セラミック多層配線基板用グリーンシートの特性制御
氏名 木下 円
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第164号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 セラミック多層配線基板用グリーンシートの特性制御
論文審査委員
主査 教授 植松 敬三
副査 教授 松下 和正
副査 教授 小松 高行
副査 教授 野坂 芳雄
副査 助教授 内田 希
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第1章 緒言 p.1
1.1 背景とねらい p.1
1.2 大形電子計算機の技術の推移 p.2
1.2.1 高速化の課題 p.2
1.2.2 実装技術の進歩 p.3
1.3 セラミック多層配線基板とグリーンシート特性 p.4
1.3.1 セラミック多層配線基板の製造プロセスに関する要求特性 p.4
1.3.2 多層配線基板に影響を及ぼすグリーンシート特性 p.5
1.3.3 セラミック多層配線基板の基板材料に依存する要求特性 p.7
1.4 グリーンシート材料 p.9
1.4.1 セラミック材料 p.9
1.4.2 バインダ材料 p.10
1.5 本論文の目的と構成 p.11
1.5.1 本論文の目的 p.11
1.5.2 本論文の構成 p.11
第2章 画像によるシリカ原料粉体性状の解析と焼結特性の関係 p.18
2.1 緒言 p.18
2.2 実験方法 p.19
2.2.1 試料の調整 p.19
2.2.2 評価 p.20
2.3 結果 p.21
2.4 考察 p.25
2.5 結論 p.28
第3章 ガラス多成分セラミックスラリーへの分散剤添加の影響 p.37
3.1 緒言 p.37
3.2 実験方法 p.37
3.3 結果 p.39
3.4 考察 p.41
3.5 結論 p.44
第4章 ムライト-ガラス系グリーンシート乾燥条件と水系バインダ偏析の関係 p.53
4.1 緒言 p.53
4.2 実験方法 p.54
4.2.1 グリーンシートの製造方法 p.54
4.2.2 エネルギー分散型X線分光法(EDX)によるバインダの定量分析 p.55
4.3 結果 p.57
4.4 考察 p.58
4.5 結論 p.61
第5章 ムライト-ガラス系グリーンシート特性と圧着性の関係 p.66
5.1 緒言 p.66
5.2 実験方法 p.67
5.2.1 グリーンシートの製造方法 p.67
5.2.2 グリーンシートの圧着試験 p.67
5.2.3 グリーンシート中のバインダ量の定量 p.68
5.3 結果 p.69
5.4 考察 p.71
5.5 結論 p.73
第6章 グリーンシート作製プロセスへの適用と成果 p.83
6.1 画像によるシリカ原料粉体性状の解析 p.83
6.2 ガラス多成分セラミックスラリーへの分散剤添加の影響 p.84
第7章 総括 p.86
謝辞 p.91
近年、大形電子計算機やその周辺機器の発展は、LSIやICの発展によるものが大きい。このLSIを実装する技術もこれに伴って大きく発展してきた。演算速度の高速化のためには、配線基板内の配線長をできるだけ短くする必要がある。これを達成するために、多層配線基板は、微細化、高集積(多層)化が進められている。また、これまでは問題にならなかった原料やプロセスの微細な差異が、高集積化のためにクローズアップされてきている。
本研究は、多層配線基板製造の技術の中で、製造プロセスに関する基礎的知見を得ることを目的として進めてきた。以下、各章で論じた内容の概略について述べる。
第1章 緒言 では、多層配線基板及びグリーンシートの概要について述べ、既往の研究につてまとめ、本研究の目標について明らかにした。
第2章 画像によるシリカ原料粉体性状の解析と焼結特性の関係 では、ムライト-シリカ-アルミナ系の多層配線基板に着目し、原料粉体のひとつであるシリカについて検討を行った。従来の一般的な評価法では同じと判定された2種類のシリカのロットの差を明らかにするため、新たな方法として、SEM観察と画像解析を適用した。2種類の原料ロットが成形体の構造と焼結性に及ぼす影響を、粒子を形態的な観点から調べた。その結果、延伸粒子の含有率及び凝集粒子の含有量が異なることが明らかになった。このような形態の差異がグリーンシートの密度や焼結収縮率に影響を及ぼしていることを明らかにした。これにより、これまで未解明であった原料粉体のロット間差の原因に関して、解析手法を与えるものであると考える。
第3章 ガラス多成分セラミックスラリーへの分散剤添加の影響 では、分散剤がセラミック粒子に及ぼす影響を明らかにし、粒子分散を制御することを目的に検討を行った。グリーンシートの製造においては、通常数種類のセラミック粉体を用いる。これまでの研究では、1種類の粉体の分散性に関する報告は多いが、数種類の粉体を混合した場合の分散性に関する報告はないため、本研究では、各粉体単体の分散性と混合した場合の分散性についての分散剤添加量と粒径、スラリー粘度の検討を行った。また、分散剤とグリーンシートの機械的特性の関係を検討した結果、分散剤の最適添加量は、個々の原料粉体に対する分散剤の最適添加量から総合的に決定される。グリーンシートの機械的特性はスラリー分散性に影響を受け、特に分散剤過剰により粒子が再凝集すると、グリーンシートの密度、引張り、剪断強度は低下することが明らかになった。また、レーザー回折・散乱式の粒径測定装置は、多成分混合系の粉体測定においては屈折率の大きい粉体の影響を受けることが明らかになった。
第4章 ムライト-ガラス系グリーンシート乾燥条件と水系バインダ偏析の関係 では、多層配線基板の層間の接続信頼性向上をめざし、グリーンシート層間の接着性に寄与すると思われるグリーンシート中のバインダ量のコントロールを目的とた。材料系は、ムライト-ガラス系のセラミック材料と水溶性アクリルバインダである。グリーンシート中のバインダ量の定量は、グリーンシート厚さが240μm程度であることから、焼結等による重量減少から求めることは困難である。そこで、エネルギー分散型X線分光法(EDX)によるバインダ中の炭素の定量分析を行った。EDXは通常、炭素等の軽元素の定量分析には向かないとされているが、測定手法を工夫することにより測定精度は向上する。この手法を用い、各乾燥条件により乾燥させたグリーンシート中のバインダの分布を測定した結果、乾燥速度が早いほど、乾燥表面、すなわちブレード側にバインダの偏析が見られた。
第5章 ムライト-ガラス系グリーンシート特性と圧着性の関係 では、第4章と同じ材料系を用いて、多層配線基板の層間の接続信頼性向上をめざし、圧着性を支配する要因を明らかにすることを目的とた。バインダによる化学的接着、粒子の絡み合いによるアンカー効果による物理的接着の2方向から検討した結果、圧着性はグリーンシートの接着面直下に存在するバインダ量に支配されることを明らかにした。すなわち、バインダが圧着時の熱により接着面直下のバインダが軟化し、更に圧力によりバインダが押し出されて層間の粒子を接着する。さらに、層間接着に必要なバインダ量は、C量にして7mass%以上必要であり、この量を確保するためには、バインダの偏析制御が必要であり、最小限のバインダ量でグリーンシートの層間を接着する上での重要な技術であることを明らかにした。
第6章 グリーンシート作製プロセスヘの適用と成果 では、本研究の成果をもとに製造している製品について述べた。
第7章 総括 では、本論文を総括した。