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BaTiO3セラミックスにおける粒成長制御と単結晶育成に関する研究

氏名 三浦 伸一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第188号
学位授与の日付 平成11年3月25日
学位論文の題目 BaTiO3セラミックスにおける粒成長制御と単結晶育成に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 高田 雅介
 副査 教授 赤羽 正志
 副査 教授 植松 敬三
 副査 教授 小松 高行
 副査 助教授 石黒 孝

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第1章 序論 p.3
 1-1 セラミックス材料における微細構造制御 p.3
 1-2 焼結過程 p.3
 1-2-1 液相焼結 p.4
 1-3 粒子の成長過程 p.5
 1-3-1 粒成長 p.5
 1-3-2 再結晶 p.7
 1-3-2-1 一次再結晶 p.7
 1-3-2-2 二次再結晶 p.7
 1-4 BaTiO3の歴史 p.9
 1-5 BaTiO3単結晶 p.9
 1-6 BaTiO3単結晶育成法 p.12
 1-6-1 Remeika法(Flux法) p.12
 1-6-2 引き上げ(TSSG)法 p.12
 1-6-3 固相反応法 p.12
 1-7 BaTiO3の共融点 p.14
 1-8 論文の目的および構成 p.17
 参考文献 p.18

第2章 BaTiO3多結晶体の粒成長制御 p.20
 2-1 緒言 p.20
 2-2 二次再結晶の制御 p.23
 2-2-1 実験方法 p.23
 2-2-2 原料粉末による影響 p.25
 2-2-2-1 結果および考察 p.25
 2-2-3 TiO2添加量と熱処理温度の影響 p.33
 2-2-3-1 結果および考察 p.33
 2-2-4 液相を介した粒子の成長過程 p.39
 2-2-5 まとめ p.42
 2-3 原料粉末の粒度分布と核生成 p.43
 2-3-1 実験方法 p.43
 2-3-2 結果および考察 p.44
 2-3-3 まとめ p.53
 参考文献 p.53

第3章 BaTiO3多結晶体での液相生成と直流導電率 p.54
 3-1 緒言 p.54
 3-2 実験方法 p.54
 3-3 結果および考察 p.55
 3-4 まとめ p.66
 参考文献 p.67

第4章 BaTiO3単結晶の育成 p.68
 4-1 緒言 p.68
 4-2 育成方法 p.68
 4-3 単結晶の育成 p.69
 4-3-1 結果および考察 p.69
 4-3-1-1 単結晶の成長過程 p.70
 4-3-1-2 Domain構造 p.74
 4-3-1-3 比誘電率の温度特性 p.77
 4-3-2 まとめ p.79
 4-4 多結晶体の密度の検討 p.80
 4-4-1 加圧焼結 p.80
 4-4-1-1 実験方法 p.81
 4-4-1-2 結果および考察 p.82
 4-4-1-3 まとめ p.82
 4-4-2 減圧焼結 p.84
 4-4-2-1 実験方法 p.84
 4-4-2-2 結果および考察 p.84
 4-4-2-3 まとめ p.86
 参考文献 p.86

第5章 総括 p.87

本論文に関する研究業績 p.89
 原著論文 p.89
 口頭発表 p.90

謝辞

 セラミックス材料は、一般に金属のような鋳造では製造できず、このため目的形状に近い形に成形し焼成を行う。微細構造は、熱処理中に起こる粒成長などによって決まり、材料の電気的、機械的諸特性に影響を与える。このため、焼結過程の制御が特性向上を図る上で重要となる。しかし、この過程は材料の不均一性といういくつもの要因に影響を受けるため複雑で、詳細な解明が十分ではない。これに加えて焼成時に液相が存在する場合には、これらの制御はより困難なものになる。材料のさらなる高機能化を推進するためには、これまでより微細な領域で形態や構造の制御を精密に行うことが必要とされ、焼結などセラミックスの基礎的科学の確立が望まれている。
 一方、こうした微細構造の制御技術を利用して、BaTiO3多結晶体中に接合した種結晶を熱処理により選択的に成長させる方法が試みられている。しかしながらこの場合、多結晶体中の二次再結晶が問題となり、完全な単結晶を得ることが難しい。もし二次再結晶の抑制が可能ならば、この方法は容易な単結晶育成法として期待できる。
 このような背景の下に、本論文はBaTiO3多結晶体の液相焼結における二次再結晶の制御および機構解明と、この制御技術を利用した新規なBaTiO3単結晶育成法の確立を目的とした。

