拡張ベイズ法を用いた舗装の逆解析弾性係数の信頼性向上に関する研究
氏名 屠 偉新
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第166号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 拡張ベイズ法を用いた舗装の逆解析弾性係数の信頼性向上に関する研究
論文審査委員
主査 教授 丸山 暉彦
副査 教授 丸山 久一
副査 助教授 唐 伯明
副査 助教授 下村 匠
副査 北海道工業大学 教授 笠原 篤
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目次
第1章 研究の背景および目的 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 舗装弾性係数の逆解析技術の現状 p.7
1.3 本研究の目的 p.10
1.4 本論文の構成 p.10
1.5 本章の参考文献 p.12
第2章 舗装弾性係数の逆解析における問題点 p.14
2.1 緒言 p.14
2.2 FWD共通試験による舗装弾性係数の信頼性に関する検討 p.15
2.2.1 FWDによるたわみの測定誤差 p.16
2.2.2 最小二乗法による舗装弾性係数の逆解析 p.17
2.2.3 まとめ p.20
2.3 逆解析コンタ-図による舗装の逆解析における問題点に関する検討 p.26
2.4 本章のまとめ p.30
2.5 本章の参考文献 p.31
第3章 拡張ベイズ法に基づく舗装弾性係数の逆解析方法の導入 p.32
3.1 緒言 p.32
3.2 拡張ベイズ法による舗装弾性係数の逆解析 p.33
3.2.1 逆解析の定式化 p.33
3.2.2 情報量基準 p.36
3.2.3 計算例 p.40
3.3 事前情報による逆解析結果への影響 p.44
3.3.1 舗装構造と解析モデル p.44
3.3.2 3層モデルによる舗装の逆解析における事前情報の影響 p.45
3.3.3 4層モデルによる舗装の逆解析における事前情報の影響 p.49
3.3.4 コンタ-図による事前情報の影響に関する検討 p.54
3.4 本章のまとめ p.61
3.5 本章の参考文献 p.62
第4章 拡張ベイズ法に基づく舗装弾性係数の逆解析システム p.63
4.1 緒言 p.63
4.2 エキスパ-トシステム p.65
4.2.1 たわみの測定精度の評価 p.66
4.2.2 測定区間の分類 p.66
4.2.3 異常測点の検査 p.71
4.2.4 舗装弾性係数の事前情報 p.77
4.2.5 エキスパ-トシステムのフロチャ-ド p.84
4.3 舗装弾性係数の逆解析プログラムEBM p.87
4.4 本章のまとめ p.89
4.5 本章の参考文献 p.90
第5章 拡張ベイズ法による舗装の逆解析弾性係数の信頼性 p.91
5.1 緒言 p.91
5.2 たわみの測定誤差による逆解析結果への影響 p.92
5.2.1 同一機種のたわみの測定誤差による逆解析結果への影響 p.93
5.2.2 機種間の測定誤差による逆解析結果への影響 p.102
5.3 層厚の誤差による逆解析結果への影響 p.111
5.3.1 3層モデルにおける層厚誤差の影響 p.112
5.3.2 4層モデルにおける層厚誤差の影響 p.113
5.3.3 最小二乗法による結果との比較 p.114
5.3.4 まとめ p.116
5.4 実測における逆解析弾性係数の信頼性 p.117
5.4.1 測定の概要 p.118
5.4.2 拡張ベイズ法による逆解析結果 p.119
5.4.3 最小二乗法による結果との比較 p.123
5.4.4 まとめ p.123
5.5 本章のまとめ p.125
5.6 本章の参考文献 p.126
第6章 拡張ベイズ法による逆解析弾性係数の実用性 p.127
6.1 緒論 p.127
6.2 追跡調査結果による逆解析弾性係数の実用性の考察 p.128
6.2.1 追跡調査の概要 p.129
6.2.2 FWDによる測定たわみ p.131
6.2.3 拡張ベイズ法による舗装の逆解析弾性係数 p.134
6.2.4 まとめ p.140
6.3 各地調査結果による逆解析弾性係数の実用性の考察 p.141
6.3.1 調査概要 p.142
6.3.2 拡張ベイズ法による舗装の逆解析弾性係数 p.144
6.3.3 最小二乗法よる舗装の逆解析結果との比較 p.148
6.3.4 良好舗装とひび割れ破損舗装における逆解析結果の比較 p.150
6.3.5 まとめ p.151
6.4 本章のまとめ p.155
6.5 本章の参考文献 p.156
第7章 結論 p.157
謝辞 p.159
日本の道路事情は,既に建設の時代から保全の時代へと推移しつつある.このような現状から,舗装のライフサイクルの概念を導入した広範な舗装マネジメントシステムの構築が要求されている.
