PECS法を応用した難研削セラミックス用多孔質金属ボンドダイヤモンド砥石の開発
氏名 大西 人司
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第162号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 PECS法を応用した難研削セラミックス用多孔質金属ボンドダイヤモンド砥石の開発
論文審査委員
主査 教授 石崎 幸三
副査 教授 田中 紘一
副査 教授 松下 和正
副査 助教授 鎌土 重晴
副査 助教授 伊藤 吾朗
副査 助教授 田辺 郁男
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謝辞
第1章 序論 p.7
1-1 ダイヤモンド砥石の現状と問題点 p.7
1-2 ダイヤモンド砥石に関する最近の研究 p.8
1-3 本研究の目的と意義 p.8
第2章 精密加工用多孔質鋳鉄ボンド砥石 p.8
2-1 緒言 p.8
2-2 実験方法 p.9
2-3 結果と考察 p.14
2-4 結言 p.21
第3章 PECS法の応用 p.21
3-1 緒言 p.21
3-2 結合材料と焼結条件の探索 p.22
3-3 PECS法による多孔質金属ボンドダイヤモンド砥石作製 p.24
3-4 結言 p.33
第4章 PECS法によるダイヤモンド砥粒と結合材金属の接合 p.35
4-1 緒言 p.35
4-2 実験方法 p.38
4-3 結果と考察 p.38
4-4 結言 p.39
第5章 AES分析の応用による接合界面分析 p.40
5-1 緒言 p.40
5-2 実験方法 p.40
5-3 結果と考察 p.42
5-4 まとめ p.56
第6章 多孔質金属ボンド砥石の作製 p.57
6-1 緒言 p.57
6-2 砥石作製 p.57
6-3 焼結結果と考察 p.61
6-4 研削テスト p.62
6-5 まとめ p.86
第7章 研削除去速度(量)と砥石の表面状態の考察 p.88
7-1 砥石の機械特性モデル p.89
7-2 対面角と研削量の関係の見積もり p.92
7-3 砥粒径微細化による表面砥粒数増加の効果 p.92
7-4 砥粒径微細化に伴う結合材による保持力低下 p.94
7-5 ビトリファイド砥石の研削除去速度の低下についての考察 p.94
7-6 研削除去速度と砥石表面状態 p.94
7-7 レーザー顕微鏡による三次元砥石表面評価 p.95
7-8 四角錐砥粒とビッカースの塑性変形とレーザー顕微鏡を用いた研削除去量試算のまとめ p.100
第8章 総括 p.102
文献 p.106
本研究に関する著者の研究論文・特許のリスト等 p.107
I. 研究論文(定期刊行物) p.107
II. 研究活動(会報) p.107
III. その他 p.107
IV. 特許 p.107
V. 他の分野での報告 p.107
索引 p.108
ダイヤモンド砥石は難削材料の形状付与に重要であり改良が期待されているが、現状のレジン・ビトリファイド・メタルの各砥石では砥石の機械特性・砥粒保持力・有気孔化に制限があり改良を妨げている。本研究では石崎らの多孔質鋳鉄ボンドの新コンセプトに基づき、結合材・砥粒・焼結・気孔率・砥粒と結合材の接合・機械特性等の要素の研削牲に与える影響を研究し、パルス通電焼結(PECS)法とタングステンを結合材に使うことにより、研削除去速度が高く除去速度低下の小さい画期的な多孔質金属ボンド砥石の開発に成功した。また砥石表面の3次元形状評価から砥粒径と研削除去速度等について考察した。
第1章「序論」では今までの砥石の特徴をまとめると共に、新しい構造である多孔質金属ボンド砥石の背景・目的・意義について述べた。
第2章「精密加工用多孔質鋳鉄ボンド砥石」では多孔質鋳鉄ボンド砥石の精密加工への応用と結合材の炭素量や多結晶ダイヤモンド砥粒の研削性に及ぼす影響について、従来法である高温等方加圧(HIP)法を焼結に用いた砥石製作と評価を行った。多孔質鋳鉄ボンド砥石(砥粒メッシュ番号(以下#)1000(10-20μm砥粒径))が作製可能であり、市販ビトリファイド砥石の2倍の研削除去速度、結合材としては鋳鉄が鉄より優れていることを示した。多結晶ダイヤモンド砥粒は目こぼれの抑制に効果があり、結合材として鉄を使った場合でも優れた研削速度を示すことを明らかにした。
