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移動通信における同期検波の品質向上に関する研究

氏名 濱村 昌則
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第158号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 移動通信における同期検波の品質向上に関する研究
論文審査委員
 主査 助教授 太刀川 信一
 副査 教授 島田 正治
 副査 教授 荻原 春生
 副査 教授 吉川 敏則
 副査 助教授 中川 健治

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第1章 序論 p.1
1.1 まえがき p.1
1.2 フェージングの発生メカニズム p.2
1.2.1 一様フェージング p.3
1.2.2 選択性フェージング p.5
1.3 同期検波 p.6
1.3.1 同期検波受信 p.6
1.3.2 相関受信 p.7
1.4 直接拡散/スペクトル拡散通信方式 p.8
1.4.1 基本原理 p.8
1.4.2 DS/SS方式の耐選択性フェージング性能 p.10
1.4.3 RAKE受信 p.12
1.5 本論文の概要 p.15
第2章 広帯域スペクトル拡散直接波受信方式(BSS-DR方式) p.19
2.1 本章の概要 p.19
2.2 BSS-DR方式の性能 p.19
2.2.1 ライシアン波とレイリー波の2ブランチRAKE受信 p.20
2.2.2 ライスフェージング環境下におけるDS/SS方式の性能 p.22
2.3 BSS-DR方式の同期捕捉 p.26
2.3.1 システムモデル p.26
2.3.2 シミュレーション結果 p.28
2.4 むすび p.30
第3章 BSS-DR方式における奇関数・帯域制限の影響 p.31
3.1 本章の概要 p.31
3.2 システムモデル p.31
3.3 γとビット誤り率の関係 p.34
3.4 奇自己相関の影響 p.36
3.4.1 M系列の奇自己相関係数 p.36
3.4.2 ランダム系列の奇自己相関係数 p.38
3.4.3 M系列とランダム系列の偶自己相関係数 p.39
3.4.4 γ性能 p.39
3.5 奇自己相関および帯域制限の影響 p.40
3.5.1 帯域制限フィルタ p.41
3.5.2 帯域制限時の奇自己相関係数 p.41
3.5.3 γ性能 p.42
3.6 むすび p.45
第4章 車速感応型PLL回路(VSR-PLL) p.47
4.1 本章の概要 p.47
4.2 指向性アンテナ方式の利点と問題点 p.48
4.2.1 指向性アンテナ入力信号 p.48
4.2.2 指向性アンテナ方式の利点 p.49
4.2.3 指向性アンテナ方式の問題点 p.50
4.3 車速感応型PLL回路(VSR-PLL) p.50
4.3.1 システムモデル p.50
4.3.2 性能解析 p.54
(i)検波後平均電力損(平均損失) p.54
(ii)軽減困難な誤り率 p.56
4.3.3 方式パラメータ p.57
4.4 性能比較 p.59
4.4.1 検波後平均電力損(平均損失) p.59
(i)アンテナ指向性と平均損失 p.59
(ii)一定損失に対する所要ループ利得 p.61
4.4.2 軽減困難な誤り率 p.61
(i)アンテナ指向性と軽減困難な誤り率 p.61
(ii)軽減困難な誤り率を一定とする所要ループ利得 p.62
4.5 むすび p.64
第5章 車速感応型PLL回路のライスフェージング環境への影響 p.67
5.1 本章の概要 p.67
5.2 システムモデル p.67
5.2.1 受信信号モデル p.67
5.2.2 ライスフェージング環境下での車速感応型PLL回路 p.70
5.3 f0推定回路の性能 p.72
5.3.1 f0推定誤り率 p.72
5.3.2 f0推定時間 p.74
5.3.3 f0推定の2乗平均誤差 p.75
5.4 提案PLL回路の性能 p.77
5.4.1 QPSK方式の軽減困難な誤り率 p.77
5.4.2 性能比較 p.79
(i)直接波到来角と軽減困難な誤り率 p.79
(ii)ループ利得と軽減困難な誤り率 p.80
(iii)伝搬環境と軽減困難な誤り率 p.81
5.5 むすび p.81
第6章 車速感応型PLL回路を用いたBSS-DR方式の性能 p.83
6.1 本章の概要 p.83
6.2 システムモデル p.83
6.2.1 送信機モデル p.83
6.2.2 伝送路モデル p.84
6.2.3 受信機モデル p.86
6.3 シミュレーション方法 p.89
6.4 性能比較 p.92
6.4.1 ビット誤り率特性 p.93
6.4.2 電力配分とビット誤り率 p.94
6.4.3 移動体速度とビット誤り率 p.95
6.5 むすび p.96
第7章 総括 p.97
謝辞 p.101
文献 p.103
付録A 積分器の伝達係数と送還受信 p.107
 B M系列の奇自己相関の分散関数 p.111
本研究に関する発表論文一覧 p.119

