金属ポルフィリン錯体による電子移動型反応に関する研究
氏名 津田 良弘
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第127号
学位授与の日付 平成10年12月9目
学位論文の題目 金属ポルフィリン錯体による電子移動型反応に関する研究
論文審査委員
主査 教授 西口 郁三
副査 教授 塩見 友雄
副査 教授 五十野 善信
副査 助教授 竹中 克彦
副査 福井工業高等専門学校校長 生越 久靖
副査 金澤大学 助教授 高橋 光信
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第1章 緒論 p.1
第2章 Mn(III)ポルフィリン錯体を触媒として用いたシクロヘキセンのエポキシ化(第3章 一第7章)に関する実験方法 p.6
2.1 Mn(m)ポルフィリンの合成及び精製
2.2 電子メディエータの合成及び精製
2.3 シクロヘキセンのエポキシ化の手順
2.4 Zn粉末消費量の測定方法
2.5 サイクリックボルタンメトリー
2.6 ポルフィリンの吸収スペクトルの測定
第3章 Mn(III)ポルフィリン触媒を用いたシクロヘキセンのエポキシ化反応におけるベンジルビオロゲンの添加効果 p.15
3.1 緒論
3.2 結果及び考察
第4章 電子メディエータを用いたMn(III)ポルフィリン触媒によるシクロヘキセンの電解エポキシ化 p.23
4.1 緒論
4.2 結果及び考察
4.2.1 還元剤として亜鉛粉末を用いたシクロヘキセンのエポキシ化における種々の電子メディエータの効果
4.2.2 電子メディエータとしてBV2+を用いた電解エポキシ化
4.2.3 電子メディエータとしてMBを用いたシクロヘキセンのエポキシ化
第5章 ピオロゲンリンクMn(III)ポルフィリン触媒によるシクロヘキセンのエポキシ化 p.32
5.1 緒論
5.2 結果及び考察
第6章 Mn(III)ポルフィリンとビオロゲンを含む一原子酸素添加触媒系を用いたシクロヘキセンのエポキシ化における軸配位子の役割 p.46
6.1 緒論
6.2 結果及び考察
6.2.1 シクロヘキセンのエポキシ化に対するベンジルビオロゲンの効果
6.2.2 シクロヘキセンのエポキシ化に対するBr.イオンの効果
6.2.3 Mn(III/II)(tpp)の酸化還元電位への1.MeImとBr.イオンの効果
6.2.4 (Mn(III)(tpp)Cl+O2系におけるMnポルフィリンの酸化還元反応へのヘキシルピオロゲンの影響
6.2.5 (Mn(III)(tpp)Cl+O2)系におけるMnポルフィリンの酸化還元反応への安息香酸無水物の影響
第7章 種々の酸化還元電位を持っMn(III)ポルフィリンとビオロゲンを含む一原子酸素添加触媒系を用いたシクロヘキセンのエポキシ化 p.58
7.1 緒論
7.2 結果及び考察
7.2.1 エポキシド生成量に対する1.MeImの影響
7.2.2 Mn(III/II)ポルフィリンの酸化還元電位に対する1.MeImの影響
7.2.3 (Mn(III)ポルフィリン十O2)系におけるMnポルフィリンの酸化還元特性に対するヘキシルピオロゲンの影響
7.2.4 (Mn(III)ポルフィリン+O2)系におけるMnポルフィリンの酸化還元特性に対する安息香酸無水物の影響
7.2.5 MnPC6MV2+の酸化還元特性に対する1.MeImの影響
第8章 C60!ボルフィリン二層型光電気化学電池におけるポルフィリンからC60への光誘起電子移動 p.75
8.1 緒論
8.2 実験方法
8.3 結果及び考察
第9章 結論 p.85
参考文献 p.87
論文目録 p.91
謝辞 p.93
動物の肝臓に存在するシトクロムP-450と呼ばれる一原子酸素添加酵素や、植物の光合成において重要な役割を果たすクロロフィルなどは、すべてポルフィリン骨格を持つ金属ポルフィリン誘導体であり、それらと電子伝達系が組み合わされることで活性中心となっている。
