熱処理による磁気ディスク用Co基合金記録層の高保磁力化・ 低ノイズ化に関する研究
氏名 佐藤 元治
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第131号
学位授与の日付 平成11年3月25日
学位論文の題目 熱処理による磁気ディスク用Co基合金記録層の高保磁力化・低ノイズ化に関する研究
論文審査委員
主査 教授 田中 紘一
副査 教授 小島 陽
副査 教授 柳 和久
副査 助教授 石黒 孝
副査 東京工業大学 教授 直江 正彦
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第1章 序論 p.1
第1節 本研究の背景 p.1
1.1 磁気ディスク装置の変遷と技術動向
1.2 磁気ディスクの構造とその課題
第2節 本研究の目的と論文構成 p.5
参考文献 p.7
第2章 カーボン基板を用いた磁気ディスク p.21
第1節 緒言 p.21
第2節 実験方法 p.22
2.1 カーボン基板の作製
2.2 カーボン基板を用いた磁気ディスクの作製
2.3 評価方法
第3節 実験結果と考察 p.24
3.1 磁気ディスク用カーボン基板の耐熱性
3.2 カーボン基板磁気ディスクの密着性
3.3 カーボン基板磁気ディスクの磁気特性
3.4 カーボン基板磁気ディスクのテクスチャー効果
3.5 カーボン基板磁気ディスクのバイアス効果
3.6 カーボン基板磁気ディスクの電磁変換特性
第4節 結言 p.27
参考文献 p.28
第3章 磁気ディスク用Co基合金記録層の磁気特性に対する熱処理の効果 p.43
第1節 緒言 p.43
第2節 C保護膜の場合 p.44
2.1 実験方法
2.2 実験結果
2.3 考察
2.4 結言
第3節 Zr保護膜の場合 p.50
3.1 実験方法
3.2 実験結果と考察
3.3 結言
参考文献 p.54
第4章 熱処理目置あの時期特性に及ぼす熱処理条件の影響 p.75
第1節 緒言 p.75
第2節 実験方法 p.76
2.1 成膜条件と熱処理条件
2.2 評価方法
第3節 実験結果と考察 p.77
3.1 磁気特性に及ぼす昇温速度の影響
3.2 磁気特性に及ぼす保持時間の影響
3.3 磁気特性に及ぼす降温速度の影響
第4節 結言 p.79
参考文献 p.80
第5章 熱処理メディアの電磁変換特性 p.88
第1節 緒言 p.88
第2節 実験方法 p.89
2.1 成膜条件と熱処理条件
2.2 評価方法
第3節 実験結果と考察 p.90
3.1 Hcを一定とした場合の電磁変換特性
3.2 Brδを一定とした場合の電磁変換特性
3.3 各種Co基合金を用いた熱処理メディアでの低ノイズ化
第4節 結言 p.93
参考文献 p.94
第6章 熱処理メディアの磁気特性に及ぼす基板種の影響 p.106
第1節 緒言 p.106
第2節 実験方法 p.108
2.1 成膜条件と熱処理条件
2.2 評価方法
第3節 実験結果と考察 p.109
3.1 磁気ディスク用NiCuP/Al基板
3.2 NiCuP/Al基板を用いた熱処理メディアの磁気特性
第4節 結言 p.112
参考文献 p.113
第7章 結論 p.122
謝辞 p.127
本論文に関する公表論文と口頭発表 p.129
近年、情報量の大幅な増大により、外部記録装置、特に、磁気ディスク装置(HDD)に対する大容量化(高記録密度化)や高速化についての要求が益々高まっている。
一般に、高記録密度化には、磁化遷移幅を狭くするため磁性膜が有するBrδ(Br:残留磁束密度、δ:磁性膜厚、Hc:保磁力)を小さくすることが必要である。すなわち保磁力を高めることが有効である。高保磁力化のためには、基板温度を高めた状態で、あるいは、基板に負バイアス電圧を印加した状態での薄膜媒体の成膜が有効なことが報告されている。これらは、下地膜であるCrが、高い基板温度あるいは負バイアス電圧の印加によりCoNiCr合金結晶粒界へ偏析したために、CoNiCr合金結晶粒間の交換相互作用が弱められた結果生じたものと推論されている。
