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地表面粗度特性に基づく合成開口レ-ダによる陸面水文量算定手法の開発

氏名 田殿 武雄
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第178号
学位授与の日付 平成10年12月31日
学位論文の題目 地表面粗度特性に基づく合成開口レ-ダによる陸面水文量算定手法の開発
論文審査委員
 主査 助教授 小池 俊雄
 副査 教授 早川 典生
 副査 教授 福嶋 祐介
 副査 東京大学生産技術研究所 教授 虫明 巧臣
 副査 東京大学空間情報科学研究センタ- 教授 柴崎 亮介

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目次

第1章 序章 p.1
 1.1 研究の背景 p.1
 1.1.1 ”水”の役割 p.1
 1.1.2 土壌水分と積雪の重要性 p.3
 1.2 研究の必要性 p.6
 1.2.1 マイクロ波リモ-トセンシングの特徴 p.6
 1.2.2 水文,気象モデルとの関わりにおける必要性 p.7
 1.2.3 能動型,受動型マイクロ波センサのマッチング p.10
 1.2.4 国際的な動向における必要性と検証デ-タの取得 p.11
 1.2.5 衛生打ち上げ計画をふまえたアルゴリズム開発の必要性 p.12
 1.3 既往の研究例と散乱プロセスの考え方 p.14
 1.3.1 マイクロ波センサによる積雪,土壌水分モニタリングの研究例 p.14
 1.3.2 表面散乱モデルを用いた土壌水分推定 p.16
 1.3.3 表面散乱,体積散乱を考慮した積雪モニタリング p.19
 1.4 研究の目的 p.21
 1.5 本論文の構成 p.22

第2章 散乱問題の定式化に関する要約 p.25
 2.1 放射伝達方程式の一次近似 p.25
 2.2 媒体からの体積散乱と下部境界からの直接散乱の一次近似の定式化 p.26
 2.2.1 コヒ-レント,インコヒ-レント成分の導入 p.30
 2.2.2 表面散乱と体積散乱の相互作用 p.34
 2.3 不均質層からの全散乱強度 p.35
 2.3.1 直接的な表面散乱項と体積散乱項 p.35
 2.3.2 表面散乱-体積散乱相互作用項 p.38
 2.4 不規則な粗い表面からの後方散乱 p.39
 2.5 まとめ p.41

第3章 土壌水分,積雪情報推定のためのマイクロ波応答特性とアルゴリズム開発 p.43
 3.1 現地観測と散乱モデルによる検討 p.43
 3.2 現地計測にもとづく表面粗度特性に関する検討 p.44
 3.2.1 表面粗度の算出と現地計測方法 p.44
 3.2.2 土壌表面粗度の分布特性 p.49
 3.2.3 積雪表面粗度の分布特性 p.49
 3.3 土壌水分量抽出に関する一検討 p.52
 3.3.1 土壌面でのマイクロ波応答特性 p.52
 3.3.2 複数のSARによる土壌水分,表面粗度の同時推定に関する検討 p.54
 3.3.3 ある条件下で得られたSARデ-タを用いた検討 p.60
 3.3.4 粗度分布のばらつきが土壌水分推定に与える影響の検討 p.62
 3.4 積雪水文情報抽出に関する一検討 p.66
 3.4.1 積雪面でのマイクロ波応答特性 p.66
 3.4.2 複数のSARによる積雪情報推定手法に関する検討 p.69
 3.5 まとめ p.73

