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水の分解反応に対する分極場を持つ金属酸化物の光触媒作用に関する研究

氏名 小倉 宗二
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第184号
学位授与の日付 平成11年3月25日
学位論文の題目 水の分解反応に対する分極場を持つ金属酸化物の光触媒作用に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 井上 泰宣
 副査 助教授 佐藤 一則
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 助教授 丸山 一典
 副査 助教授 松原 浩

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目次

第1章 序論

 1-1 光触媒の背景 p.1
 1-1-1 光エネルギ-の化学的変換 p.1
 1-1-2 水の光分解の歴史と現状 p.3
 1-2 本研究の目的および意義 p.15
 文献 p.18

第2章 光触媒活性に与える触媒構造効果

 2-1 はじめに p.21
 2-2 実験 p.23
 2-2-1 チタン酸化物の作製 p.23
 2-2-1-1 Pentagonal prism 型トンネル構造酸化物 p.23
 2-2-1-2 Rectangular(3P type)型トンネル構造酸化物 p.24
 2-2-1-3 Rectangular(2P-3P type)および
 Zig-zagトンネル構造酸化物 p.24
 2-2-1-4 Zig-zagおよびInfinity 型層状構造酸化物 p.25
 2-2-1-5 Perovskite 型酸化物およびIn2TiO5 p.25
 2-2-2 X線回折測定 p.27
 2-2-3 走査型電子顕微鏡観察 p.27
 2-2-4 拡散反射スペクトル測定 p.28
 2-2-5 レ-ザ-ラマンスペクトル測定 p.28
 2-2-6 RuO2担持光触媒の作製 p.29
 2-2-7 反応装置 p.31
 2-2-8 反応条件と生成物の分析条件 p.33
 2-3 結果 p.34
 2-3-1 X線回折測定結果 p.34
 2-3-2 走査型電子顕微鏡(SEM)による粉体試料の形態観察 p.37
 2-3-3 光吸収特性 p.39
 2-3-4 レ-ザ-ラマン分光スペクトル測定結果 p.41
 2-3-5 水の光分解反応結果 p.44
 2-4 考察 p.46
 2-4-1 各酸化物の微細構造変化 p.46
 2-4-2 構造の歪み p.50
 2-5 まとめ p.59
 文献 p.59

第3章 光励起電荷の発生および分離に及ぼす局所分極場の効果

 3-1 はじめに p.62
 3-2 実験 p.63
 3-2-1 電子常磁性共鳴(EPR)測定 p.63
 3-3 結果 p.66
 3-3-1 酸素吸着 p.66
 3-3-2 吸着気体の影響 p.71
 3-3-3 光生成ラジカル種の圧力依存性 p.71
 3-3-4 シグナル強度の経時変化 p.75
 3-3-5 ラジカル種の温度依存性 p.78
 3-4 考察 p.81
 3-4-1 光生成ラジカル種の同定 p.81
 3-4-2 ラジカル種の定量 p.85
 3-4-3 ラジカル生成に及ぼす吸着ガス分子の影響 p.86
 3-4-4 酸化物の局所構造とラジカル生成 p.87
 3-4-5 光触媒活性発現機構 p.93
 3-5 まとめ p.95
 文献 p.95

第4章 担持RuO2粒子の高分散化効果

 4-1 はじめに p.97
 4-2 実験 p.98
 4-2-1 RuO2担持光触媒の作製 p.98
 4-2-2 水の光分解反応 p.100
 4-2-3 構分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)観察 p.100
 4-2-4 レ-ザ-ラマンおよびEPR測定 p.100
 4-2-5 X線光電子分光スペクトル(XPS)測定 p.101
 4-3 結果 p.101
 4-3-1 水の光分解 p.101
 4-3-1-1 トンネル構造酸化物 p.101
 4-3-1-1-1 光触媒活性に及ぼすRu酸化温度の影響 p.101
 4-3-1-1-2 異なる担持法により作製した光触媒の活性 p.103
 4-3-1-2 層状構造酸化物 p.105
 4-3-2 RuO2担持粒子の分散状態 p.108
 4-3-3 担持RuO2(CL)およびRuO2(CB)粒子の分散状態の比較 p.114
 4-3-3-1 トンネル構造酸化物 p.114
 4-3-3-2 層状構造酸化物 p.114
 4-3-4 RuO2担持による担体構造への影響 p.123
 4-3-5 表面格子O-ラジカル生成に及ぼす担持RuO2の影響 p.125
 4-3-6 X線光電子分光スペクトル p.128
 4-4 考察 p.131
 4-4-1 RuO2粒子の高分散化 p.131
 4-4-2 RuO2粒子の分散状態と光触媒活性 p.131
 4-4-3 RuO2担持粒子の分散状態とO-ラジカル生成 p.133
 4-4-4 RuO2担持の酸化物構造に与える影響 p.134
 4-4-5 O-ラジカル生成と光触媒活性 p.135
 4-4-6 水の光分解反応の機構 p.135
 4-5 まとめ p.138
 文献 p.139

