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反射形電子線トモグラフィ法による微小空間漏れ磁界分布の3次元計測に関する研究

氏名 野水 重明
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第177号
学位授与の日付 平成10年12月31日
学位論文の題目 反射形電子線トモグラフィ法による微小空間漏れ磁界分布の3次元計測に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 松田 甚一
 副査 教授 花木 真一
 副査 教授 荻原 春生
 副査 助教授 中川 匡弘
 副査 講師 加藤 和夫

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目次

第1章 緒論
 1.1 研究の背景および従来の研究概要 p.1
 1.2 本研究の目的と概要および論文構成 p.3
参考文献

第2章 反射形電子線トモグラフィ法による磁界再構成の原理
 2.1 まえがき p.6
 2.2 偏向量の測定 p.6
 2.3 磁界分布の再構成アルゴリズム p.8
 2.3.1 再構成法の概略
 2.3.2 偏向量と磁界分布との関係
 2.3.3 初期磁界分布の決定
 2.3.4 磁界分布の反復推定
 2.3.4.1 第1グル-プ偏向量デ-タを用いた反復推定
 2.3.4.2 第2グル-プ偏向量デ-タを用いた反復推定
参考文献

第3章 磁界分布計測装置の目標仕様と計測装置の構築
 3.1 まえがき p.18
 3.2 磁界分布計測装置の目標仕様 p.18
 3.2.1 ヘッド磁界分布の概算
 3.2.2 ヘッド磁界による電子線偏向量の概算
 3.3 計測装置の構成と各構成要素の基本特性 p.26
 3.3.1 計測装置の構成
 3.3.2 各構成要素の基本仕様
 3.3.2.1 計測装置本体の基本性能
 3.3.2.2 試料微動装置の基本特性
 3.3.2.3 電子線の位置検出素子の基本特性
 3.4 構成要素の特性に関する検討 p.34
 3.4.1 電子線位置検出系(PSD+アンプ系)
 3.4.2 電子線偏向系の偏向精度
 3.5 まとめ p.41
参考文献

第4章 試作計測装置の評価実験と考察
 4.1 電子線の空間位置検出特性 p.43
 4.1.1 反射板の作製
 4.1.2 計測装置の電子線位置検出特性
 4.1.3 電子線位置検出の空間分解能の評価実験
 4.2 矩形型コイルの3次元磁界分布の計測実験 p.46
 4.2.1 矩形型コイル
 4.2.2 計測方法
 4.2.3 計測結果および考察
 4.3 まとめ p.51
参考文献

第5章 VTR用消去磁気ヘッドおよび磁気テ-プの3次元磁界分布計測
 5.1 まえがき p.53
 5.2 VTR用の消去磁気ヘッドの3次元漏れ磁界分布計測 p.53
 5.2.1 磁気ヘッドの仕様
 5.2.2 偏向量の測定
 5.2.3 計測結果と3次元有限要素法による数値解析結果との比較
 5.2.3.1 タイプAの反射板の場合
 5.2.3.2 タイプBの反射板の場合
 5.2.4 計測実験における計測精度の考察
 5.3 磁気テ-プの3次元漏れ磁界分布計測 p.63
 5.3.1 磁気テ-プの仕様
 5.3.2 偏向量の測定
 5.3.3 磁気力顕微鏡像と再構成結果との比較
 5.4 まとめ p.69
参考文献

