マルチチャネル予測を用いた静止画像の可逆符号化
氏名 福間 慎治
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第181号
学位授与の日付 平成11年3月25日
学位論文の題目 マルチチャネル予測を用いた静止画像の可逆符号化
論文審査委員
主査 教授 神林 紀嘉
副査 教授 島田 正治
副査 教授 吉川 敏則
副査 助教授 中川 匡弘
副査 助教授 張 煕
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目次
第1章 序論 p.1
1.1 本研究の背景と目的 p.1
1,2 本論文の構成 p.3
1.3 参考文献 p.5
第2章 画像信号の可逆符号化-予測とスケ-ラビリティ機能 p.7
2.1 はじめに p.7
2.2 本論文における数学的表記 p.7
2.3 シングルチャネル予測とマルチチャネル予測 p.8
2.3.1 画像信号の可逆符号化における予測の役割
2.3.2 外挿予測と内挿予測
2.3.3 マルチチャネルの予測による内挿予測の実現
2.4 スケ-ラビリティ機能 p.13
2.5 まとめ p.13
2.6 参考文献 p.15
第3章 2チャネル予測による画像信号の可逆符号化 p.16
3.1 はじめに p.16
3.2 従来の2チャネル予測とその問題点 p.17
3.2.1 2チャネルフィルタバンク
3.2.2 従来法
3.3 提案する2チャネル予測 p.20
3.3.1 フィルタバンクのリ-プフログ構成と可逆条件
3.3.2 非分離型フィルタを用いた2チャネル予測
3.3.3 提案法
3.4 シュミレ-ション p.28
3.4.1 フィルタ係数値決定のための評価尺度
3.4.2 相関モデルに対する効果
3.4.3 画像に対する効果
3.5 まとめ p.35
3.6 参考文献 p.35
3.7 付録 p.36
第4章 マルチチャネル予測による画像信号の可逆符号化 p.41
4.1 はじめに p.41
4.2 従来の2チャネル予測とその問題点 p.42
4.2.1 従来法
4.2.2 従来法の問題点
4.3 提案するマルチチャネル予測 p.46
4.3.1 マルチチャネル予測フィルタバンク
4.3.2 マルチチャネル予測の一般表現と満たすべき条件
4.3.3 フィルタ係数値の決定
4.3.4 スケ-ラビリティ機能の実現
4.4 シュミレ-ション p.50
4.4.1 シングルステ-ジ実現
4.4.2 マルチステ-ジ実現
4.5 まとめ p.55
4.6 参考文献 p.55
第5章 適応的なマルチチャネル予測 p.57
5.1 はじめに p.57
5.2 マルチチャネル予測とその問題点 p.58
5.3 スケ-ラブル符号化のための適応的なマルチチャネル予測 p.59
5.3.1 適応マルチチャネル予測
5.3.2 スケ-ラビリティ機能の実現-修正S変換
5.3.3 スケ-ラブル対応マルチチャネル予測
5.4 シュミレ-ション p.65
5.4.1 マスクパタ-ンの選択
5.4.2 シングルステ-ジ実現
5.4.3 マルチステ-ジ実現
5.5 まとめ p.71
5.6 参考文献 p.71
第6章 色彩画像の可逆符号化のための可逆的色変換 p.73
6.1 はじめに p.73
6.2 色彩画像の符号化と色変換 p.74
6.3 提案する可逆的色変換 p.75
6.3.1 可逆的な色変換
6.3.2 ラダ-回路網による色変換行列の構成
6.4 シュミレ-ション p.78
6.5 まとめ p.81
6.6 参考文献 p.81
第7章 結論 p.82
謝辞
本研究に関する論文一覧
符号化されたディジタル画像を無歪みで再生可能な可逆符号化は,医療,美術,衛星画像などの高品質画像を圧縮する際に必要とされる.従来,静止画像に対する可逆符号化方式では1チャネルの予測が用いられているが,近年,マルチチャネルの予測による可逆符号化方式がいくつか報告されている.マルチチャネル予測の利点は,予測効率の高い内挿予測を利用可能なこと,およびスケ-ラブル符号化の実現が容易なことである.スケ-ラブル符号化とは,圧縮デ-タの一部のみを伸張しても画像情報の概要を把握できる機能(スケ-ラビリティ機能)を持つ符号化方式であり,画像デ-タベ-スにおけるデ-タ検索時やWWW(World Wide Web)のようなサ-バ/クライアントアプリケ-ションにおいて特に有効である.しかしながら従来のマルチチャネル予測は,フィルタの形式やフィルタタップ長およびフィルタ係数値が固定である,画像内部の局所的性質変化に適応できないという大幅な制限がある.また,従来の可逆符号化方式では,色彩画像(カラ-画像)を符号化する場合,各色成分に対して独立に符号化処理を行なっている.そのため,色成分間における相関(冗長性)は活用されておらず,圧縮効率に関して改善の余地がある.