 将来の移動通信でやりとりされる情報は,高い通信品質の要求されるものが多くなる.例えば,高度道路交通システム(ITS)では,走行支援・歩行者支援の情報だけでなく,緊急車両用の情報やシステム間の制御用の情報等にも高品質の通信が要求される.一般に,移動通信においては,無線伝送路のフェージングとよばれる現象が通信品質を劣化させる主な原因となっている.従って,フェージングの影響を軽減することが移動通信の品質向上につながるため,重要な検討課題となる.
 フェージングは,周波数選択性フェージングと一様フェージングに大別されるが,狭帯域の通信方式やスペクトル拡散(SS)方式では前者のフェージングの影響はほとんど受けない.本論文では後者の一様フェージング対策を2つの側面から検討している.1つ目は,主に第2,3章で述べる見通しのある無線伝送路におけるSS方式の適用法の検討である.これは,無線伝送路をよりミクロな視点でとらえ直すことで,一様フェージングの原因となるレイリー波を直接拡散SS(DS/SS)方式の持つ時間分解能により除去するという方法である.2つ目は,主に第4,5章で述べる搬送波再生系の検討である.これは,受信信号の定常周波数オフセットを補償することで一様フェージングの影響を軽減するという方法である.本論文は,これら2つの手法により,移動通信における同期検波性能の向上を図ることを目的としている.以下に,各章の概要を述べる.
 第2章では,見通しのある無線伝送路におけるDS/SS方式の構成法として,広帯域スペクトル拡散直接波受信(BSS-DR)方式を提案している.まず,この章を展開する上で必要となるライシアン波とレイリー波に対する2ブランチDS/SS-RAKE受信方式のビット誤り率の理論式を導出している.次に,導出した理論式を用いてDS/SS方式,DS/SS-RAKE受信方式の性能を示し,DS/SS方式の特別な場合という位置づけで,BSS-DR方式の性能を明らかにしている.そして,BSS-DR方式のビット誤り率が,従来の狭帯域のDS/SS方式やDS/SS-RAKE受信方式より大幅に優れていることを示している。
 第3章では,BSS-DR方式における擬似雑音(PN)信号の奇自己相関特性や帯域制限の影響について検討している.PN信号用の系列として自己相関特性に優れたM系列を用いたとしても,情報の負荷により奇自己相関が発生するため自己相関特性は乱れる.また,法的な規制のために必要となる送信信号の帯域制限の影響や,高速処理,ハードウェアの簡略化のために行うスイッチ回路による逆拡散の影響により,自己相関特性にはやはり乱れが生じる.この章では,これらがBSS-DR方式の性能に及ぼす影響について考察している.また,本章のM系列に関する検討の際には,一般化が困難なためよく知られていない奇自己相関の性質に関して,M系列の奇自己相関の分散特性が実は簡単な2次関数で表現できることを明らかにしている.
 第4章では,レイリーフェージング環境で指向性アンテナを用いた場合の同期検波品質の改善のため,搬送波再生精度を向上する車速感応型PLL回路(VSR-PLL)を提案している.移動通信に指向性アンテナを用いる方法は,一様フェージングの影響の軽減策として有効な方法である.しかしながらこの場合には,ドップラー現象によりアンテナ入力信号に定常周波数オフセットが生じる.VSR-PLLはこの周波数オフセットを補償する回路である.まず最初に,移動通信に指向性アンテナを用いることにより生じる利点と問題点を整理している.次に,新しい設計パラメータである車速感応係数の最適な設計法について述べている.そしてVSR-PLLの性能を調べる試験方式としてAM-SC方式ならびにBPSK方式を用い,平均電力損,軽減困難な誤り率の観点から性能を解析している.VSR-PLLは,ビーム幅の小さな指向性アンテナを移動体の進行方向に設置した場合に最も有効に機能し,従来のPLLと比べ軽減困難な誤り率を2桁以上小さくできることを述べている.
 第5章では,VSR-PLLをライスフェージング環境に適用した場合の性能について検討している.ライスフェージング環境では直接波電力が他に比べて大きくなることも多く,この場合,受信信号には直接波のドップラーシフトで近似できる定常周波数オフセットが生じる.従って,VSR-PLLをライスフェージング環境に適用して周波数オフセットを補償することにより,同期検波の品質改善が期待できる.まず,VSR-PLLをライスフェージング環境に適用する場合に必要となる直接波周波数の推定法を提案し,その性能を推定誤り率,推定時間,推定誤差により明らかにしている.そして,QPSK方式を試験方式に用い,提案の推定法を用いたVSR-PLLの性能を軽減困難な誤り率により評価している.結果として,直接波が移動体の進行方向から到来する場合の軽減困難な誤り率を,従来PLLの使用時と比べ1桁小さくできることを明らかにしている.
 第6章では,BSS-DR方式にVSR-PLLを適用した場合の性能をビット誤り率により検討している.BSS-DR方式に関する第2,3章の検討では,同期検波の際の搬送波再生が理想的に行われることを前提として解析しており,周波数オフセットの問題も合めPLLにより搬送波再生を行う場合の検討は行っていない.この章ではBSS-DR方式ならびにVSR-PLLに関する付属的な検討を行っており,ビット誤り率特性を計算機シミュレーションにより求め,従来のPLLを用いた場合と比較している.そして,VSR-PLLを用いることにより,ほぼ理想的な搬送波再生が可能となることを示している.
 最後に第7章では,各章で得られた結果のまとめ,今後の課題等を述べ,本論文を総括している.

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