本文ここから

コンクリートに用いる粉体の保水機構と流動特性に関する基礎的研究

氏名 緑川 猛彦
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第110号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 コンクリートに用いる粉体の保水機構と流動特性に関する基礎的研究
論文審査委員
 主査 教授 丸山 久一
 副査 教授 桃井 清至
 副査 教授 丸山 暉彦
 副査 教授 福島 祐介
 副査 助教授 杉本 光隆
 副査 助教授 下村 匠

平成9(1997)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.1.1 高流動コンクリートの開発 p.1
1.1.2 高流動コンクリートの問題点 p.2
1.2 既往の研究 p.4
1.2.1 高流動コンクリートの種類 p.4
1.2.2 配合設計手法 p.8
1.3 研究の目的及び本論文の構成 p.15
1.3.1 研究の目的 p.15
1.3.2 本論文の構成 p.16
第1章の参考文献 p.17
第2章 粉体特性の定量化 p.20
2.1 緒言 p.20
2.2 使用材料 p.21
2.3 粒子形状の定量化 p.27
2.3.1 定量化手法 p.27
2.3.2 測定方法 p.29
2.3.3 定量化結果 p.29
2.4 粒度分布の定式化 p.33
2.4.1 累積質量分布関数の定義 p.33
2.4.2 累積質量分布関数の具体形 p.34
2.4.3 パラメータの決定 p.35
2.5 結言 p.38
第2章の参考文献 p.39
第3章 粉体粒子表面への吸着水膜モデル p.40
3.1 緒言 p.40
3.2 モデルの決定 p.41
3.3 水膜モデル p.45
3.3.1 凝集個数 p.45
3.3.2 水膜厚の算出方法 p.52
3.4 結言 p.55
第3章の参考文献 p.56
第4章 水膜モデルによるペーストの流動性評価 p.57
4.1 緒言 p.57
4.2 実験方法 p.58
4.2.1 使用材料 p.58
4.2.2 実験方法 p.59
4.3 結果および考察 p.63
4.3.1 減水剤を添加しないペースト性状 p.63
4.3.2 減水剤を添加したペースト性状 p.68
4.4 結言 p.72
第4章の参考文献 p.73
第5章 水膜モデルによるモルタルおよびコンクリートの流動性評価 p.74
5.1 緒言 p.74
5.2 実験方法 p.76
5.2.1 使用材料 p.76
5.2.2 実験方法 p.77
5.3 結果および考察 p.80
5.3.1 モルタル p.80
5.3.2 コンクリート p.85
5.4 結言 p.94
第5章の参考文献 p.95
第6章 水膜モデルによる高流動コンクリートの簡易な配合設計手法 p.96
6.1 緒言 p.96
6.2 配合設計手法 p.97
6.2.1 凝集個数 p.97
6.2.2 水膜厚 p.102
6.2.3 水粉体体積比算出のフロー p.102
6.3 実験方法 p.105
6.4 結果および考察 p.107
6.5 結言 p.110
第6章の参考文献 p.111
第7章 結論 p.112
著者らによる主な関係論文 p.115
謝辞 p.116
著者略歴 p.117

 高流動コンクリートの配合設計の確立には,粉体,水および高性能減水剤の役割を明確にし,粉体種類や混合割合に関わらず,高流動コンクリートとなる単位水量や減水剤添加量を算定することが必要である.これらのことから本研究は,粉体の粒子形状や粒度分布などの物理的性質が高流動コンクリートの流動性に及ぼす影響を検討することを目的とし,粉体の物理的特性の定量化,粉体の保水機構を表現する物理モデルの構築,提案モデルの妥当性の検証,およびモデルを用いた高流動コンクリートの配合設計手法の提案を行った.
 本論文は第1章から第7章からなり,各章の構成は以下のとおりである.

 第1章では,本研究の背景と既往の研究および目的について述べている.

 第2章では,粉体の物理的性質の一つである粒子形状や粒度分布の定量化手法について述べている.本研究では粉体の保水機構を的確に表現し得ることを念頭に,粒子形状や粒度分布の定量化を行った.つまり,粉体粒子の凝集現象を力学的に表現できること,集合体である粉体の各粒径における粒子個数を正確に算出できることに着目したのである.その結果,粒子断面の最大長とそれに直角方向の長さとの比である長短比により粒子の扁平度を表現できること,また,採用した関数により実測される粒度分布を精度良く表現できることが明らかになった.