第6章 結論 p.71

謝辞 p.73

付録 p.74

本研究に関する主な発表論文 p.82

 近年,コンピュ-タ・システムが取り扱うデ-タ量の急増に伴って,磁気ディスクや磁気テ-プなどの補助記憶装置に求められる記憶容量も増加の一途をたどっており,磁気記録の高密度化が強く要請されている.磁気記録の高密度化を図るには,磁気ヘッドのトラック幅およびギャップ幅を狭くするとともに,ギャップ間に急峻で強い磁場を発生する必要があり,すでに,トラック幅が3μm,またギャップ幅が0.3μmクラスの磁気ディスクが実用化されている.このような高密度記録用磁気ヘッドの設計を効率よく行い,またその特性評価を定量的かつ詳細に行うためには,ギャップ近傍の微小空間に広がる漏れ磁界分布の3次元形状を詳細に把握することが不可欠であり,その計測手法の開発が重要な課題となっている.しかし,現在のところ,ミクロンオ-ダのギャップ間の3次元漏れ磁界分布の有効な計測方法は,開発されていない.
 最近,X線断層撮影法的な手法をロ-レンツ法に導入して,磁界分布を3次元的に再構成する,いわゆる透過型電子線トモグラフィ法が,J.S.Elsbrockらにより提案され,その有効性が実験的にも明らかにされている.しかし,この方法は,電子線の磁気ヘッド表面との衝突がさけられず,実用的には,磁気ヘッド前面1μm程度までの磁界分布計測が限界である.一方,磁気記録密度の向上に伴いヘッドの低浮上化も進み,すでに,50nmの浮上量が実用化され,一層磁気ヘッド極近傍の磁界分布計測が重要となっている.
 このような問題を解決するための一方法として,松田らは,電子線を磁気ヘッド面に対して45度の角度で入射位置を正方格子状に走査しながら磁界中に入射し,磁気ヘッド面から反射して戻ってきた電子線の偏向量デ-タをもとに,電子線トモグラフィ手法により磁気ヘッド前面の3次元磁界分布計測を可能にする反射形電子線トモグラフィ手法を提案し,コンピュ-タ・シミュレ-ションによりその有効性を報告している.
 本論文は,反射形電子線トモグラフィ法の有効性を実験的に検証し,微小漏れ磁界分布の3次元再構成・計測法として,実用化への目途をつけることを目的として行った研究をまとめたもので,以下の6章より成っている.
 第1章では,磁気記録の高密度化の推移,従来の漏れ磁界分布の計測法の問題点を明らかにするとともに,本研究の目的,位置づけについて述べた.
 第2章では,提案されている反射形電子線トモグラフィ法の再構成原理ならびにコンピュ-タ・シミュレ-ション結果について,本研究に必要な範囲内で,簡単に紹介した.まず,本手法における,電子ビ-ムの偏向量の計測方法について述べ,次に,偏向量デ-タと磁界分布との関係式から,磁界分布を3次元的に再構成する手順ならびに,単巻きコイルの磁界分布の3次元再構成に関するコンピュ-タ・シミュレ-ション結果について述べた.
 第3章では,本研究で試作した計測装置の構成・仕様の概略ならびに本装置の基本特性に関する予備実験結果について述べた.まず,計測装置の目標仕様について考察し,次に,この結果を踏まえて試作した,市販の走査電子顕微鏡をべ一スとし,反射電子線位置検出装置,試料ステ-ジ微動制御装置ならびに計測系制御用のパ-ソナルコンピュ-タからなる計測装置の基本特性について述べた.さらに,予備実験から,電子線偏向系の電子線走査精度は0.1μm,また電子線位置検出分解能は10μmであり,目標仕様に近い値が実現できたことを示した.
 第4章では,磁界分布が理論的に与えられている矩形型コイルをテスト試料として行った,磁界分布の3次元計測結果について述べた.磁界分布の平均計測誤差は,磁界成分によって異なるが,40~50%程度,最悪でも120%以下であった.
 第5章では,VTR用の消去磁気ヘッドおよび磁気テ-プの3次元磁界分布の計測結果について述べた.まず,ギャップ幅70μmの消去磁気ヘッドを計測試料として行った2例の計測実験結果について述べた.第1の,試料前面150μmにおける,計測結果では,3次元有限要素法による数値解析結果との比較から,両者の磁界分布形状は比較的良く一致しており,平均計測誤差は,磁界成分によって異なるが,70~160%以下と推定された.第2の,試料前面20μmにおける,計測結果では,対応する数値解析結果はないが,第1の例から推定される磁界分布形状と,その傾向がよく一致していることを示した.なお,計測誤差の最大の原因は,反射電子線位置検出系の偏向量測定誤差に基づくことを明らかにした.つぎに,34μmの波長で正弦状の磁気パタ-ンを記録した磁気テ-プを計測試料とし,磁気記録テ-プ表面の前面0.1μmにおける磁界分布の3次元計測結果について述べ,磁気力顕微鏡による磁気パタ-ン観察結果との比較から,実験結果の妥当性を示した.これらの計測結果は,国内外を通じて,初めて得られたものであり,試料面ごく近傍の漏れ磁界分布の3次元計測法として,本手法が有効であることを明らかにした.
 第6章では,本研究で得られた主な結論および知見を要約した.

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