シールド機動力学モデルによる施工時荷重の評価方法に関する研究
氏名 松本 貴士
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第505号
学位授与の日付 平成21年3月25日
学位論文題目 シールド機動力学モデルによる施工時荷重の評価方法に関する研究
論文審査委員
主査 教授 杉本 光隆
副査 教授 大塚 悟
副査 准教授 阿部 雅二朗
副査 准教授 豊田 浩史
副査 鉄道総合技術研究所トンネル研究室室長 小島 芳之
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目次
第1章 序論 p.1-1
1.1 はじめに p.1-1
1.2 研究の背景 p.1-1
1.3 本研究の目的 p.1-2
第2章 既往の研究 p.2-1
2.1 シールド工法 p.2-1
2.1.1 シールドトンネルとは p.2-1
2.1.2 施工概要 p.2-1
2.1.3 シールド工法の分類 p.2-2
2.1.4 泥水式シールド工法 p.2-3
2.1.5 土圧式シールド工法 p.2-3
2.1.6 急曲線シールド工法 p.2-3
2.1.7 シールド工法に要求される課題 p.2-4
2.2 既往の研究 p.2-5
2.2.1 切羽安定機構 p.2-5
2.2.2 シールド機装備力 p.2-5
2.2.3 シールド機の作用モデル化 p.2-9
2.2.4 シールド機の作用モデル化挙動予測 p.2-13
2.2.5 シールド機の挙動制御 p.2-15
2.2.6 地盤物性値の逆解析 p.2-18
2.2.7 シールド機周辺の地盤変異予測 p.2-18
2.2.8 施工時荷重 p.2-19
第3章 定式化 p.3-1
3.1 座標系 p.3-1
3.2 単銅型シールド機の作用力 p.3-1
3.2.1 自重 p.3-1
3.2.2 シールドテールに作用する力 p.3-2
3.2.3 ジャッキによる作用力 p.3-6
3.2.4 切羽に作用する力 p.3-7
3.2.5 スキンプレートに作用する力 p.3-11
3.3 中折れシールド機のモデル p.3-15
3.3.1 中折れシールドの構造 p.3-15
3.3.2 座標系と使用表記 p.3-15
3.3.3 座標変換 p.3-16
3.3.4 中折れシールド機の作用力 p.3-17
3.3.5 各作用力と作用位置 p.3-18
3.4 シールドマシン挙動の予測 p.3-23
3.4.1 未知パラメータ p.3-23
3.4.2 目的関数 p.3-23
3.4.3 解析手順 p.3-24
3.5 最適化手法 p.3-24
3.5.1 修正Marquardt法 p.3-24
3.5.2 重み行列 p.3-25
3.6 まとめ p.3-27
第4章 解析データ p.4-1
4.1 データの収集 p.4-1
4.2 現場概要 p.4-1
4.3 地形・地質概要 p.4-2
4.3.1 地形概要 p.4-2
4.3.2 地質概要 p.4-2
4.3.3 土質性状、N値特性 p.4-2
4.4 現場計測データ(1) p.4-5
4.4.1 現場計測項目 p.4-5
4.4.2 必要とされる計測区間長および計測頻度 p.4-6
4.4.3 その他のデータ p.4-6
4.5 シールド機仕様 p.4-7
4.6 セグメント仕様 p.4-8
4.7 現場計測データ(2) p.4-9
4.7.1 現場計測サンプリングデータ p.4-9
4.8 セグメント計測データ p.4-13
4.8.1 計測の目的 p.4-13
4.8.2 測定時間 p.4-13
4.8.3 測定箇所 p.4-13
4.8.4 測定項目 p.4-13
4.8.5 測定結果 p.4-14
第5章 シールド機挙動解析 p.5-1
5.1 解析概要 p.5-1
5.2 解析方法 p.5-1
5.2.1 入力データの種類 p.5-1
5.2.2 解析区間 p.5-1
5.2.3 解析条件 p.5-2
5.3 シールド機力学モデルを用いた解析 p.5-2
5.3.1 シールド機軌跡 p.5-3
5.3.2 シールド機挙動 p.5-3
