不飽和水分粒子層内における伝熱特性に関する研究
氏名 赤堀 匡俊
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第172号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 不飽和水分粒子層内における伝熱特性に関する研究
論文審査委員
主査 教授 青木 和夫
副査 教授 梅村 晃由
副査 教授 増田 渉
副査 助教授 金子 覚
副査 助教授 高橋 勉
副査 長岡工業高等専門学校 助教授 石田 博樹
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目次
第1章 緒論
1・1 はじめに p.1.1
1・2 従来の研究とその概要 p.1.3
1・3 本研究の目的と概要 p.1.8
第2章 不飽和粒子層内の水分流れと伝熱特性
2・1 緒言 p.2.1
2・2 不飽和粒子層内の一次元水分流れと伝熱特性 p.2.2
2・2・1 不飽和粒子層内の水分およびガス移動 p.2.2
2・2・2 不飽和粒子層内の水分,ガスおよび熱移動解析 p.2.2
2・2・2・1 単層粒子層について p.2.2
2・2・2・2 成層粒子層について p.2.7
2・2・2・3 差分近似 p.2.9
2・2・3 実験装置および方法 p.2.16
2・2・3・1 毛管圧力測定装置 p.2.16
2・2・3・2 絶対浸透率測定装置 p.2.17
2・2・3・3 水分浸透にともなう粒子層の一次元伝熱実験装置 p.2.18
2・2・4 実験装置および方法 p.2.19
2・2・4・1 ガラス粒子について p.2.19
2・2・4・2 水分特性について p.2.20
2・2・4・3 単層粒子層について p.2.23
2・2・4・4 成層粒子層について p.2.26
2・3 不飽和粒子層内の二次元水分流れと伝熱特性 p.2.28
2・3・1 不飽和粒子層内の水分および熱移動解析 p.2.28
2・3・1・1 解析モデル p.2.28
2・3・1・2 基礎方程式 p.2.29
2・3・1・3 初期および境界条件 p.2.29
2・3・1・4 数値解法 p.2.32
2・3・2 実験装置および方法 p.2.33
2・3・3 結果および考察 p.2.35
2・3・3・1 単層粒子層について p.2.35
2・3・3・2 成層粒子層について p.2.41
2・4 結言 p.2.52
第3章 不飽和粒子層内における水分凍結
3・1 諸言 p.3.1
3・2 実験装置および方法 p.3.2
3・3 凍結にともなう水分移動 p.3.4
3・3・1 水分の移動現象 p.3.4
3・3・2 水分移動速度の推算 p.3.6
3・3・3 水分移動速度について p.3.6
3・4 不飽和粒子層内の凍結過程の解析 p.3.8
3・4・1 解析モデル p.3.8
3・4・2 基礎方程式 p.3.9
3・4・2・1 水分移動について p.3.9
3・4・2・2 熱移動について p.3.9
3・4・2・3 初期および境界条件 p.3.10
3・4・3 数値解法 p.3.11
3・4・3・1 境界固定法について p.3.11
3・4・3・2 凍結層における座標変換 p.3.11
3・4・3・3 未凍結層における座標変換 p.3.12
3・4・3・4 差分近似 p.3.12
3・4・3・5 計算手順 p.3.14
3・5 結果および考察 p.3.15
3・6 結言 p.3.17
第4章 粒子層内における沸騰現象について
4・1 諸言 p.4.1
4・2 粒子層内の沸騰現象とドライアウト熱流束 p.4.2
4・3 粒子層内の沸騰現象の解析 p.4.4
4・3・1 解析モデル p.4.4
4・3・2 基礎方程式 p.4.5
4・3・2・1 二相領域について p.4.5
4・3・2・2 液相領域について p.4.6
4・3・3 境界条件 p.4.7
4・3・4 解析方法 p.4.7
4・4 成層粒子層内の沸騰現象の解析 p.4.8
4・4・1 成層粒子層の分類 p.4.8
4・4・2 解析モデル p.4.8
4・4・3 基礎方程式 p.4.9
4・4・3・1 二相領域について p.4.9
4・4・3・2 液相領域について p.4.10
4・4・4 境界条件 p.4.10
4・4・5 解析方法 p.4.10
4・5 実験装置および方法 p.4.11
4・6 結果および考察 p.4.12
4・6・1 単層粒子層 p.4.12
4・6・1・1 ドライアウト熱流束 p.4.12
