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マメ科植物高感染Agrobacterium tumefaciens KAT23株の諸特性解析と新規ダイズ形質転換系への応用

氏名 湯川 聖士

学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第490号
学位授与の日付 平成20年12月31日
学位論文題目 マメ科植物高感染Agrobacterium tumefaciens KAT23株の諸特性解析と新規ダイズ形質転換系への応用
論文審査委員
 主査 教授 福田 雅夫
 副査 教授 森川 康
 副査 准教授 高原 美規
 副査 准教授 政井 英司
 副査 独立行政法人 農業環境技術研究所 研究コーディネーター 田中 宥司

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目次 p.1
略語 p.6

1章 緒言 p.8
2章 材料と方法 p.16
 2.1 法令 p.16
 2.2 試薬 p.16
 2.3 菌株およびプラスミド p.16
 2.3.1 Agrobacterium tumefaciens p.16
 2.3.2 E. coli p.17
 2.3.3 Plasmid DNA p.17
 2.4 植物 p.17
 2.5 培地 p.20
 2.5.1 バクテリア用培地 p.20
 2.5.2 植物用培地 p.20
 2.6 遺伝子操作 p.30
 2.6.1 DNA操作 p.30
 2.6.2 アグロバクテリウムのtotalDNAの抽出 p.30
 2.7 アグロバクテリウムの形質転換 p.32
 2.7.1 エレクトロポレーション法 p.32
 2.7.2 接合伝達 p.32
 2.8 PCRおよびシークエンス解析 p.33
 2.9 サザンハイブリダイゼーション p.35
 2.10 A.tumefaciensKAT23株の特性解析-1 Biotypeの決定 p.37
 2.10.1 3-ketolactose産出能試験 p.37
 2.10.2 2%NaCl生育試験 p.37
 2.10.3 最高生育温度測定 p.37
 2.10.4 LitmusMilk試験 p.38
 2.10.5 酸生産能試験 p.38
 2.10.6 アルカリ生産能試験 p.38
 2.10.7 選択培地生育試験 p.39
 2.11 A.tumefaciensKAT23株の特性解析-2 p.39
 2.11.1 オピン資化性試験 p.39
 2.11.2 塗抹平板培養法による生菌数の測定(コロニーカウント法) p.39
 2.11.3 A.tumefaciensの植物への接種試験 p.40
 2.12 植物の組織培養 p.41
 2.12.1 培養条件 p.41
 2.12.2 塩化水素殺菌 p.41
 2.12.3 次亜塩素酸ナトリウム殺菌 p.41
 2.12.4 ダイズ子葉節切片の切り出し p.42
 2.12.5 ダイズ上胚軸切片の切り出し p.42
 2.13 A.Tumefaciensを用いたダイズの形質転換 p.43
 2.13.1 子葉節切片からのシュート形成 p.43
 2.13.2 上胚軸切片からのシュート形成 p.44
 2.13.3 植物のX-Gluc染色 p.44
 2.13.4 植物細胞の蛍光観察 p.45
 2.13.5 植物のGUS活性定量 p.45
 2.13.6 タンパク質量の定量 p.46
 2.14 圃場作業 p.47
 2.14.1 播種 p.47
 2.14.2 施肥及び薬剤散布 p.47
 2.14.3 耕起 p.48
 2.14.4 潅水 p.48
 2.14.5 収穫 p.48
 2.14.6 収穫後 p.48
3章 結果と考察 p.49
 3.1 Agrobacterium tumefaciens KAT23株の特性解析 p.49
 3.1.1 薬剤耐性試験 p.49
 3.1.2 生菌数測定 p.52
 3.1.3 Biotypeの決定 p.52
 3.1.4 オピン資化性試験 p.62
 3.1.5 Ti plasmidの部分シークエンスの決定 p.65
 3.1.6 KAT23の感染試験と宿主域の決定 p.74
 3.2 KAT23の無毒化 p.79
 3.2.1 バイナリーベクター p.79
 3.2.2 KAT23によるバイナリーベクターからのT-DNA伝達 p.83
 3.2.3 pKhptRB2kの構築 p.85
 3.2.4 接合伝達-1 p.89
 3.2.5 Right border sequence欠損株の取得 p.89
 3.2.6 PCR解析-1 p.89
 3.2.7 サザンハイブリダイザーション解析-1 p.91
 3.2.8 pKhptLB3kの構築 p.95
 3.2.9 接合伝達-2 p.96
 3.2.10 Left border sequence欠損株の取得 p.96
 3.2.11 PCR解析-2 p.96
 3.2.12 サザンハイブリダイザーション解析-2 p.97
 3.2.13 シークエンス解析 p.98
 3.2.14 無毒化株の感染試験 p.98
 3.3 既存のダイズ形質転換法の構築 p.101
 3.4 新規ダイズ形質転換法の構築 p.106
 3.4.1 Thidiazuronの有用性 p.109
 3.4.2 上胚軸切片からのシュート形成と形質転換 p.115
4章 結論 p.123
謝辞 p.126
引用文献 p.127