5.3.3 シールド機作用力 p.5-4
5.3.4 シールドテールとセグメントの位置関係 p.5-6
5.4 まとめ p.5-7
第6章 総括 p.6-1
6.1 解析モデル p.6-1
6.1.1 統合モデル p.6-1
6.1.2 簡易モデル p.6-1
6.2 地盤とセグメントの相互作用モデル p.6-3
6.3 解析条件 p.6-6
6.3.1 セグメント p.6-6
6.3.2 地盤ばね p.6-7
6.3.3 インターフェイス要素 p.6-7
6.3.4 リング継手ばね p.6-8
6.3.5 テールシール p.6-8
6.3.6 ジャッキ推力 p.6-8
6.4 解析手順 p.6-8
6.5 解析結果と考察 p.6-8
6.5.1 セグメント断面変位 p.6-9
6.5.2 セグメント変形量 p.6-9
6.5.3 セグメント法線方向変位 p.6-10
6.5.4 テール作用力 p.6-11
6.6 まとめ p.6-11
第7章 結論 p.7-1
7.1 結論 p.7-1
7.2 今後の課題 p.7-1
現在,シールド機の制御・操作は自動掘進システムにより行われている.しかし,シールド掘削に関連する地盤物性値やシールド機に作用する外力,およびその挙動については未解明な点が多く,これらのシステムはいくつかの経験的な関係を基にし,理論的な背景を持たない.したがって,従来の自動掘進システムでは,複雑な地層や異形断面シールドの制御に対応することが困難である.これらの問題点を解決するためには,シールド機の作用力が力学的釣合い条件を満たすよう,シールド機の挙動・掘進条件を考慮できるシールド機の動力学モデルの確立が必要である.
一方,近年,都市の地下空間では,構造物の輻輳化や施工可能空間の狭隘化により,シールドトンネルの大深度化や急曲線化が進み,加えてコスト縮減の流れ を受け,シールドトンネルの急速施工化,セグメントの薄肉化,および,幅広化などが進んでいる.これらのことから,施工時にセグメントに作用する荷重は以前よりも増大する傾向にあり,施工中のトンネルに発生する不具合が顕在化してきている.しかし,施工時にセグメントに作用する荷重については,定量的な検討を含め,未解明な点が多いのが現状である.施工時荷重のセグメントへの影響を明らかにするためには,テール部に作用するセグメントからの作用力を正確に表現できるモデルを開発する必要がある.
施工時荷重に関する研究としては,現場計測データをもとにした研究と数値解析による研究が行われている.前者については,有泉ら,吉本ら,中村らが,シールド ジャッキ力,テールシール圧,グリス圧,裏込め注入圧や,接合セグメントが,施工時にセグメントに作用する荷重に与える影響を明らかにするとともに,設計上の 考え方や,セグメント断面力を用いてセグメント外荷重を推定する手法を提案している.一方,後者については,田嶋ら,Leendertseらが,セグメントをソリッド要素で,継手をばね要素でモデル化した3次元FEM解析により,シールドジャッキ使用状況や,セグメント組立て誤差等が,セグメント発生応力に与える影響を解析している.しかし,前者はシールド全体の力の釣合いを考慮に入れた検討となっていないこと,後者はセグメント組立て誤差がセグメント発生応力に与える影響を把握することを 主な目的としていて,急曲線部始点近傍のセグメント挙動を数値解析した研究は今までなかった.
そこで本研究では,施工時荷重がセグメントに与える影響の定量的評価方法の検討を目的とし,これまで開発され,現場実測データにより検証されてきたシールド機動力学モデルを基に,特にシールド機テール部に作用する力のモデルを改良し,シールド機掘進中にセグメントに作用する施工時荷重を定量的に推定する方法を提案した.すなわち,テール作用力を,(1)シールドテールとセグメントの競りによる作用力,(2)ワイヤブラシによる作用力,(3)ワイヤブラシ間に充填されているグリスによる作用力に分類するとともに,裏込め注入材がテールシールに回り込んで固化し,有効なテールクリアランスが減少することで,競りが発生しやすくなる現象を表現できるモデルを開発した.また,テール作用力の推定には,以下の仮定を用いた.
