし、前述のように接合体の応力特異性を考える場合、特異性の次数pだけでなく、その時の強さKijも問題になる。また、異材接合体に対するこれまでの研究では、3相以上の接合体に対する研究はほとんど行われていない。しかし、近年の電子部品(LSIパーッケージなど)や溶接構造物の中には3つのくさび形の材料が接合された3相異材接合体があり、これらの接合体の信頼性向上に対して、接合端での応力場の解明が必須となる。しかし、3相接合体に対する研究はほとんど行われておらず、2相接合体の強さKijと同様、3相接合体の接合端における応力場の特性はこれまで多くの研究が行われてきた接合体の研究分野の中でも、まだ解明されていない点が多いと言える。
 このような背景から、本論文では3相異材接合体の接合端部近傍における応力場の特性を、【1.応力特異性のオーダー、2.静弾性問題、3.熱弾性問題】の3つのSectionに分け、これらを理論的に検討した。そして、これまで研究されてきた幾つかの境界条件を持つ単体および2相異材接合体などを包含した3相異材接合体に対する応力場の理論解を導出し、特異性のオーダーや応力強さの特性およびそれらと各材料の端部角度および弾性定数の関係を明確に定義した。そして、そのプロセスの中で従来の研究にないアプローチによって、応力特異性を消失させる2つの方法(1:2相接合体を3相接合体にする方法、2:応力強さを0とする方法)を提案し、これらを検討した。
 Section1の【応力特異性のオーダー】では、特異性のオーダーと材料の関係を詳細に検討し、2相接合体の場合、特異性のオーダーは各材料の端部角度と弾性定数の組み合わせによって決まっていたが、3相以上の多相接合体の場合、新たに接合順序(材料の並び方)が特異性のオーダーに影響を及ぼすことを明らかにした。また、3相接合体の場合、挟まれる材料が挟む材料よりも軟らかい時に比べて、硬い時の方が特異性のオーダーは小さくなることも示した。Section2の【静弾性問題】では、接合体の自由表面上に垂直およびせん断応力が作用する場合を考え、挟む材料が同材および同端部角度に対する応力強さの分布形や従来無視されてきた特解および特異性消失解が接合端の応力場に与える影響を示した。また、汎用有限要素法プログラムMarcの解析結果も交え、数値解析で応力場の特異性を調べる際の注意点についても論じた。Section3の【熱弾性問題】では、一様な温度変化が接合体の全体に作用する場合を考え、2相および3相異材接合体に対する応力強さの特性(分布形・大きさ)を検討した。そして、特性方程式のj番目の根pjに対する応力強さKhjの分布は、Kh1はStyle1、2、Kh2はStyle3、4、Kh3はStyle5、6の単に符号の異なる2種類の形に分けられることを示した。さらに、それらの強さの分布形はKhj=0、Khj=0の延長線上にある複素根の領域、そして重根pj→1を境として変化することを明らかにした。また、その他の応力強さKhpa、Khg、Khξ、Khnの分布形も常にStyle1~6によって表されることを示した。また、特異解の応力強さKhj’Khgが0となる材料の端部角度や弾性定数の組み合わせが存在することを理論的に明らかにした。これにより、たとえ根pjが特異性を発生させる0<Re(p)<1の範囲に存在したり、pj→1の条件になっても、Khj=0(Khg=0)であるならば応力特異性は消失する。これは、従来にない新しい応力特異性の消失方法を意味する、そして、Khj=0(Khg=0)とする材料の端部角度と弾性定数の関係K12
(材料1と2の剛性比)-φ1(材料1の端部角度)平面上、φ1+φ2(材料1と2の端部角度の合計)-φ1平面上に示した。また、これらの平面上から根pjと応力強さKhj(Khg)の両方からのアプローチによる応力特異性の消失条件やKhjの分布形および大きさが理解できる。さらに、2相接合体の場合、各材料の線膨張係数は応力強さの分布の形やKhj=0(khg=0)の条件に影響を及ぼさないが、3相以上の多相接合体の場合、線膨張係数はそれらに大きく影響を及ぼすことを示した。
 このように、本論文は異材接合体の接合端における応力場の特性を理論的に解明、考察したものであり、本論文によって示された理論解析の結果は、今後の数値解析や実験の研究の土台となり、接合製品の信頼性向上における有益な資料になると考えられる。

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