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新規LCD作製方法とその特性に関する研究

氏名 都甲 康夫
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第167号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 新規LCD作製方法とその特性に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 赤羽 正志
 副査 教授 高田 雅介
 副査 助教授 安井 寛治
 副査 助教授 河合 晃
 副査 山口東京理科大学 教授 小林 駿介

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目次

第1章 序論 p.1
 1.1 研究の背景 p.1
 1.1.1 液晶ディスプレイの歴史と発展 p.1
 1.1.2 液晶ディスプレイの問題点 p.2
 1.1.3 液晶の界面特性 p.2
 1.2 本研究の目的 p.3
 1.3 本研究の意義 p.3
 1.4 本論文の構成 p.4

第2章 液晶ディスプレイの歴史と発展 p.6
 2.1 諸言 p.6
 2.2 液晶とは p.6
 2.3 液晶の分類 p.7
 2.3.1 ネマティック液晶 p.7
 2.3.2 コレステリック液晶 p.8
 2.3.3 スメクティック液晶 p.8
 2.4 ネマティック液晶における液晶配向の分類 p.8
 2.5 液晶ディスプレイの分類 p.10
 2.5.1 ドットマトリクス駆動方式 p.11
 2.5.2 表示モ-ド解説 p.13
 2.6 薄膜トランジスタ駆動のLCD(TFT-LCD) p.18
 2.7 結言 p.21

第3章 液晶ディスプレイ改良の課題 p.22
 3.1 諸言 p.22
 3.2 ラビングについて p.22
 3.2.1 ラビングとは p.22
 3.2.2 ラビングに伴い発生する問題 p.23
 3.2.3 ラビング以外の液晶配向技術 p.23
 3.3 液晶表示の視角特性 p.26
 3.3.1 LCDの視角が狭い理由 p.26
 3.3.2 視角の狭い表示例 p.27
 3.3.3 LCDの広視角化技術 p.28
 3.4 結言 p.31

第4章 界面配向について p.32
 4.1 諸言 p.32
 4.2 プレティルト角 p.32
 4.2.1 プレティルト角測定方法 p.33
 4.3 界面アンカリング強度 p.33
 4.3.1 極角アンカリング強度 p.33
 4.3.2 方位角アンカリング強度 p.34
 4.4 メモリ効果 p.34
 4.5 界面状態による相転移温度 p.35
 4.5.1 ラビングLCDの相転移観察結果 p.35
 4.5.2 無配向LCDの相転移観察結果1 p.38
 4.5.3 無配向LCDの相転移観察結果2 p.40
 4.5.4 相転移観察結果まとめ p.42
 4.6 結言 p.42

第5章 アモルファス配向LCDとその特性 p.43
 5.1 諸言 p.43
 5.2 アモルファス配向TN-LCDの作製方法 p.44
 5.2.1 アモルファス配向TN-LCDの作製方法(I相注入法) p.44
 5.2.2 I注入法の問題点 p.44
 5.2.3 アモルファス配向TN-LCDの作製方法(N相注入法) p.45
 5.2.4 再配向温度 p.48 
 5.3 アモルファス配向LCDの配向観察 p.50
 5.4 アモルファス配向TN-LCDの動作原理 p.52
 5.5 アモルファス配向TN-LCDの電気光学特性 p.53
 5.5.1 電圧-透過率特性 p.54
 5.5.2 電圧-透過率の視角依存性 p.56
 5.5.3 電圧-透過率の温度依存性 p.59
 5.5.4 レスポンス特性 p.60
 5.6 電圧保持率 p.61
 5.7 プレティルト角と極角アンカリング強度 p.63
 5.7.1 理論解析 p.64
 5.7.2 しきい値場と飽和場の測定感度比較 p.70
 5.7.3 C-V特性測定系 p.71
 5.7.4 セル作製条件及び測定条件 p.72
 5.7.5 ストロングアンカリングセルのC-V特性 p.72
 5.7.6 リバ-スティルトディスクリネ-ションラインの影響 p.73
 5.7.7 ラビングLCDのプレティルト角、極角アンカリング強度測定結果(PI-B) p.76
 5.7.8 アモルファス配向LCDのプレティルト角、極角アンカリング強度測定結果(PI-B) p.77
 5.7.9 アモルファス配向LCDのプレティルト角、極角アンカリング強度測定結果(PI-C) p.78
 5.8 アモルファス配向TN-LCDの問題点 p.81
 5.9 結言 p.82

