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液晶性ブロック共重合体におけるミクロ相分離と液晶化の相関による高次構造形成

氏名 谷口 真一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第494号
学位授与の日付 平成21年3月25日
学位論文題目 液晶性ブロック共重合体におけるミクロ相分離と液晶化の相関による高次構造形成
論文審査委員
 主査 教授 塩見 友雄
 副査 准教授 竹中 克彦
 副査 教授 五十野 善信
 副査 准教授 河原 成元
 副査 准教授 前川 博史
 副査 本学理事・副学長 西口 郁三

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目次
序論 p.1
第1章 液晶性ジブロック共重合体の合成及び分子特性解析 p.8
 1-1 はじめに p.9
 1-2 液晶ホモポリマーの合成 p.10
 1-2-1 ポリ[11‐(4’‐シアノフェニル‐4”‐フェノキシ)ウンデシルアクリレート](PCB)の合成 p.10
 1-2-2 ポリ(コレステリル6‐メタクリロキシヘキサネート)(PCh)の合成 p.14
 1-3 液晶性ジブロック共重合体の合成及び特性評価 p.18
 1-3-1 ポリブチルアクリレート‐b‐ポリ[11‐(4’‐シアノフェニル‐4”‐フェノキシ)ウンデシルアクリレート](PBA‐PCB)の合成 p.19
 1-3-2 ポリスチレン‐b‐ポリ[11‐(4’‐シアノフェニル‐4”‐フェノキシ)ウンデシルアクリレート](PSt‐PCB)の合成 p.22
 1-3-3 ポリ[11‐(4’‐シアノフェニル‐4”‐フェノキシ)ウンデシルアクリレート]‐b‐ポリ(コレステリル6‐メタクリロキシヘキサネート)(PCB‐PCh)の合成 p.26
 1-4 まとめ p.27
 参考文献 p.29
 分析装置条件、試薬リスト p.29
第2章 ゴム状非晶性成分を含む液晶性ブロック共重合体の相構造形成 p.32
 2-1 はじめに p.33
 2-2 実験 p.34
 2-2-1 試料 p.34
 2-2-2 測定 p.34
 2-3 結果と考察 p.36
 2-3-1 PCBホモポリマーの液晶相転移と液晶構造 p.36
 2-3-2 PBA‐PCBブロック共重合体の液晶化における相挙動 p.39
 2-3-3 液晶の配向 p.48
 2.4 まとめ p.50
 参考文献 p.51
第3章 ガラス状非晶性成分を含む液晶性ブロック共重合体の相構造形成 p.53
 3-1 はじめに p.54
 3-2 実験 p.55
 3-2-1 試料 p.55
 3-2-2 測定 p.55
 3-3 結果と考察 p.56
 3-3-1 PCBホモポリマーの液晶相転移と液晶構造 p.56
 3-3-2 ブロック共重合体のミクロ相分離と秩序‐無秩序転移 p.57
 3-3-3 ミクロ相分離構造と液晶構造 p.58
 3-3-4 ミクロ相分離構造下からの液晶化 p.59
 3-3-5 無秩序融体下からの液晶化 p.62
 3-3-6 ミクロドメイン内での液晶配向 p.64
 3-4 まとめ p.66
 参考文献 p.67
第4章 液晶性‐液晶性ジブロック共重合体の相構造形成 p.68
 4-1 はじめに p.69
 4-2 実験 p.70
 4-2-1 試料 p.70
 4-2-2 測定 p.70
 4-3 結果と考察 p.71
 4-3-1 PChホモポリマーの液晶相転移と構造 p.71
 4-3-2 ブロック共重合体の相構造形成 p.74
 4-3-2-1 ブロック共重合体の液晶転移温度と相転移熱 p.74
 4-3-2-2 液晶化とミクロ相分離構造による相構造形成 p.75
 4-3-2-3 液晶化における相構造の形成過程 p.81
 4-4 まとめ p.85
参考文献 p.86
総括 p.87
発表論文リスト p.90
謝辞 p.94

