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PCB分解菌Rhodococcus sp. RHA1株のPCB分解系遺伝子群の構造とその発現制御

氏名 山田 昭博
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第160号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 PCB分解菌Rhodococcus sp. RHA1株のPCB分解系遺伝子群の構造とその発現制御
論文審査委員
 主査 教授 福田 雅夫
 副査 教授 森川 康
 副査 教授 山元 皓二
 副査 助教授 岡田 宏文
 副査 講師 政井 英司
 副査 助教授 解良 芳夫

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目次 p.1
略称 p.4
序章 p.5
第一章 グラム陽性PCB分解菌Rhodococcus sp.RHA1株のビフェニル/PCB分解系上流遺伝子群、bphABCの単離と解析 p.13
1-1 緒言 p.13
1-2 材料と方法 p.15
(1) 使用した菌株およびプラスミド p.15
(2) DNA操作 p.15
(3) 一方向欠失変異体の作製 p.18
(4) 塩基配列決定用鋳型プラスミドの調製 p.18
(5) 塩基配列の決定 p.19
(6) DNA配列の解析 p.19
(7) 大腸菌のresting cellの調製 p.19
(8) 大腸菌内で発現させた遺伝子産物の確認 p.20
(9) 大腸菌組換え体の粗酵素抽出液の乳鉢による調製法 p.20
(10) ビフェニルおよび23DHBPからのメタ開裂物質の検出 p.21
(11) ferredoxin reductase 活性測定法 p.21
(12) SDS-PAGE p.21
(13) 超遠心によるプラスミドの精製法 p.23
(14) in vitro transcription/translation法 p.23
(15) Rhodococcus属細菌のエレクトロポレーションによる形質転換法 p.23
(16) Rhodococcus属細菌のresting cellの調製 p.24
(17) Rhodococcus属細菌からの全DNAおよび全RNAの抽出法 p.24
(18) RNAスロットブロットハイブリダイゼーション p.24
(19) サザンおよびコロニーハイブリダイゼーション p.25
(20) DNA配列のaccession number p.25
1-3 結果 p.26
1-3-1 ビフェニル/PCB分解系上流遺伝子領域の塩基配列の決定 p.26
1-3-2 bphACB遺伝子群の大腸菌における発現(resting cellにおける活性) p.26
1-3-3 bphACB遺伝子群の大腸菌における発現(粗酵素抽出液における活性) p.30
1-3-4 bphACB遺伝子群のRhodococcus rhodochrous ATCC12674株における発現 p.32
1-3-5 RHA1株におけるbphACB遺伝子群の転写 p.38
1-3-6 RHA1株のbphA1およびbphC遺伝子破壊株の構築とその解析 p.38
1-4 考察 p.42
第二章 RHA1株のメタ開裂物質加水分解酵素遺伝子の多様性 p.51
2-1 緒言 p.51
2-2 材料と方法 p.54
(1) 使用菌株及びプラスミド p.54
(2) コスミドベクター、pK4HKcosの作成 p.54
(3) コスミドライブラリーの作成 p.54
(4) メタ開裂物質の調製 p.57
(5) 酵素活性の測定 p.57
(6) タンパク質濃度の測定法 p.57
(7) 塩基配列のaccession number p.57
2-3 結果 p.58
2-3-1 etbD1遺伝子のクローニング p.58
2-3-2 pKHD1およびpKHD2挿入断片の塩基配列の解析 p.58
2-3-3 大腸菌における3種類のメタ開裂物質加水分解酵素遺伝子産物の解析 p.62
2-3-4 RHA1株における加水分解酵素遺伝子の発現 p.62
2-3-5 RHA1株の変異株における加水分解酵素遺伝子の解析 p.66
2-4 考察 p.69
第三章 Rhodococcus属細菌用レポータープラスミドの構築とbphA1プロモーター領域の解析 p.74
3-1 緒言 p.74
3-2 材料と方法 p.74
(1) 使用した菌株およびプラスミド p.74
(2) ルシフェラーゼ活性の測定法 p.74
(3) プライマー伸長法による転写開始点の決定 p.76
3-3 結果 p.77
3-3-1 レポータープラスミドの構築 p.77
3-3-2 RNAスロットブロットハイブリダイゼーションを用いたbphA1プロモーター領域の推定 p.77
3-3-3 レポーター遺伝子を用いたbphA1プロモーターからの転写誘導の解析 p.81
3-3-4 bphA1プロモーター領域の縮小化 p.81
3-3-5 bphA1プロモーターの転写開始点の決定 p.84
3-4 考察 p.84
第四章 RHA1株のビフェニル/PCB分解系遺伝子群の転写制御遺伝子の取得とその解析 p.88
4-1 緒言 p.88
4-2 材料と方法 p.88
4-3 結果 p.90
4-3-1 bphA1プロモーターからの転写を活性化するDNA断片の取得 p.90
4-3-2 転写活性化を示すDNA断片の塩基配列の決定 p.90
4-3-3 8.8-kb HindIII断片の各種欠失断片によるbphA1プロモーターからの転写活性化 p.96
4-3-4 bphST遺伝子産物の転写誘導における基質特異性 p.98
4-3-5 bphST遺伝子の大腸菌における発現 p.98
4-3-6 bphST遺伝子上流のプロモーター解析 p.98
4-3-7 bphA1プロモーターの転写開始点の同定 p.101
4-3-8 3種類の加水分解酵素遺伝子プロモーターに対するbphST遺伝子の制御 p.101
4-3-9 もう一つの転写活性化因子のクローニングと解析 p.104
4-4 考察 p.108
終章 p.115
謝辞 p.120
引用文献 p.121

