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強誘電体の共振効果を用いた制御機能を持つ固体触媒の研究

氏名 齋藤 信雄
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第190号
学位授与の日付 平成11年3月25日
学位論文の題目 強誘電体の共振効果を用いた制御機能を持つ固体触媒の研究
論文審査委員
 主査 教授 井上 泰宣
 副査 助教授 佐藤 一則
 副査 教授 藤井 信行
 副査 教授 山田 明文
 副査 助教授 松原 浩

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第1章 序論 p.1

 第1節 触媒発展の歴史および課題 p.1
 第2節 従来の触媒機能制御技術と問題点 p.4
 第3節 本研究のねらい p.6
 第4節 強誘電体結晶と共振効果 p.7
 第5節 本研究の内容 p.12
 第6節 本論文の構成 p.18
参考文献

第2章 強誘電体素子の作製および特性評価 p.20

 第1節 緒言 p.20
 第2節 実験 p.20
 2-1 強誘電体試料の作製 p.20
 2-2 強誘電体試料の共振周波数 p.23
 第3節 結果 p.23
 3-1 強誘電体試料の共振特性 p.23
 3-2 反応条件下での共振周波数 p.27
 第4節 考察 p.27
 4-1 強誘電体試料の共振周波数 p.27
 4-2 強誘電体の共振現象と振動モード p.34
 4-3 反応条件下での共振周波数 p.39
 第5節 結言 p.39
参考文献 p.41

第3章 共振効果による触媒の高活性化 p.42

 第1節 緒言 p.42
 第2節 実験 p.42
 2-1 強誘電体担持金属触媒の作製 p.42
 2-2 反応装置 p.46
 2-3 高周波印加用反応セル p.46
 2-4 温度制御 p.52
 2-5 高周波発生回路 p.52
 2-6 エタノール酸化反応 p.55
 2-7 反応操作 p.55
 2-8 Pd薄膜触媒のキャラクタリゼーション p.56
 2-8-1 X線回折法(XRD)による構造解析 p.56
 2-8-2 X線光電子分光法(XPS)による表面状態の解析 p.57
 第3節 結果 p.57
 3-1 エタノール酸化反応の挙動 p.57
 3-2 TEおよびTS振動モードによる触媒活性化効果 p.59
 3-3 NiおよびAg薄膜触媒上でのエタノール酸化反応 p.63
 3-4 Pd触媒上でのTE振動モードにおける p.68
 正および負分極面での活性化エネルギー
 3-5 Pd触媒上でのTE振動モードにおける p.70
 正および負分極面での反応次数
 3-6 XRDによるPd薄膜の構造解析 p.70
 3-7 XPSによるPd薄膜表面状態の解析 p.74
 第4節 考察 p.74
 4-1 エタノール酸化反応の反応機構 p.73
 4-2 Pd触媒上での反応次数による速度論的解析 p.76
 4-2-1 無共振状態での反応機構 p.76
 4-2-2 Pd触媒上での共振状態の反応機構 p.79
 4-2-2-1 (+)Pd/z-LN上での反応機構 p.79
 3-2-2-2 (-)Pd/z-LN上での反応機構 p.81
 4-3 共振状態での活性化エネルギーの変化 p.84
 4-4 共振印加による触媒活性化 p.87
 4-2-1 共振印加による触媒表面温度上昇の効果(熱的効果) p.87
 4-2-2 触媒表面への気相分子衝突回数の増加効果 p.88
 4-2-3 共振印加によるPd触媒表面の構造変化 p.89
 4-2-4 共振によって発生した音波によるキャビテーション効果 p.89
 4-2-5 共振による触媒表面の格子変位効果 p.90
 4-2-6 共振による触媒の電子的因子の変化 p.90
 第5節 結言 p.92
参考文献 p.93