第3章「PECS法の応用」ではPECS法を焼結に用いた多孔質金属ボンド砥石(砥粒#1000)の作製を成功裡に行い、予備圧粉体作製と予備焼結が不要であり、気孔率と機械的強度の制御に優れていることを明らかにした。作製された砥石はHIP法で作製された同一材料の砥石と同等の研削性能を示した。また結合材にコバルトを用いた砥石の研削試験結果より、研削除去速度が大きく速度低下の少ない多孔質メタルボンド砥石の作製には、結合材の塑性変形による目詰まりを防ぐこと、結合材の剛性が高く砥粒の機械的支持に優れていること、適度の気孔を有し結合材と被研削材の接触面積が少なく、研削粉と結合材による目詰まりが進みにくくするために結合材の適度な除去性を持たせることと、研削除去速度低下を押さえるためには砥粒と結合材の強い接合も重要であることを示した。
第4章「PECS法によるダイアモンド砥粒と結合材金属の接合」では、砥粒の保持(機械的支持と接合)が重要であることから、結合材とダイヤモンド砥粒の接合について、7種の材料について温度・圧力・時間等の接合強度への影響について調査した。PECS法による各種金属粉末の焼結体と合成ダイヤモンドとの接合が可能であった。鉄・ニッケル・コバルトは720-960℃の範囲で接合強度が高く、グラファイトを析出させない範囲で高い温度とすることで高い強度が得られる。鋳鉄は界面でのグラファイトの析出が発生し易く、接合条件の設定が重要であることが明らかになった。
第5章「AES分析の応用による接合界面分析」では、砥粒と結合材の接合をシミュレートし、接合界面のAES分析を行った。鉄・ニッケル・コバルトの高温での接合強度低下の原因は、接合時に(常温での)固溶限界を超えるグラファイトが冷却時に接合界面に析出することが原因と判明した。また鋳鉄は最初から炭素を含むことから、780℃の低温接合時でもグラファイトの析出を起こし接合強度が低くなることが明らかとなった。逆にチタニウム・クロミウム・タングステンは高温側で炭化物を生成していることが明らかとなり、グラファイトの析出が起こらないこと、接合強度の顕著な低下がないことが明らかとなった。
第6章「多孔質金属ボンド砥石の製作」では、研削加工の中でも重要度を増している、精密加工に重点を置き、砥粒が#1000から#5000(2-4μm径)の多孔質メタルボンド砥石を作製するとともに、市販の砥石と研削性比較を行った。#1000のタングステンとコバルトボンドは市販の無気孔型のメタルボンドよりも高い研削性能を示した。タングステンボンド砥石は結合材の粒径が0.4μm程度のものが容易に得られることと、ヤング率が高く塑性変形しにくいこと、更にはダイヤモンド砥粒と強固な接合が可能であることから、粒径が2-4μmの微粒径砥粒を用いた砥石まで作製可能であり、仕上げ面がよく、研削除去速度が高い砥石が関発できた。
第7章「研削除去速度(量)と砥石の表面状態の考察」では、研削除去速度と砥粒径、研削除去速度と研削寿命、研削除去速度と結合材について、異なる面角を持つ四角錐を用いた砥粒の近似とビッカースの塑性変形に従うモデルを用いた研削除去量の試算と、共焦点レーザー顕微鏡を用いた砥石表面3次元評価を行い、研削除去速度(量)と砥石表面形状の関係について考察した。従来の計算では大きな誤差を生じた砥粒径の影響や、従来はできなかった研削前後の研削除去速度の変化を砥石表面状態の関係から考察と試算を行い良い一致を得た。
第8章に総括を述べた。結合材・砥粒・焼結・気孔率・砥粒と結合材の接合・機械特性などの諸特性が研削性に与える影響の研究を行い、PECS法とタングステン粉末の組合せにより、研削除去速度が高く研削除去速度の低下が小さい画期的な各種砥粒径の多孔質金属ボンド砥石の開発に成功した。また従来よく説明できなかった砥粒径と研削除去速度の関係と、開発した砥石の優れた研削性について、砥石表面の3次元形状から説明した。