4・6・1・2 二相域厚さについて p.4.13
4・6・2 成層粒子層 p.4.15
4・7 結言 p.4.17
第5章 結論 p.5.1
謝辞
参考文献
粒子充填層内を液体が流れる場合,粒子層内の空隙がすべて液体で満たされる飽和状態と,空隙に液体と他の流体(一般的には空気または蒸気)が共存する不飽和状態とに分けられる。これまで,前者の飽和粒子層に対しては,流れ状態および熱・物質伝達とも多くの研究が行われてきたが,後者の不飽和水分粒子層内に対しては,土壌への水分浸透や石油の採掘と関連して流れ状態に関する研究は古くから行われているが,熱・物質伝達を取り扱った研究は少なく,非常に遅れているのが現状である。
近年,不飽和水分粒子層の熱・物質伝達の問題は,土壌の温度管理や土壌蓄熱のような内部に相変化を含まない系ばかりでなく,ウィックを有するヒ-トパイプの熱輸送,原子炉の炉心損傷時に生じるデブリベッドの緊急冷却,粒子充填層の乾燥,蒸気注入による地中からのオイル回収などの凝縮・沸騰の相変化を含む系,および土壌の潜熱蓄熱,凍土・凍上などの凝固・融解の相変化を含む系まで広い範囲で重要となっている。
本研究は,毛管力の作用が重要となる細かな粒子層(粒子直径が1mm以下)を対象として,単一粒子層および異なる粒子層が積み重なる成層粒子層における水分およびガス移動の基礎を確立するとともに,凝固や沸騰などの相変化を内部に含む系に拡張して,不飽和水分粒子層内の伝熱特性の全貌を明らかにすることを目的としている。
本論文は,以下に示す5章より構成されており,その概要は次の通りである。
第1章『緒論』では,本研究の背景と工学的意義を述べ,ついで粒子層内の水分移動および伝熱特性に関する従来の研究を概観するとともに,本論文の目的を明らかにしている。
第2章『不飽和粒子層内の水分流れと伝熱特性』では,水分浸透にともなう単一粒子層および異なる粒子層が積み重なる成層粒子層内の伝熱特性について,一次元および二次元場を対象として理論的・実験的に追求している。はじめに,ガラス粒子を用いた実験により粒子層内の水分移動の基礎となる空隙率,絶対浸透率,毛管圧力と含水飽和度の関係などの水分特性を明らかにしている。次に,一次元における単一粒子層内の伝熱特性について,粒子層内の水分およびガス移動を重力と毛管カの作用により浸透するBuckley-Leverett問題とし,熱移動を局所熱平衡モデルのもとで取り扱った解析法を提示するとともに,ガラス粒子を用いた実験結果との比較によりモデルの妥当性を示している。さらに,二次元問題に拡張し,解析結果と実験結果の比較により解析の妥当性を示している。特に,成層粒子層では,水分分布が層の境界面で不連続となるため液相およびガス相の流動が急激に変化し,特徴的な分布を有することを明らかにし,粒子層の構造の違いと関連づけて検討している。
第3章『不飽和粒子層内における水分凍結』では,水分凍結時に生じる間隙水移動に着目し、粒子層内の水分凍結現象を理論的・実験的に追求している。はじめに,ガラス粒子を用いた粒子層内の水分凍結実験により,水分凍結時に生ずる凍結面方向への間隙水移動遠度を実験的に得るとともに,その速度が凍結熱流束および界面の含水飽和度に大きく依存することを明らかにしている。次に,間隙水移動を考慮した一次元不飽和粒子層内の水分凍結モデルを提示し,解析を行うとともに,ガラス粒子層を用いた凍結実験結果との比較によりモデルの妥当性を検討している。これにより,水分移動をともなう不飽和粒子層の凍結に対する基礎的取り扱いが示されている。
第4章『粒子層内における沸騰現象について』では,単一粒子層および成層粒子層内における沸騰現象について,理論的・実験的に追求している。はじめに,Freon-113で満たされたガラス粒子層内の沸騰実験により,供給熱流束と気液二相域の厚さの関係やドライアウト熱流束を実験的に明らかにするとともに,液および蒸気の二相流を考慮した一次元定常モデルによる解析結果と比較検討している。特に,成層粒子層では,粒子層界面における含水飽和度の不連続性により,ドライアウト熱流束が粒子層の構成に大きく依存することを明らかにしている。
第5章『結論』では,本論文の各章で得られた結論を総括して述べている。
本論文は,不飽和粒子層内の水分移動をともなう伝熱特性に関し,液およびガス移動を含む完全な形で理論的および実験的に検討し,現象の基礎的取り扱いを確立するとともに,凝固や沸騰などの相変化を内部に含む系に拡張して,不飽和水分粒子層内の伝熱特性の全貌を明らかにしている。