第4章 共振効果による反応選択性制御 p.94

第1節 緒言 p.94
第2節 実験 p.95
 2-1 強誘電体担持触媒の作製 p.95
 2-2 反応装置および反応セル p.95
 2-3 エタノール脱水および脱水素反応 p.101
 2-4 反応操作 p.101
 2-5 Ag触媒キャラクタリゼーション p.102
第3節 結果 p.102
 3-1 エタノール脱水および脱水素反応 p.103
 3-2 共振による触媒表面の温度変化 p.104
 3-3 金属触媒上の反応の共振効果による反応選択性の変化 p.105
 3-4 WO3触媒上の反応の共振による反応選択性の変化 p.110
 3-5 (+)Ag/z-LNおよび(-)Ag/z-LN上の反応の共振による反応選択性の変化 p.114
 3-6 (+)および(-)分極面での共振による活性化エネルギーの変化 p.118
 3-7 共振による反応次数の変化 p.121
 3-8 XRDおよびXPSによるAg薄膜触媒表面の分析 p.123
第4節 考察 p.123
 4-1 共振印加におけるエタノールの脱水および脱水素反応の挙動 p.123
 4-2 エタノール脱水および脱水素反応と反応機構 p.126
 4-3 Ag触媒表面構造 p.128
 4-4 Ag触媒上での反応次数による速度論的解析 p.129
 4-5 共振状態での活性化エネルギーと頻度因子の変化 p.130
 4-6 WO3触媒の反応選択性に及ぼす共振効果 p.132
第5節 結言 p.134
参考文献 p.136

第5章 触媒の表面物性に及ぼす共振効果 p.137

第1節 緒言 p.137
第2節 実験 p.137
 2-1 レーザードップラー法による格子変位測定 p.137
 2-1-1 測定原理 p.137
 2-1-2 測定装置 p.140
 2-1-3 測定試料と測定条件 p.140
 2-2 容量振動法による表面電位測定 p.140
 2-2-1 測定原理 p.140
 2-2-2 測定装置 p.143
 2-2-3 測定試料と測定条件 p.143
 2-3 光電効果による光電子放出測定 p.146
 2-3-1 測定原理 p.146
 2-3-2 測定装置 p.146
 2-3-3 測定試料と測定条件 p.149
第3節 結果 p.149
 3-1 格子変位測定 p.149
 3-2 表面電位測定 p.151
 3-3 光電効果による光電子放出のしきいエネルギー測定 p.159
第4節 考察 p.165
 4-1 格子変位測定による共振振動モード解析 p.165
 4-2 音波-電子相互作用および強誘電体の自発分極場による表面電位の発生 p.167
 4-3 光電子放出のしきいエネルギーと仕事関数の関係 p.168
 4-4 仕事関数の変化 p.170
 4-4-1 表面電位によるショットキー効果 p.172
 4-4-2 表面電子密度の変化による効果 p.174
 4-4-3 共振による疎および密のサイトの生成による効果 p.176
 4-4-4 格子変位が電気二重層に及ぼす効果 p.176
 4-5 Pd触媒上でのエタノール酸化反応の活性化に及ぼす効果 p.181
 4-6 Ag触媒上でのエタノール脱水および脱水素反応の反応選択性に及ぼす効果 p.185
第5節 結言 p.188
参考文献 p.190

