地盤の凍結・凍上特性の解明に関する研究
氏名 朱 青
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第173号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 地盤の凍結・凍上特性の解明に関する研究
論文審査委員
主査 助教授 杉本 光隆
副査 教授 海野 隆哉
副査 講師 豊田 浩史
副査 長岡工業高等専門学校 校長 小川 正二
副査 北見工業大学 教授 鈴木 輝之
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目次
第一章 序論 p.1
1.1 土の凍結による影響 p.1
1.2 土の凍結に関する既往の研究 p.2
1.2.1 凍上のメカニズム p.4
1.2.2 凍上量に関する既往の研究 p.5
1.2.3 凍上力に関する既往の研究 p.5
1.2.3.1 凍上力に関する理論 p.6
1.2.3.2 凍上力に関する実験 p.8
1.2.4 残された問題点 p.8
1.3 本研究の考え方 p.9
1.4 本研究の目的 p.10
参考文献 p.12
第二章 凍上変位に関する研究 p.17
2.1 はじめに p.17
2.2 自然地盤の凍上変位 p.21
2.2.1 実験内容 p.21
2.2.2 結果と考察 p.23
2.2.2.1 地盤の凍上変位と凍結深さ p.23
2.2.2.2 構造物の凍着凍上変位 p.24
2.3 拘束圧を受ける土の凍上変位 p.29
2.3.1 実験内容 p.29
2.3.1.1 供試体の作制法 p.29
2.3.1.2 試験装置 p.29
2.3.1.3 試験条件 p.31
2.3.2 結果と考察 p.33
2.3.2.1 下端面の温度条件 p.33
2.3.2.2 凍上変位 p.33
2.3.2.3 凍結速度、凍上率と冷却速度の関係 p.37
2.3.2.4 温度勾配の変化 p.42
2.3.2.5 凍上率と温度勾配の関係 p.43
2.4 まとめ p.47
参考文献 p.49
第三章 地盤の凍上力に関する研究 p.51
3.1 はじめに p.51
3.2 自然地盤の凍上力 p.54
3.2.1 実験内容 p.54
3.2.1.1 縁切りによる凍上力 p.54
3.2.1.1 凍結深さによる凍上力の分布 p.57
3.2.2 結果と考察 p.59
3.2.2.1 平成4年度実験シ-ズンの気温 p.59
3.2.2.2 土中温度 p.60
3.2.2.3 縁切りによる自然地盤の凍上力 p.61
3.2.2.4 周辺地盤凍上力の影響範囲 p.65
3.2.2.5 平成5年度実験シ-ズンの気温 p.67
3.2.2.6 土中温度 p.68
3.2.2.7 地表面からの深さと自然地盤の凍上力 p.68
3.3 凍上圧に影響を与える諸要素に関する研究 p.71
3.3.1 実験内容 p.71
3.3.1.1 供試体の作製 p.71
3.3.1.2 実験装置 p.71
3.3.1.3 実験条件 p.72
3.3.2 結果と考察 p.74
3.3.2.1 冷却面の温度条件 p.74
3.3.2.2 凍結形式による影響 p.75
3.3.2.3 冷却速度による影響 p.78
3.3.2.4 凍結速度による影響 p.80
3.4 まとめ p.82
参考文献 p.83
第四章 自然地盤の凍着応力 p.84
4.1 はじめに p.84
4.2 実験内容 p.86
4.2.1 実験用模型 p.86
4.2.2 装置の設置 p.87
4.2.3 測定項目 p.87
4.3 結果と考察 p.88
4.3.1 コンクリ-ト杭の凍着凍上力 p.88
4.3.2 コンクリ-ト板の凍着凍上力 p.91
4.4 まとめ p.96
参考文献 p.97
第五章 土の凍結温度に関する研究 p.98
5.1 はじめに p.98
5.2 凍結温度に影響を与える諸要素および実験 p.101
5.2.1 実験方法 p.101
5.2.2 結果と考察 p.102
5.2.2.1 冷却速度による影響 p.102
5.2.2.2 拘束圧による影響 p.103
5.2.2.3 土質による影響 p.105
5.3 まとめ p.107
参考文献 p.107
第六章 結論 p.108
参考文献 p.110
謝辞 p.111
冬期に外気が氷点下になると,地表面付近の間隙水が凍結し始め,凍結面が時間と共に土中に進行する。その際,土質、地下水などの条件により,凍結面に向かって水が移動したり、凍結することによって,アイスレンズと呼ばれる氷層が地表面に水平に形成される場合がある。このように未凍結部分から凍結面に水分を吸収したり,土中の水が凍結することにより,自重等の外圧に抗して地盤の膨れ上がる現象が凍上現象である。