第4章 凍土帯土壌水分推定手法の開発 p.77
 4.1 衛星による土壌水分推定 p.77
 4.2 SAR画像処理 p.80
 4.3 SAR重ね合わせ画像を用いた定性的な地表面状態の推定 p.81
 4.4 入射角の補正と山岳地のマスク処理 p.83
 4.5 現地観測にもとづく検討 p.86
 4.5.1 地表面粗度の算出 p.89
 4.5.2 地表面粗度の分布特性 p.91
 4.6 土壌パラメ-タの推定 p.93
 4.6.1 各パラメ-タの変化が後方散乱に寄与する効果 p.93
 4.6.2 SARデ-タと散乱モデルによる後方散乱係数の比較 p.95
 4.7 凍土帯における土壌水分の推定手法 p.98
 4.7.1 SARデ-タにおける地表面の分類 p.98
 4.7.2 地表面粗度マップおよび土壌含水率マップの作成 p.98
 4.8 推定結果のまとめと現地観測による実測値との比較 p.104
 4.9 まとめ p.107

第5章 結論 p.109

A マイクロ波散乱モデルの必要性と散乱係数の定義 p.113
 A.1 散乱モデル開発の必要性 p.113
 A.2 バイスタティック散乱係数 p.114
 A.3 電磁波の相反定理と双対定理 p.115
 A.4 散乱係数と放射率の関係 p.117
 A.5 放射伝達理論 p.119
 A.5.1 スト-クスパラメ-タ,位相マトリックスと放射伝達方程式 p.120
 A.5.2 不規則な境界面を有する不均質層からの散乱 p.124

B 略語一覧 p.127

図目次
 1.1 地球上の水の分布と循環 p.2
 1.2 地球と大気における年平均でのエネルギ-収支 p.3
 1.3 積雪が大気に与える二つの効果 p.5
 1.4 本研究の位置付け p.8
 1.5 半無限媒体での散乱プロセス概念図 p.15
 1.6 半無限媒体上の散乱媒体からの散乱プロセス概念図 p.19
 1.7 本論文の構成 p.22

 2.1 均質半無限媒体上の不均質層からの散乱 p.26
 2.2 式(2.3)F±(z)の散乱プロセス p.27
 2.3 式(2.7)I+(z)の散乱プロセス p.28
 2.4 式(2.8)I+(z)の散乱プロセス p.28
 2.5 層境界でのコヒ-レント,インコヒ-レント散乱の説明 p.32
 2.6 式(2.20)Ig(μs,φs)の各項の散乱プロセス p.33
 2.7 式(2.21)Iv(μs,φs)の各項の散乱プロセス p.33
 2.8 式(2.24)Ivg+(0,μ0)表面散乱-体積散乱相互作用の散乱プロセス p.34
 2.9 式(2.28)Ivt(μs,μ0)体積散乱項の散乱プロセス p.37
 2.10 式(2.29)Igt(μs,φs)下部境界での散乱項の散乱プロセス p.38

 3.1 串型粗度計による表面高さの計測方法 p.46
 3.2 積雪表面粗度の現地計測方法-"スプレ-式" p.46
 3.3 表面高さのプロファイルとその自己相関の一例(水田滑面) p.47
 3.4 表面高さのプロファイルとその自己相関の一例(水田粗面) p.47
 3.5 積雪表面プロファイルとその自己相関の一例(比較的滑らか) p.48
 3.6 積雪表面プロファイルとその自己相関の一例(少し粗い) p.48
 3.7 土壌,積雪面における二つの粗度パラメ-タの分布特性 p.51
 3.8 積雪パラメ-タの違いによる粗度パラメ-タの分布特性 p.51
 3.9 土壌面におけるマイクロ波応答特性(C-band,HH偏波.入射角33度) p.53
 3.10 土壌面におけるマイクロ波応答特性(L-band,HH偏波.入射角35度) p.53
 3.11 異なる入射角での検討(RADARSAT) p.56
 3.12 異なる周波数での検討(RADARSAT-J ERS-1) p.56
 3.13 C-bandHH偏波,VV偏波での検討(RADARSAT-E ERS) p.59
 3.14 L-bandHH偏波,VV偏波での検討 p.59
 3.15 ある条件下のσ0から表面粗度の推定(L-band,HH偏波.入射角35度) p.61
 3.16 推定σ(l)とσ0から含水率の推定(L-band,HH偏波.入射角35度) p.61
 3.17 水田滑面,粗面での粗度パラメ-タの関係と近似直線,±標準偏差 p.64
 3.18 水田滑面のσ-l関係と±標準偏差による含水率推定の差 p.64
 3.19 水田滑面のσ-l関係+標準偏差による含水率推定 p.65
 3.20 水田滑面のσ-l関係-標準偏差による含水率推定 p.65
 3.21 積雪面におけるマイクロ波応答特性(C-band,HH偏波.入射角33度) p.68
 3.22 積雪面におけるマイクロ波応答特性(L-band,HH偏波.入射角35度) p.68
 3.23 C-bandVV偏波,HH偏波による積雪未知数推定の可能範囲 p.71
 3.24 SAR3システムの組み合わせに関する評価結果 p.72
 3.25 C-bandVV偏波,VHによる積雪未知数推定の可能範囲 p.72

