Ni基超合金コ-ティング材の高温疲労破壊特性に関する研究
氏名 貞末 照輝
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第175号
学位授与の日付 平成10年6月30日
学位論文の題目 Ni基超合金コ-ティング材の高温疲労破壊特性に関する研究
論文審査委員
主査 助教授 岡崎 正和
副査 教授 田中 紘一
副査 助教授 福沢 康
副査 助教授 伊藤 吾朗
副査 東京工業大学 助教授 中村 春夫
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目次
第1章 緒論 p.1
1.1.耐食コ-ティング開発への道程 p.1
1.2.耐食コ-ティングの開発 p.3
1.3.耐食コ-ティングにより生ずる問題点と現在までの研究の趨勢 p.5
1.3.1.耐食コ-ティング材の強度全般に関する研究の趨勢 p.5
1.3.2.耐食コ-ティング材の疲労破壊過程に関する研究の趨勢 p.7
1.3.3.実機動翼の使用状況を考慮した研究の趨勢 p.8
1.4.本論文の構成 p.9
参考文献 p.10
第2章 アルミナイド表面改質材およびMCrAlY合金耐食コ-ティング材の高温疲労破壊特性 p.13
2.1.緒言 p.13
2.2.供試材および実験方法 p.14
2.2.1.施工条件 p.14
2.2.2.金属組織 p.16
2.2.3.基材の機械的特性 p.24
2.2.4.残留応力 p.24
2.2.5.実験装置 p.25
2.2.6.実験条件 p.27
2.3.実験結果および考察 p.28
2.3.1.アルミナイド表面改質材の高温疲労破壊特性 p.28
2.3.2.MCrAlY合金耐食コ-ティング材の高温疲労破壊特性 p.39
2.4.結言 p.49
参考文献 p.50
第3章 複合コ-ティング材の高温疲労破壊特性 p.51
3.1.緒言 p.51
3.2.供試材および実験方法 p.52
3.2.1.施工条件 p.52
3.2.2.金属組織 p.53
3.2.3.硬さ測定 p.53
3.2.4.実験装置 p.53
3.2.5.実験条件 p.53
3.3.実験結果および考察 p.57
3.3.1.複合コ-ティング材の高温疲労強度特性 p.57
3.3.2.疲労破壊形態 p.63
3.4.結言 p.66
参考文献 p.67
第4章 延性/ぜい性遷移温度以下の温度域におけるMCrAlY合金耐食コ-ティング材の疲労き裂伝ぱ特性 p.68
4.1.緒言 p.68
4.2.供試材および実験方法 p.69
4.2.1.施工条件 p.69
4.2.2.実験装置 p.69
4.2.3.実験条件 p.70
4.3.実験結果 p.71
4.3.1.疲労き裂進展特性の概略 p.71
4.3.2.MCrAlYコ-ティング層のき裂進展の下限界特性 p.71
4.3.3.破面観察 p.73
4.4.考察 p.77
4.4.1.界面近傍におけるき裂伝ぱ挙動に影響を及ぼしている因子の抽出 p.77
4.4.2.き裂偏向の定量的検討 p.79
4.5.結言 p.93
参考文献 p.94
第5章 Ni基超合金耐食コ-ティング材の疲労強度推定法の検討 p.95
5.1.緒言 p.95
5.2.対象コ-ティング材 p.95
5.3.寿命推定法 p.96
5.3.1.潜在き裂の概念による疲労強度予測 p.97
5.3.2.疲労破壊の観点からみたコ-ティングの影響のモデル化と疲労強度予測手法の検討 p.98
5.4.寿命推定結果 p.105
5.5.結言 p.109
参考文献 p.109
第6章 耐食コ-ティング材の高温疲労破壊特性に及ぼす長時間時効の影響 p.110
6.1.緒言 p.110
6.2.供試材および実験方法 p.110
6.2.1.コ-ティング施工条件 p.110
6.2.2.長時間時効条件 p.111
6.2.3.実験装置 p.111
6.2.4.実験条件 p.111
6.3.実験結果 p.112
6.3.1.長時間時効による組織の経時変化 p.112
6.3.2.MCrAlY合金耐食コ-ティング材の高温疲労破壊特性に及ぼす
長時間時効の影響 p.120
6.3.3.複合コ-ティング材の高温疲労破壊特性に及ぼす長時間時効の影響 p.124
6.4.考察 p.128
6.4.1.時効材の疲労強度に影響を及ぼしている因子の抽出 p.128
6.4.2.コ-ティング層中の残留応力 p.128
6.4.3.コ-ティング層の経時変化 p.129
6.4.4.界面拡散層の変化と付着強度の変化 p.129
6.4.5.基材自身の特性変化 p.130
6.5.結言 p.133
参考文献 p.134
第7章 温度勾配を有するNi基超合金コ-ティング材び高温疲労強度
7.1.緒言
7.2.供試材および実験方法
7.2.1.施工条件
7.2.2.金属組織
7.2.3.実験装置
7.2.4.実験条件
7.3.実験結果および考察
7.3.1.母材の疲労強度
7.3.2.高温疲労強度特性に及ぼすアルミナイド化処理の影響
7.4.結言
参考文献
第8章 結論
謝辞