1) セグメントは剛体で,真円である.
2) シールドテールがセグメントと競った場合,シールドテールはガーダー端部を支点とする片持ち梁として挙動する.
3) ワイヤブラシによって発生する力は,ワイヤブラシがセグメントに接触する位置のテールクリアランスに依存し,ワイヤブラシに沿った線荷重として作用する.
4) ワイヤブラシ間に充填されたグリスによって発生する力は,グリス注入圧とグリスの流動抵抗で,分布荷重として作用する.
さらに,改良したシールド機動力学モデルに実測データを適用し,シールドの挙動シミュレーションを行うことで,改良したモデルの妥当性を検証した.
本研究により以下の結論を得た.
1) 軟弱地盤で急曲線を掘進する泥土式中折れシールド機の現場実測データを用い,シールド機挙動シミュレーションを行った.シミュレーション結果は実際のシールド機掘進挙動によく一致した.これより,テール部に施工時荷重が作用するような急曲線においても,中折れシールド機動力学モデルの合理性を確認することができた.
2) シールドの挙動のシミュレーションにより得られた裏込め注入材が回り込み固化した影響を考慮したテールクリアランス(有効テールクリアランス)の分布は,計測されたセグメント断面変位の変形形状,および,曲線外側への剛体変位と定性的に整合している.また,シールドの挙動のシミュレーションにより推定されたシールドテール作用力は,スプリングライン位置のトンネル軸方向1m当たりの鉛直土圧より大きくなった.
本論文は,「シールド機動力学モデルによる施工時荷重の評価方法に関する研究」と題し,7章より構成されている.
第1章「序論」では,シールド工法の変遷,シールド機動力学モデルの開発経緯,近年のシールドトンネルで問題となっている施工時荷重に関する既往の研究の概要を示すとともに,本研究の目的と範囲を述べている.
第2章「既往の研究」では,シールド工法と,シールド工法に関する既往の研究を説明している.
第3章「定式化」では,既存のシールド機動力学モデルを,特にシールドテールに作用する力をより詳細に表現できるように改良し,各作用力の算定手法を説明するとともに,中折れシールドのモデル化,シールド挙動の予測方法,最適化手法について説明している.
第4章「解析データ」では,解析対象とした現場の地質概要,シールド仕様,セグメント仕様を示すとともに,現場で計測されたシールド掘進管理データとセグメント断面変位について説明している.
第5章「シールド機挙動解析」では,第3章で改良したシールド機動力学モデルを現場計測データに適用し,本モデルの妥当性を検討している.その結果,(1)施工時荷重の影響が見られた現場のシールド挙動を再現できたことから,改良したシールドテール作用力モデルは妥当であること,(2)切羽土圧係数を適切に設定することで,取込み率の変化による掘進速度の変化を表現できること,(3)軟弱地盤中の急曲線では,シールドの挙動はシールドテール作用力の影響を大きく受けるが,シールド機動力学モデルは,シールドテール,セグメントの変形を考慮できないため,シールド機動力学モデルを軟弱地盤中の急曲線に適用する場合には,注意する必要があること,を明らかにしている.
第6章「3次元FEM解析による検討」では,セグメントの断面変位が計測された区間において,曲線始点付近に発生する施工時荷重を評価するための3次元FEM解析モデルを提案している.解析の結果,(1)計測されたセグメントの縦長の変形,曲線外側への剛体変位を表現できること,(2)曲線始点付近のセグメントは,シールドの変位により,シールドテール部から土水圧より大きな施工時荷重の影響を受けること,を明らかにしている.
以上より,今までできなかった急曲線部の施工時荷重を考慮した設計か可能となる.
以上のように,本研究の成果は,シールド工法における高い精度の施工を可能ならしむるものである.よって,本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める.