 互いに非相溶な高分子が化学結合で連結したブロック共重合体は、高分子の分子サイズのオーダー(数十nm)で、スフェア状、シリンダー状、ラメラ状等の種々の規則的な相分離構造(ミクロ相分離構造)を発現する。このようなミクロ相分離構造の形態や形成に関してこれまでに膨大な研究が為され体系化されてきた。しかしこれらは、アモルファス状態における相分離すなわちいわば液・液分離であり、もう1つの相である結晶相や液晶相を複合した相構造形成に関する研究は、最近になって始められたに過ぎない。結晶性成分を含むブロック共重合体においては、ミクロ相分離構造と結晶化による構造形成および結晶化挙動の特異性に関して、系統的な知見が得られてきているが、液晶性成分を含むブロック共重合体に関しては、まだ体系的な知見が得られていない。特に、ミクロ相分離構造の形態と形成する液晶構造との相関、さらに液晶化における相構造の形成過程に至ってはまだ明らかにされていない。
 本論文では、次の3種類の代表的な液晶性ブロック共重合体をモデルとし、液晶化とミクロ相分離の相関によって形成される高次構造を解明するとともに、その構造の形成過程を明らかにした。モデルとした液晶性ブロック共重合体は、液晶性-非晶性ブロック共重合体と液晶性成分のみから成るブロック共重合体であり、前者においては、液晶化において非晶性成分鎖が可動であるものと動きにくいものの2種類である。これらの構造解明と構造形成過程の追跡においては、シンクロトロン放射光を線源とする超強力X線による1次元および2次元時分割小角散乱(SAXS)法を主要な手段とし、示差走査熱量計(DSC)と偏光顕微鏡(POM)を併用した。なお、ここで用いた液晶性成分鎖はすべて、ホモポリマーでスメクティック(Sm)型の液晶構造を形成する。
 まず、液晶化時に非晶性成分鎖が可動である液晶性-非晶性ブロック共重合体においては、非晶性成分として、液晶化時に可動(ゴム状態)であるポリ(ブチルアクリレート)(PBA)、液晶性成分には側鎖型液晶であるポリ[11-(4’-シアノフェニル-4’’-フェノキシ)ウンデシルアクリレート](PCB)からなるブロック共重合体(PBA-PCB)を原子移動型ラジカル重合(ATRP)によって合成したものを用いた。ラメラ状ミクロ相分離構造下からの液晶化において、PCBホモポリマーと同様にスメクティック(Sm)構造が形成され、シリンダー下からはネマティック(Nm)構造となった。一方、スフェア内では液晶化しなかった。すなわち、液晶化および液晶構造はミクロドメイン形態によって支配される。また、Sm層がミクロドメイン界面に垂直であることも明らかにした。さらに、液晶化過程において、ラメラ状からSm構造が形成されるとき、液晶化前のミクロ相分離構造を再編し、その初期過程においてNm構造が共存することを見出した。これはSm構造の形成はNm構造を経由することを示唆する。この形成過程に関する知見は、本研究で初めて得られたものである。一方、シリンダー内でNm構造が形成されるときは連続的にドメインサイズを変化させた。
 一方、非晶性成分鎖が動きにくいブロック共重合体、ポリスチレン-PCB(PSt-PCB)においては、全てのミクロ相分離形態においてミクロ相分離構造のサイズを殆ど変化させずに液晶化が起こった。これは、液晶性成分相が周りのPStドメインに束縛されているためである。ミクロ相分離形態と液晶化の関係においては、PBA-PCBと同様に、液晶成分がスフェア状ミクロ相分離構造下からは液晶化は起こらず、シリンダー状のものに関してはNm構造を形成し、ラメラ状からは、Sm構造を形成した。
 両成分が液晶性からなるブロック共重合体として、ATRP法によって合成したPCB-ポリ(コレステリル6-メタクリルオキシヘキサネート)(PCB-PCh)を用いた。それぞれの成分の等方-液晶相転移温度(Tiso)は、130 °C(PCB)と170 °C(PCh)である。したがって、PCBの液晶化は、先に液晶化するPCh液晶相に制約される。PCh相がマトリックスでありPCBがスフェア状内で液晶化する場合PCBはSmを形成せず、弱いオーダリングを示した。一方、PCBがマトリックスにある場合は、PCBの液晶化はPCh液晶相によって制約されなかった。PChの液晶相に挟まれたラメラ状からのPCBの液晶化において、液晶相のラメラの厚さが小さいときはPChの液晶相をラメラ状からシリンダー状に変えてPCBは液晶化し、PCh相の厚さが大きいときはラメラ構造を変えずにPCBは液晶化した。後者においてはPCBのSm構造のオーダリングが損なわれた。このことは、液晶相ドメインを含むミクロ相分離構造下からの液晶化において、液晶相は一旦生じてもその相は流動的であるために、制約の度合いが異なること意味する。なお、Sm層は常にミクロドメインの界面に垂直であった。
 以上のように、本論文は、液晶性ブロック共重合体におけるミクロ相分離と液晶化による階層構造およびその形成過程を系統的に明らかにした。特に形成過程に関する知見は、本論文で初めて得られたものである。