本研究では、上述したようなCrの拡散および偏析を、薄膜媒体を成膜した後の熱処理により行うことについて検討した。このため、耐熱性に優れた基板としてカーボン基板を取り上げた。すなわち、本研究の目的とする所は、1.耐熱性に優れたカーボン基板について、磁気ディスク用基板としての特徴を抽出すること、2.成膜後の熱処理により、高記録密度下で要求される高保磁力および低ノイズな薄膜媒体を得ること。3.このような薄膜媒体について、そのメカニズムを明らかにし、磁気ディスクにおいて高保磁力および低ノイズな薄膜媒体の有るべき姿を提案することである。本論文は、上記のようなことを目的とし、綿密に研究して得られた成果を「熱処理による磁気ディスク用Co基合金記録層の高保磁力化・低ノイズ化に関する研究」と題して集大成したものであり・7章より構成されている。なお、本研究では、成膜後に熱処理を行ったメディアを、熱処理メディアと称する。
第1章は「序論」であり、磁気ディスク装置および磁気ディスクのこれまでの変遷を外観すると共に今後の展開を考察し、本研究で取り上げるべき研究課題を明らかにした。
第2章「カーボン基板を用いた磁気ディスク」では、耐熱性に優れたカーボン基板を取り上げ、磁気ディスク用基板として各種特徴を抽出し、ガラス基板では認められない特徴として、基板表面へのテクスチャー処理による磁気異方性の発現や基板への負バイアス電圧の印加による保磁力の増大を確認した。
第3章「磁気ディスクの磁気特性に対する熱処理の効果」では、カーボン基板上に、一般的な膜構成であるC/CoNiCr/Cr薄膜媒体を成膜し、熱処理を行うことで高保磁力化が達成できることを明らかにした。また、保護膜としてCを用いた場合、熱処理温度の増加と共にCは飛散し、さらにCo基合金磁性膜中に拡散、Cr下地膜とCo基合金磁性膜との界面付近にCrC化合物層が形成されることが判明した。このため、熱処理温度の増加により、Co基合金磁性膜中に拡散しないZrを保護膜として用いることを提案した。結果、上述したようなCrC化合物層がCr下地膜とCo基合金磁性膜との界面付近に形成されなくなったことから、Cr下地膜からCrの拡散が生じ、Co基合金結晶粒界に偏析することで粒間の交換相互作用が弱められ、大幅に高保磁力化が可能となることが明らかとなった。この際、CoNiCrを用いることでも3500Oe以上の保磁力が得られた。
第4章「熱処理メディアの磁気特性に及ぼす熱処理条件の影響」では、熱処理時の昇温速度、保持時間や降温速度が熱処理メディアの磁気特性に及ぼす影響について検討した。結果、磁気特性は、昇温速度、保持時間や降温速度には関係なく、熱処理温度のみに依存していることが明らかとなった。また、各種分析結果から、第3章で述べたメカニズムと同様なメカニズムにより保磁力が増大していることも判明した。つまり、薄膜媒体を瞬間的に加熱することで磁気特性の改善が可能になるものと考えられ、カーボン基板以外の耐熱性を有しない基板が使用できる可能性が得られた。
第5章「熱処理メディアの電磁変換特性」では、熱処理温度の増加による高保磁力化と共に媒体ノイズが低減されることが明らかとなった。これは、熱処理温度の増加によりCo基合金結晶粒間の磁気的分離度が高まったためである。
第6章「熱処理メディアの磁気特性に及ぼす基板種の影響」では、低温熱処理化を目指し、カーボン基板に代わる基板として、通常のアルミニウム合金を母材としたNiCuP/A1基板を用いることを検討した。結果、CoNiCr合金を用いた場合、440℃で10分程度熱処理することで保磁力3000Oeが得られた。なお・NiCuP/A1基板を用いた場合には、基板の表面形態の違いから、カーボン基板を用いた場合に比べて保磁力は大きくなった。
第7章は「結論」であり、これらの研究成果を基に、熱処理メディアは、将来の記録密度化に対し得るメディアであると結言した。