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窒化けい素の高温疲労き裂伝ぱに関する研究

氏名 宮下 幸雄
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第169号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 窒化けい素の高温疲労き裂伝ぱに関する研究
論文審査委員
 主査 教授 武藤 睦治
 副査 教授 田中 紘一
 副査 教授 植松 敬三
 副査 助教授 岡崎 正和
 副査 山口大学 教授 幡中 憲治
 副査 青山学院大学 助教授 小川 武史

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目次

第1章 序論 p.1
 1.1 窒化けい素の室温における疲労 p.2
 1.2 高温疲労 p.8
 1.3 本研究の目的 p.11
 1.4 本論文の構成と概要 p.11
 参考文献

第2章 高温疲労挙動および疲労き裂発生 p.18
 2.1 諸言 p.18
 2.2 試験方法 p.19
 2.2.1 供試材および試験片 p.19
 2.2.2 疲労試験 p.21
 2.3 結果及び考察 p.22
 2.3.1 疲労寿命に及ぼす予き裂長さの影響と疲労き裂発生 p.22
 2.3.2 疲労寿命に及ぼす周波数の影響 p.26
 2.4 結言 p.28
 参考文献

第3章 微小表面き裂の高温疲労き裂伝ぱ挙動 p.30
 3.1 諸言 p.30
 3.2 試験方法 p.31
 3.3 結果及び考察 p.34
 3.3.1 疲労き裂伝ぱ試験 p.34
 3.3.2 疲労き裂伝ぱ経路および破面の観察 p.34
 3.3.3 応力拡大係数の適用性 p.39
 3.3.4 長い貫通き裂の伝ぱ挙動との比較 p.41
 3.3.5 微小表面き裂の高温疲労き裂伝ぱ機構 p.34
 3.4 結言 p.30
 参考文献

第4章 長いき裂の高温疲労き裂伝ぱ特性 p.44
 4.1 諸言 p.44
 4.2 試験方法 p.46
 4.2.1 供試材および試験片 p.46
 4.2.2 疲労き裂伝ぱ試験 p.46
 4.3 結果および考察 p.50
 4.3.1 温度の影響 p.50
 4.3.2 繰り返し周波数の影響 p.50
 4.3.3 静疲労き裂伝ぱ挙動 p.53
 4.3.4 応力比の影響 p.53
 4.3.5 き裂伝ぱ経路の観察 p.59
 4.4 結言 p.64
 参考文献

第5章 高温静疲労き裂伝ぱ特性 p.67
 5.1 諸言 p.67
 5.2 試験方法 p.67
 5.3 結果および考察 p.68
 5.3.1 高温疲労き裂伝ぱ試験 p.68
 5.3.2 高温疲労き裂伝ぱ試験後の試験片による破壊靱性試験 p.73
 5.3.3 高温疲労き裂伝ぱにおけるブリッジングの役割 p.81
 5.3.4 高温疲労き裂伝ぱ挙動に及ぼす粒界相の特性の影響 p.84
 5.3.5 高温疲労き裂伝ぱ機構におけるき裂先端部の影響 p.84
 5.4 結言 p.87
 参考文献

第6章 高温疲労き裂伝ぱ挙動に及ぼす結晶粒界の影響 p.90
 6.1 諸言 p.90
 6.2 試験方法 p.91
 6.2.1 供試材および試験片 p.91
 6.2.2 試験方法 p.93
 6.2.2.1 室温疲労き裂伝ぱ試験 p.93
 6.2.2.2 高温疲労き裂伝ぱ試験 p.94
 6.2.2.3 き裂先端応力拡大係数ktip p.94
 6.3 結果および考察 p.96
 6.3.1 室温における疲労き裂伝ぱ特性 p.96
 6.3.2 高温疲労き裂伝ぱ特性 p.101
 6.3.3 高温疲労き裂伝ぱ挙動における結晶粒界の影響 p.101
 6.4 結言 p.106
 参考文献

第7章 高温疲労き裂伝ぱ機構および粒界挙動のTEM観察による検討 p.108
 7.1 諸言 p.108
 7.2 試験方法 p.109
 7.3 結果および考察 p.110
 7.3.1 TEM観察結果 p.110
 7.3.2 熱活性過程による検討 p.114
 7.3.3 高温疲労き裂伝ぱ機構 p.115
 7.3.4 高温疲労き裂伝ぱ試験における粒界相の挙動 p.118
 7.4 結言 p.121
 参考文献

