車道用透水性舗装の実用化に関する研究
氏名 伊藤 正秀
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第495号
学位授与の日付 平成21年3月25日
学位論文題目 車道用透水性舗装の実用化に関する研究
論文審査委員
主査 教授 丸山 暉彦
副査 准教授 細山田 得三
副査 准教授 高橋 修
副査 准教授 下村 匠
副査 芝浦工業大学 工学部教授 守田 優
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目次
第1章 序論
1-1 研究の背景 p.1
1-2 研究の目的 p.3
1-3 本論文の構成 p.5
参考文献
第2章 技術的課題の抽出の整理
2-1 概説 p.8
2-2 既存の調査研究 p.8
2-3 結語 p.17
参考文献
第3章 疲労破壊に対する耐久性の検討
3-1 概説 p.20
3-2 室内繰り返し載荷試験による検討 p.20
3-2-1 試験概要
3-2-2 繰り返し載荷試験の方法
3-2-3 試験結果
3-2-4 考察
3-3 実大試験舗装による耐久性の評価 p.26
3-3-1 試験目的
3-3-2 舗装走行実験場の概要
3-3-3 実大試験舗装の構造
3-3-4 促進載荷と追跡調査
3-3-5 試験結果
3-3-6 早期破損工区の開削調査
3-3-7 早期破損工区の舗装の打ち換えとその後の供用性
3-4 結語 p.43
参考文献
第4章 雨水流出抑制性能の検討
4-1 概説 p.44
4-2 雨水流出抑制性能の考え方 p.44
4-2-1 対策法が求める流出抑制性能
4-2-2 透水性舗装の流出抑制性能算定の考え方
4-2-3 雨水流出抑制性能に影響する因子
4-3 舗装材料の雨水貯留性能 p.48
4-3-1 雨水貯留性能に関係する要素
4-3-2 試験方法
4-3-3 試験結果
4-3-4 考察
4-4 舗装材料の透水性能 p.52
4-4-1 舗装材料の透水性能に関係する要素
4-4-2 試験方法
4-4-3 試験結果
4-4-4 考察
4-5 路床の雨水浸透性能 p.55
4-5-1 路床の雨水浸透性能に関係する要素
4-5-2 試験方法
4-5-3 試験結果
4-5-4 考察
4-6 舗装構造としての雨水浸透性能 p.58
4-6-1 雨水浸透性能に関係する舗装構造の要素
4-6-2 試験方法
4-6-3 試験結果
4-7 雨水流出抑制性能の算定方法の検討 p.66
4-7-1 雨水浸透・貯留・流出状態のモデル化
4-7-2 降雨と雨水浸透、貯留、表面流出量の水収支
4-7-3 繰り返し計算による流出量の算定
4-7-4 まとめ
4-8 実大試験舗装による雨水流出抑制性能の評価 p.77
4-8-1 試験目的
4-8-2 実大試験舗装の概要
4-8-3 散水試験の方法
4-8-4 初期の雨水流出抑制性能
4-8-5 雨水流出量推計値と実測流出量の比較
4-8-6 流出抑制機能の持続性
4-9 結語 p.88
第5章 現道における試験舗装による性能の評価
5-1 概説 p.91
5-2 全国試験舗装の概要 p.91
5-2-1 箇所設定の検討
5-2-2 追跡調査項目
5-3 疲労破壊に対する耐久性の評価 p.95
5-3-1 耐久性(路面性能、構造性能)の現況
5-3-2 通常舗装と比較した耐久性
5-3-3 設計条件等が耐久性に及ぼす影響の評価
5-3-4 理論設計法に基づく耐久性の評価
5-3-5 今後の課題
5-4 流出抑制性能の評価 p.131
5-4-1 初期の流出抑制性能
5-4-2 流出抑制性能の持続性
5-4-3 設計条件等が流出抑制性能に及ぼす影響の評価
5-4-4 水収支計算方法の改善
5-4-5 異常が認められた箇所の検討
5-5 結語 p.151
参考文献
第6章 車道透水性舗装の設計方法
6-1 概説 p.153
6-2 設計の流れ p.153
6-3 現地調査と設計条件の設定 p.154
6-3-1 設計基準降雨と有効降雨
6-3-2 路床土、原地盤の浸透能力
6-3-3 路床の土質、支持力
6-4 透水性舗装タイプの選定 p.155
6-5 材料の選定 p.155
6-6 疲労破壊に対する耐久性を考慮した舗装構造の設計 p.157
6-6-1 TA法による舗装構造の設計
6-6-2 水浸に対する舗装厚の割り増し
