ネマチック液晶を用いた新表示モードに関する研究
氏名 高橋 泰樹
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第165号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 ネマチック液晶を用いた新表示モードに関する研究
論文審査委員
主査 教授 赤羽 正志
副査 教授 高田 雅介
副査 助教授 安井 寛治
副査 助教授 河合 晃
副査 工学院大学 教授 斎藤 進
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1 序論 p.1
1.1 はじめに -液晶ディスプレイの現状- p.1
1.2 本研究の背景・目的 p.4
1.3 本論文の構成 p.5
2 ねじれ垂直配向ネマチックLCD(VATN) p.8
2.1 はじめに p.8
2.2 セル構成 p.9
2.3 理論解析 p.10
2.3.1 方位角アンカリングの定義 p.11
2.3.2 連続体理論による解析 p.13
2.3.3 ねじれ垂直配向セルのしきい値 p.19
2.3.4 プレチルト角とねじれ角 p.20
2.3.5 電圧無印加時のセンターチルト角θm p.23
2.3.6 光学計算 p.24
2.4 実験方法 p.25
2.4.1 セル作製 p.25
2.4.2 測定系 p.26
2.5 計算・実験結果及び考察 p.28
2.5.1 計算に用いた定数 p.28
2.5.2 ダイレクター分布 p.29
2.5.3 電圧対透過率(V-T)特性 p.32
2.5.4 ポアンカレ球表示 p.35
2.5.5 過渡特性 p.40
2.5.6 色度特性 p.43
2.5.7 視角特性 p.45
2.5.8 しきい値特性 p.48
2.5.9 弾性定数依存性 p.49
2.5.10 ねじれ垂直配向セルのまとめ p.53
3 フレクソエレクトリック効果を用いたLCD p.54
3.1 はじめに p.54
3.2 フレクソエレクトリック効果とは p.54
3.3 過去の応用例から p.56
3.4 歪み配向のためのセル構造 p.58
3.5 連続体理論による解析 p.59
3.5.1 セル厚方向(z方向)に電圧を印加する場合 p.59
3.5.2 セル面内方向(y方向)に電界を印加する場合 p.64
3.5.3 フレクソエレクトリック係数の測定法 p.67
3.5.4 e11+e33の測定法 p.68
3.5.5 e11-e33の測定法 p.69
3.5.6 光学計算 p.70
3.6 実験方法 p.70
3.6.1 セル作製 p.70
3.6.2 測定系 p.71
3.6.3 計算に用いた定数 p.73
3.7 フレクソエレクトリック係数の測定 p.74
3.7.1 e11+e33 p.74
3.7.2 e11-e33 p.79
3.8 セル面内方向電界印加モードの電気光学特性の実験・計算結果及び考察 p.83
3.8.1 ダイレクター分布 p.85
3.8.2 印加電界対透過率(E-T)特性 p.90
3.8.3 過渡応答特性 p.94
3.8.4 各定数が理想的な場合 p.97
3.9 横電界印加準双安定表示モードの提案 p.103
3.10 セル厚方向電圧印加モードの電気光学特性の実験・計算結果及び考察 p.106
3.10.1 「境界層ディスプレイ」について p.107
3.10.2 理論解析 p.108
3.10.3 ダイレクター分布 p.108
3.10.4 Gibbs自由エネルギー p.111
3.10.5 BLDセルのV-T特性 p.113
3.10.6 splay-bend遷移 p.115
3.10.7 保持動作 p.115
3.11 フレクソエレクトリック効果を用いたLCDのまとめ p.119
4 総まとめ p.120
・謝辞 p.121
・参考文献 p.121
・参考文献 p.122
