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劣化したアスファルト混合物の疲労特性に関する研究

氏名 前原 弘宣
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 甲第485号
学位授与の日付 平成20年8月31日
学位論文題目 劣化したアスファルト混合物の疲労特性に関する研究
論文審査委員
 主査 准教授 高橋 修
 副査 教授 丸山 暉彦
 副査 教授 宮木 康幸
 副査 教授 下村 匠
 副査 中央大学理工学部教授 姫野 賢治

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目次
第1章 序論 p.1
 1.1 研究の背景 p.1
 1.1.1 舗装の破損や機能低下 p.1
 1.1.2 仕様規定から性能規定への移行 p.2
 1.1.3 舗装の維持修繕 p.3
 1.1.4 近代的な舗装の設計法の必要性 p.3
 1.1.5 既往の研究 p.4
 1.2 本研究の着目点 p.5
 1.2.1 舗装の疲労破壊 p.5
 1.2.2 表層のアスファルト混合物に発生する応力やひずみ p.5
 1.2.3 アスファルト混合物の疲労特性に影響を与える要因 p.6
 1.3 本論文の構成と内容 p.7
第2章 アスファルト混合物の劣化方法の検討 p.13
 2.1 本研究の使用材料 p.13
 2.1.1 アスファルトの種類 p.13
 2.1.2 アスファルト混合物の種類 p.18
 2.2 アスファルト混合物の劣化方法の検討 p.21
 2.2.1 アスファルト混合物の促進劣化方法の検討 p.22
 2.2.2 締め固めていないアスファルト混合物を劣化させる方法 p.23
 2.2.3 締め固めたアスファルト混合物を劣化させる方法 p.25
 2.3 促進劣化方法の検証 p.26
 2.3.1 アスファルトの物性による劣化程度の確認 p.27
 2.3.2 アスファルトの組成分析結果 p.31
 2.4 アスファルトの劣化の程度に関する検証 p.41
 2.5 まとめ p.44
第3章 表層に発生するひずみの測定 p.49
 3.1 舗装表面のひずみを測定することができるひずみゲージの開発 p.49
 3.1.1 タイヤの接地圧測定 p.50
 3.1.2 表面ひずみゲージの開発 p.51
 3.2 ひずみゲージによる舗装表面のひずみ測定 p.54
 3.3 舗装表面のひずみ測定結果 p.57
 3.3.1 道路縦断方向のひずみ測定結果 p.57
 3.3.2 道路横断方向のひずみ測定結果 p.61
 3.3.3 測定データの分析による検証 p.64
 3.4 まとめ p.67
第4章 アスファルト混合物の疲労試験 p.71
 4.1 アスファルト混合物の曲げ疲労試験方法と供試体作製方法 p.71
 4.1.1 曲げ疲労試験装置 p.71
 4.1.2 疲労試験用供試体 p.74
 4.2 疲労試験の条件 p.75
 4.2.1 制御方法 p.75
 4.2.2 疲労試験条件の設定 p.76
 4.2.3 疲労試験における破壊の定義 p.80
 4.2.4 疲労試験結果の整理 p.82
第5章 アスファルト混合物の疲労試験結果 p.89
 5.1 ひずみを変化させた疲労試験結果 p.89
 5.1.1 促進劣化を行っていない混合物のひずみと破壊回数の関係 p.91
 5.1.2 促進劣化と疲労破壊の特性 p.96
 5.1.3 まとめ p.104
 5.2 ひずみを一定にした疲労試験結果 p.106
 5.2.1 新旧混合物の比較 p.106
 5.2.2 促進劣化によるアスファルト混合物の疲労特性の変化 p.108
 5.2.3 耐久性の試算 p.111
 5.2.4 疲労特性の分析と物性値との比較 p.113
 5.2.5 まとめ p.117
第6章 アスファルト混合物の動的特性 p.119
 6.1 アスファルト混合物の動的特性 p.119
 6.1.1 本研究で着目した動的特性 p.119
 6.1.2 スティフネスと位相角の関係 p.121
 6.1.3 疲労試験装置の問題点 p.124
 6.2 アスファルト混合物の動的特性と疲労特性の関係 p.125
 6.2.1 単位散逸エネルギーと疲労特性の関係 p.125
 6.2.2 試験温度毎の比較 p.126
 6.2.3 15℃における単位散逸エネルギーと破壊回数の比較 p.128
 6.3 まとめ p.131