発電用ガスタ-ビン等のエネルギ-変換装置の高効率化のためには、その作動温度を高くすることが重要である。しかし、それにともない、作動燃焼ガスによる翼構造物の高温腐食、高温酸化が深刻な問題となるため、それらを保護するコ-ティング技術が必須となっている。これまで、ガスタ-ビン翼のコ-ティング手法として、アルミナイド化処理や、MCrAlY(MはCo,Ni,あるいはそれらの合金系を表わす)とよばれる耐食性に優れた合金を翼表面にオバ-レイコ-トする手法が開発されてきた。このようなコ-ティングを施すことは、基材の耐高温腐食、耐高温酸化特性を確実に向上させる。しかし、疲労強度の観点からは、コ-ティングを施すことによる強度低下など、予期し難い新たな問題が生じる危険性も指摘されているが、これに関する情報は数少ない。また、コ-ティング層と基材との相互作用を考慮に入れながら、最適なコ-ティングシステムの開発に向けて、その高温強度を系統的に検討・解明した研究例は皆無に等しい。
以上の背景に鑑み、本論文では、コ-ティング材の高温疲労破壊特性ならびにその破壊機構を解明し、最適なコ-ティング手法の確立を目指して研究した。すなわち、Ni基超合金を基材とし、その表面に、(1)アルミナイド化処理を施した表面改質材,(2)MCrAlY合金をオ-バ-レイコ-トしたMCrAlYコ-ティング材,(3)MCrAlYコ-ティング材表面にアルミナイド化処理を施した複合コ-ティング材を対象として、それらの高温ならびに室温における疲労破壊挙動を詳細に調査しながら、それらの特性に及ぼすコ-ティング材質、温度、複合コ-ティング、コ-ティング層厚さの影響などについて定量的に明らかにした。また、これらのコ-ティング材が実機中で長時間使用される状態を模擬し、コ-ティング材の疲労強度に及ぼす長時間時効の影響、コ-ティング材中の温度勾配の影響についても検討した。以上より得られた知見を基に、コ-ティング材の高温疲労強度を簡便に予測する手法や強度特性に優れたコ-ティング材を得るための要点についても検討・提案した。
本論文は、以下の8章から構成されている。
第1章「緒論」では、耐食コ-ティングの開発への歴史や採用段階にあるコ-ティング技術、また、それらが抱える諸問題やこれに関する従来の研究を概説し、本論文の意義と目的を記述した。
第2章「アルミナイド表面改質材およびMCrAlY合金耐食コ-ティング材の高温疲労破壊特性」では、アルミナイド表面改質材、および、MCrAlYコ-ティング材を対象として、高温ならびに室温における疲労破壊挙動を詳細に調査し、それら疲労強度は基材と比較して全般的に低下すること、その傾向には、コ-ティング材質依存性が顕著であること、さらには温度依存性も大きいことを示した。
第3章「複合コ-ティング材の高温疲労破壊特性」では、前章のMCrAlYコ-ティング材表面に何種類からの厚さのアルミナイド化処理を施した複合コ-ティング材を対象として、高温ならびに室温における疲労強度特性を調査した。そして、それら疲労強度は、複合コ-ティングを施すことにより、また、アルミナイド化層の厚みが増すほど低下することを示し、さらにはこれらの傾向は高温よりも室温で顕在化することを明らかにした。
第4章「延性/ぜい性遷移温度以下の温度域におけるMCrAlY合金耐食コ-ティング材の疲労き裂伝ぱ特性」では、第2章で示したMCrAlYコ-ティング材の低温における疲労き裂伝ぱ挙動を調査して、コ-ティング層の下限界値やその材質依存性を明らかにした。そして、コ-ティング層と基材の下限界値の相対的大小関係に起因して、コ-ティング材の疲労破壊がもたらされたことを示した。また、コ-ティング層/基材界面近傍における疲労き裂伝ぱ挙動についても調査し、それら挙動を支配している影響因子を定量的に明らかにするとともに、最適コ-ティングシステムの設計に向けた指針を提示した。
第5章「Ni基超合金耐食コ-ティング材の疲労強度推定法の検討」では、前章までに示したアルミナイド表面改質材,MCrAlYコ-ティング材,複合コ-ティング材の疲労破壊に関して得た知見をべ一スに、潜在き裂の概念を適用しながら、Ni基超合金耐食コ-ティング材の疲労強度を簡便に推定する手法を検討・提案し、本手法が、工学的に十分な推定疲労強度を与えることを示した。
第6章「耐食コ-ティング材の高温疲労破壊特性に及ぼす長時間時効の影響」では、第2章、第3章に示したMCrAlYコ-ティング材,複合コ-ティング材に長時間時効を与え、界面を通じた主要元素の拡散挙動について注目しながら、高温疲労強度特性に及ぼす長時間時効の影響について調査・検討した。そして、本研究の範囲で長時間時効により疲労強度が低下することはほとんどないことを示し、それに寄与した因子についても言及した。
第7章「温度勾配を有するNi基超合金コ-ティング材の高温疲労強度」では、肉厚方向に温度勾配を持たせた状態で外的な繰返し負荷を与え得る疲労試験装置を試作し、これを用いて、Ni基超合金が温度勾配下にある場合の疲労破壊特性について明らかにした。そして、その疲労強度を推定するための簡便手法も提案した。また、冷却側内部表面にアルミナイド化処理を施した場合についても同様な検討を行い、アルミナイド化層の導入が疲労き裂発生の促進効果を持っていることを示した。
第8章「結論」では、以上より得られた知見を総括して示した。