第6章 片面ラビング配向LCDとその特性 p.84
 6.1 諸言 p.84
 6.2 片面ラビング配向TN-LCDの作製方法 p.84
 6.3 片面ラビング配向TN-LCDの配向状態 p.85
 6.3.1 片面ラビング配向TN-LCDの配向観察 p.85
 6.3.2 片面ラビング配向TN-LCDの相転移モデル p.88
 6.4 片面ラビング配向TN-LCDの電気光学特性 p.89
 6.4.1 電圧-透過率特性 p.89
 6.4.2 電圧-透過率の視角依存性 p.90
 6.4.3 電圧-透過率の温度依存性 p.91
 6.4.4 レスポンス特性 p.92
 6.5 電圧保持率 p.93
 6.6 4分割片面ラビング配向TN-LCD p.95
 6.7 結言 p.97

第7章 転写配向LCDとその特性 p.99
 7.1 諸言 p.99
 7.2 転写配向LCDの作製方法 p.100
 7.3 実験で用いるポリミイド材料 p.102
 7.4 転移配向LCDの配向状態 p.103
 7.4.1 転写行程によるセルの配向観察 p.103
 7.4.2 転写配向TN-LCDの配向観察 p.104
 7.5 転写配向TN-LCDの電圧-透過率特性 p.106
 7.6 転写配向LCDの方位角アンカリング強度 p.107
 7.6.1 方位角アンカリング強度の測定方法 p.107
 7.6.2 転写配向LCDの方位角アンカリング強度の測定結果 p.108
 7.7 転写配向LCDのプレティルト角付与技術 p.110
 7.8 4分割転写配向TN-LCD p.114
 7.9 結言 p.115

