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雪崩対策のための雪中爆破と雪崩危険度の推定法に関する研究

氏名 森末 晴男
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第104号
学位授与の日付 平成9年9月17日
学位論文の題目 雪崩対策のための雪中爆破と雪崩危険度の推定法に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 早川 典生
 副査 教授 福嶋 祐介
 副査 助教授 東 信彦
 副査 新潟大学 教授 小林 俊一
 副査 農林水産省森林総合研究所 主任研究官 遠藤 八十一

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 本研究の目的と背景 p.1
1.2 既往の研究 p.4
1.3 本論文の構成と内容 p.6
第2章 人工雪崩と雪崩対策 p.11
2.1 雪崩対策制度の現状 p.11
2.2 構造物による雪崩対策の現状 p.14
2.3 雪崩警戒システムの現状 p.21
2.4 人工雪崩による雪崩対策の現状 p.24
2.5 実斜面における人工雪崩の実験 p.26
2.5.1 人工雪崩実験の計画および方法 p.26
2.5.2 人工雪崩実験および考察 p.28
2.5.3 人工雪崩の問題点 p.35
第3章 雪の材料特性と測定法に関する検討 p.37
3.1 はじめに p.37
3.2 原位置引張測定器の開発 p.39
3.2.1 測定器の概要 p.39
3.2.2 本測定器の特徴と測定方法 p.42
3.2.3 本測定器による雪の引張強度 p.45
3.3 雪の材料特性 p.47
3.3.1 積雪の温度 p.47
3.3.2 雪の密度 p.50
3.3.3 積雪の硬度 p.52
3.3.4 積雪のせん断強度 p.54
3.3.5 材料特性の相関性 p.57
3.4 まとめ p.61
第4章 雪崩対策のための雪中爆破の影響に関する実験 p.63
4.1 はじめに p.63
4.2 実験環境 p.65
4.2.1 実験場所 p.65
4.2.2 積雪状況 p.66
4.3 爆薬の量と種類が積雪層の破壊におよぼす影響 p.69
4.3.1 実験方法 p.69
4.3.2 使用爆薬 p.71
4.3.3 実験結果および考察 p.74
4.4 装薬位置が積雪層の破壊におよぼす影響 p.78
4.4.1 実験方法 p.78
4.4.2 実験結果および考察 p.80
4.5 雪中爆破の影響範囲 p.85
4.5.1 爆薬の種類・量ならびに装薬位置と破壊領域の関係 p.85
5.5.2 爆破による周辺積雪層への影響 p.97
4.5.3 爆破相互間の影響に関する実験的検証 p.99
4.6 まとめ p.103
第5章 雪崩の運動に関する検討 p.105
5.1 はじめに p.105
5.2 実験的に求めた雪魂の動摩擦係数 p.107
5.2.1 実験装置と実験方法 p.107
5.2.2 実験結果と考察 p.110
5.3 雪崩の運動に解析について p.114
5.3.1 雪崩の運動に関する基礎方程式 p.114
5.3.2 雪崩の到達範囲と広がり幅 p.117
5.3.3 雪崩到達範囲のシミュレーション手法 p.119
5.4 シミュレーション例 p.122
5.4.1 モデル地形のシミュレーション結果 p.122
5.4.2 実斜面のシミュレーション結果 p.127
5.5 まとめ p.137
第6章 ファジィ推論による雪崩危険度監視システムの開発 p.140
6.1 はじめに p.140
6.2 ファジィ推論 p.142
6.2.1 ファジィ集合とメンバーシップ関数 p.142
6.2.2 ファジィ集合の演算 p.144
6.2.3 ファジィ推論と推論規則 p.146
6.3 各種要因の感覚表現 p.151
6.3.1 雪崩発生危険地域の判定要因 p.151
6.3.2 入力メンバーシップ関数 p.152
6.3.3 気象条件の感覚表現 p.153
6.3.4 地形条件の感覚表現 p.156
6.3.5 環境条件の感覚表現 p.157
6.3.6 出力の感覚表現 p.159
6.4 推論規則 p.161
6.4.1 気象条件に対する推論規則 p.161
6.4.2 地形・環境条件に対する推論規則 p.161
6.4.3 両推論結果の合成 p.162
6.4.4 推論例 p.163
6.5 雪崩危険度監視システム p.165
6.5.1 システムの位置づけ p.165
6.5.2 システム構成 p.166
6.5.3 出力例 p.169
6.5.4 観測結果との比較検討 p.173
6.6 まとめ p.177
第7章 結論 p.180
7.1 本研究で得られた成果 p.180
7.2 今後の課題 p.184