6-7 雨水流出抑制性能を考慮した舗装構造の設計 p.162
6-7-1 水収支計算の基本手順
6-7-2 水収支計算に必要なデータ
6-7-3 水収支計算の実施
6-8 施工上の留意点 p.167
第7章 導入の効果
7-1 概説 p.168
7-2 都市型水害の抑制効果 p.168
7-2-1 概要
7-2-2 検討対象流域
7-2-3 検討の流れ
7-2-4 入力データの設定
7-2-5 氾濫解析の実施
7-2-6 氾濫解析結果
7-3 通常舗装とのコスト比較 p.197
7-3-1 計算条件
7-3-2 直接工事費の算出
7-4 その他の環境の改善効果・環境への負荷の可能性 p.199
7-4-1 地下水涵養
7-4-2 路面温度の上昇抑制効果
7-4-3 生態系の改善
7-4-4 土壌、水質への影響の可能性
7-5 結語 p.202
参考文献
第8章 結論と今後の課題
8-1 結論 p.204
8-2 残された課題 p.208
参考文献
付録
付録-1 水収支繰り返し計算の例
付録-2 現道における試験舗装の詳細
付録-3 現道における試験舗装・個別箇所別の供用性データ
付録-4 現道における試験舗装・自然降雨時の流出量・水分量観測結果
近年、夏期を中心に、いわゆる「都市型水害」が多発するようになった。一因として、都市部における地盤被覆率が高いことが指摘されている。この事態を受け、2003年に「特定都市河川浸水被害対策法」が定められ、道路の新設においても、要件に当てはまる場合にはピーク流量の増量がゼロとなるよう対策が義務づけられることとなった。このようなことから行政上の喫緊のニーズとして、車道にも広く適用できる透水性舗装と流出抑制性能の定量化が求められることとなった。
これを受け、本研究では、(1)舗装の設計条件、地盤の浸透性に応じた疲労破壊輪数を明らかにするとともに、水浸による耐久性低下への対策法を見出し、(2)舗装の設計条件、地盤の浸透性に応じた雨水流出抑制性能を明らかにして流出量を算定する方法を開発することによって、重交通かつ浸透性が低い粘性土路床等においても適用可能な透水性舗装の設計法を開発することを目指したものである。
研究内容は以下のとおりである。
第1章では、法律の制定等、研究の背景を述べるとともに、歩道用も含めて透水性舗装の歴史をレビューした上で、研究目標を設定するとともに、路床浸透、一時貯留の2タイプの基本構造を提案した。
第2章では、車道透水性舗装に関する既往研究を詳細に分析することにより、舗装本来の性能としての耐久性、雨水流出を抑制する性能にわけて、技術の現状と実用化に当っての具体的な課題を示した。
第3章では、室内における繰返し載荷試験、実大の促進載荷試験を通じて、車道透水性舗装の疲労破壊に対する耐久性について検討を行った。その結果、粘性土地盤の場合、設計疲労破壊輪数に達する以前に、主として路床面の変形に起因して構造破壊が生じることを明らかにし、対策として路盤の増し厚または下層路盤への排水管の設置が有効であることを見出した。
第4章では、舗装の雨水流出抑制性能を定量的に算定する方法を検討した。
まず、室内での散水試験により、空隙等の影響について評価した。その結果、雨水の一定量は舗装体に残留すること、舗装材料の骨材間隙率から一定程度割り引いた値が貯留に有効であることを示した。下層路盤に用いるC-40についての材料選択条件、施工条件も示した。また、道路の縦横断勾配、タックコートは雨水流出抑制性能にあまり影響しないものの、プライムコートは影響することを明らかにした。
これら材料についてのデータを入力値とし、降雨、舗装体内への貯留、路床浸透、路盤からの排水について水収支を考え、逐次計算によって流出波形を算定する方法も提示した。
第5章では、全国10箇所の試験舗装により、透水性舗装の性能の検証を行った。
疲労破壊に対する耐久性については、砂質土の場合は舗装に対する悪影響は認められないこと、粘性土路床であっても、路床への遮水シートの設置、路盤排水管の設置、下層路盤の増し厚等の対策を講ずれば、耐久性の低下は認められないことを示した。
また、舗装内の水位観測結果を用いて、水浸時の材料の弾性係数の低下を考慮したひずみの計算から、透水性舗装の疲労破壊輪数を算定する方法を示した。