シトクロムP-450は、基本的には、酸素分子を2電子とプロトンにより活性化し、アルカンのような基質(S)を酸化する反応(1)の触媒として作用している。
S+02+2e- + 2H+→SO+H20 (1)
このようなシトクロムP-450のモデル系を構築するにあたって問題点がいくつかあげられ、その解決方法が模索されてきた。一方、クロロフィルは、光エネルギーを吸収し、そのエネルギーを用いて炭酸ガスと水から糖と酸素を作る反応(2)を行っている。
2CO2+6H20→C6H1206+602 (2)
光エネルギーを電気エネルギーに直接変換する太陽電池に対し、金属ポルフィリン錯体の光電子移動特性を活用した有機薄膜太陽電池が検討されている。そこで、本研究では、シトクロムP-450やクロロフィルのモデル化合物として、それぞれMnポルフィリン錯体と亜鉛ポルフィリン錯体を選び、それらを用いた電子移動型反応について検討し、それぞれの反応に対して金属ポルフィリン錯体が持つ機能を有効に引き出すことを試みたものである。第1章の緒論に始まり、第9章の結論までの内容で構成されている。
第2章では、第3章から第7章までの実験方法について述べた。
第3章では、Mnポルフィリン触媒によるシクロヘキセンのエポキシ化反応において、添加したベンジルビオロゲンが、還元剤として用いた亜鉛粉末からMnポルフィリンヘの電子移動を円滑に行うメディエータとして有効に働くことで、シクロヘキセンの酸化生成物であるシクロヘキセンオキシド(エポキシド)の生成量が増加することをまず示した。
第4章では、ベンジルビオロゲンやメチレンブルーなどをZn粉末からMnボルフィリンヘの電子移動に対するメディエータとして用いた時の電解エポキシ化反応を試みた。その結果、ベンジルビオロゲンを電子メディエータとして用いると、適当な条件を選ぶことで電流効率100%でエポキシドが生成した。これは、触媒サイクルにおいて活性中間体と考えられているMnポルフィリンオキソ錯体の電極上での浪費反応が、電解時の電極電位を制御することで抑制された為と考えられた。
第5章では、第3・4章において示したようなビオロゲンからMnボルフィリンヘの分子間電子移動によるメディエーション反応を、分子内電子移動によるメディエーション反応に変えることでさらに電子移動速度を速めたときに、この触媒サイクルがどのような影響を受けるかを調べた。その結果、2つの部位を連結したメチレン鎖長が短い、すなわち、分子内電子移動がより速く起る分子ほど、MnポルフィリンからのMn2+イオンの脱離が抑制され、触媒サイクルがスムーズに進行することが分かった。
第6章では、第3・4・5章で検討したようなMnボルフィリンヘの電子移動反応以外に、酸化物生成速度を支配する因子として、Mnポルフィリン中のMnイオンに対する軸配位子の影響も考えられる為、ハロゲンアニオン(Cl-イオンやBr-イオン)や1一メチルイミダゾール(l-MeIm)の軸配位子としての役割について詳細に検討した。その結果、ハロゲンアニオンは、活性中間体と考えられるMn(V)ポルフィリンオキソ錯体中のMn(V)イオンに対して、静電的作用の助けにより比較的強く配位出来ることで、基質への酵素原子移動反応を促進していることが分かった。
第7章では、第3・4・5・6章の結果を踏まえ、ポルフィリン配位子へ置換基を導入してポルフィリン環の電子密度を変化させ、Mnポルフィリンの還元速度や、配位子の配位力を変化させたときのエポキシ化サイクルに対する影響をさらに調べた。その結果、ポルフィリン環の電子密度を小さくするような電子吸引性置換基を導入したMnポルフィリンでは、Mnイオンに対するl-MeImの配位力が大きくなる為、酸素分子の配位が妨げられるものの、反対にMnポルフィリンが還元されやすくなり、全体として触媒サイクルは促進した。
第8章では、亜鉛ポルフィリンとフラーレンの二層型電極を作製し、その光電気化学的特性を調べた。その結果、この光電気化学電池における光電流発生の初期過程が、亜鉛ポルフィリンからフラーレンヘの光誘起電子移動反応であることが分かった。
第9章では、以上に述べたことをまとめた。