嫌気性徴生物処理における基質分解特性と膜分離技術の適用に 関する研究
氏名 山崎 慎一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第123号
学位授与の日付 平成10年9月16日
学位論文の題目 嫌気性徴生物処理における基質分解特性と膜分離技術の適用に関する研究
論文審査委員
主査 教授 原田 秀樹
副査 教授 桃井 清至
副査 助教授 大橋 晶良
副査 助教授 小松 俊哉
副査 東北大学 教授 大村 達夫
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第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景と目的 p.1
1.2 論文の構成 p.4
第1章 参考文献 p.5
第2章 嫌気性生物処理プロセスの効率化に関する既往の研究 p.7
2.1 緒論 p.7
2.2 各種有機化合物の嫌気的分解粋畦 p.8
2.2.1 有機化合物の代謝機構 p.8
2.2.2 有機化合物の嫌気分解性および阻害性 p.13
2.3 微小電極による生物膜内基質反応枠性の評価技術 p.17
2.3.1 微小電極の種類および特徴 p.17
2.3.2 微小電極の測定原理 p.18
2.3.3 環境分野への微小電極の応用例 p.23
2.4 生物処理プロセスヘの膜分離法の適用技術 p.25
2.4.1 分離膜の種類および特徴 p.25
2.4.2 膜モジュールの形式 p.27
2.4.3 膜透過性能の偶不要因 p.30
2.4.4 膜透過性能の解析モデル p.31
2.4.5 膜分離廃水処理システムの適用例 p.33
2.4.6 膜孔径(分画分子量)がF1uxに及ぼす影響 p.39
2.4.7 膜素材がF1uxに及ぼす影響 p.40
第2章 参考文献 p.42
第3章 各種有機化合物の嫌気分解・阻害特性と汚泥馴致による分解活性の挙動に関する研究 p.52
3.1 緒論 p.52
3.2 実験方法 p.53
3.2.1 シリンジテスト方法 p.53
3.2.2 嫌気分解枠陸および阻害粋性の評価方法 p.54
3.2.3 各種汚泥のメタン生成活性測定方法 p.56
3.2.4 汚泥馴致方法 p.56
3.3 実験結果および考察 p.58
3.3.1 有機化合物の嫌気分解枠陸および阻害粋性 p.58
3.3.2 汚泥馴致によるメタン生成活性の挙動 p.68
3.4 小括 p.72
第3章 参考文献 p.73
第4章 微小電極によるUASBグラニュール汚泥内の基質反応形態の評価に関する研究 p.76
4.1 緒論 p.76
4.2 微小電極の測定原理 p.77
4.3 微小電極の作成方法 p.78
4.3.1 pH、アンモニウム、硝酸微小電極の作成方法 p.78
4.3.2 硫化物微小電極の作成方法 p.79
4.3.3 溶存酸素(D0)微小電極の作成方法 p.80
4.3.4 グルコース微小電極の作成方法 p.81
4.4 グラニュール汚泥内の基質プロファイルの測定方法 p.82
4.4.1 測定装置と手順 p.82
4.4.2 実験条件 p.84
4.4.3 供試グラニュール汚泥 p.85
4.5 実験結果および考察 p.86
4.5.1 各種微小電極の性能 p.86
4.5.2 酢酸基質における汚泥内のpHの挙動 p.93
4.5.3 グルコース基質における汚泥内のpH、グルコースの挙動 p.93
4.5.4 硫酸塩基質における汚泥内の硫化物の挙動 p.96
4.6 小括
第4章 参考文献 p.99
第5章 膜分離嫌気リアクターにおける高濃度セルロース含有廃牢の処理特性に関する研究 p.102
5.1 緒論 p.102
5.2 実験方法 p.103
5.2.1 導続実験方法 p.103
5.2.2 基質組成および植種汚泥 p.104
5.2.3 分析および測定項目 p.105
5.2.4 セルロースの抽出と定量法 p.106
5.2.5 動力学定数の解析法 p.106
5.2.6 メタン生成活性の測定法 p.107
5.2.7 リアクター混合液濾液および透過液の分子分画法 p.108
5.3 実験結果および考察 p.109
5.3.1 連続処理特性 p.109
5.3.2 リアクター混合液濾液成分の解明 p.113
5.3.3 メタン生成活性とリアクター混合液濾液濃度の影響 p.117
5.3.4 Fluxの挙動とリアクターMLSS、混合液濾液CODcrの影響 p.122
5.4 小括 p.125
第5章 参考文献 p.126
第6章 膜分離嫌気リアクターにおける膜透過流束の影響因子に関する研究 p.130
6.1 緒論 p.130
6.2 実験方法 p.131
6.2.1 実験装置および方法 p.131
6.2.2 実験条件 p.132
6.2.3 透過抵抗の算出方法 p.134
6.2.4 レイノルズ数の算出方法 p.134
6.3 実験結果および考察 p.137
