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海底熱水噴出孔を模倣した進化フローリアクターとその動作特性

氏名 今井 栄一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第129号
学位授与の日付 平成11年3月25日
学位論文の題目 海底熱水噴出孔を模倣した進化フローリアクターとその動作特性

論文審査委員
 主査 教授 松野 孝一郎
 副査 教授 曽田 邦嗣
 副査 教授 山田 良平
 副査 教授 山元 皓二
 副査 助教授 本多 元

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1章 諸論 p.1
1.1 化学進化 p.1
1.2 原始地球環境を想定したアミノ酸の重合 p.2
1.3 海底熱水噴出孔 p.3
1.4 地球最古の化石 p.4
1.5 本研究の意義 p.5

2章 進化フローリアクターの建設 p.7
2.1 進化フローリアクターの基本設計 p.7
2.1.1 高温・高圧環境と開放系の実現 p.7
2.1.2 急冷の実現 p.9
2.2 進化フローリアクターの製作 p.9
2.2.1 構成 p.9
2.2.2 材料 p.11
2.2.3 製作 p.11
2.2.4 運転 p.16
2.2.5 海底熱水噴出孔熱水環境の実現 p.19

3章 実験方法 p.20
3.1 試薬 p.20
3.2 進化フロ一リアクターの運転 p.20
3.3 HPLCによる生成物の同定 p.21
3.4 グリシン2量体,3量体の生成 p.22
3.4.1 温度依存性 p.22
3.4.2 濃度依存性 p.22
3.5 進化フローリアクターの動作特性 p.23
3.5.1 高温・高圧チャンバーの役割 p.23
3.5.2 サイクルタイム依存性 p.23
3.5.3 低温・高圧チャンバー内における冷却の流れの場 p.23
3.6 金属イオン添加における反応生成物 p.24

4章 結果 p.25
4.1 進化フロ一リアクターによる生成物の同定と定量 p.25
4.2 グリシン2量体および3量体の生成 p.30
4.2.1 温度依存性 p.30
4.2.2 グリシン濃度依存性 p.34
4.2.3 進化フローリアクターの動作特性 p.35
4.3.1 サイクルタイム依存性 p.35
4.3.2 冷却過程における温度勾配依存性 p.38
4.3.3 高温・高圧チャンバーの容積と生成量の変化 p.41
4.4 自己触媒機能の介在 p.42
4.5 金属イオンによるオリゴペプチドの重合度の増大 p.46

5章 考察 p.50
5.1 海底熱水噴出孔近傍の熱水環境の実現 p.50
5.2 進化フローリアクターの動作特性 p.50
5.3 断熱障壁を備えた冷却を伴う進化フローリアクター p.52
5.4 反応生成物の自己触媒的な増大 p.54
5.5 ペプチド形成のためのジケトピペラジン p.55
5.6 銅(II)イオンの触媒作用 p.56
5.7 化学進化における進化フローリアクター p.59

6章 結論 p.61

7章 参考文献 p.63

 生命の起源に対する現在での基本的な考え方は,原始的な有機化合物がより複雑な化合物へと変化し,やがて自己複製機能や代謝機能を有するシステムが自然発生的に生まれたとするものである.この化学進化においてはタンパク質や核酸の前駆体としてのオリゴペプチド,オリゴヌクレオチドの出現が不可欠になる.しかも自己複製機能を備えていることが求められる.アミノ酸の重合からオリゴペプチドヘ変化する過程においては,この重合反応を駆動するエネルギー源が重要な要因となる.そのエネルギー源として原始海洋での海底熱水噴出孔近傍に注目し,そこで起こり得たとされる化学進化をモデル化することを試みた.
 本論文では侮辱熱水噴出孔近傍で起こり得る化学反応を模擬的に実現するため,そこでの熱水環境を摸倣した進化フローリアクターを設計・製作・運転し,原始地球上において海底熱水噴出孔が生成的で選択的な化学反応の場を提供し得たことを明かにした.
第1章では,化学進化における本研究の位置付けを明らかにするとともに,海底熱水噴出孔が化学進化の場として有力であることを指摘し,本研究課題の意義,目的および得られた成果を示した.
 第2章では,進化フローリアクターの基本設計を示し,開放系で高圧環境の実現が可能であることを示し,建設した進化フローリアクターの仕様について詳細に述べた.進化フローリアクターは高温高圧環境下から低温高圧環境下へ熱水が噴出する流動反応炉であり,25MPa,300℃の高温環境と,反応生成物の急冷を可能とする海底熱水噴出孔の熱水環境を実験室内で実現した.
 第3章では,進化フローリアクターの運転方法とこれを用いた実験方法および反応生成物の同定方法について述べた.さらに進化フローリアクターの基本的な特性としてサイクルタイム,冷却温度勾配を挙げた.
 第4章では,進化フローリアクターの諸特性と得られた反応生成物を示した、グリシンを反応出発物質とした時に,ジケトピペラジン,グリシン2量体,3量体が生成され,反応の初期段階では反応生成物の生成量が時間の経過に対して指数関数的に増大することを明かにした.反応生成物の同定および定量はHPLCから求めた.進化フローリアクターの基本的な特性として、サイクルタイム,冷却温度勾配を導入し,サイクルタイムおよび冷却温度勾配が反応生成物の生成量の増大の仕方に影響があることを明かにした.銅(II)イオン存在下においてはグリシンの6量体まで生成され,銅(II)イオンがアミノ酸のオリゴマーの増長に寄与することを明かにした.
 第5章では,本研究で得られた結果をもとに考察を行った.時間の経過と共にグリシン2量体,3量体の生成量が指数関数的に増大するのは,自己触媒的な重合反応によることを示した.グリシン2量体の形成にジケトピペラジンがエネルギー供給体として機能する可能性を指摘した.また進化フローリアクターの生成物が断熱障壁を伴う冷却過程を実現したことによって,生成が選択的に行われたことを考察した.さらに銅(II)イオンの触媒作用が進化フローリアクター内での重合化促進に有効であることを示した.最後に進化フローリアクターが化学進化を駆動する一般的な反応場として有効に機能することを指摘した、
 第6章では,本研究の結論を述べ海底熱水噴出孔が化学進化において,特にアミノ酸のオリゴマー化の反応の場として機能することを示した.

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