 第3章では,粉体の保水機構に関与する,粉体粒子表面への水の吸着現象をモデル化した.モデルの基本概念は,「粉体粒子間距離が同じであれば,如何なる種類の粉体を用いた場合でも,ぺーストのフレッシュ性状は同じである」というものである.ただし,粒子間距離は,一定の膜厚で固定される水膜によって表現できると仮定している.また,粉体粒子の凝集個数は,Van der Waals力による凝集力と粒子の回転慣性力による分散力のバランスにより決定されるとし,凝集を生じた場合の水膜は凝集した粒子群を取巻くように生じると考えている.モデルの構築に用いた仮定は,必ずしも実現象に即したものではない.しかしながら現状では,粉体の保水機構を説明するモデルが無いこと,および粉体の化学成分によっては物理量が把握できないものもあることなどから,本章で提案したモデルの工学的意味は大きいものと考えられる.

 第4章では,提案したモデルを各種粉体を用いて作製したぺーストに適用し,モデルの妥当性の検証および減水剤の果たす役割について検討した.フロー値が同じであるぺーストを作製するために必要な水量は,粉体種類によって大きく異なる.そこで,これらのぺーストの配合にモデルを適用して水膜厚を計算した結果,粒子周りの水膜厚はほぼ等しくなった.したがって,本モデルを適用することにより,ぺーストのフロー値と水膜厚は一意的に対応することが明らかになった.

 一方,減水剤を添加したぺーストは少ない水量で大きなフロー値を示す.つまり,フロー値が同じであれば,減水剤を用いたぺーストは小さい水膜厚となる.これは,「粒子間距離が同じであれば,フロー値も同じ」というモデルの仮定に反することとなるため,これを表現する手段として減水剤による仮想膜厚を提案した.この仮想膜は,水のように物理的に粒子間に入り込むことによって粒子間距離を保つものではなく,粒子間距離を保つための電気的反発力を膜厚として換算したものである.この仮想膜を考慮することにより,ぺーストのフロー値と粒子周りの膜厚は,減水剤の有無に関わらず一意的に対応することとなり,かつ,減水剤の役割をほぼ定量的に表現できることとなった.

 第5章では,提案したモデルを各種粉体を用いたモルタルに適用し,モデルの拡張および高流動コンクリートの配合設計概念について検討した.また,モデルを用いて高流動コンクリートの単位水量を算定し,作製されたコンクリートのフレッシュ性状を評価した.フロー値およびV漏斗流下時間が同じである,各種粉体を用いたモルタルにモデルを適用した結果,粉体粒子周りの水膜厚はほぼ等しくなった.したがって,モルタルのフレッシュ性状と粒子周りの水膜厚は一意的に対応することが明らかになり,モデルを適用することで,粉体の粒度分布と粒子形状から高流動コンクリートの単位水量を算定できることが示唆された.

 水粉体体積比および減水剤添加量をさまざまに変化させたモルタルにモデルを適用した結果,フロー値は減水剤による仮想膜厚に,V漏斗流下時間は水膜厚に大きく関係することが確認され,一般的に行われている「スランプフロー値は降伏値に関係することから減水剤添加量により調整し,V漏斗流下時間は粘性に関係することから水量により調整する」ことが,ほぼ定量的に表現することができた.高流動コンクリートのフレッシュ性状を満足するためには,水膜厚と仮想膜厚を加算した全膜厚が,フロー値を満足する膜厚とV漏斗を満足する膜厚を同時に満たさなければならない.高流動コンクリートでは,フロー値を満足する膜厚とV漏斗を満足する膜厚が異なるため,水膜厚という物理的膜厚で,これらを同時に満足することはできない.したがって,フロー値を満足する膜厚とV漏斗を満足する膜厚の差を,減水剤の仮想膜厚により満たすことが,配合設計にとって重要な鍵となる.

 基本となる高流動コンクリートの配合から,モデルを用いて粉体粒子周りの水膜厚を算定し,この水膜を用いて,他の粉体を用いた場合の配合設計を行った.いずれの粉体を用いた場合においても,コンクリートのフレッシュ性状はほぼ満足するものが作製され,本モデルにより高流動コンクリートの単位水量の算定が可能であることが明らかになった.

 第6章では,高流動コンクリートの簡易な配合設計手法について提案し,提案した手法にてコンクリートを作製しフレッシュ性状の確認を行った.前章までに途べたモデルは,粉体の電気・化学的作用力を粉体の特性値として取り扱っている.しかしながら,化学成分が不明な粉体について,この特性値を算定することは困難である.そこで,粒度分布を表現するパラメータBと凝集比率との関係から,用いる粉体の凝集個数を算出し,これをモデルに適用する方法を提案した.提案した手法にて,各種粉体を混合して作製した新たな粉体を用いた場合の単位水量を求め,作製されたコンクリートのフレッシュ性状を評価した.いずれのコンクリートとも高流動コンクリートとしてのフレッシュ性状を満足しており,本手法により容易に高流動コンクリートの単位水量を算出することができることが明らかになった.

 第7章では,本研究で得られた成果をまとめて結論としている.

平成9(1997)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る