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ナノインデンテーション試験による脆性材料の弾塑性特性評価

氏名 金成 守康
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第150号
学位授与の日付 平成9年6月30日
学位論文の題目 ナノインデンテーション試験による脆性材料の弾塑性特性評価
論文審査委員
 主査 教授 田中 紘一
 副査 助教授 古口 日出男
 副査 助教授 伊藤 吾朗
 副査 茨城大学 教授 奥 達雄
 副査 豊橋技術科学大学 教授 逆井 基次

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目次
1.序論 p.1
1.1 はじめに p.1
1.2 研究の背景 p.3
1.3 各章の概要 p.6
参考文献 p.9
2.弾塑性材料における四角錐(ヴィッカース)圧子押し込みの連続転位モデル p.16
2.1 緒言 p.16
2.2 供試材および実験方法 p.18
2.3 インデンテーション解析 p.18
2.3.1 転位モデル p.18
2.3.2 押し込み断面プロファイル p.23
2.3.3 押し込み荷重 p.24
2.4 結果および考察 p.28
2.4.1 実験の押し込み曲線および圧痕断面プロファイル p.28
2.4.2 解析結果 p.30
2.4.3 解析結果と実験結果との比較 p.31
2.5 結言 p.35
参考文献 p.36
付録 p.38
3.弾塑性材料における三角錐(バーコヴィッチ)圧子押し込みの連続転位モデル p.49
3.1 緒言 p.49
3.2 供試材および実験方法 p.50
3.3 インデンテーション解析 p.51
3.3.1 転位モデル p.51
3.3.2 押し込み断面プロファイル p.54
3.3.3 押し込み荷重 p.55
3.4 結果および考察 p.57
3.4.1 実験の押し込み曲線および圧痕断面プロファイル p.57
3.4.2 解析結果 p.59
3.4.3 解析結果と実験結果との比較 p.60
3.5 結言 p.64
参考文献 p.65
4.原子炉用2次元炭素/炭素複合材のナノインデンテーション挙動 p.78
4.1 緒言 p.78
4.2 実験方法 p.79
4.3 結果および考察 p.81
4.3.1 試料表面の微小構造 p.81
4.3.2 押し込み曲線 p.81
4.3.3 平均面圧 p.83
4.3.4 剛性およびスプリングバック p.85
4.4 結言 p.86
参考文献 p.88
5.炭素/炭素複合材上に形成されたプラズマ対向材料用ホウ化層のナノインデンテーション試験 p.103
5.1 緒言 p.103
5.2 実験方法 p.104
5.3 結果および考察 p.105
5.3.1 試料表面の微小構造 p.105
5.3.2 押し込み試験 p.106
5.4 結言 p.107
参考文献 p.108
6.総括 p.116
謝辞 p.118
本研究に関する発表論文 p.119

 本論文は、ナノインデンテーション試験のうち、主として、脆性材料の弾塑性変形特性について研究を行ったものである。本研究では、ナノインデンテーション試験における弾塑性変形を物理的なモデルに基づいて明らかにするとともに本試験法を脆性材料の機械的性質評価へ対用するための基礎的な研究を行った。
 第1章では、ナノインデンテーション試験の概略、脆性材料の弾塑性変形の研究の背景および本研究の目的について述べた。
 第2章では、2つの弾塑性材料(セラミックス)、ジルコニア(ZrO2)および窒化珪素(Si3N4)、についてヴィッカース(Vickers)圧子押し込み試験し、その結果を四角形連続転位モデルによって解析した。転位モデルは、インデンテーション時の塑性的押し込み体積を吸収するプリズマティック連続転位モデルのパンチング(Punching)に基づいている。圧子押し込み時にできる材料内部の塑性領域の大きさおよび降伏応力を算定するために荷重-変位曲線から得た情報を用いて逆問題を解く方法を求めた。予測された圧痕の断面形状は電子顕微鏡で測定された断面形状と良く一致した。
 第3章では、2章で用いたZrO2およびSi3N4について荷重1~400mNでバーコヴィッチ(Berkovich)圧子押し込み試験し、その結果を三角形連続転位モデルによって解析した。荷重400mNにおいて、予測された圧痕の断面形状は電子顕微鏡で測定された断面形状と良く一致した。本モデルを用いた各荷重における解析結果から、平均面圧の荷重依存性(寸法効果)が降伏応力の上昇とそれによる塑性域形状の変化に帰着することを示した。
 第4章では、ナノインデンテーション試験の脆性材料への応用として、原子炉用の炭素/炭素(Carbon and Carbon, C/C)複合材のナノインデンテーション試験を、ファイバー軸に垂直および平行方向に荷重範囲50μNから20mNで試験した。参照のために、原子炉用の等方性黒鉛もまた調べた。複合材および等方性黒鉛共に、1回目の負荷-除荷曲線では大きな弾性回復を、その後の曲線では擬弾性ヒステリシスを示した。ワイブル(Weibull)統計に基づいた平均面圧データの解析から、C/C複合材のデータを別々のワイブル指数に帰着する2つのグループに分離した ; 高い平均面圧をとる低いワイブル指数のグループはファイバーに起因し、一方、低い平均面圧をとる高い係数のグループはマトリックスに起因することを示した。押し込み平均面圧の平均は、ファイバーに対して101MPaおよびトマリックスに対して35.5MPa、一方、黒鉛に対してはその中間値で52.2MPaだった。全ての材料において、平均面圧Pmが負荷荷重Pmaxに僅かに依存した。しかし、その傾向は2材料間で違っている ; C/C複合材ではPmはPが増加するとともに減少し、一方、黒鉛ではその逆の傾向を示した。黒鉛およびC/C複合材中の2成分のヤング率を、押し込み除荷曲線の剛性から算出し、黒鉛に対して10.7GPa、ファイバーに対して6.71GPaおよびマトリックスに対して1.97GPaだった。黒鉛およびファイバーに対して算出した値はそれぞれ黒鉛バルク材およびC/C複合材バルク材の値に匹敵することを示した。
 第5章では、大型トカマク(Tokamak)装置のプラズマ対向材料として用いるために炭素繊維/炭素マトリックス上に被覆されたホウ化層について、電子照射試験後のナノインデンテーション挙動を荷重0.3mNで調べた。走査電子顕微鏡観察の結果、照射によってホウ化炭素(B4C)層が融解、再凝結したことを明らかにした。しかし、X線回折分析の結果、照射によって結晶構造は変化しなかった。照射領域のヤング率および平均面圧が、荷重-変位(P-h)曲線から求められ、それぞれ270GPaおよび19.2GPaだった。これらの値は、バルク値よりそれぞれ40および20%低い。一方、非照射領域のそれらの値は、それぞれ125および3.1GPaだった。これらの値は、バルク値の1/3および1/10にしか満たなかった。これらの低い値は、非照射領域の多孔質な構造に起因することを示した。
 第6章では、本研究で得られた結果を総括した。本研究は、ナノインデンテーション試験における脆性材料の弾塑性変形の物理的な挙動の解明および本試験法の脆性材料の評価技術の確立に大きく寄与するものと考える。

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