パラジウム薄膜を用いた光検知式水素センサに関する研究
氏名 奥原 芳樹
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第183号
学位授与の日付 平成11年3月25日
学位論文の題目 パラジウム薄膜を用いた光検知式水素センサに関する研究
論文審査委員
主査 教授 高田 雅介
副査 助教授 安井 寛治
副査 助教授 石黒 孝
副査 助教授 河合 晃
副査 助教授 斎藤 秀俊
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目次
第1章 序論 p.1
1.1 水素エネルギ- p.1
1.1.1 水素エネルギ-への期待 p.1
1.1.2 実用化に向けての課題 p.2
1,2 水素センサの現状 p.3
1.2.1 水素センサの現状と課題 p.3
1.2.2 光検知式水素センサの研究状況 p.5
1.2.3 Pd薄膜を用いた光検知式水素センサ p.9
1.3 本論文の目的および構成 p.14
参考文献 p.16
第2章 バッファ-層による耐久性の向上 p.18
2.1 はじめに p.18
2.2 実験方法 p.19
2.2.1 センサ素子の作製方法 p.19
2.2.2 表面形態観察 p.21
2.2.3 センシング特性の評価 p.22
2.3 測定結果 p.23
2.3.1 Pd薄膜の表面形態変化 p.23
2.3.2 センシング特性および耐久性 p.30
2.4 考察 p.34
2.4.1 Pd薄膜の表面形態変化を抑制するバッファ-層の効果 p.34
2.5 まとめ p.37
参考文献 p.38
第3章 回復過程に及ぼす吸着酸素の影響 p.39
3.1 はじめに p.39
3.2 実験方法 p.40
3.2.1 試料作製方法 p.40
3.2.2 センシング特性の評価 p.40
3.3 測定結果 p.40
3.3.1 回復速度の酸素分圧依存性 p.40
3.4 考察 p.42
3.4.1 脱水素過程に及ぼす吸着酸素の影響 p.42
3.5 まとめ p.44
参考文献 p.45
第4章 Pt担持による回復速度の向上 p.46
4.1 はじめに p.46
4.2 実験方法 p.47
4.2.1 試料作製方法 p.47
4.2.2 センシング特性の評価 p.48
4.2.3 電気抵抗率の測定 p.48
4.3 測定結果 p.49
4.3.1 Pt薄膜による回復速度の向上 p.49
4.3.2 Pt薄膜の形態とセンシング特性 p.53
4.4 考察 p.56
4.4.1 Pt担持効果の要因 p.56
4.5 まとめ p.59
参考文献 p.60
第5章 Pd水素化物薄膜の水素脱離反応と回復過程 p.61
5.1 はじめに p.61
5.2 実験方法 p.62
5.2.1 試料作製方法 p.62
5.2.2 センシング特性の評価 p.62
5.2.3 屈折率および消衰係数の時間変化の測定 p.63
5.2.4 X線回折法による生成相の同定 p.63
5.2.5 電気抵抗率測定 p.64
5.3 測定結果 p.65
5.3.1 段階的な回復曲線の挙動 p.65
5.3.2 水素脱離過程における屈折率および消衰係数の変化 p.67
5.3.3 Pd水素化物薄膜における水素脱離反応 p.67
5.3.4 反射率変化量の水素分圧依存性 p.72
5.3.5 Pd薄膜の電気抵抗率変化 p.74
5.4 考察 p.75
5.4.1 Pd水素化物薄膜の相変化と回復曲線 p.75
5.4.2 Pd水素化物薄膜の相変化と水素脱離反応 p.78
5.5 まとめ p.83
参考文献 p.84
第6章 Pd薄膜の水素化による光学特性変化 p.85
6.1 はじめに p.85
6.2 実験方法 p.86
6.2.1 センサ素子の作製方法 p.86
6.2.2 透過率スペクトルの測定 p.86
6.2.3 反射率スペクトルの測定 p.87
6.2.4 偏光解析法による光学定数変化の測定 p.88
6.3 測定結果 p.88
6.3.1 透過率スペクトルの変化 p.88
6.3.2 反射率スペクトルの変化 p.89
6.3.2 光学定数(屈折率および消衰係数)の変化 p.91
6.4 考察 p.93
6.4.1 Pd薄膜の水素化による光学特性変化 p.93
6.5 まとめ p.97
参考文献 p.98
第7章 総括 p.99
研究業績 p.102
謝辞 p.104
