複素係数アナログフィルタの構成とその応用に関する研究
氏名 張 小興
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第157号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 複素係数アナログフィルタの構成とその応用に関する研究
論文審査委員
主査 教授 神林 紀嘉
副査 教授 島田 正治
副査 教授 吉川 敏則
副査 助教授 中川 健治
副査 助教授 張 熙
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1 序論 p.1
1.1 研究の背景と目的
1.2 本論文の概要 p.2
2 複素信号処理の基本概念と従来の回路構成 p.6
2.1 まえがき p.6
2.2 複素信号処理の基本概念 p.7
2.2.1 複素信号処理とその等価表現 p.7
2.2.2 周波数シフト法 p.8
2.2.3 拡張周波数変換法 p.10
2.2.4 虚数抵抗及びその等価表現 p.12
2.3 従来の1次複素係数共振回路 p.14
2.3.1 虚数素子による等価表現 p.14
2.3.2 回路構成 p.15
2.3.3 非理想応答解析 p.17
2.4 従来の双1次複素係数共振回路 p.17
2.4.1 虚数素子による等価表現 p.17
2.4.2 回路構成 p.18
2.4.3 非理想応答解析 p.19
2.5 むすび p.20
3 1次複素係数フィルタの構成 p.21
3.1 まえがき p.21
3.2 CCIIを用いた1次複素係数共振回路の構成 p.22
3.2.1 CCIIの電気的特性 p.22
3.2.2 回路構成 p.22
3.2.3 非理想応答解析 p.23
3.2.4 構成例 p.25
3.3 OTAを用いた1次複素係数共振回路の構成 p.26
3.3.1 OTAの電気的特性 p.26
3.3.2 提案回路 p.27
3.3.2.1 回路構成 p.27
3.3.2.2 感度解析 p.29
3.3.2.3 構成例 p.31
3.3.3 構成素子数の低減 p.34
3.3.3.1 回路構成 p.34
3.3.3.2 構成例 p.36
3.3.4 高次フィルタの構成 p.38
3.4 CCIIを用いた双1次複素係数共振回路の構成 p.39
3.4.1 回路構成 p.39
3.4.2 非理想応答解析 p.41
3.4.3 感度解析 p.41
3.4.4 構成例 p.43
3.5 CCIIとCFCCIIを用いた双1次回路の構成 p.47
3.5.1 CFCCIIの電気的特性 p.47
3.5.2 回路構成 p.48
3.5.3 非理想応答解析 p.49
3.5.4 高次フィルタの構成 p.50
3.6 むすび p.51
4 2次複素係数フィルタの構成 p.53
4.1 まえがき p.53
4.2 2次複素係数フィルタ回路 p.54
4.2.1 2次複素伝達関数 p.54
4.2.2 回路構成 p.54
4.2.3 回路解析 p.56
4.3 構成例 p.58
4.4 むすび p.61
5 複素係数フィルタの応用 p.64
5.1 まえがき p.64
5.2 複素係数フィルタのヒルベルト変換への応用 p.65
5.2.1 ヒルベルト変換 p.65
5.2.2 解析信号変換器のモデル p.65
5.2.3 複素係数フィルタの実係数解析 p.66
5.2.4 出力信号の解析信号特性解析 p.67
5.2.5 構成例 p.68
5.2.6 能動解析信号変換器の特性考察 p.69
5.3 複素係数フィルタのSSB通信への応用 p.74
5.3.1 SSB信号の基本概念 p.75
5.3.2 従来のSSB信号発生方法 p.77
5.3.3 提案SSB信号発生方式 p.78
5.3.4 狭帯域フィルタの回路構成 p.79
5.3.5 出力信号解析 p.82
5.3.6 群遅延特性 p.84
5.3.7 影像除去比 p.85
5.3.8 設計手順 p.89
5.3.9 構成例 p.91
5.4 むすび p.95
6 結論 p.96
謝辞 p.98
参考文献 p.99
学術論文 p.103
講演論文 p.105
近年情報通信社会の急速な発展に伴い,信号処理はマルチメディア通信の基盤技術として非常に重要な役割を担っている.信号処理においては,一般に実係数信号を入,出力とするシステムが用いられ,アナログフィルタもその前提に立って設計されている.信号が多種多様となるため,より複雑な仕様を満足するシステムの設計とその実現が要求されている.この要求を満たすため,1981年Lang G.RとBrackett P.O.は複素係数アナログ信号処理を提案した.これにより,従来の実係数信号処理の場合と比べてシステムの設計自由度の増大,素子感度の低減を可能にし,より高度な信号処理ができるようになった.しかし,入力信号を複素化する付加回路と実現が極めて難しい虚数素子を必要とするので,十数年に渡ってほとんど進んでいない状態で,これまでの回路構成が二つしか提案されていない.また応用に関する報告も非常に少ない.そこで,本研究では,複素係数フィルタの回路構成とその応用に関する研究を行う.