 4.1 解析対象領域-チベット高原タングラ・ヤンシ-ピン流域 p.78
 4.2 凍土帯土壌水分推定手法の全体の流れ p.79
 4.3 土壌域でのCCT平均値の比較(1月,8月) p.82
 4.4 土壌域でのCCT平均値の比較(5月,8月) p.82
 4.5 SARの観測方法にともなう座標系 p.83
 4.6 斜面法線単位ベクトルn→(θg,β)の算出 p.84
 4.7 補正した入射角(θs)マップ p.85
 4.8 現地観測の方法 p.88
 4.9 Dry area の地表面プロファイルとその自己相関関数の一例 p.90
 4.10 Wry area の地表面プロファイルとその自己相関関数の一例 p.90
 4.11 Dry area、Wry area での地表面粗度パラメ-タの関係 p.91
 4.12 Mv=0%での散乱モデルシュミレ-ション(Dry area) p.94
 4.13 Mv=0%での散乱モデルシュミレ-ション(Wet area) p.94
 4.14 冬期SARと散乱モデルによる土壌パラメ-タの推定(Dry area) p.97
 4.15 冬期SARと散乱モデルによる土壌パラメ-タの推定(Wet area) p.97
 4.16 Dry area,Wet areaの1月,8月σ0の比較と地表面分類のしきい値 p.99
 4.17 地表面粗度,土壌水分マップ作成のアルゴリズム p.99
 4.18 作成された地表面粗度(σ)マップ p.101
 4.19 本手法で作成された8月の50mメッシュ土壌含水率マップ p.103
 4.20 50mメッシュでの土壌含水率推定結果 p.105
 4.21 推定値(12.5mメッシュ,112.5m四方)と実測値(Small scale)の比較 p.106
 4.22 推定値(50mメッシュ,1km四方)と実測値(Middle scale)の比較 p.106

