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格子パネルを用いた埋設ジョイントの力学特性と合理的設計法に関する研究

氏名 高橋 修
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第113号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 格子パネルを用いた埋設ジョイントの力学特性と合理的設計法に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 丸山 暉彦
 副査 教授 丸山 久一
 副査 助教授 宮木 康幸
 副査 助教授 唐 伯明
 副査 東京農業大学 教授 牧 恒雄

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1 序論 p.1
1.1 埋設ジョイントの概要と現在の状況 p.1
1.2 格子パネルを用いた型式の概要 p.4
1.3 格子パネルを用いた埋設ジョイントの既往の設計法 p.6
1.4 格子パネルを用いた埋設ジョイントの問題点と本研究の目的 p.7
1.5 本研究の概要と論文の構成 p.9

2 桁端部の変位と埋設ジョイント舗装体の変形の実状 p.19
2.1 はじめに p.19
2.2 測定現場の概要 p.21
2.3 桁の伸縮変位と舗装体の変形の挙動 p.21
2.3.1 測定項目とその測定方法 p.21
2.3.2 測定結果および考察 p.22
2.4 活荷重による回転変位の実挙動 p.26
2.4.1 測定方法 p.27
2.4.2 測定結果および考察 p.27
2.5 まとめ p.29

3 格子パネルを用いた埋設ジョイントのひずみ分散特性 p.49
3.1 はじめに p.49
3.2 本章の検討で対象とした変形作用 p.50
3.3 ひずみ分散特性を評価する室内実験 p.51
3.3.1 試験方法 p.51
3.3.2 試験条件 p.52
3.3.3 試験結果および考察 p.53
3.3.4 室内試験のまとめ p.56
3.4 摩擦力を考慮した埋設ジョイントの構造特性 p.57
3.4.1 シート間に生じる摩擦力の考え方 p.57
3.4.2 摩擦を考慮した埋設ジョイントの構造モデル p.58
3.4.3 ひずみ分散の性能と摩擦および変形係数の関係 p.60
3.4.4 構造特性における格子パネルの効果 p.61
3.5 まとめ p.62

4 格子パネルによる埋設ジョイント舗装体の補強効果 p.75
4.1 はじめに p.75
4.2 直接引張試験による緩和弾性率の推定 p.77
4.2.1 使用材料 p.78
4.2.2 供試体および試験方法 p.79
4.2.3 緩和弾性率の求め方 p.80
4.2.4 試験結果および考察 p.81
4.3 格子パネルによる舗装体の補強効果 p.86
4.3.1 緩和弾性率による評価 p.86
4.3.2 埋設ジョイントの変形挙動と緩和弾性率の関係 p.88
4.4 まとめ p.89

5 格子パネルを用いた埋設ジョイントの疲労抵抗性 p.103
5.1 はじめに p.103
5.2 静的曲げ試験による曲げ特性の評価 p.104
5.2.1 試験供試体 p.105
5.2.2 試験方法 p.106
5.2.3 試験結果および考察 p.107
5.3 繰返し曲げ試験による疲労特性の評価 p.109
5.3.1 試験供試体 p.109
5.3.2 試験方法 p.109
5.3.3 試験結果および考察 p.110
5.4 繰返し作用に対する埋設ジョイントの寿命予測 p.112
5.4.1 寿命予測の方法 p.112
5.4.2 舗装体に発生するひずみ p.113
5.4.3 舗装体の平均温度,およびスティフネスと温度の関係 p.114
5.4.4 寿命予測結果および考察 p.115
5.5 まとめ p.116

6 格子パネルを用いた埋設ジョイントの構造設計法 p.133
6.1 はじめに p.133
6.2 伸縮分散型の埋設ジョイントにおける構造設計の概念 p.135
6.3 舗装体の材料特性と摩擦力 p.136
6.3.1 舗装体の応力-ひずみ曲線 p.136
6.3.2 スライド用シート間に作用する摩擦力 p.136
6.4 個別要素法によるひずみ分散性能の評価 p.138
6.4.1 個別要素法の基礎理論 p.139
6.4.2 既往の粒子モデルの問題点 p.142
6.4.3 アスファルト混合物の物性を考慮した粒子モデル p.143
6.4.4 粒子モデルを構成する力学要素の係数値 p.145
6.4.5 埋設ジョイント舗装体の解析モデル p.147
6.4.6 摩擦力の考慮 p.147
6.4.7 シミュレーション解析の妥当性 p.148
6.4.8 解析結果 p.150
6.5 合理的な構造設計法の検討 p.150
6.5.1 合理的なスライド区間長の考え方 p.150
6.5.2 設計曲線の提案 p.151
6.6 まとめ p.152