 本論文は、雪崩による災害を未然に防ぐことを目的として、
(1)実験・研究対象地域の積雪の物理特性の把握と試験法の開発
(2)雪崩危険箇所を人工雪崩によって積極的に除去するための、爆薬の利用法に関する実験式の誘導。
(3)雪崩による被害を未然に防ぐため、ファジィ推論や雪崩運動シミュレーションを用いた雪崩危険範囲の推定法の開発。
の3つの研究をまとめたもので、以下7章からなっている。
 第1章では、本研究の目的と背景、これらの目的に対する既往の研究をまとめた。
 第2章では、雪崩対策の現状を構造物などによる雪崩対策施設などのけハード面と、雪崩対策の制度や雪崩監視・警告システムなどのソフト面の2つに分けて整理した。また、危険回避のための1手法である人工雪崩の現状についても概括した。さらに、実際の現場において爆薬による人工雪崩実験を実施し、人工雪崩を発生させる場合の爆薬の利用法に関する問題点を明らかにした。
 第3章では、雪崩の解析や予知に必要となるであろう雪の物性を明らかにすることを目的にして、密度・硬度・せん断強度については既往の研究を調査し、原位置で測定可能で、広く利用されている手法を用いて雪の物性試験を行った。また、積雪中の雪温については、24時間の温度変化を観測するため、観測箱を利用した自動観測システムを開発し、雪温の計測を行った結果、積雪中では外気温にあまり左右されず、ほぼ0℃で推移することが明らかになった。一方、引張試験法については、shear frameと同程度の大きさの原位置引張試験器を新たに開発して引張強度の計測を行った結果、引張強度は雪質毎に1%有意となり、差異のあるデータが得られた。さらに、積雪層の物性に関する相関性について検討を加えた結果、引張強度、せん断強度、硬度には相関係数が0.7以上と、互いに高い相関性があることが明らかとなった。
 第4章では、人工雪崩を成功させるために、ダイナマイトや含水爆薬を用いた場合の雪中爆破の積雪層への影響として、1)爆薬の種類による積雪層への影響、2)爆薬の量の相違による積雪層への影響、3)装薬位置の相違による積雪層への影響、を明らかにすることを目的として実験的研究を行った。本研究で行った一連の実験方法ならびに実験結果を示すとともに、爆破の影響として積雪中の破壊孔に着目し、爆薬量と破壊岩石量との関係としてよく知られているHauserの式を修正して爆薬量と積雪への影響範囲を示す実験式を提案した。また、この実験式を検証する意味で、爆破相互間の干渉に関する実験を行い、本実験式の有効性を立証した。
 第5章では、雪崩の到達範囲を推測することを目的として、運動学的な立場から雪崩の走路や広がり幅について検討し、雪崩危険度監視システムに組み込むための準備を行った。本章では、Perlaらのモデルを基礎として3次元地形における雪崩の運動解析を行い、雪崩の影響範囲を検討した。この方法を応用して簡易的な雪崩の広がり幅のシミュレーション手法を提案した。一方、雪崩の運動における抵抗力に寄与する動摩擦係数を求めるため、ダンプトラックを利用して小規模な法面を作成し、雪の動的特性を計測する新しい実験方法を開発した。その結果得られた動摩擦係数の平均値は0.54であり、既往の研究結果と同程度の値であった。さらに、モデル地形対象スキー場でこの動摩擦係数を用いて運動走路の解析を行ったところ、ほぼ現象を説明できる結果が得られた。
 第6章では、スキー場周辺で発生する雪崩による災害を未然に防ぐことを目的として、ファジィ推論を用いた雪崩危険度監視システムの開発を行った。スキー場などの雪崩対策の基本は、管理者によるパトロールであり、1)いつ:気象条件、2)どこが:地形条件・環境条件、3)どの程度:両者の危険度の非ファジィ化、4)どこまで:雪崩の運動走路を明らかにすることで、パトロール強化区域を推定することができる。本研究では、1)2)のそれぞれに対してファジィ推論を適用し、それらを合成することで雪崩発生の危険度を推論する方法を用いた。本章では、はじめに、Mamdaniの推論法として広く知られているmin-max-重心法や、代数積-加算-重心法などの従来から用いられてきたファジィ推論の考え方を整理し、新しい推論方法として、これらを修正したmin(代数積)-加算-重心法を提案した。ファジィ推論では、前件部の適合度を決定するメンバーシップ関数を定義と推論規則が最終的な推論結果に影響をあたえるが、入力情報として気象条件・地域条件・環境条件を考え、地域特性を考慮して過去の経験則に基づきメンバーシップ関数を定義した。さらに、気象条件から得られた推論結果と地形・環境条件から得られた推論結果を合成する方法を提案し、雪崩発生の危険個所を特定する方法を述べるとともに、第5章で述べた雪崩運動走路シミュレーションを本監視システムに組み込むことで、危険領域を推定する方法を示した。
 第7章では、本研究で得られた成果を概括するとともに、今後解決しなければならない課題についても言及した。

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