第6章 総括 p.191

本研究に関する発表論文 p.195
本研究に関する学会発表 p.197
謝辞

 化学反応を促進する固体触媒は、化学製品の生産プロセスや化石資源の創製における必須物質として位置づけられているが、最近では排出気体に存在する微量有害物質の無害化等の環境問題の対策においても、その役割はますます増しており、高度な機能を持つ触媒の開発が非常に重要となっている。本論文では、ニオブ酸リチウム強誘電体結晶の共振効果により、触媒表面の幾何学的および電子的因子を人工的に顕著に変化させ、反応の「in situ」条件においても作用し、触媒の高活性化や高反応選択性化が可能な制御機能を持つ触媒の開発に関する研究について述べた。本論文は、6章から構成されている。
 第1章では、触媒発展の歴史、現状と課題、さらに従来の触媒作用の制御技術とその問題点を挙げ、本研究の目的と新しい方法として強誘電体の共振現象を用いる意味、および共振現象の発現機構について述べた。
 第2章では、本研究で用いたニオブ酸リチウム強誘電体単結晶の特徴および触媒基板としての適合性を調べた結果を述べた。z-カット二オブ酸リチウム(以下z-LNと略す)およびx-カットニオブ酸リチウム(以下x-LNと略す)単結晶について、インピーダンス、アドミッタンスおよびキャパシタンス測定を行い、また反応条件下での共振特性を評価し、圧電方程式を用いた計算と実測値の比較から、共振状態での振動モードを解析し、z-LNでは表面に垂直な厚み方向の振動が、またx-LNでは、表面に平行な振動が存在することを示し、ニオブ酸リチウム強誘電体単結晶が本研究に適することを示した。
 第3章では、触媒活性化に及ぼす共振効果について述べた。z-LNの両面にPdを100nmの膜厚で取り付けた触媒上でのエタノール酸化反応において、ずれ振動 (TS)モードの共振では、活性化効果が無いのに、厚み方向の振動 (TE)モードは、著しい触媒の活性化(343K、3Wで1880倍)を引き起こすこと、また、NiやAg触媒との比較から、共振効果は高い活性化エネルギーを持っ触媒反応に特に有効であることを示した。強誘電体結晶の(+)あるいは(-)分極面上のPdでは、共振効果により反応の活性化エネルギー変化に差が生じることを示し、また、反応速度論的解析から、共振印加によって(+)分極面上のPdでは、エタノールの吸着は弱く、酸素の吸着が著しく強くなること、また、(-)分極面上のPdでは、エタノールの吸着は弱くなるのに対して酸素の吸着は変化がないことを示し、吸着エタノール分子のCH2基から水素引き抜きの律速段階に効果を及ぼすことによって、反応の顕著な促進をもたらすことを明らかにした。
 第4章では、触媒の反応選択性に及ぼす共振効果について述べている。z-LNの両面にAgを接合した触媒上でのエタノール脱水および脱水素反応を行い、共振効果がエチレン生成のみを促進するが、アセトアルデヒド生成に影響を与えず、エチレン生成の反応選択性を58%から96%へと著しく増加させることを示した。また、酸化物WO3においても同様の選択性変化が生じることを示した。共振効果は(+)と(-)分極面で異なる効果が生じ、(+)分極面上のAgでは、著しくエチレン生成の選択性が増加するが、(-)分極面上のAgでは、わずかな増加しか示さないこと、さらに速度論的解析から、エタノールはAg触媒表面に強く吸着していることを示し、共振によるエチレン生成の増加は、エチレン生成に対する真の活性化エネルギーの変化に基づくことを明らかにした。
 第5章では、共振が触媒表面の物性に及ぼす効果について述べた。無共振および共振状態でのTE振動モードとTS振動モードに対して、レーザードップラー法による格子変位の測定、容量振動法による表面ポテンシャルの測定および光電効果による仕事関数の測定を行った結果について述べている。TE振動モードでは、70nmに達する定在的な垂直格子振動も持つこと、また、触媒表面に垂直な振動の共振印加によって強誘電体の(+)分極面では負電位が、(-)分極面では正電位が発生することを示し、その発生機構を音波-電子相互作用と強誘電体の自発分極場によることを明らかにしている。さらに、共振を印加すると(+)および(-)分極面とも仕事関数が増加するが、(+)分極面の方 (0.08eV) が、(-)分極面(0.05eV)に比べて、その増加は大きいことを示している。仕事関数の増加が、共振の垂直な格子振動による厚い電気二重層の形成に起因するモデルを提唱し、共振によるエタノール酸化反応の触媒活性化およびエタノール分解反応での選択性の変化を合理的に説明した。
 第6章では、固体表面の触媒作用に及ぼす共振効果、触媒活性化機構および反応選択性制御の機構を総括し、強誘電体の共振効果が制御機能を持つ触媒の開発にきわめて有用であると結論した。

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