 生態系での分解が難しい人工の化学物質による環境汚染が各地で引き起こされている。中でもポリ塩化ビフェニル(PCB)による環境汚染はその人体への毒性の強さから深刻な問題となっている。PCBの分解処理のためにいくつかの処理方法が検討されているが、土壌などに広く低濃慶で汚染された地域の浄化にはPCBを分解する能力を持つ微生物を用いた処理方法であるバイオレメディエーションがコストベネフィットの面から注目されている。これまでに単離、解析されたPCB分解菌の多くはグラム陰性菌によるものであり、そのほとんどは低塩素置換のPCB異性体しか分解できなかった。そこで本研究では、γ-HCH施用試験圃場より単離された高塩素置換のPCB異性体を分解でき、これまでに知見の乏しいグラム陽性の好気的PCB分解菌Rhodococcus sp. RHA1株のPCB/ビフェニル分解系遺伝子群の単離、解析を行うことによりPCB分解機構を解明することを目的として行われたものである。
 まず第一章ではビフェニル/PCB分解系上流遺伝子群であるbphA1A2A3A4-bphC-bphB遺伝子領域の塩基配列を決定し、bphACB遺伝子群がビフェニルからメタ開裂までの三段階の反応を行う酵素をコードしていることを明らかにした。そして、これら遺伝子群はビフェニル、エチルベンゼンなどの芳香族化合物により誘導されることを明らかにした。さらにbphA1およびbphC遺伝子破壊株がビフェニルで生育できなくなったことから、これら遺伝子がRHA1株にとってビフェニルでの生育に必須であることを明らかにした。第二章ではRHA1株に存在する三種類のメタ開裂物質加水分解酵素遺伝子のうち、3-メチルカテコールのメタ開裂物質を特異的に加水分解する酵素(EtbD1)をコードする遺伝子、etbD1を単離した。そしてRHA1株に存在する三種類の加水分解酵素遺伝子(etbD1bphDetbD2)の遺伝子産物(EtbD1、BphD、EtbD2)の基質特異性ならびにRHA1株における発現を調べ、EtbD1およびEtbD2は3-メチルカテコールの、BphDは23DHBPのメタ開裂物質に高い活性を示し、これら三種類の遺伝子が単一の基質で協同的に発現していることを明らかにした。この発現パターンはbphACBの発現パターンと類似していた。さらにetbD1の変異体を用いた解析から、etbD1遺伝子がエチルベンゼンの代謝に関与していることが示唆された。これら分解系遺伝子群の発現制御機構を明らかにするために、第三章ではRhodococcus属細菌用のレポータープラスミドを構築し、bphACB遺伝子群のプロモーター(PbphA1)領域の解析を行った。構築したレポータープラスミドを用いてPbphA1からの発現が様々な芳香族化合物により誘導されること、欠失変異体およびプライマー伸長法での解析によりプロモーター領域、ならびに転写制御因子の結合領域を推定した。PbphA1からの発現が正に転写誘導されることが示唆されたため、第四章ではPbphA1からの転写を活性化する転写制御遺伝子の単離、解析を行った。bphB遺伝子の下流にPbphA1からの転写を活性化する遺伝子が存在し、この領域の塩基配列を決定したところ1,598アミノ酸のタンパクをコードするbphSとその下流に209アミノ酸のタンパクをコードするbphTが見られた。bphSおよびbphTより推定されるアミノ酸配列は種々の二成分制御系の転写制御因子と相同性が見られ、BphSはセンサーヒスチジンキナーゼと、BphTはレスポンスレギュレーターと相同性があり、自己リン酸化部位、リン酸受容部位などのアミノ酸配列はよく保存されていたことからbphSTはRHA1株の二成分制御系の転写活性化因子をコードすると推定された。欠失変異体の解析からbphST遺伝子領域のみでPbphA1からの転写を活性化することができ、また、bphST遺伝子産物(BphST)がビフェニル、エチルベンゼンなどの芳香族化合物に反応してPbphA1、からの転写を活性化したことを明らかにした。しかし、BphSTはパラクロロビフェニルやPCBによる転写活性化は示さなかった。BphSTによる転写活性化はRHA1株に存在する三種類の加水分解酵素遺伝子のプロモーターに対しても起こり、BphSTにより様々な分解系遺伝子群が協同的に転写誘導される機構が示唆された。さらにRHA1株にはbphSTに相同性を示す領域が存在し、この領域を用いた時にもPbphA1からの転写が活性化されることから、bphSと類似の転写制御遺伝子、bphS2の存在が示唆された。
 以上、本研究においてRHA1株のビフェニル/PCB分解系遺伝子群の単離、解析を行い、さらにそれらの転写制御因子の取得および解析を行った。本研究の成果は今後RHA1株を用いたより強力なPCB分解菌の遺伝子工学的育種と育種菌を用いたPCB汚染地域の生物浄化のために大きく貢献できるものと考えられる。

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