土が凍上することによって土そのものの諸物性が大きく変わる。体積が凍る前に比べて,2倍以上になることもある。これによって地面が隆起する,地上または地中の施設物に被害を与える。
近年,社会基盤の整備の進展とともに各種構造物が複雑化,高度化して,あらたな観点からの凍上問題が課題となっている。
自然地盤が凍結する際に構造物に加える凍上力及び構造物表面に作用する自然地盤のセン断凍着凍上力(以下,単に凍着凍上力と呼ぶ)を定量的に評価できるため,さらに,それを軽減するためには,自然地盤の凍上力の特性を明らかにする必要がある。
凍上現象も熱と不凍間隙水(不凍水)の同時輸送現象であるから,凍上量,凍上速度,吸排水量,吸排水速度などが凍上の量を表す尺度として挙げられる,また凍上によって生じるカを表す尺度として凍上カなどが挙げられる。
土が凍結するとき,凍結面において氷の層が析出して,膨張圧力や変位が生じ,凍土を介して構造物に作用する凍結土圧が増加したり,その周辺地盤が側辺に変位して周囲構造物に作用する土圧が増加したりする。その結果,構造物が損傷することも予想されるの,凍結膨張圧力,変位そして凍結土圧を的確に推定できることと同時に,このような問題に対する対策も必要となってくる。その為には,土の凍上特性のみならず凍結した土の力学特性も把握しなければならない。
また,凍上変位と凍上圧力が,熱と水の流れの両者に相互に関係しているため,両方の流れを結合して凍上が工学的要因とどのような関係があるかを検討した。
しかしながら,従来の室内での研究は供試体の両端面の温度を一定に保ち,一端を冷却する実験が多かった。しかし,実際の自然地盤では,気温変化の影響を受け,凍上実験の冷却面に相当する地表面の温度が変化している。気温の変化は季節の移り変わりによる年間変動から,日中と夜というような一日の変動など様々である。この変化を単純化すると冷却速度を一定とすることができる。地表面の冷却速度の変化は地盤内の温度勾配,地盤の凍結速度,凍上率および凍上速度等に対して如何に影響するのか,それらの結果は凍上量を予測し,凍上のメカニズムを解明するために重要である。最終的には,これらの実験から得られた成果を,複雑な冷却速度を示す自然地盤にも適用できるように研究を行う必要がある。
凍上形式を見ると,従来の研究ではオ-プンシステムあるいはクロ-ズドシステムのいずれか一方の実験を行ったものが多かった。これらの実験はいずれも凍上機構解明を主目的としているが,いずれか一方の条件のみが実際の凍上現象において支配的であるとは言い難く,同じ実験条件下で両形式での凍上現象を比較して,凍上現象を理解する必要があると考える。
本論文では,二冬にわたって,屋外フィ-ルドで自然地盤の凍上変位,凍上力および凍着凍上力を測定することにより,自然地盤が凍結する際に構造物に加わる凍上力および凍着凍上力を定量的に明らかにするとともに,水の補給の有無が土の凍上特性に与える影響について,クロ-ズドシステムとオ-プンシステムでの室内要素実験を行い,これらの特性を明らかにした。したがって,本論文は,土の凍上メカニズムの解明に寄与するものである。
第一章は総論であり,土の凍上発生機構に関する過去の研究結果を述べ,これらの研究の問題点を指摘するとともに,本研究の基本的な考え方と研究の目的について述べている。
第二章では,凍上変位および凍着凍上変位について述べている。自然地盤の凍上変位を計測するとともに,室内では,下部の一方向から冷気を加えたオ-プンシステムとクロ-ズドシステムによる室内実験を行い,粘性土の凍上特性を詳細に検討した。この結果,地盤の凍上特性を定量的にとらえることができた。
第三章では,地盤が凍結することによって生じる凍上力の特性について述べている。自然地盤の凍上力の縦方向と横方向の分布を明らかになった。また,凍上機構として室内実験を行い,供試体の冷却面(自然地盤の地表面に当たる)の冷却速度が凍上力に大きな影響を与えることが明らかとなった。
第四章では,自然地盤における構造物に加わる凍着凍上カを評価するために基礎デ-タが必要となる。そのため小型コンクリ-ト杭と板自然地盤中に埋設して,杭と板に作用する凍着凍上力について検討した。
第五章では、土の中でアイスレンズと呼ばれる氷晶の析出温度(Segregation Temperature)に影響を及ぼす要素について検討した。
第六章では,以上の研究成果を要約し総括した。