流出抑制性能についても、路床浸透タイプは路床土の種類にかかわらず効果が期待できること、一時貯留タイプについても概ね流出量をコントロールしているが、C-40の空隙率が低い場合、透水性能に問題が生じることも指摘した。なお、供用4年程度では、一般地域では雨水流出抑制性能に問題は生じないものの、積雪寒冷地では低下が見られることを指摘した。また、水収支計算において、路盤排水管からの排水量算定について断面積の補正が必要であることも示した。
第6章では、室内試験、実大試験舗装、実際の道路における試験舗装による検討結果を踏まえ、車道透水性舗装の実用的な設計法をとりまとめた。
第7章では、車道透水性舗装についての実用性を検証した。氾濫シミュレーションモデルを用いて都市型水害軽減効果を推定したところ、透水性舗装は氾濫面積の減少に大きな効果があること、透水性舗装は通常に比較して1.4~1.9倍程度のコストアップにはなるが、現場において実用性のある技術であることを示した。
第8章では、結論として、透水性舗装設計方法と雨水流出抑制性能の算定方法が提案でき、所期の研究目標が達成できたと総括した。一方で残された課題として、今後、様々な種類の路床土、舗装材料、舗装構造等についてデータを積み重ね、設計方法、流出抑制性能の工学的精度を高めていくこと、路面排水の汚濁物質が及ぼす影響を解明していくこと等があると指摘した。
以上、本研究を通じ、重交通かつ粘性土も含めた路床における車道透水性舗装の設計方法を提案することができたが、このように透水性舗装の広範な技術的課題に対して体系的な整理を試みたこと、広く一般的に適用可能な透水性舗装の技術を提示したこと、任意の降雨波形に対する流出波形を算定する方法を示した調査研究は、わが国を含めてこれまでに世界的にも例がない。今後の車道への透水性舗装の普及、当該技術に関する調査研究の進展に大きく寄与するものと考えられる。
本論文は「車道用透水性舗装の実用化に関する研究」と題し、8章より構成されている。近年、都市部における地盤被覆率増加に起因して都市型水害が多発するようになった。これを受け2003年に「特定都市河川浸水被害対策法」が定められ、道路においても河川流量を増加させない対策が義務づけられ、車道に適用できる透水性舗装が求められることとなった。本論文は重交通路線にも適用可能な透水性舗装設計法を開発するものである。
第1章「序論」では、研究の背景を述べ、研究目的を設定している。
第2章「技術的課題と整理」では、車道透水性舗装の耐久性と雨水流出抑制性能について現状と課題を示している。
第3章「疲労破壊に対する耐久性の検討」では、室内疲労試験、実大の促進載荷試験を通じて、透水性舗装の耐久性について検討を行い、粘性土地盤の場合、路床面の変形に起因して構造破壊が生じることを明らかにし、対策として路盤の増厚または下層路盤への排水管の設置が有効であることを示している。
第4章「雨水流出抑制性能の検討」では、雨水の一定量は舗装体に残留すること、舗装材料の骨材間隙率から一定量割り引いた値が貯留に有効であることを示している。降雨、貯留、浸透、排水について水収支を考え、流出波形を算出する方法も提示している。
第5章「現道における試験舗装による性能の評価」では、試験舗装により透水性能を検証し、いくつかの対策工法の有効性を確認している。また、材料の水浸時弾性係数低下を考慮したひずみ計算から、透水性舗装の疲労破壊輪数を算定する方法を示している。
第6章「車道透水性舗装の設計方法のまとめ」では、以上の検討結果を踏まえ、車道透水性舗装の実用的な設計法を提案している。
第7章「導入の効果」では、氾濫シミュレーションモデルを用いて都市型洪水被害を推定し、透水性舗装は氾濫面積の減少に効果があること、ややコスト高になるが実用性のある技術であることを示している。
第8章「結論と今後の課題」では、結論を述べるとともに、課題として、データを積み重ね、設計方法の工学的精度を高めていくこと等があると指摘している。
以上、本論文は、透水性舗装の技術的課題に対して体系的な整理を試み、一般的に適用可能な透水性舗装技術を提示し、任意の降雨に対する流出波形を算定する方法を示している。本研究の成果は、すでに独立行政法人土木研究所「道路路面雨水処理マニュアル」に取り入れられ車道透水性舗装の普及に貢献している。
よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。