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操作量飽和を有するロバストサーボ系の高速応答化に関する研究

氏名 佐沢 政樹
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第506号
学位授与の日付 平成21年3月25日
学位論文題目 操作量飽和を有するロバストサーボ系の高速応答化に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 大石 潔
 副査 教授 近藤 正示
 副査 教授 原田 信弘
 副査 准教授 野口 敏彦
 副査 准教授 伊東 淳一
 副査 准教授 漆原 史朗

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目次
第1章 序論 p.1
 1.1 研究背景 p.1
 1.2 論文の概要 p.7
第2章 モータ制御のための操作量飽和対策 p.11
 2.1 はじめに p.11
 2.2 既往の研究 p.12
 2.3 モータのモデル化 p.12
 2.4 位置サーボ系の設計 p.14
 2.5 従来のサーボ系の操作量飽和 p.16
 2.6 比例制御を優先した操作量飽和対策 p.26
 2.7 計算機シミュレーション結果 p.27
 2.8 まとめ p.29
第3章 比例操作量を優先した操作量飽和対策による位置サーボ系の高速応答化 p.31
 3.1 はじめに p.31
 3.2 比例操作量を優先した操作量飽和対策の新手法 p.32
 3.3 比例操作量を優先した操作量飽和対策の比較 p.34
 3.4 実験による確認 p.40
 3.5 まとめ p.48
第4章 負荷状態を考慮した位置サーボ系の高速応答化 p.49
 4.1 はじめに p.49
 4.2 位置サーボ系のにおける速度制御系とその操作量 p.50
 4.3 外乱オブザーバに基づく積分演算値の修正法 p.55
 4.4 位置サーボ系の外乱オブザーバによる高速応答化 p.59
 4.5 まとめ p.69
第5章 トルク飽和を考慮した位置サーボ系の高速応答化 p.71
 5.1 はじめに p.71
 5.2 サーボモータの連続軌道追従制御系 p.72
 5.3 加減速トルク電流に応じたトルク電流リミテーションアルゴリズム p.82
 5.4 負荷適応型軌跡追従トルク電流リミテーションアルゴリズム p.87
 5.5 実験結果 p.90
 5.6 まとめ p.95
第6章 結論 p.97
 6.1 本研究による成果 p.97
 6.2 今後の課題 p.99
付録A 外乱オブザーバを用いたロバスト加速度制御系 p.101
付録B 加速度制御系で構成された多軸系のトルクリミテーションアルゴリズム p.107
付録C 加速度制御系による軌跡追従トルク電流リミテーションアルゴリズム p.115

 近年、パワーエレクトロニクスの急速な発展に伴い、産業機器はインバータ駆動ACモータをアクチュエータとした制御システムが主流となっている。さらに、産業界からはエネルギー資源の高騰や新興国の発展により製品の均一化や省エネルギー化が要求されている。そのため、ACモータドライブにおいて高速かつ高精度な位置サーボ系の構築が必要不可欠な技術として求められている。通常、高速・高精度な制御系を構成するには、PI制御器などの積分器を有する制御系を構築することによりロバスト性を、制御器を高ゲインに設定することにより高応答性を図る。さらに、モータを含めたシステム全体の保護を目的として、許容範囲内の電流や電圧、トルクとなるように制御系において電流や速度、位置制御器の操作量にリミッタ処理を施すことが一般的である。
 しかしながら、操作量がリミッタに制限され、制御器の内部状態変数が実際の状態量に対して不適切な値となることが原因でオーバーシュートや振動等の問題を生じるワインドアップ現象により位置決め特性は大きく影響を受ける。そこで、本研究においては、ワインドアップ現象により次のような影響を受ける位置サーボ系に焦点を当て、その対策について検討している。まず、位置サーボ系を高速に応答させるには、加速中はリミット値まで操作量を大きく設定することにより最大トルクにて加速することができるが、位置応答が位置指令に近づくと速度制御器への入力である位置偏差が小さくなるために減速時では応答が遅くなる。また、高速・高精度な位置決めを実現するためにサーボ系の高ゲイン化を行うと、リミッタ処理による操作量飽和のため積分器における過剰積算が振動や不安定な応答を引き起こすことになる。そこで、本論文ではPI制御系への偏差量を適切な値に変更するなどの制御系における操作量飽和対策について提案手法を示し、実験結果に基づいて提案手法の有用性について検討した。
 まず、第1章では、本研究の背景となる技術的な歴史および目的を述べ、本研究の意義、位置づけを明らかにした。
 第2章では、一般的な位置サーボ系における操作量飽和対策の構成方法について述べる。本章では、これまで飽和対策の手法として広く利用されている積分停止法やリミット偏差フィードバック補償法を用いた操作量飽和対策について述べる。また、従来手法のワインドアップ現象に対する有効性や問題点について実測結果に基づいて検証した。
 第3章では、スムーズな位置応答の実現を図る高速位置決め制御系設計としてリミット偏差を積分演算によるものと比例演算によるものを分離して操作量飽和対策を行う速度PI制御器の比例操作量に優先した手法について検討した。本提案手法により、ワインドアップ現象を抑制し、かつ高速位置決めを実現することをシミュレーション結果と実験結果より確認した。また、提案手法における有用性と問題点について述べる。
 第4章では、第3章で提案した速度PI制御器の比例操作量に優先した手法を用いた場合、減速時において積分器への入力である偏差が小さくなることにより積分器の応答が遅くなるために位置応答が遅くなる問題が生じる。そこで、本章ではこの問題に対して外乱オブザーバに基づいて速度PI積分値を修正する手法を提案し、実測結果に基づいて有用性を検討した。本手法では、減速時に速度PI制御系の積算値に負荷トルクと釣り合うトルク分電流を設定することで積分器応答の改善を図る。速度PI制御系の積分器の応答を改善することで負荷条件に係らず高速位置決め制御可能となることを実験結果に基づいて検証した。
 第5章では、前章まで提案してきた飽和対策においてPoint to Pointのステップ応答的な高速位置決めには有効であったが、リアルタイムで常に位置指令が時々刻々と変化する連続軌道追従制御系では、1軸でもトルク飽和を発生させた場合には軌道誤差が大きくなることが問題となる。そこで、提案手法を多軸軌道追従制御システムに拡張を図るべくX-Yテーブルにおけるトルク飽和と協調動作を考慮した軌道追従制御について検討した。本手法では、新たにトルク飽和を考慮したアルゴリズムを提案した。提案法では、位置次元を考慮して指令値を修正することによりトルク飽和対策と協調動作を実現し、軌跡追従制御に対して、トルク飽和が発生した場合でも目標軌跡に良好に追従できることを実測結果に基づいて確認した。
 最後に第6章において本論文を総括し、提案する制御法の有効性と問題点をあげ、今後の課題についてまとめる。
 以上の結果よりロバストサーボ系の高速応答化技術を確立したことは、工学的、社会的に意義のあるものである。

