高減衰急積層ゴムを用いた免震構造物の地震応答評価に関する研究
氏名 大鳥 靖樹
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第77号
学位授与の日付 平成8年3月25日
学位論文の題目 高減衰積層ゴムを用いた免震構造物の地震応答評価に関する研究
論文審査委員
主査 助教授 長井 正嗣
副査 教授 小川 正二
副査 教授 林 正
副査 教授 丸山 暉彦
副査 教授 丸山 久一
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目次
第1章 緒論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 既往の研究 p.3
1.2.1 積層ゴム系免震要素に関する研究 p.3
1.2.2 高減衰積層ゴムに関する研究 p.9
1.3 本論文の目的と内容 p.12
第2章 高減衰積層ゴムの力学特性の評価 p.19
2.1 緒言 p.19
2.2 実験条件 p.20
2.2.1 動的2次元試験装置の概要 p.20
2.2.2 供試体の概要 p.20
2.2.3 計測方法 p.20
2.3 基本特性実験 p.23
2.3.1 実験概要 p.23
2.3.2 実験結果 p.23
2.4 動的繰返し載荷実験 p.36
2.4.1 実験概要 p.36
2.4.2 実験結果 p.36
2.5 破断実験 p.41
2.5.1 実験概要 p.41
2.5.2 実験結果 p.41
2.6 結言 p.46
第3章 高減衰積層ゴムの載荷速度依存性に関する検討 p.49
3.1 緒言 p.49
3.2 仮動的実験による載荷速度依存性に関する検討 p.50
3.2.1 実験概要 p.50
3.2.2 実験結果と考察 p.54
3.3 地震応答解析との比較 p.60
3.3.1 Rateモデルの概要 p.60
3.3.2 応答解析結果 p.62
3.4 結言 p.67
第4章 高減衰積層ゴムの最大経験ひずみ依存性に関する検討 p.69
4.1 緒言 p.69
4.2 動的基本特性実験結果による最大経験ひずみ依存性の検討 p.70
4.3 地震応答波加振実験による最大経験ひずみ依存性の検討 p.73
4.3.1 実験概要 p.73
4.3.2 実験結果と考察 p.73
4.3.3 改良型Double Targetモデル p.74
4.4 仮動的実験による最大経験ひずみ依存性の検討 p.89
4.4.1 実験概要 p.89
4.4.2 実験結果 p.89
4.4.3 改良型Double Targetモデルによる実験の解析 p.90
4.5 緒言 p.103
第5章 高減衰積層ゴムの設計法 p.105
5.1 緒言 p.105
5.2 高減衰積層ゴムの設計法 p.105
5.3 設計用ゴム材料定数 p.109
5.4 設計用ゴム材料定数の振動数補正式 p.113
5.5 緒言 p.113
第6章 結論 p.116
謝辞
研究業績
本論文は、高減衰積層ゴムを用いた免震構造物を対象として、積層ゴム免震要素単体の各種載荷実験を行い力学特性の定量的把握を行うとともに、仮動的実験および地震応答波加振実験とその解析を行い高減衰積層ゴムの載荷速度依存性および最大経験ひずみ依存性と免震構造物の地震応答の関係を明らかにし、免震構造物の地震応答評価手法と積層ゴム免震要素の設計法の提案を行っている。
第1章では、積層ゴム系免震要素を用いた免震構造物に関する既往の研究を実験的研究、解析的研究、地震観測に分類・整理し、免震構造物の有効性が各研究によって立証されつつあることを説明している。また、本論文の研究対象である高減衰積層ゴムの既往の研究について検討を行い、地震応答を評価する上で、要素の載荷速度依存性と最大経験ひずみ依存性の扱い方が明確にされていないことを明らかにしている。
第2章では、高減衰積層ゴムの力学特性を定量的に把握するために、水平および鉛直方向の動的な基本特性実験、繰返し載荷実験、破断実験を行い、力学特性に及ぼす各種依存性について検討を行っている。その結果、基本特性実験より、水平方向の基本力学特性におよぼす鉛直応力の影響は少ないこと、載荷速度と最大経験ひずみ依存性の影響が比較的大きいこと、また、鉛直方向の剛性および減衰の載荷速度依存性は、今回の研究に用いた形状の要素では僅かであることを明らかにしている。動的な繰返し載荷実験より、繰返し載荷によりゴムが発熱し、水平ばね定数、降伏荷重特性値、等価粘性減衰定数等の力学特性は低下するが、実際の地震ではその影響は無視し得ることを明らかにしている。また、各種載荷条件下で行った動的な破断実験より、破断せん断ひずみに及ぼす載荷速度の影響が少ないことと、繰返し載荷と単調載荷の違いは破断ひずみには影響しないことを明らかにしている。
第3章では、高減衰積層ゴムの載荷速度依存性が免震構造物の地震応答に与える影響の検討を行い、要素の載荷速度依存性を地震応答評価に反映する手法を提案している。本章では先ず、高減衰積層ゴムの載荷速度依存性について検討を行うために、載荷速度を変えた仮動的実験とその解析を行い、高減衰積層ゴムのように載荷速度依存性を有する場合には、仮動的実験時の載荷速度が免震効果の評価に影響を与えるため、実時間の実験を行う必要があることを明らかにしている。さらに、仮動的実験の載荷速度と正弦波等の単純な加振波形によって得られる特性を載荷速度比と等価加振振動数によって結びつけている。そして、積層ゴム免震要素の載荷速度依存性を地震応答解析に考慮するには、免震構造物と同じ振動数で行った基本特性実験の結果を基に復元力パラメータを設定すればよいことを示している。
第4章では、高減衰積層ゴムの最大経験ひずみ依存性を考慮した免震構造物の地震応答評価手法を確立するために、先ず、第2章の基本特性実験の結果を詳細に整理し、力学特性の最大経験ひずみ依存性を定量的に把握するとともに、それを考慮した復元力モデルを提案し、地震応答波加振実験と仮動的実験との比較によりモデルの妥当性を検討している。力学特性を詳細に整理した結果、高減衰積層ゴムは、同じ加振せん断ひずみであっても過去に経験した最大せん断ひずみの大きさにより力学特性が異なってくること、また、この依存性による剛性等の変化は、加力方向別に考える必要があることを明らかにしている。そして、高減衰積層ゴムの最大経験ひずみ依存性を考慮できるモデルとして改良型Double T argetモデルを提案し、このモデルの妥当性を地震応答波加振実験と仮動的実験により明らかにしている。
第5章では、既提案の高減衰積層ゴムの構造設計法について整理し、免震要素の動的効果を取り入れた設計法を提案するとともに、その際に用いる設計用ゴム材料定数およびその振動数補正式を提案している。この設計法を用いることにより要素の動的効果が設計に及ぼす影響が明確になるとともに、任意の固有振動数を有する免震構造物の設計が可能となった。
以上のように、本論文では、高減衰積層ゴムの力学特性の定量化を行い、その各種依存性を明らかにするとともに、載荷速度依存性と最大経験ひずみ依存性を考慮した免震構造物の地震応答評価手法の確立を図った。そして、載荷速度依存性の検討結果を踏まえ高減衰積層ゴムの動的効果を考慮した設計法を提案した。