 第1章『序論』では、セラミックス材料の熱処理過程で起こる粒成長や二次再結晶について述べ、これらの制御が材料の特性向上を図る上で重要であることを示した。また、これまでの単結晶育成法について述べ、本研究で注目した育成法の利点と問題点を示した。さらに本論文の目的と構成について述べた。

 第2章『BaTiO3多結晶体の粒成長制御』では、まず原料粉末の粒度分布、TiO2添加量、熱処理温度が、多結晶体の微細構造に与える影響を検討した。共融点より低温で熱処理を行った場合には、原料粉末、TiO2添加量の違いによらず二次再結晶粒子の多い構造であった。これに対して共融点以上では、粒成長や二次再結晶が抑えられた均一な構造を持つ条件が存在した。これは原料として反応性の低い比較的平均粒径の大きなBaTiO3粉末を用いることで、核の生成と成長を抑えるTiO2の効果が顕著に現れたものである。120時間の熱処理後も、多結晶体中には二次再結晶粒子が全く存在しなかった。また、この二次再結晶抑制条件にはTiO2の添加量すなわち液相生成量と焼成温度が密接に関係していた。多結晶粒子間に存在する液相中でのBaTiO3の拡散量が極めて少ないために、二次再結晶が抑制されることを明らかにした。
 次に、意図的に変化させた原料粉末の粒度分布が、多結晶体の微細構造に与える影響を検討した。この結果、粒度分布の僅かな増大が二次再結晶の核生成数の増加をもたらすことを実証した。これは、TiO2添加により粒子の成長が極めて遅い条件を用いることで明確になったものである。より精密にセラミックス材料の設計、構造の制御を行う場合、原料粉末の粒度分布の検討が必要不可欠であることを示したものである。

 第3章『BaTiO3多結晶体での液相生成と直流導電率』では、TiO2添加量の異なるBaTiO3多結晶体において、液相生成量と共融点付近での直流導電率の挙動を検討した。無添加の多結晶体における導電率温度依存性は、緩やかな変化であったのに対し、TiO2を添加した多結晶体では、共融点付近で導電率が急激に変化した。これは、試料での液相生成の有無による違いといえる。また、共融点付近での導電率の変化量は、Ti02添加量の増加に伴い大きくなった。多結晶体での液相生成量は、TiO2の添加量に比例して増加するため、この導電率の変化量は液相生成量を反映した結果である。
 このことから、熱処理時の液相生成量を導電率の変化量として比較することが可能であるといえる。これは、例えば反応が関与する液相焼結や遷移状態の液相焼結のように、焼結中の液相量が時間とともに変化する場合などにも有効な方法である。

 第4章『BaTiO3単結晶の育成』では、多結晶体中に埋め込んだ種結晶を熱処理により大きく成長させる単結晶育成法を検討した。この際、第2章で得られた知見を用いることで、二次再結晶粒子による悪影響を受けずに単結晶の育成を行うことが可能であるという工学上有用な結果を得た。単結晶の成長は液相を介した溶解・析出型結晶成長によるもので、その成長速度は多結晶体中で生成する液相量の減少および熱処理温度の上昇に伴い増加した。この単結晶育成法は、多結晶体粒子と平滑な面を持つ種結晶の溶解度の違いを利用した方法である。これにより、多結晶体中の二次再結晶を抑制した状態で単結晶の育成が可能となった。
 成長した単結晶には、多結晶体中よりも大きな気泡が取り込まれていた。これは多結晶体中に気泡が多く存在しているためと考えられる。従って、多結晶体中の密度を上げ気泡を取り除くことにより、良質な単結晶の育成が可能であることが示唆された。

 第5章『総括』では、各章で得られた研究成果をまとめ、本論文の結論とした。

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