舗装マネジメントシステムを構築するためには,舗装構造を適切に評価する方法が必要である.近年,FWDによる測定たわみを逆解析した舗装の弾性係数を用いることにより,舗装構造の評価技術は急速に発展してきた.しかし,FWDたわみによる舗装弾性係数の逆解析には,解の非唯一性や逆解析結果の不安定性などの問題が指摘されており,その実用性が問題視されている.
そこで,本研究は,舗装弾性係数の逆解析結果が不安定となる原因を解明し,安定的な逆解析方法を構築することを目的に行ったものである.
本研究では,従来の逆解析方法である最小二乗法に存在する問題点を検討し,拡張ベイズ法による舗装弾性係数の逆解析方法を提案した.そして,FWD共通試験,アスファルト舗装の追跡調査,コンクリ-ト舗装の連続測定および全国の各種舗装におけるFWD測定結果を用いて,拡張ベイズ法による舗装弾性係数の逆解析を行い,その結果の信頼性と舗装構造の評価に対する実用性について検討を行った.
本研究は,第1章から第7章で構成される.以下に,各章の概要と得られた知見を述べる.
第1章は,従来のFWD測定たわみによる舗装弾性係数の逆解析に存在する問題点を明らかにし,本研究の目的と各章の構成を述べた.
第2章は,FWD共通試験の結果に対し,従来の方法である最小二乗法による逆解析を行い弾性係数の信頼性を考察した.この考察により,最小二乗法による舗装弾性係数の逆解析は,解が不安定であることを指摘した.この問題について,測定たわみと計算たわみの残差自乗和RMSによるコンタ-図を用いて考察したところ,舗装弾性係数の逆解析には共線性の問題が存在していること,たわみ測定誤差の影響を受けるため収束範囲が小さくならないことが明らかとなった.
第3章は,測定たわみに弾性係数の事前情報を加えて拡張ベイズ法による舗装弾性係数の逆解析の適用性について検討した.また,舗装弾性係数の事前情報が逆解析結果に及ぼす影響についても考察した.
第4章は,本研究で開発した拡張ベイズ法に基づいた舗装弾性係数の逆解析システムについて論じた.このシステムでは,拡張ベイズ法によって舗装弾性係数を計算するプログラムとエキスパ-トシステムが含まれている.エキスパ-トシステムは,これまでの研究成果を集約し,測定時期の路面温度,気温および舗装を構成する層の材料種類によって,各層弾性係数の事前情報,および事前情報の重み係数を客観的に推定するものである.また,FWDによる測定たわみの異常なデ-タを判別し,逆解析に用いるたわみおよびたわみの重み係数を推定する機能を持っている.
第5章では,拡張ベイズ法による逆解析結果の信頼性を考察するために,第1~3回のFWD共通試験結果より逆解析した舗装弾性係数を用いて,各種舗装における,同一機種および機種間のたわみ測定誤差による逆解析結果への影響を調査した.また,これらの舗装を構成する各層の層厚の誤差による影響を,シミュレ-ションによって検討した.
第6章では,拡張ベイズ法による舗装の逆解析弾性係数の実用性について,アスファルト舗装におけるFWD追跡調査の逆解析結果を用い,供用期間などによる舗装弾性係数の変化を考察した.また,逆解析による舗装弾性係数を用いた舗装の構造評価の実用性を検討するために,全国の各種舗装におけるFWD測定デ-タから逆解析した舗装弾性係数を用いて,路面状態の良否を検討した.
第7章では,本研究の結論についてまとめた.
拡張ベイズ法による舗装弾性係数の逆解析は,事前情報を適切に利用することによって,従来の逆解析方法における逆解析結果の不安定の問題を解決できる.さらに,FWD共通試験結果,および供用している舗装の測定結果を用いて考察した結果により,拡張ベイズ法による舗装弾性係数は十分な信頼性と実用性を有する.