6.3.1 MLSS濃度がF1uxに及ぼす影響 p.137
6.3.2 上澄液CODcr濃度が刑uxに及ぼす影響 p.139
6.3.3 ケーキ層およびゲル層の膜面付着状態 p.141
6.3.4 レイノルズ数のF1ux変動予剥の有効性 p.143
6.4 小括 p.145
第6章 参考文献 p.146
第7章 結論 p.148
謝辞 p.152
本論文は、下水あるいは産業廃水等の嫌気性処理において、基質分解特性(各種有機化合物の分解性・阻害性、固定化生物膜内の基質反応形態)と、膜分離装置と嫌気リアクターを組合せた膜分離嫌気性処理法による高濃度浮遊性有機物(セルロース)含有廃水の連続処理特性、膜透過流束の減少に及ぼす影響因子に関して研究を行ったものであり、全7章で構成される。
第1章は序論であり、本研究の背景と目的、論文構成について記述した。
第2章では、各種有機化合物の嫌気分解・阻害特性、微小電極による生物膜内の基質反応形態の評価技術、生物処理プロセスヘの膜分離法の適用技術について既往の研究を整理した。
第3章では、各種有機牲産業廃水に含まれる代表的な27種類の有機化合物の嫌気的分解・阻害特性と、汚泥馴致による分解活性の挙動を簡便的なパッチ手法(シリンジテスト)によって評価した。その結果、27種類の有機化合物のうちアルコール、低級脂肪酸等の計13種は良好な嫌気分解性を示し、ホルムアルデヒド、フェノールなどの6種はグルコース嫌気分解に阻害性を示し、プロピオンアルデヒド、アセトンなどの8種は阻害性はないが難分解性の有機化合物であった。また汚泥馴致に対するメタン生成活性は、馴致基質によってその向上の程度や期間が大きく異なることを確認した。以上より本章では、嫌気性処理プロセスの設計・運転に対して有益な基礎的知見を得ることができた。
第4章では、環境分野では新規かつ独創的な分析ツールとなるpH、グルコース、硫化物の微小電極を開発し、牛乳基質で長期間馴致されたUASBグラニュール汚泥内部の酢酸、グルコース、硫酸塩の反応形態を評価した。その結果、本研究で開発した3種類の微小電極は、pH4~9、グルコース濃度0~500mg・l-1硫化物濃度0.01mg・-1以上で定量可能であった。グラニュール汚泥内部のpHは、酢酸基質では上昇し、グルコース基質では低下する傾向が確認された。汚泥内部のグルコースは、グルコース基質が低濃度の場合に汚泥表層部で消失したが、300mg・l-1以上の高濃度になると汚泥内部でグルコースが残存した。また硫酸塩基質の場合、硫化物は汚泥表層部から次第に増加したが、硫酸塩還元反応の水素供与体として共存させたグルコースが消失すると、汚泥内部で硫酸塩還元量が減少した。よって本章では、開発した微小電極は生物膜内微生物の生態環境を把握する手法として有効であり、また処理プロセスの安定化を検討する上で貴重な評価結果を得ることができた。
第5章および第6章では、膜分離技術の嫌気性処理プロセスの適用性について検討した。第5章では、高濃度の浮遊性有機物(セルロース)を含有する人工基質を使用して、ラボスケールの膜分離嫌気性リアクターで190日間連続実験を行い、処理特性、リアクター混合液濾液成分の解明、メタン生成活性と混合液濾液成分の影響、膜透過流束(Flux)の挙動とリアクターMLSS、混合液濾液濃度の影響について評価した。その結果、処理水は60~80mgCODcr・l-1の非常に清澄かつ安定した水質が得られ、原水中のセルロースも良好に分解除去された。増殖菌体のメタン生成活性は、運転41日目でセルロース基質、酢酸基質で10倍、H2+C02基質で3.5倍に向上した。リアクター内では菌体の老廃物と思われる分子量1500以上の溶解性有機物質が蓄積したが、リアクター内菌体のメタン生成活性に影響を及ぼすものではなかった。Fluxは連続実験を通じて0.5~1.0m3・m-2・d-1が許容され、リアクター内のMLSSおよび混合液濾液の濃度の増加は、Flux減少に対して重要な影響因子であることを確認した。
第6章では、膜分離嫌気性リアクターのFlux減少の影響因子について、下水消化汚泥、膜分離嫌気性汚泥、廃糖蜜溶液を使用してUF膜透過回分実験によって評価した。その結果、FluxはMLSS濃度あるいは混合液濾液CODcr濃度の増加によって減少した膜透過抵抗は、主に膜面上に形成するゲル層抵抗とケーキ層抵抗に支配されており、ゲル層抵抗の方がケーキ層抵抗より若干大きいことを確認した。また流路内のレイノルズ数は、MLSS濃度が比較的低濃度の場合においてFlux変動の予測に有効であることが明らかになった。
第7章では、本研究で得られた知見を総括した。
以上のように、本論文では、各種有機化合物の嫌気的分解性や阻害性、固定化生物膜内の基質反応特性、膜分離技術の嫌気性処理プロセスの適用に関する研究を行い、嫌気性処理プロセスの設計・運転に対して重要な知見が得られ、適用廃水種の拡大、運転性能の安定性向上、運転管理の容易化などが期待できるものである。