第1章「序論」では,本研究の背景と目的を挙げ,本論文の概要を述べている.
第2章「複素係数信号処理の一般概念と従来の回路構成」では,初めに複素信号を取り扱う複素信号処理の基本的な概念を紹介し,複素係数伝達関数を導出する周波数変換法,虚数抵抗の概念とOP-AMPを用いた従来の複素係数共振回路と双1次複素係数共振回路の構成を述べる.
第3章「1次複素係数共振回路の構成」では,1次複素係数共振回路と双1次複素係数共振回路の構成と素子数低減についての検討を行っている.まず第2世代電流コンベア(second-generation current conveyor;CCII)を用いた1次複素係数共振回路の構成を示す.この回路はOP-AMPを用いた従来の回路と比較し,高周波数領域での動作が有利で,能動素子の不完全特性を容易に補償できる利点を持っている.次に,OTA(operational transconductance amplifier)を用いたパラメーター可変複素係数フィルタの回路構成及び素子数低減法を示す.回路実現に必要な受動素子は接地されたキャパシタしか用いないので,集積化しやすい利点を持っている.また,双1次複素係数共振回路の構成と素子数低減については,CCIIとCFCCII(second-generation current conveyor with current follower)を用いた双1次複素係数フィルタの機能ブロックの構成を示している.2つの機能ブロックを用いて構成した高次の複素係数フィルタは,OP-AMPを用いた従来の回路より,素子数を低減でき,小型化・集積化しやすく,能動素子の不完全特性を補償しやすい利点を持っている.最後に,実験により,これらの回路の正当性を確認している.
第4章「2次複素係数フィルタの回路構成」においては,OP-AMPを用いた高次複素係数フィルタの素子数低減を目的とし,2次複素係数帯域通過フィルタの回路構成を示している.従来の1次型を用いて構成したフィルタより,必要な能動素子数及び抵抗数を低減できることを示す.最後に回路の構成例が与えられ,シミュレーションにより,本手法の正当性を確認している.
第5章「複素係数フィルタの応用」では,複素係数フィルタのヒルベルト変換への応用とSSB通信への応用を述べている.複素係数フィルタのヒルベルト変換への応用について,複素係数フイルタでは,複素入力信号の実現方法が問題となる.第4章で提案した2次複素係数フィルタの回路を1入力の実係数回路とすることにより,ヒルベルト変換へ応用できることを示す.最後に構成例が与えられ,シミュレーションにより,本手法の正当性を確認している.次に,複素係数フィルタのSSB通信への応用は,複素係数フィルタを狭帯域通過フィルタとしてSSB(single sideband)通信への応用を検討している.SSB通信方式は,データ通信,無線通信,移動体通信などの通信分野において広く利用されている.SSB信号の発生方式には,直接SSBフィルタリング法と位相シフト法がある.位相シフトによるSSB信号発生器は解析信号変換器,複素係数フィルタとキャリア周波数マルチプライアからなる.そこで,音声のような比較的狭帯域の場合においては,実信号のみを入力信号とする複素係数フィルタを用いると,解析信号変換器と複素係数フィルタの機能を併せ持つ一つの回路で置き換えることができ,これを用いたSSB信号発生器を構成している.そこで,SSB信号発生器の回路規模を縮小でき,またさらなる高密度集積化及び低消費電力化が可能となる.次に,回路構成,素子感度,群遅延特性,近似誤差の影像除去比に対する影響を検討する.最後に,シミュレーション及び実験により,本構成法の正当性を確認している.
第6章「結論」では,本研究のまとめと得られた結果を示している.