 A.1 粗い表面境界面における散乱問題の説明 p.116
 A.2 均質半無限媒体上の不均質層からの散乱 p.125

 地球上において水は最も多く存在する物質であり、その姿と分布は多様に変化している。この水は我々人間を含め生物活動を果たす上で欠くことのできない物質であり、地球上の水循環過程を解明する必要性は次の二つの工学的観点から重要である。一つは、水そのものによる恩恵、すなわち水資源としての重要性である。地球上の水のほとんどは海洋に存在しているため、生物が生産活動に利用できる水は陸域に存在する極めてわずかの量に限られる。この分布を定量的に把握することは水資源管理という観点から重要である。もう一つは、水が動くことにともなう効果、すなわち地球上での水循環が寄与する様々な影響である。とりわけ近年、地球温暖化、異常気象など地球環境問題が顕在化してきているが、地球の気候システムを理解する上で不可欠なのが大気一陸域一海洋間での水や熱エネルギ-の循環である。グロ-バルな水・エネルギ-循環の結果として決定される気候、気象現象は人間活動に直接影響をもたらすとともに、河川流域管理、水資源予測に影響を与えることになる。今後ますます水需要は増大していくことが明白であり、この中でいかに安定して安全な水を効率良く供給できるかは、流域管理や水資源予測の技術的向上を含め、現在の課題であると考えられる。
 このような背景から、本研究は水循環過程の一つである陸域地表面の水分分布、特に土壌水分量と積雪水文情報を対象に能動型マイクロ波センサの合成開口レ-ダ(Synthetic Aperture Radar:SAR)を用いた広域的な算定手法の開発を目的とする。このためのアプロ-チとして、現象そのものの特性およびパラメ-タの変化が散乱プロセスに寄与する応答特性を理解した上で物理量算定のアルゴリズムの開発を行い、このうちの一つを実際のSARデ-タに適応する。検討内容を以下にまとめる。
 まず、本研究で使用する散乱モデルについてFung(1994)を参考に概説する。本研究で使用するマイクロ波散乱モデルは、不規則な境界面を有する、不均質な媒体からの散乱を表面散乱項に粗度に対する適応条件が広いIEM(Integral Equation Method)モデル、体積散乱項に放射伝達理論にもとづいた一次近似の解法が導入されており、この導出についてまとめる。まず、微分形式の放射伝達方程式を積分方程式に変換し、境界条件を組み込むことで不均質層からの散乱を記述する一次近似の解法を導く。これは各偏波ごとに表面散乱項、体積散乱項、表面散乱と体積散乱の相互作用項を含んだコヒ-レント成分、インコヒ-レント成分から成り立つ。さらに、実際の散乱問題への適応を考慮して、ある条件のもとでの散乱モデルの単純化についてまとめた。
 次に、散乱を記述するための二つの地表面粗度パラメ-タ(表面高さの標準偏差,表面相関長さ)の分布特性に関して、土壌面、積雪面のそれぞれを対象に現地観測にもとづき検討した。この結果、二つの粗度パラメ-タには正の傾きを持つような分布特性があることが分かり、この関係を散乱モデルヘ導入することで後方散乱に寄与する未知数を一つ減らすことができる。これを用いて、各パラメ-タの変化に対するマイクロ波の応答特性について考察した。さらに、土壌水分推定については2つの異なるシステムパラメ-タを持つSAR、またある条件の下で得られた後方散乱係数を用いた土壌水分推定アルゴリズムを提案した。積雪水文情報推定に関しては、応答特性の検討から現段階で積雪深(積雪量)に関する議論は困難と判断し、3つの異なるSARシステムによる同時観測を想定し、未知数同時推定の可能性とそのアルゴリズムについて提案した。
 以上の検討を踏まえて、特定の条件下で得られた後方散乱係数を用いて土壌水分を推定するアルゴリズムを実際のSARデ-タヘ適応し、土壌水分空間分布の算定手法を開発した。これまではある点(ポイント)での検討だったが、2次元へ展開する際に必要となる地形の効果、SARの観測原理に依存した影響等を必要な限り考慮しながら進める。対象領域は、気候変動にも大きな影響を与えているといわれるチベット高原のタングラ・ヤンシ-ピン流域内の永久凍土帯で、日本の人工衛星J ERS-1搭載のSAR画像を用いた。永久凍土帯の土壌面は冬季、凍結しており液体の水分が存在していないと考えられることから、1月のSAR画像とマイクロ波散乱モデルおよび1997年度実施した現地観測から得られた地表面粗度に関する検討結果を用いて地表面粗度分布図を作成した。さらに夏季、凍土が融解し土壌含水率が大きくなっていると考えられる8月のSAR画像を用いて50mメッシュでの土壌表層含水率の空間分布図を作成した。算定された土壌含水率の結果を一部まとめ、現地観測による土壌含水率の実測値と比較し、妥当な算定結果が得られたことを示した。

平成10(1998)年度博士論文題名一覧

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