マルチメディア社会が本格的に到来しようとしている現在、マン・マシン・インターフェースとして重要な役割を果たすディスプレイのニーズがますます高まり、その1つである液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)は急速に開発・応用が進んでいる。一般にLCDとして広く用いられている液晶材料はネマチック液晶であり、各種表示モードが開発されている。しかし、ネマチック液晶においても現在に至るまで研究があまり行われていない分野もあり、本研究ではそのような分野から次の2テーマについて注目した。[]負の誘電率異方性を持つネマチック(Nn)液晶にカイラル材を添加し、初期配向でねじれ垂直配向を有するモードと、[]ネマチック液晶のフレクソエレクトリック効果を用い液晶分子ダイレクターを制御するモードである。本研究はこれらについて、LCDとしての可能性を探るための基礎実験・解析を行うことを目的とした。以下にその概要を記す。
[]ねじれ垂直配向LCD:新たな表示モードとしてねじれ垂直配向(VATN:Vertically Aligned Twisted Nematic)LCDを提案する。このLCDはカイラル材を添加したNn液晶を用い、初期状態でほぼ垂直配向である。ただし、電圧印加時にダイレクターが傾く方向を決めるために界面にはラビング処理を施してある。しきい値以下の電圧印加の時には旋光性が無く、直交偏光板下では暗表示となる。しきい値以上の印加電圧でダイレクターはねじれながら傾き、それにより複屈折効果あるいは旋光性の発現により明表示となる。印加電圧値とダイレクター配向変形の関係が従来の90°TNセルとほぼ逆の動作をする。しかし、単に従来のTNモードの特性と逆になるだけでなく、いくつかの興味深い現象も現れた。セル界面では電圧を印加した時もほぼ垂直配向のままなので、方位角方向のアンカリング力が非常に弱いと考えられ、セル上下基板間のねじれ角にはカイラル材の添加量が大きく影響する。これより、電気光学特性はセル厚とカイラル材固有ピッチの比d/P0に大きく依存するという結果が得られた。また、本研究を進めていく中で、ある条件下では基板両面をラビング処理しなくても、片面だけのラビング処理でも両面ラビング時と同様の特性が得られることが判明した。連続体理論を用いた理論解析を行うにあたり、方位角アンカリングについて従来用いられている式を拡張し用いた。また、しきい値電圧に関する理論式を導出し従来の垂直配向における理論式の拡張を行った。
[]フレクソエレクトリック効果を用いたLCD:フレクソエレクトリック効果は1969年にR.B.Meyerによりピエゾエレクトリック効果として提唱された現象である。通常、分極を持たないネマチック液晶にsplay(広がり)やbend(曲がり)のような歪みが与えられると分極が発生するこの効果を利用した新しい表示モードの可能性について理論と実験により検討を行った。理論解析や評価にあたり、フレクソエレクトリック係数値e11,e33(それぞれsplay,bend歪みに対応)が必要である。そこで、それら係数の和(e11+ e33)と、差(e11- e33)を求める測定法として新たな方法(電気光学特性のフィッティング)を提案し実際に測定を行った。また、表示モードとして、セル面内方向に電界を印加するモードとセル厚方向に電圧を印加するモードについて提案し、実験・理論計算により検討し、詳細を明らかにした。初期配向状態でフレクソエレクトリック分極を誘起させるためにHANまたはsplay配向セルを用いた。一般にLCDの制御に用いられている誘電的な効果は印加電界の極性には応答しないが、フレクソエレクトリック効果は印加電界の極性に応答することからダイレクターの回転方向を制御することができる。これより、フレクソエレクトリック効果と誘電的な効果を併用し、直流と交流の印加電界を組み合わせて用いることで準双安定な動作(表示)が可能であることを示し、そのようなLCDを提案した。また、セル厚方向に電圧を印加するモードとしては、1982年にJ.Cheng等により提案されたBoundary Layer Displayというモードに注目した。彼らは動作メカニズムを不純物イオンの影響であるであると結論付けている。しかし、splay配向を有し直流印加電圧で駆動(制御)することから本研究では、フレクソエレクトリック効果によるものであると推測し、実験と理論解析によりその動作メカニズムを明らかにした。