 本論文は、「操作量飽和を有するロバストサーボ系の高速応答化に関する研究」と題し、6章より構成されている。第1章「序論」では、ロバストサーボ系に関する従来の研究の概要を示すとともに、本研究の背景となる技術的な歴史および目的を述べ、本研究の意義、位置づけを明らかにした。
 第2章では、一般的な位置サーボ系における操作量飽和対策の構成方法について述べる。本章では、これまで飽和対策の手法として広く利用されている積分停止法やリミット偏差フィードバック補償法を用いた操作量飽和対策について述べる。また、従来手法のワインドアップ現象に対する有効性や問題点について実測結果に基づいて検証した。
 第3章では、スムーズな位置応答の実現を図る高速位置決め制御系設計としてリミット偏差を積分演算によるものと比例演算によるものを分離して操作量飽和対策を行う速度PI制御器の比例操作量に優先した手法について検討した。本提案手法により、ワインドアップ現象を抑制し、かつ高速位置決めを実現することをシミュレーション結果と実験結果より確認した。また、提案手法における有用性と問題点について述べる。
 第4章では、第3章で提案した速度PI制御器の比例操作量に優先した手法を用いた場合、減速時において積分器への入力である偏差が小さくなることにより積分器の応答が遅くなるために位置応答が遅くなる問題が生じる。そこで、本章ではこの問題に対して外乱オブザーバに基づいて速度PI積分値を修正する手法を提案し、実測結果に基づいて有用性を検討した。本手法では、減速時に速度PI制御系の積算値に負荷トルクと釣り合うトルク分電流を設定することで積分器応答の改善を図る。速度PI制御系の積分器の応答を改善することで負荷条件に係らず高速位置決め制御可能となることを実験結果に基づいて検証した。
 第5章では、前章まで提案してきた飽和対策においてPoint to Pointのステップ応答的な高速位置決めには有効であったが、リアルタイムで常に位置指令が時々刻々と変化する連続軌道追従制御系では、1軸でもトルク飽和を発生させた場合には軌道誤差が大きくなることが問題となる。そこで、提案手法を多軸軌道追従制御システムに拡張を図るべくX-Yテーブルにおけるトルク飽和と協調動作を考慮した軌道追従制御について検討した。本手法では、新たにトルク飽和を考慮したアルゴリズムを提案した。提案法では、位置次元を考慮して指令値を修正することによりトルク飽和対策と協調動作を実現し、軌跡追従制御に対して、トルク飽和が発生した場合でも目標軌跡に良好に追従できることを実測結果に基づいて確認した。
 最後に第6章において本論文を総括し、提案する制御法の有効性と問題点をあげ、今後の課題についてまとめる。
 よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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