第7章 アスファルトの動的特性 p.133
 7.1 アスファルトの動的特性の試験装置 p.133
 7.1.1 試験装置の概略 p.133
 7.1.2 試験条件 p.134
 7.1.3 着目する指標 p.135
 7.2 各種アスファルトの動的特性 p.135
 7.2.1 各種アスファルトの基本的な動的特性 p.136
 7.2.2 劣化に伴う動的特性の変化 p.140
 7.2.3 劣化に伴う複素弾性率と位相角の関係の変化 p.147
 7.3 アスファルトのタイムスイープ試験 p.149
 7.3.1 試験条件の決定 p.150
 7.3.2 タイムスイープ試験結果 p.151
 7.4 まとめ p.153
第8章 アスファルト混合物の疲労特性とアスファルトの動的特性 p.155
 8.1 アスファルトとアスファルト混合物の動的特性の比較条件 p.155
 8.1.1 比較条件の検討 p.156
 8.1.2 アスファルトの損失弾性率と破壊回数の比較 p.157
 8.1.3 タイムスイープ試験結果と破壊回数の関係 p.160
 8.1.4 まとめおよび考察 p.161
第9章 結論 p.165
謝辞 p.171

 ポリマー改質アスファルトは,舗装の維持・修繕の主要因であるわだち掘れの対策として広く用いられている.また一方で,交通条件の厳しい路線では,舗装の表面から発生,発達するひび割れが維持修繕の要因となることも多いため,ひび割れに対する抵抗性も重要である.このような舗装表面から発生するひび割れは,アスファルト混合物の疲労破壊によって現れるものと考えられている.表層に使用されるアスファルト混合物は気象の作用を受けて劣化することから,アスファルト混合物の疲労特性を適切に評価するためには,劣化に伴う疲労特性の変化を把握することが重要である.しかしながら,表面の劣化を考慮したアスファルト混合物の疲労特性に関する研究は少なく,これを評価する具体的な方法も明確になっていないのが現状である.
 本研究では,表層用アスファルト混合物として一般に運用されている密粒度アスファルト混合物を標準混合物とし,舗装用アスファルトとして広く使用されている各種アスファルトで作製したアスファルト混合物の疲労特性を比較するとともに,これらのアスファルト混合物が劣化作用を受けた場合の,疲労特性の変化について把握した.
 これらの検討に基づいて,種類が異なるアスファルトを用いたアスファルト混合物の疲労特性を整理し,アスファルト混合物の疲労破壊抵抗性を適性に評価するためには,劣化による疲労特性の変化を考慮することが重要であることを示した.また,アスファルト混合物の疲労特性は,使用するアスファルトの特性に強く依存することを確認し,アスファルト単体の動的特性とアスファルト混合物の動的特性は,アスファルトの種類と劣化の程度が異なる場合に現れる傾向が類似していることを見出すとともに,両者の疲労特性の間に高い相関関係が認められる条件が存在していることを明らかにした.
 本論文は,以上の検討内容を第1章から第9章に分けて論述している.各章の概要を以下に示す.
 第1章では,本研究の背景として舗装の設計や材料評価に関する課題について整理し,本論文の着目点や位置付けを明確にした.
 第2章では,研究で使用した各種材料について説明するとともに,アスファルト混合物の疲労特性を評価する際に用いた,供試体を促進劣化させる方法を提案した.そして,本研究で行った促進劣化が,表層の平均的な耐用年数程度の劣化状態を再現し,供用による劣化を物性的によく再現していることを示した.
 第3章では,舗装表面に発生するひずみの測定装置を新たに開発し,その測定値の妥当性を評価するとともに,動的な交通荷重が作用した場合に舗装表面に発生するひずみの分布を調査し,その特徴を明らかにした.
 第4章では,アスファルト混合物の疲労特性を評価するために実施した繰返し曲げ試験について,供試体の作製方法,試験条件,得られる各種データの整理手順,および結果の分析方法を示した.
 第5章では,舗装用石油アスファルトとポリマー改質アスファルトを用いたアスファルト混合物,およびこれらに促進劣化を施したアスファルト混合物に対する繰返し曲げ試験の結果を示し,アスファルトの種類や劣化程度が異なるアスファルト混合物の疲労特性を比較した.また,これらの結果からアスファルトの種類が異なる場合の舗装の耐久性を試算し,表層材料として用いるアスファルト混合物の疲労特性を適切に評価するためには,劣化による疲労特性の変化を考慮することが不可欠であることを示した.