第8章 結論 p.117

参考文献 p.120

本研究に関する発表論文及び学会発表 p.124

謝辞 p.128

 液晶ディスプレイ(LCD)は、軽量、薄型、低消費電力という長所があり、工業的に大きな発展を遂げている。特に薄膜トランジスタ(TFT)で駆動するTN-LCDは、大容量、高品位表示を可能とし、その応用分野はテレビ等の家電・民生分野からコンピュ-タ端末表示等の情報産業分野まで多岐にわたっている。しかしLCDには視角が狭いという問題があり、近年のLCD大画面化に伴いその問題解決が強く求められている。
 本研究では、新しいLCD作製方法(アモルファス配向法、片面ラビング配向法、転写配向法)について、液晶配向状態観察、電気光学特性、界面特性を中心に評価し、配向形成過程の解明、電気光学特性と配向性の相関に対する考察を行い、これらの技術が次世代の広視角LCD作製方法として適用できる可能性を検討した。ここでは、これらのLCD作製方法を主にTFT駆動用のTN-LCDに応用することを主眼において実験を行った。
 アモルファス配向LCDは、ラビングなどの配向処理を全く行うことなく作製されることを初めて示した新しい概念のLCDである。TN-LCDを作製する場合、無配向セルに適量のカイラル剤を添加した液晶を等方性液体相にて注入するか、同じ液晶をネマティック相状態にて注入し熱処理すればよい。そのため通常のLCDより短い工程でLCDを作製できる。この方法で作製したLCDの配向状態は無定形でかつ連続的に液晶分子配向方向が変化する構造でありその配向状態をアモルファス配向と呼ぶ。アモルファス配向が連続的な配向状態を有する理由は、バルクでの相転移温度が無配向界面より高いため等方性液体相からネマティック相への相転移がバルクから開始されることと、液晶分子はその細長い分子形状により分子同士が揃い合うように並ぶ性質があり、バルク現れたネマティック相領域の中では液晶分子は比較的自由に動けるため連続的な配列を形成すると考察される。
 アモルファス配向TN-LCDの無電圧印加時の透過率は通常のTN-LCDより約3%低いことを確認し、それは透過率の波長依存性に起因することを明らかにした。この差はノ-マリ-ホワイト表示を行う場合問題ではない。さらにアモルファス配向TN-LCDの電圧一透過率特性(T-V特性)の視角特性はその無定形な配向状態により、中間調表示反転のない極めて広い視角特性を有することを明らかにした。これがアモルファス配向TN-LCDの最大の長所である。アモルファス配向TN-LCDのT-V特性温度依存性やレスポンス特性については、通常のTN-LCDと同等であり、実用上全く問題のない特性であることが判った。また、TFT-LCDにおいて重要な電圧保持率についてアモルファス配向LCDは通常のLCDより優れていることを確認し、その原因を配向処理の観点から分析し基板上に形成したポリイミド膜表面をラビングすることが電圧保持率に悪影響を与えることを示した。
 アモルファス配向LCDでは無定形な配向状態であるため、プレティルト角の測定と液晶分子が界面に束縛されている強さを表す極角方向のアンカリング強度の評価が一般的な方法で行えない問題があったが、LCDの電圧一容量特性と弾性連続体理論に基づくシミュレ-ションから、上記特性の評価が可能なことを示した。その結果、アモルファス配向LCDの極角アンカリング強度はラビング配向LCDよりやや弱いものの実用上充分であり、プレティルト角は界面膜の表面エネルギ-と深い相関があることを明らかにした。
 片面ラビング配向LCDは、片面のみの配向処理によりLCDを作製できる。この作製方法でTN-LCDを作製するには、片面配向処理を除き、アモルファス配向TN-LCDと同じ工程で作製できる。この方法で作製したLCDの配向状態は、微小な配向ムラがあるものの巨視的には均一な配向状態である。片面ラビング配向LCDの等方性液体相からネマティック相への相転移は、ラビング界面から始まり、バルク、無配向界面の順に進行するため、片面のみの配向処理により特別な温度制御を施すことなくほぼ均一な配向状態が得られることを明らかにした。
 片面ラビング配向TN-LCDのT-V特性及びその視角依存性や温度依存性は通常のTN-LCDとほぼ同等であり、レスポンス特性と電圧保持率はアモルファス配向LCDと通常のTN-LCDの中間的な特性であることを示した。
 片面ラビング配向では画素を複数の配向方向の異なる領域に分ける配向(マルチドメイン配向)を、通常のLCD作製方法の1/2の工程で作製でき、この方法で作製したマルチドメイン配向TN-LCDは中間調表示反転のない視角特性を有することを確認した。
 転写配向LCDは片面ラビング配向法により無配向基板界面に転写された配向状態を両面に用いて作製するLCDである。転写配向LCDの配向状態は、片面ラビングLCDの配向状態とほぼ同一であり、転写配向TN-LCDのT-V特性はTFT-LCD用に充分な特性を示す。
 転写配向LCDの方位角方向のアンカリング強度は片面ラビング配向状態を長く保持するほど増大することを確認した。その結果、転写配向LCDでは転写時間等により方位角アンカリング強度を弱い配向からラビング並に強い配向まで自由に制御できる。転写配向LCDの測定結果は、アモルファス配向LCDと片面ラビング配向LCDの無配向基板上の方位角アンカリング強度も比較的強いことを示唆している。
 転写配向LCDのプレティルト角は転写基板上のポリイミド膜の表面エネルギ-に大きく依存し、低い表面エネルギ-ほど高いプレティルト角を示すことを明らかにした。
 さらに転写配向LCDは、オリジナル基板上にマルチドメイン配向処理を行えば、均一配向LCDと同じLCD作製工程により、繰り返しマルチドメイン配向LCDを作製できる。
 以上より、アモルファス配向LCD、片面ラビングLCD、転写配向LCDは、いずれもラビング処理によるLCDへの悪影響を避けることができ、LCD最大の課題である視角の狭さの問題を解消するLCDを工業化可能な工程で簡便に作製できることを明らかにした。
 本研究における新規配向LCDは様々な特徴を有しており、本研究で示したTN-LCD及びマルチドメイン配向LCDだけでなく、様々なLCDモ-ドヘの応用展開が期待される。

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