第5章 強誘電体光触媒における分極場の効果

 5-1 はじめに p.141
 5-2 実験 p.143
 5-2-1 強誘電体試料の作製 p.143
 5-2-2 強誘電体の光特性 p.145
 5-2-2-1 吸収特性 p.145
 5-2-2-2 光起電力測定 p.146
 5-2-3 光触媒の作製 p.146
 5-2-4 WO3薄膜のキャラクタリゼ-ション p.149
 5-2-5 PSZTの強誘電体特性 p.149
 5-3 結果 p.151
 5-3-1 光吸収特性 p.151
 5-3-2 光起電流 p.152
 5-3-3 光起電圧 p.154
 5-3-4 強誘電体を用いる光触媒の水素生成活性 p.156
 5-3-4-1 強誘電体光触媒 p.156
 5-3-4-2 Pt接合強誘電体光触媒 p.159
 5-3-4-3 複合型光触媒 p.161
 5-3-4-3-1 WO3薄膜の成膜状態 p.161
 5-3-4-3-2 水素生成活性 p.163
 5-4 考察 p.166
 5-4-1 強誘電体の光起電力効果 p.166
 5-4-2 強誘電体光触媒の分極場効果 p.172
 5-4-2-1 強誘電体およびPt接合強誘電体光触媒の作用 p.172
 5-4-2-2 WO3/Pt/PSZt複合型光触媒 p.172
 5-4-3 可視光利用型光触媒への発展 p.174
 5-5 まとめ p.175
 文献 p.176

第6章 総括 p.177

本論文に関する発表論文 p.181

参考論文 p.181

本論文に関する学会発表(国際会議) p.183

本論文に関する学会発表(国内) p.184

謝辞 p.186

 水の分解反応に対し高効率な固体の光触媒を得ることは、光エネルギ-の化学的変換技術の確立の点から非常に重要な課題である。これまで、TiO2を基本とした光触媒系ではNaOHによる表面被覆やNa2CO3添加効果についての研究が行われている。一方、最近になってトンネル、層状および柱状構造等の特異な構造を持つTi系酸化物が高い活性を与えることが見出され、今後の展開が期待されている。しかし、類似の構造の酸化物であってもその光触媒作用は著しく異なる場合が多く、従来のバンドモデルのみに基づく理解では十分ではなく、酸化物の局所構造と光触媒作用の関係を明らかにすることが高活性光触媒の設計のために必要となっている。
 本研究では、トンネルや層状構造などの特異な構造を持つ酸化物の光触媒の活性構造を明らかにすることを目的とし、酸化物内部に存在する分極場の役割を明らかにする研究を行った。本論文は以下の6章から構成される。
 第1章では、水の分解反応に対する固体光触媒作用の原理、および最近に至るまでの光触媒の研究状況を挙げ、高効率の光触媒の設計のためには特異な構造酸化物の光触媒作用と局所構造との関係を明らかにすることが重要であることを指摘した。
 第2章では、光触媒活性に与えるチタン酸化物の構造効果について述べた。RuO2を担持したトンネル構造を持つ酸化物(Pentagonal prism型のBaTi4O9,KTi3TaO9,KTi3NbO9、Rectangular3P型のM2Ti6O13(M=Na,K,Rb)およびRectangular2P-3P型のNa2BaTi10O22,K2SrTi10O22、Zig-zag型のBi2Ti4O11)、および層状構造酸化物(Na2Ti3O7,K2Ti4O9,Cs2Ti6O13)およびln2TiO5の光触媒活性を比較し、構造解析から各々の構造を構成するTiO6八面体に存在する局所分極場の大きさと方向が光触媒の発現に重要なことを示した。
 第3章では、光触媒活性発現に重要な光励起電荷の発生に及ぼす局所分極場の効果を電子スピン共鳴法を用いて調べた結果について述べた。77Kでの光照射によって発生するラジカル種の安定性と雰囲気圧力依存性の解析から、表面格子酸素に基ずくO-ラジカル種が光照射により生成することを示した。また、TiO6八面体配列構造および局所分極場の解析から、隣り合うTiO6八面体が互いに陵で接合し、高い局所分極場(5.OD以上の双極子モ-メント)が存在する場合に、光励起電荷の分離が促進されること、およびラジカル生成と光触媒活性発現が良い対応を持つことを明らかにした。
 第4章では、RuO2担持チタン酸化物のRuO2粒子の役割について述べた。高い光触媒活性を示したPentagonal prism型および3P型Rectangularトンネル構造酸化物、および高い光励起電荷分離能を持ちながら酸素生成を示さなかった層状構造酸化物を用いて、RuCl3およびRu3(CO)12を原料とする2種類のRuO2担持法により作製した光触媒の活性を比較し、トンネル構造酸化物では、Ru3(CO)12法がRuCl3法より1.4-2.2倍も高い活性を与えること、さらに層状構造酸化物においても水素および酸素を共に生成させる光触媒となることを見出した。トンネル構造酸化物に対し、光生成するO-ラジカル濃度と各々の相対活性とに良い相関が見られたことより、表面格子O-ラジカル種が水の分解反応に対する活性種となるモデルを提唱した。高分解能透過電子顕微鏡像の観察から担持RuO2粒子は層状よりもトンネル構造酸化物上で高密度に分散し、狭い粒径分布と、より小さなRuO2平均粒子径を持つことから、トンネル構造がRuO2を超微粒子で保持する効果(「鳥の巣」効果)を持つことを明らかにした。
 第5章では、局所分極場の概念を強誘電体の分極場に応用し、光触媒作用に及ぼす強誘電体の分極場効果について述べた。強誘電体の光励起電荷の挙動が分極場により規定されること、さらにPSZT多結晶ではBand Gap以上の光起電圧を示す異常光起電力効果をもつことを明らかにした。強誘電体単独型(Pt/PSZT)および半導体-強誘電体複合型(WO3/Pt/PSZT)光触媒では、(+)分極面で(-)分極面より高い水素生成活性を示すことを明らかにし、光触媒において光励起電荷の分離に強誘電体の分極場が有効なことを明らかにし、酸化反応場と還元反応場の分離が可能なことを示した。
 第6章では、本研究で得られた成果を総括し、歪んだTiO6八面体構造内のミクロな分極場と自発分極軸をもつ強誘電体のマクロな分極場の利用は、高い効率を持つ光触媒の開発に有用であることを結論し、高活性な光触媒の設計の指針を確立した。

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