Studies on the induction mechanism of xylanases in Trichoderma reesei(T.reesei におけるキシラナ-ゼ類の誘導機構に関する研究)
氏名 徐 堅平
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第176号
学位授与の日付 平成10年8月31日
学位論文の題目 Studies on the induction mechanism of xylanases in Trichoderma reesei (T.reesei におけるキシラナ-ゼ類の誘導機構に関する研究)
論文審査委員
主査 教授 森川 康
副査 教授 山田 良平
副査 教授 福田 雅夫
副査 助教授 岡田 宏文
副査 講師 政井 英司
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Contents
Chapter1 General introduction p.1
Preface p.1
Structure and occurrence of xylan p.5
Xylanolytic enzyme system p.7
Molecular biology of xylanases p.10
Production and induction of xylanases p.14
Xylanases from Trichoderma reesei and their induction p.17
The purpose of this research p.23
References p.25
Chapter2 Xylanase induction in a fungus T.reesei PC-3-7 p.34
Introduction p.34
Materials and methods p.34
Results p.41
Effect of inducer concentration on xylanase induction p.41
Time course of xylanase induction and induction uptake p.43
Analysis of xylanase composition p.47
Fractional determination of xylanase components p.52
Expression of xylanase gene at mRNA level p.56
Discussion p.56
Refferences p.61
Chapter3 A third xylanase from T.reesei PC-3-7 p.63
Introduction p.63
Materials and methods p.63
Results p.71
Enzyme purification p.71
Molecular properties p.75
Substrate specificity p.79
Mode of enzyme action p.79
Partial amino acid sequence of Xyn III p.83
Discussion p.86
References p.91
Chapter4 Regulation of xyn3 gene expression on T.reesei PC-3-7 p.96
Introduction p.96
Materials and methods p.96
Results p.99
Induction and production of Xyn III by T.reesei PC-3-7 p.99
Existense of xyn3 gene p.102
Xyn III gene expression p.105
The mRNA of xyn3 in both PC-3-7 and QM9414 p.108
Discussion p.109
References p.114
Chapter4 General conclusion p.115
Publication list p.119
Acknowledgments p.120
地球上の植物はその光合成作用を通じて大量の無機炭素からバイオマスに変換して太陽エネルギ-を効率よく貯蓄している。特にセルロ-ス系バイオマスは植物細胞壁の主要構成として、最も豊富に存在する再生可能なエネルギ-資源である。今後の人口の増加やエネルギ-消費量の増大、限られた石油資源及び地球環境の保護(炭酸ガス増加の抑制)の視野を考慮すると、セルロ-ス系バイオマスは人類が活用すべき重要な資源といえる。セルロ一ス系バイオマスの糖化により得られたグルコ-スやキシロ一スなどは食料、飼料への変換あるいは燃料用エタノ-ルの生産などへの利用が可能である。自然環境にこのバイオマス分解能力を持つ微生物は大量に生息している。その役割を担うのはセルラ-ゼ及びキシラナ-ゼである。しかし、これらの微生物のセルラ-ゼ及びキシラナ-ゼの生産能力あるいは比活性が低いので、実用化されるには課題が多いのが現状である。微生物ではキシラナ-ゼの生合成が様々な要素で制御されている。これらの要素の解明によって、キシラン分解能の高いキシラナ-ゼの安価な大量生産が可能となる。
本論文では糸状菌におけるキシラナ-ゼ生合成の誘導調節機構の解析を行い、今後の生合成制御機構解明への足がかりを得た。
第1章では、キシラナ-ゼ研究の全貌を述べるとともに、まだ解明されてない誘導調節機構に関する問題点を指摘し、本研究課題の意義及び目的について論述している。
第2章では、セルラ-ゼ生産菌として著名な糸状菌Trichodermareesei PC-3-7株がキシラナ-ゼをも大量生産することを確認した上で、キシラナ-ゼの誘導物質及びその誘導能を調べた。誘導されたキシラナ-ゼ活性をイオン交換クロマトグラフィ-により3種(XynI、XynII及びEGI)に分離し、それぞれを定量した結果、及びノ-ザンブロッティング法でそれぞれの遺伝子のmRNAを分析した結果、XynIIは各種の誘導物質によってほぼ同比率で誘導されたが、XynIはセルラ-ゼの強力な誘導物質であるソホロ-ス(Sop)では少量しか誘導されなかったのに対して、同様にセルラ-ゼを強く誘導するL-ソルボ-ス(Sor)では強力に誘導された。得られた結果から、Sorはキシラナ-ゼの誘導物質であり、転写レベルで発現を制御していることが明白となった。また、XynIとXynIIの誘導は異なる機構で制御され、SorによるXynIとセルラ-ゼの誘導は共通点が存在していると推測された。
第3章では、T.reesei の変異株であるPC-3-7株から新規なキシラナ-ゼを見出し、その精製を行うとともに性質を明らかにした。第2章においての誘導研究中既知の2種類のキシラナ-ゼ(XynI及びXynII)以外のキシラナ-ゼ活性を見出したので、T.reesei PC-3-7株のセルラ-ゼ粗酵素標品から精製酵素を得た。本酵素の分子特性、物理化学特性及び基質特異性から、本酵素はT.reesei の既知のキシラナ-ゼ(XynIやXynII)とは明らかに異なる新規キシラナ-ゼであることを示し、XynIIIと命名した。さらに、本酵素のN-末端のアミノ酸及び内部アミノ酸の部分塩基配列を決定し、他の微生物由来のキシラナ-ゼとの相同性を調べた結果、XynIIIはこれまでのXynI及びXynIIとは別のファミリ-に属することを明らかにした。
第4章では、XynIIIの誘導調節機構を明らかにした。まず、酵素レベルでXynIIIの誘導と生産を調べた結果、XynIIIの生合成はキシラン系基質によって誘導されず、セルロ-ス系の基質及びL-ソルボ-スで誘導されることを見出した。また、XynIIIの生産能力がT.reesei 菌株間に大きな差異のあることを示した。次に、ノ-ザンブロッティング法を用いてXynIII遺伝子のmRNA発現についての特性を分析した。XynIIIの誘導はXynIとXynIIと同様に転写レベルで調節されているが、他の2種のキシラナ-ゼの誘導生成とは異なる機構で制御されていることを明らかにした。即ち、XynIIIは従来から知られているキシラナ-ゼの誘導とは全く異なり、キシラン関連物質では誘導されず、セルロ-ス関連物質のみで誘導され、かつセルラ-ゼ類と協調的に発現制御されていることを明らかにした。本研究の結果はキシラナ-ゼの発現制御機構及びセルラ-ゼのそれとの相互関係の解明に役立つと考えられた。
第5章では、本研究で得られた諸結果を総括的にまとめ、今後の課題と展望について述べている。