第8章 結論 p.125

 近年、地球環境問題や省エネルギといった観点からガスタ-ビンなどのエネルギ機器の高効率化が求められており、また元来、苛酷環境にさらされる航空宇宙分野での材料開発への要求はますます高まっている。このような背景のもと、セラミックス材料は、耐熱性、耐食性および耐磨耗牲に優れ、従来の金属材料では実現不可能な環境下での使用に耐える材料として期待されている。中でも窒化けい素は高強度・高破壊靭性を有しているため、特に構造用材料として実用化も進んでいる。これまでのセラミックスの疲労に関する研究により、室温における疲労き裂伝ぱ特性や伝ぱ機構は明らかとなりつつある。しかし利用の期待されている高温における疲労に関しては、報告も少なく、たとえば最も基本的といえる繰返し疲労と静疲労のメカニズムの違いすら十分に明らかとはなっていない。次世代の高温用材料として期待されているセラミックス基複合材の開発のためにも、モノリシック材の高温疲労破壊挙動を十分に把握することが重要である。そこで本研究は、窒化けい素の高温でのき裂発生から伝ぱ、そして破壊に至るまでの一貫した疲労破壊挙動を明らかにし、さらにその疲労き裂伝ぱ機構を解明することを目指した。
 第1章「序論」では、窒化けい素の室温と高温の疲労に関するこれまでの研究をまとめ、未解明な部分を明らかにし、本研究の目的および本論文の概要を示した。
 第2章「高温疲労挙動および疲労き裂発生」では、ビッカ-ス圧子により予き裂を導入した試験片を用いて疲労試験を行った。その結果、結晶粒界相の軟化が顕著な温度領域では、疲労寿命は時間依存性が強くなることを明らかにした。また予き裂長さの異なる試験片による疲労試験から、疲労き裂が進展する臨界き裂長さを求め、全疲労寿命においては、き裂伝ぱ過程が重要であることを示した。
 第3章「微小表面き裂の高温疲労き裂伝ぱ挙動」では、前章と同一の試験片を用いて、高温疲労き裂伝ぱ試験を行った。その結果、微小表面き裂は、はじめにき裂伝ぱ速度が低下し、その後加速するV型の伝ぱ挙動を示し、また長い貫通き裂の下限界値よりも低いkappでも伝ぱした。これら微小き裂伝ぱ挙動は、き裂伝ぱ経路中の応力遮へい効果と時間に依存したクリ-プ損傷の影響の両者に起因する現象であることを示した。
 第4章「基本的な高温疲労き裂伝ぱ特性」では、高温疲労き裂伝ぱ挙動に関与している諸因子の影響を検討した。その結果、温度が高いほどき裂伝ぱ抵抗は低下し、粒界相が十分に軟化する温度領域では,室温よりもさらに疲労き裂伝ぱ挙動はΔKではなく最大作用応力拡大係数Kappが支配的となり、周波数や応力比の影響が認められず、繰返し疲労と静疲労の伝ぱ挙動は一致した。
 第5章「高温静疲労き裂伝ぱ特性」では、前章とは異なる窒化けい素について静疲労と繰返し疲労き裂伝ぱ試験を行った。その結果、高温では室温とは反対に、繰返し疲労の方が静疲労よりもき裂伝ぱ抵抗が高くなった。高温では、ブリッジング粒まわりの軟化したガラス相による粘弾性抵抗が疲労き裂伝ぱ挙動に影響を及ぼしており、粒界相の粘弾性効果の違いにより、繰返し疲労と静疲労の伝ぱ挙動の関係は変動することを示した。
 第6章「高温疲労き裂伝ぱ挙動に及ぼす結晶粒径の影響」では、同一出発原料粉末から、異なる焼結条件により製造された結晶粒径の異なる2種類の窒化けい素を供試材とし、疲労き裂伝ぱ試験を行った。その結果、室温および高温のいずれにおいても結晶粒径の大きい材料の方が大きいき裂伝ぱ抵抗を示したが、高温では、結晶粒径による伝ぱ曲線の相違が減少した。これは主に高温で結晶粒界相が軟化し、き裂伝ぱ挙動が結晶粒単位でなくなることが要因となっていることを示した。
 第7章「高温疲労き裂伝ぱ機構および粒界挙動のTEM観察による検討」では、第4章で示した高温疲労き裂伝ぱ試験後の試験片のき裂近傍からサンプルを切り出し、透過電子顕微鏡による観察を行った。その結果、主き裂近傍の粒界や粒界三重点に多数のボイドやマイクロクラックが観察され、さらに粒界すべりの形跡も認められた。したがって高温疲労き裂伝ぱ機構は、基本的には室温と同様にマイクロクラックの発生やき裂ウェイク中のブリッジングの形成という類似の形態をとるが、その詳細な機構には大きな相違があり、粒界すべりや粘弾性効果といった粒界ガラス相の軟化に起因する高温特有のメカニズムが大きく働いていることを明らかにした。
 第8章「結論」では、以上の各章で得られた結論を総括し、窒化けい素の疲労き裂伝ぱ特性とその機構についてまとめるとともに、より優れた高温材料開発への指針を示した。

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