 第6章では,アスファルト混合物の疲労特性とアスファルト単体の動的特性の関連性について取りまとめた.繰返し曲げ試験で測定されるスティフネスと位相角の関係に着目して,アスファルト混合物の動的特性を整理したところ,アスファルトの種類および劣化作用の程度によって,アスファルト混合物のスティフネスと位相角の関係,およびアスファルト混合物の単位散逸エネルギ(スティフネスと位相角から計算される)と繰返し曲げ試験での破壊回数の関係は異なることが判明した.これらのことは,既往の研究とは異なる知見である.
 第7章では,アスファルト単体の動的特性について,アスファルト混合物と同様な手法によって整理し,種類の異なるアスファルトや劣化を受けたアスファルトの動的特性は,それらのアスファルトを使用したアスファルト混合物の動的特性と類似した傾向があることを示した.
 第8章では,第6章と第7章で得られた知見を総合的に整理し,アスファルト単体の動的特性とアスファルト混合物の疲労特性の関係について検討した.アスファルト単体の動的特性とアスファルト混合物の動的特性からアスファルト単体の動的特性とアスファルト混合物の疲労特性を比較する条件について整理し,この条件に基づいて比較を行った.そして,アスファルト単体の動的特性とアスファルト混合物の疲労特性の関係は,アスファルト混合物の動的特性と疲労特性の関係と同様な傾向があることを見出した.また,ある特定の条件で比較した場合,アスファルトの種類や劣化の程度によらず,これらの関係は高い相関があることを示した.このことは,アスファルト単体の動的特性からアスファルト混合物の疲労特性を推定できることを示唆するものであり,供用条件からアスファルトの特性を規定するといった実用的な応用が期待できる.
 第9章では,各章で得られた知見を総括して本研究の結論を取りまとめるとともに,今後の課題について言及した.

本論文は,「劣化したアスファルト混合物の疲労特性に関する研究」と題し,9章より構成されている。
 第1章では,本研究の背景としてアスファルト舗装の設計や材料評価に関する課題について整理し,本論文の着目点や位置づけを明確にしている。
 第2章では,表層用アスファルト混合物の促進劣化方法を提案するとともに,この促進劣化方法が表層の耐用年数程度の劣化状態を再現するものであることを示している。
 第3章では,アスファルト舗装表面に発生するひずみの測定装置を新たに開発し,その測定値の妥当性を評価するとともに,動的な交通荷重が作用した場合に舗装表面に発生するひずみの分布を調査し,その特徴を明らかにしている。
 第4章では,アスファルト混合物の疲労特性を評価するために実施した繰返し曲げ試験について,供試体の作製方法,試験条件,得られる各種データの整理手順,および散逸エネルギ理論を用いた結果の分析方法を示している。
 第5章では,舗装用石油アスファルトとポリマー改質アスファルトを用いたアスファルト混合物,およびこれらに促進劣化を施したアスファルト混合物に対する繰返し曲げ試験の結果を整理し,表層材料として用いるアスファルト混合物の疲労特性を適切に評価するためには,劣化による疲労特性の変化を考慮することが不可欠であることを示している。
 第6章では,アスファルト混合物の疲労特性とアスファルト単体の動的特性の関連性について取りまとめ,アスファルトの種類および劣化作用の程度によって,アスファルト混合物のスティフネスと位相角の関係,およびアスファルト混合物の単位散逸エネルギと繰返し曲げ試験での破壊回数の関係は異なることを明らかにしている。
 第7章では,アスファルト単体の動的特性についてアスファルト混合物と同様な手法によって整理し,種類の異なるアスファルトや劣化を受けたアスファルトの動的特性は,それらのアスファルトを使用した混合物の動的特性と類似した傾向があることを示している。
 第8章では,第6章と第7章で得られた知見を総合的に整理し,アスファルト単体の動的特性とアスファルト混合物の疲労特性の関係には,アスファルト混合物の動的特性と疲労特性の関係と同様な傾向があることを見出している。そして,アスファルト単体の動的特性からアスファルト混合物の疲労特性を推定できることを示している。
 第9章では,各章で得られた知見を総括して本研究の結論を取りまとめるとともに,今後の課題について言及している。
 よって,本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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