膜分離活性汚泥法における膜面付着層形成機構と過流束の変化に関する研究
氏名 柳 根勇
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第127号
学位授与の日付 平成8年3月25日
学位論文の題目 膜分離活性汚泥法における膜面付着層形成機構と膜透過流束の変化に関する研究
論文審査委員
主査 教授 桃井 清至
副査 教授 早川 典生
副査 教授 藤井 信行
副査 教授 森川 康
副査 助教授 大橋 晶良
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目次
第1章 序論
第1節 緒言 p.1
第2節 研究の目的 p.3
第3節 本論文の構成 p.5
第2章 膜分離生物処理法に関する文献的考察
第1節 緒言 p.7
第2節 膜分離生物処理システム p.9
第3節 膜透過流束に影響を与える因子 p.13
第4節 膜面付着成分とろ過特性 p.19
参考文献 p.24
第3章 膜分離に関する理論の総括
第1節 緒言 p.27
第2節 膜透過性能の変化 p.27
第3節 濃度分極理論 p.29
第4節 浸透圧モデル p.33
第5節 境界層抵抗モデル p.35
第6節 ろ過抵抗モデル p.37
第7節 まとめ p.43
参考文献 p.44
第4章 管状限外ろ過における膜透過性能に影響を及ぼす因子に関する研究
第1節 緒言 p.46
第2節 実験の概要 p.47
2.1 実験装置 p.47
2.2 実験方法 p.48
2.3 ろ過抵抗 p.50
第3節 活性汚泥混合液成分と膜透過流束の関係 p.51
3.1 固形性成分と膜透過流束の関係 p.51
3.2 溶解性成分と膜透過性能の関係 p.51
第4節 膜分離操作条件と膜透過流束の関係 p.53
第5節 膜透過性能の時間的変化 p.56
第6節 膜透過流束の初期低下に影響を及ぼす因子について p.59
第7節 結果のまとめ p.62
参考文献 p.63
第5章 膜分離活性汚泥法における生物代謝成分と膜透過性能の関係
第1節 緒言 p.64
第2節 実験方法と装置 p.66
2.1 実験方法 p.66
2.2 連続処理実験装置 p.68
2.3 膜透過性能の評価 p.69
2.4 膜面付着物量 p.70
第3節 連続処理におけるSMPの蓄積と膜透過流束の変化 p.71
3.1 生物処理状況 p.71
3.2 膜透過性能の時間的変化 p.72
第4節 蓄積したSMPの組成変化と膜透過性能 p.76
第5節 生物代謝成分と膜透過性能の変化 p.79
5.1 バッチ分解実験におけるSMPの生成特性と膜透過流束の変化 p.79
5.2 SMPeの生成と膜透過性能の変化 p.81
5.3 代謝成分の種類と膜透過性能 p.82
第6節 結果のまとめ p.85
参考文献 p.86
第6章 限外ろ過における膜面付着層性状と付着層形成に関する研究
第1節 緒言 p.87
第2節 実験の概要 p.89
2.1 SEMによる膜面付着層観察 p.89
2.2 膜面付着物の回収及び分析 p.90
2.3 細胞外ポリマー(ECP)の抽出 p.91
2.4 付着層性状の時間的変位 p.91
2.5 連続処理における付着層性状の変化 p.91
第3節 膜面付着性状及び付着成分の特性 p.92
3.1 SEMによる膜面付着層性状の観察結果 p.92
3.2 ゲル層とケーク層付着成分の特性 p.95
第4節 膜面付着層性状の時間的変化 p.98
4.1 ろ過継続時間に伴う付着成分の変化 p.98
4.2 初期段階におる付着成分の特性 p.100
4.3 連続処理実験における付着成分の変化 p.101
第5節 菌体付着に代謝成分の役割 p.103
5.1 実験の概要 p.103
5.2 菌体の付着に関する熱力学的考察 p.105
5.3 生物代謝成分と付着菌数 p.107
5.4 菌体付着に関する熱力学的解析 p.110
第6節 結果のまとめ p.114
参考文献 p.115
第7章 限外ろ過における不着層形成と膜透過流束変化に関する数学的解析
第1節 緒言 p.117
第2節 ろ過抵抗にモデル式の構築 p.119
第3節 ろ過抵抗とろ過抵抗係数の変化 p.123
3.1 ろ過継続時間による変化 p.123
3.2 混合液成分のゲル層形成に与える影響 p.124
3.3 操作条件のゲル層形成に与える影響 p.125
第4節 膜透過流束の変化に関する解析 p.126
第5節 結果のまとめ p.128
第8章 結論 p.129