本論文では,これらの制約を大幅に緩和した自由度の高いマルチチャネル予測符号化を提案する.得られた自由度は圧縮効率改善およびスケ-ラブル符号化時における低解像度画像の画質改善,そして適応的なマルチチャネル予測の実現のために利用される.また,本論文では色彩画像の可逆符号化における色成分間相関除去のための可逆的色変換も提案する.本論文は7章から構成されている.
第2章では、本論文において必要ないくつかの概念と一般的事項について述べ,マルチチャネル予測の利点である内挿予測とスケ-ラビリティ機能について論じている.
第3章では,2チャネル予測による可逆符号化方式(2チャネルフィルタバンクに基づく可逆符号化方式)について示し,可逆的な2チャネルフィルタバンクが満足すべき条件を明らかにする.その条件の下で,2チャネル予測におけるフィルタ係数値,フィルタタップ長,フィルタバンクの形式に関して自由度を持たせた新たな2チャネル予測を提案する.提案法では従来の2チャネル予測における制約が大幅に緩和される.緩和された自由度は圧縮効率改善のために用いられ,最適なフィルタ係数値は非線形計画法により決定する.数値実験により,標準画像“barbara"に対して,従来の2チャネル予測であるSSKF方式よりも0.27[bits/pixel]の圧縮効率改善が確認された.
第4章では,従来の2チャネル予測よりもフィルタ係数値選択の自由度の高いマルチチャネル予測を提案する.マルチチャネル予測では,2チャネル予測符号化を縦続接続した際に生じる伝達関数に関する制約を大幅に緩和することができ,各参照画素に対する予測係数値を独立に決定することができる.得られた自由度は,圧縮効率の改善とスケ-ラビリティ機能実現時の低解像度画像の画質改善のために利用される.また,第3章に示す2チャネル予測では,フィルタ係数値は個々の入力画像に対する非線型最適化問題を解くことにより決定されるが,それに対してマルチチャネル予測では,線形最小2乗法を用いてフィルタ係数値を決定するため,最適化のための演算量を大幅に低減できる.数値実験の結果,標準画像“barbara"の輝度信号に対して,スケ-ラブル符号化時において,SSKF方式よりも0.13[bits/pixel]の圧縮効率改善が確認された.
第5章では,画像の局所的性質変化に従ってフィルタ係数値が変化する適応的なマルチチャネル予測を提案する.従来のマルチチャネル予測では,フィルタ係数値が画像全体を通して固定であるためエッジのような画像の局所的性質変化に対応することができず,圧縮効率の制限につながる.また,最適化されたフィルタ係数値をデコ-ダにサイドインフォメ-ションとして伝送する必要があり,圧縮効率の低下につながる.提案法では,画像の局所的性質変化に対する適応処理はコンテクスト分類に基づく方式を用いる.そして,各コンテクストのフィルタ係数値の更新は再帰的な線形最小2乗法に従うため,サイドインフォメ-ションとなるフィルタ係数値をデコ-ダに一切伝送する必要はない.また.第5章ではスケ-ラビリティ機能の実現に際し問題となる画像のサブサンプリングに伴うエイリアシングを抑圧するための新しい可逆変換(修正S変換)も提案する.この可逆変換と適応マルチチャネル予測を組み合わせることにより,高品質な低解像度画像再生および高い圧縮効率を持つ可逆的なスケ-ラブル符号化を実現できる.数値実験により,JPEG標準画像の輝度信号に対して,スケ-ラブル符号化時において,フィルタ係数値固定のマルチチャネル予測方式よりも0.18[bits/pixel],SSKF方式よりも0.23[bits/pixel]の圧縮効率改善が確認された.
第6章では,色彩画像の可逆符号化のための可逆的な色変換方式を提案する.従来の画像信号の可逆符号化では,色彩画像(カラ-画像)に対しては,各色成分ごとに独立に可逆符号化を行っている.しかしながら,色彩画像は,一般に,各色成分間に相関が存在するため,色成分間の相関を除去するような可逆的色変換をあらかじめ行い,この変換された色信号に対して可逆符号化を施せば,より優れた圧縮効率を得ることができる.提案する色変換方式は,従来非可逆的な符号化等に用いられている色変換であるYUV変換やYIQ変換の色変換行列をラダ-回路網を用いて構成することにより,変換系列のレベル数の増加を抑えた可逆的な色変換として実現できる.数値実験の結果,JPEGカラ-標準画像に対して,色変換を用いない場合に比べて,PCM符号化について2.17[bits/pixel],ロスレスJPEG符号化について2.14[bits/pixel]の圧縮効率改善が得られた.提案する可逆的な色変換は従来の非可逆的な色変換方式と互換性を持つため,可逆/非可逆コンパチブル符号化に有効である.
第7章では,本論文の結論を述べている.