Rhizobium radiobacter(Agrobacterium tumefaciens)は植物の根頭癌腫病(Crown gall disease)の原因菌として広く知られている.この病害が病原菌の持つ癌化誘発遺伝子の植物ゲノムへの伝達に起因することから,高等植物の形質転換に利用され,同菌とバイナリーベクターの組み合わせによる形質転換法が確立されるに至っている(アグロバクテリウム法). さらにイネなどの単子葉植物を始めとするA. tumefaciens感染に抵抗性を持つ植物に対しても効率的な感染・再分化法が考案された結果,アグロバクテリウム法は遺伝子銃法と並んで植物の形質転換体の作出に威力を発揮し,植物分子生物学の発展に大きく貢献している.
しかしながらコムギやトウモロコシ,ダイズなどでは,アグロバクテリウム法による形質転換は困難であり,また遺伝子銃による形質転換でも効率が極めて低く, 簡便でかつ効率の良い形質転換法の構築が望まれている.
本研究は難形質転換作物の一つであるダイズについて既存の形質転換法よりも高効率でより簡便な手法を構築することを目的とした。ダイズの形質転換に関してのこれまでの報告例では、非常に低効率で、限られた品種でのみ成功するということが指摘されていた。そこでこれらの問題を改善する為に様々なダイズ品種に対して高い感染力を持つRhizobium radiobacter(Agrobacterium tumefaciens)を単離しダイズ形質転換系に用いるというアプローチから実験を行った。新たなダイズ形質転換系を構築するにあたり、まず単離されたダイズ高感染菌KAT23の諸特性を解明した。感染試験の結果からはこの株がダイズ7品種全てにおいて対照株であるC58よりも高い感染力を有していることが明らかとなった。特に、ダイズ感染について抵抗性を有していると思われるスズユタカ、エンレイなどの品種においてKAT23の優位性が示された。またダイズだけではなくインゲンやピーナッツなどの他のマメ科植物においてもC58よりも高い感染力を示し、将来的にはこれら植物における形質転換系への利用という可能性を示した。栄養要求性の違いなどの分類によりKAT23はbiotype 2というグループに属し、これまでに既に多くの知見が蓄積されてきた他の高感染性菌株とは違う分子進化を辿っていることが明らかとなった。さらにKAT23はノパリン型に分類される病原性プラスミド(Ti plasmid)を保持していることが明らかとなった。これら知見を元に、この病原性プラスミドを無毒化する方法を組み立て、移動性プラスミドを用いた相同組み換え実験により、Agrobacterium属細菌の病原性の発揮に必須の因子であるborder sequenceと呼ばれるDNA配列を除去することに成功した。このBorder sequenceの除去により病原性が排除された派生株Soy2を用いて既存の形質転換法に従い、ダイズ子葉節の形質転換実験を行った。これによりSoy2は植物の形質転換に通常用いられているEHA105と比較して、ペキン、Fayetteそしてスズユタカのダイズ3品種に対して2倍以上の形質転換能力を有していることが明らかとなった。そして遺伝子組換えダイズの作出において既存の形質転換法では、形質転換されたダイズ子葉節からの植物体への再生に関して改善すべき点があると考えられた為この部分に関しての検討を加えた。そしてダイズ外植片からのシュート誘導に通常用いられているサイトカイニン,6-BAよりも優れたシュート誘導能を発揮するThidiazuron (TDZ)の有用性を見いだした。また形質転換の材料としてダイズ子葉節ではなくダイズ上胚軸を用いることで感染後のダイズの生育状態が改善されることも明らかとなった。TDZを用いたダイズ上胚軸からのシュート誘導の系をダイズ形質転換に応用した結果、この系においてもSoy2がEHA105よりも約2倍高い形質転換能力を発揮した。これによりこの系を用いることによる将来の遺伝子組換えダイズ作出への有用性が示された。

本論文は、「マメ科植物高感染Agrobacterium tumefaciens KAT23株の諸特性解析と新規ダイズ形質転換系への応用」と題し、ダイズにおける育種の効率化と分子生物学的研究の促進をめざしたものである。効率的な遺伝子導入法が確立されていないダイズにおいて高効率で簡便な形質転換法を構築することを目的とした一連の研究結果をまとめている。
まず植物根頭癌腫病(クラウンゴール病)原因菌であるアグロバクテリウム細菌(Agrobacterium tumefaciens)からダイズに対して高い感染力を有するKAT23株を選抜し、KAT23株の諸特性を解析して、マメ科植物に対して広く高感染性を有すること、バイオタイプ2に属し、ノパリン型病原性プラスミド(Ti プラスミド)を保持していることを明らかにした。次いで、これら知見をもとに作製した相同組換え用プラスミドを用い、Ti プラスミドの病原性に必須な左右のborder配列を順次、除去して病原性プラスミドの無毒化をおこない、病原性を持たないSoy1株及びSoy2株を取得した。また、同時に作製した遺伝子導入用のベクターとSoy2株を用いた形質転換では、従来から広く利用されていたEHA105株に比べ、ペキンなどのダイズ3品種に対して3倍に至る高い形質転換効率を得た。さらに形質転換に使用するダイズ子葉節及び上胚軸からの植物体への再生に関して検討を加え、シュート誘導における誘導剤のThidiazuronの有効性、ダイズ上胚軸の有用性を見出した。Soy2株を用いた形質転換法をダイズ上胚軸に適用したところ、子葉節を用いた従来法に比べ6倍に至る高い形質転換効率が得られ、ダイズにおける効率的な形質転換法を新たに確立することができた。
 本論文ではダイズに感染性の高いアグロバクテリウム細菌のTiプラスミドの改変等を行い、ダイズにおける簡便で効率の良い新たな形質転換法を開発した。本研究で得られた知見は、ダイズの品種改良だけでなくダイズを用いた物質生産などの工業的利用にも大きく寄与するものと考えられる。よって本論文は、工学上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める

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