7 結論 p.171

補遺A ハニカムパネルの変形特性 p.179

参考文献 p.193

謝辞 p.197

 道路橋の桁遊間部には,交通車両の安全性と走行性を確保するために伸縮装置が設けられており,橋面舗装は不連続なものとなっている。伸縮装置が損傷したり,あるいは表面のわだち掘れが進行すると段差か大きくなって,種々の問題を引き起こすことになる。近年では,このような問題の抜本的な対応策として,伸縮装置を取り去ってしまう「ノージョイント化」が推進されている。埋設ジョイントはノージョイント工法の一種であり,施工性と経済性に優れていることから,かなりの施工実績がある。埋設ジョイントの考え方は,橋面のアスファルト舗装を連続して舗設することにより,桁と桁,あるいは桁と橋台の遊間を舗装体で覆って継ぎ目が表面に現れないようにし,遊間に集中する桁端部の変位は,アスファルト混合物が有する伸縮性能で対応させようとするものである。
 埋設ジョイントには種々の型式があるが,本研究では格子パネルを用いた型式について検討した。この型式は,表層の連続化が完全に可能で,比較的長い伸縮桁長の橋梁においても適用することができる。その構造型式は,舗装体をハニカムセル状の格子パネルで補強し,舗装体と床版の境界に2枚のシートを敷設して付着が無いようにしたもので,舗装体が床版面をわずかに滑動することによって,桁の伸縮変位が舗装体の広い範囲で分散,吸収されるように意図したものである(以後,これをひずみ分散と称す)。桁端部の変位を分散させようとするこの種の型式においては,変位を効率よく分散させることが最も重要で,その程度によって耐久性や適用性が大きく左右されることになる。これまで,この型式の埋設ジョイントは,試験施工を繰り返すといった経験主体の改善が先行しており,重要なひずみ分散の性能やその他の基本的特性については,具体的な実験や理論を伴った基礎的な検討がほとんど行われていなかった。有効なノージョイント工法としての安定した耐久性の確保や,さらなる大型橋への適用性をはかるためには,基本特性を掌握して合理的な設計方法を構築していく必要がある。
 以上のような状況から,本研究では,格子パネルを用いた埋設ジョイントの材料特性と構造特性を現場測定や室内実験,および数値シミュレーションの結果に基づいて評価し,基本的な力学特性を明確化した。そして,この型式で最も重要であるひずみ分散に着目し,材料特性と構造特性に立脚した合理的な設計法の構築について検討を行った。
 本論文は第1章から第7章までの章立てで構成されている。各章の概要は,以下のとおりである。
 第1章では,埋設ジョイントが広く運用されるようになった経緯と格子パネルを用いた型式の概要を述べるとともに,この型式の問題点を整理して研究の目的を具体化し,本研究の位置づけを明らかにした。
 第2章では,埋設ジョイントに作用する外力とそれに対する埋設ジョイント舗装体の変形挙動を,実橋における現場測定によって調査した。埋設ジョイントに作用することになる外力は,温度変化による桁の伸縮変位と活荷重による桁端部の回転変位に起因するもので,測定ではこれらの変位を定量的に把握した。そして,温度変化による桁の伸縮変位に対する埋設ジョイント舗装体の変形挙動を,ひずみ分散に着目して整理した。
 第3章では,桁端部の伸縮作用に対する格子パネルを用いた埋設ジョイントの変形挙動を,条件を単純化した室内試験によって評価し,ひずみ分散の性能と構造特性の関係について検討した。温度や伸縮変位,および埋設ジョイントの構造型式を種々変化させ,それに対する舗装体の変形を調査した結果,ひずみ分散の程度は舗装体のスティフネスと,コンクリートスラブとの摩擦力に大きく依存しており,格子パネルは舗装体のスティフネスの改善に不可欠な部材であることを定性的に示した。
 第4章では,第3章で定性的に明らかとなった格子パネルによる舗装体の補強効果を定量的に評価した。ここでは,舗装体の破壊抵抗性は主に引張特性に依存しているものとし,舗装体に作用する変形作用はひずみ速度が極めて遅いことに留意して検討した。第2章の現場測定で舗装体の変形についての実際のひずみ速度が得られているので,温度とひずみ速度を広範囲に変化させた直接引張試験を実施し,これらの結果に時間温度換算則を適用して,実際のひずみ速度に対応した材料強度を求めた。
 第5章では,もう一つの変形作用である活荷重による桁端部の回転変位について検討した。活荷重による回転変位は,変位量は非常に小さいがひずみ速度はかなり速く,さらに発生する頻度が非常に多いことから,ここでは繰り返し荷重に対する疲労破壊という概念を導入して,埋設ジョイント舗装体の疲労抵抗性を評価した。埋設ジョイントの材料(アスファルト混合物単体,および格子パネルとの複合体)に対して繰り返し曲げ試験を実施して疲労破壊包絡線を求め,第2章の現場測定の結果と組み合わせて寿命予測を行った。すなわち、第2章での測定地点を対象とした寿命予測のケーススタディを行い,格子パネルを用いた型式とそうでない型式の疲労寿命を相対的に比較して疲労抵抗性を評価した。その結果,本工法では構造上の特徴によって回転変位の影響がかなり軽減され,回転変位に対する疲労寿命は比較的長いことを明らかにした。
 第6章では,第2章~第4章までの検討を踏まえて,ひずみ分散に着目した本型式の埋設ジョイントの合理的な構造設計法について考察した。ここでは,合理性を重視して,舗装体の粘弾性と摩擦力の影響を考慮できるように,拡張した個別要素法を用いた数値シミュレーションに基づいて検討した。一般のアスファルト舗装では各構成層の厚さを決めることが構造設計であるが,格子パネルを用いた埋設ジョイントではその橋軸方向の施工長さ,すなわち舗装体とコンクリートスラブを付着させない範囲を決めることが構造設計である。そして,舗装体に生じるひずみが許容値を超えないようにすることが構造設計の条件となる。このようなことから,桁の伸縮変位と埋設ジョイント舗装体にひずみが生じる範囲,および桁の伸縮変位と発生ひずみの大きさについて調査し,これらの具体的な関係を示した。そして,これらの関係と舗装体の破壊ひずみに基づいた一連の構造設計の手続きを提案した。
 第7章では,以上で得られた知見を総括し,さらに今後の課題について取りまとめて結論とした。

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