水素は、エネルギ-の有効利用の観点から次世代の二次エネルギ-源の一つとして期待されているが、その実用化には高い可燃性・爆発性を示す水素を安全に検知する技術が不可欠である。しかし、水素は常温常圧下において無色無臭な気体であるため、その検知が極めて困難である。従来の電気検知式水素センサでは、センサ媒体部が、水素ガスと電気的に接触しており、また応答速度や選択性を向上させるために加熱した状態で使用されている。したがって、この方式の水素センサは、駆動回路部におけるスパ-クおよび媒体部自身が着火源となる危険性を抱えている。
これまでに我々が研究を進めてきた光検知式水素センサは、薄膜材料の水素化に伴う光学特性変化を利用して水素を検出し、非接触センシングによる高い安全性および室温における高速応答が実現されている。ガラス基板上に堆積したPd薄膜を用いる水素センサは、構造が簡単であるだけでなく、応答が速いなどの特徴を有しており、最も有望視されているセンサの一つである。しかしながら、この水素センサにおいて、Pd膜の膜厚の増加は、感度を向上させたが、一方、耐久性の低下をもたらした。また、水素化した薄膜における脱水素反応が遅いため、センサの回復速度が小さいという欠点も有していた。
このような背景の下、本論文ではPd薄膜を用いた光検知式水素センサを研究対象とし、その耐久性および回復速度を向上させることを目的とした。
第1章『序論』では、水素エネルギ-の重要性および水素センサに関する研究の現状を述べ、Pd薄膜を用いた光検知式水素センサの特徴と問題点を挙げ、本論文の目的および構成を示した。
第2章『バッファ-層による耐久性の向上』では、センサの耐久性を向上させることを目的とし、Pd薄膜における水素化物生成時の表面形態変化を抑えるため、Pd薄膜とガラス基板の間にバッファ-層として種々の金属薄膜を設置する方法を試みた。このバッファ-層の利用により、Pd薄膜の水素化に伴う表面形態変化が抑制でき、センサの耐久性を向上させることに成功した。また、バッファ-層の凝集エネルギ-と抑制効果の関連性を見い出し、凝集エネルギ-の高い金属薄膜をバッファ-層に用いた場合に抑制効果が現れることを示した。
第3章『回復過程の律速段階』では、センサの回復過程すなわちPd水素化物薄膜の脱水素反応における律速段階を明らかにすることを目的とした。回復速度は回復時の雰囲気中酸素分圧の増加とともに向上した。そこで、Pd水素化物表面における水の生成速度と回復速度の比例関係を基にして、回復速度と酸素分圧の関係式をラングミュアの吸着等温式から導き、その関係が実験結果と一致することを示した。この結果から、Pd水素化物薄膜における脱水素反応は、表面での水の生成反応を伴う水素脱離過程で律速されていることを示した。また、回復時の雰囲気中酸素分圧の増加により、薄膜表面における酸素被覆率が増加し、水の生成反応が促進されるため、回復速度の向上がもたらされることを明らかにした。
第4章『Pt担持による回復速度の向上』では、センサの回復速度を向上させることを目的とし、Pd表面上にPt薄膜を堆積させる方法を試みた。Pd表面に微量のPtを堆積させることにより、Pd水素化物薄膜における水素脱離反応が促進され、回復速度を大幅に向上させることに成功した。また、Pt膜の膜厚変化による形態変化を抵抗率および反射率から評価し、Pt膜の形態がセンシング特性に与える影響について検討した。Pt膜が膜厚の減少に伴って分散した形態をとることにより、水素検出時の反射率変化量が増加するだけでなく、応答・回復速度が向上した。この結果から、Pd表面上にPtが担持されている状態が水素脱離反応を促進するために重要であることが明らかとなった。水素脱離反応を促進するPtの効果は、Pt表面上での水の生成反応における活性化エネルギ-がPd表面上に比べて低いことに起因していると推察した。
第5章『Pd水素化物薄膜の水素脱離反応と回復過程』では、センサの回復特性においてみられた特異な3段曲線に着目し、水素脱離反応に伴うPd水素化物の相変化との関連性について検討した。水素脱離過程におけるX線回折パタ-ンの変化および反射率変化量の水素分圧依存性から、回復過程におけるPd水素化物の相変化を明確にし、3段曲線を描く回復挙動とその相変化との関連性を明らかにした。また、Pd膜の膜厚増加や水素の吸収一脱離の繰り返しにより、回復特性がより明確な特異性を示す現象を見い出し、その現象をPd水素化物薄膜における解離圧一組成等温線の変化から説明した。
第6章『総括』では、以上の各章で得られた結果を総括し、本論文の結論とした。