 本論文は、「液晶性ブロック共重合体におけるミクロ相分離と液晶化の相関による高次構造形成」と題し、3つの章および序論と総括より構成されている。
 「序論」では、ブロック共重合体における、液晶相、結晶相を含むミクロ相分離構造に関する背景とともに液晶性ブロック共重合体の高次構造形成に関する意義および本論文の目的を述べている。
 第1章では、本論文の目的である構造解明に、モデルとして使用された液晶性ブロック共重合体の合成法とその分子特性について述べている。
 第2章では、液晶化時に分子鎖が可動である非晶性成分鎖と側鎖型液晶性成分鎖からなるブロック共重合体における高次構造形成について述べている。
まず、ミクロ相分離構造が液晶構造形成に及ぼす影響を明らかにしている。ラメラ状ドメインではホモポリマーと同じくスメクティック(Sm)構造、シリンダー状ドメイン内ではネマティック(Nm)構造を形成し、メソゲン基はミクロドメイン界面に平行に配向することを見出している。また、球状ドメインでは液晶化しないという結果を得ている。さらに、液晶化におけるミクロ相分離構造の変化について、Sm形成ではミクロ相分離構造が再編され、Nm形成では連続的にドメインサイズを変えることを明らかにし、Sm形成過程ではNmを経由することを示唆している。これらの液晶化におけるミクロ相分離構造の変化は、本論文で初めて明らかにされた知見である。
 第3章では、液晶化時に分子鎖が動きにくい非晶性成分を含む液晶性?非晶性ブロック共重合体について述べている。ミクロ相分離構造と液晶構造の関係およびメソゲン基の配向性は、第2章の系と同じであることを見出している。また、この系においては、非晶性分子鎖が動きにくいため、液晶化時おけるミクロ相分離構造の変化は小さいことを明らかにしている。
 第4章では、異なった2種類の液晶性成分から成る液晶性?液晶性ブロック共重合体について述べている。先に液晶化するコレステリル基を有する成分鎖は、バルキーであるため液晶化によって体積が変化しないので、液晶化前のミクロ相分離構造を変化させず、ラメラ状やマトリックス状ばかりでなくシリンダードメインにおいても、Sm構造を形成することを見出している。あとから液晶化する成分鎖の液晶化においては、先に液晶化した液晶相ドメインの制約を受け、ラメラ状や球状ドメイン内で液晶構造のオーダリングを悪くするが、一方、ミクロ相分離形態を変えて液晶化する場合があることを明らかにしている。これは、液晶相がガラス状ドメインによる制約と異なり流動的であるので、液晶相による制約はそのドメイン厚さ等によって異なるためであるとしている。このミクロドメインの形態変化は本論文において初めて明らかにされた知見である。メソゲン基の配向は、2、3章の系と同様、ドメイン界面に平行であることを見出している。
 以上のように本論文では、ブロック共重合体におけるミクロ相分離と液晶化によって形成される高次構造およびその形成過程を系統的に明らかにしており、工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認められる。

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