膜分離活性汚泥法では、ろ過時間の経過に伴い膜透過性能が低下し、その解決が処理コストの低減にとって大きな課題となっている。膜透過性能の低下は膜面付着層の形成によるものと推察されているが、活性汚泥混合液のような多成分を含む懸濁液が膜分離対象となった場合、懸濁液成分と付着の関係は不明確な点が多く、膜透過流束の低下及び膜面付着層の形成機構などについてはいまだ十分に解明されていない。
本研究では、限外ろ過膜を活性汚泥法のような生物処理に適用した場合、膜透過流束に影響を与える因子、また膜面付着層の形成と膜透過性能の低下機構を明らかにすることを目的とした。
本研究では、まず膜分離活性汚泥法における膜透過性能に影響を与える因子を明らかにし、その結果をもとにバイオリアクター内に蓄積する生物代謝成分に着目し、連続処理実験により代謝成分の生成特性及び反応槽内での蓄積特性について検討した。また、膜面の付着成分の分析を通じ付着層性状の時間的変化特性および付着層形成に対する生物代謝成分の役割を明らかにした。最後に、以上の研究から得られた知見をもとに、膜近傍での物質収支を考慮したろ過抵抗モデルを構築し、モデル式のパラメータを用い、ろ過時間、分離対象液成分と操作条件の付着層性状に与える影響を明確にした。以上をとりまとめたものが本論文であり、第1章の緒論に始まり、第8章の総括までの内容で構成されている。
第1章では活性汚泥法のような生物処理が抱えている問題点を明らかにし、膜分離生物処理法の利点を明示するとともに、膜分離活性汚泥法の基本問題と課題及び本研究の意義について述べた。
第2章と第3章では膜透過流束と付着層形成機構に関する既往の研究成果を応用研究と基礎理論に分けてまとめるとともに、今後解明しなければならない研究課題を明示し、本研究の意義及び役割を明確にした。
第4章から第7章まで、実験を通じて得られた結果を基に膜透過流束の変化及び膜面付着層形成機構について論じた。
第4章では、回分ろ過実験により、活性汚泥混合液成分及び膜分離操作条件と膜透過流束の関係について調べ、膜透過性能に影響を与える因子および膜透過流束と生物代謝成分濃度の関係を明らかにした。また、ろ過時間の経過とともに膜透過性能の変化を調査し、始めに膜透過流束が段階的変化することを示唆するとともに、ろ過開始直後の初期段階における膜透過性能の変化及び膜透過流束の低下に影響を及ぼす因子を明確にした。
第5章では、第4章で得られた結果に踏まえ、反応槽内に蓄積するSMPに着目し、連続処理実験により代謝成分の生成特性、反応槽内での蓄積特性及び膜透過性能との関係を調べた。まず、処理時間の経過につれ生物代謝成分のバイオリアクター内での蓄積濃度及び膜透過性能との関係を検討し、混合液中のSMPが高濃度に蓄積されると、付着成分はろ過開始と同時に膜面に付着し、膜透過性能を大きく低下させることが判明した。また、反応槽内に蓄積する代謝成分組成の時間的変化を調査し、代謝成分の組成変化と膜透過性能の関係から、高分子代謝成分が膜面付着層の形成及び膜透過流束の低下に大きく関与することを明らかにした。さらに、代謝成分の生成経路に基づき、膜分離生物処理における代謝成分の種類と膜透過性能の関係を検討し、微生物の内性呼吸過程で生成した代謝成分SMPeは、反応槽への代謝成分の蓄積または膜透過流束の低下に関与する可能性を示した。
第6章では、膜面付着層の時間的変化に焦点をあて、膜透過流束の段階的変化に対応し、膜面付着物量、付着成分の組成変化を調査し、膜透過流束の低下と対応して膜面付着量は時間的に増加することを明らかにした。また、ろ過抵抗の上昇あるいは膜透過流束の低下の原因として、生物代謝産物のような溶解性成分が優先的に付着し、膜面で濃縮されることを明らかにした。さらに、菌体付着実験を行い、分散媒代謝成分濃度、膜材質、膜表面性質と付着菌数との関係を調べ、代謝成分の吸着によって膜面或いは付着層表面の自由エネルギーが低くなり、付着層の菌体などに体する付着性を高めることを判明した。
第7章では、膜近傍での物質収支を加味したろ過抵抗モデルを構築し、ろ過継続時間、活性汚泥混合液の性質、膜分離操作条件のモデル式のパラメーターに与える影響について調べ、ろ過時間及び代謝成分濃度の増加に伴う膜透過流束の減少は比抵抗で示される膜面付着層性状変化によるものではなくて、膜面付着物量の増加によるものということが判明した。また、平衡膜透過流束はゲル層厚とゲル層形成濃度の関数として与えられ、混合液中の代謝成分濃度が変化する時、平衡透過流束の変化を解析した結果、モデル式で求めた透過流束の変化と実測値の変化がよく適合することを確認した。
第8章では、本研究で得られた成果を総括し、膜透過流束の変化・付着層形成機構の解明に向けて今後の研究を展望する。