半導体レーザ励起TmおよびHoアイセーフレーザに関する研究
氏名 横澤 剛
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第108号
学位授与の日付 平成9年12月10日
学位論文の題目 半導体レーザ励起TmおよびHoアイセーフレーザに関する研究
論文審査委員
主査 教授 八井 浄
副査 教授 上林 利生
副査 教授 打木 久雄
副査 助教授 升方 勝巳
副査 講師 江 偉華
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第1章 序論 p.1
1-1 はじめに p.2
1-2 Tm及びHoレーザ p.2
1-2-1 なぜTmおよびHoレーザか p.2
(1) アイセーフレーザの必要性 p.2
(2) アイセーフ視程計 p.3
(3) 医療分野における重要性 p.3
1-2-2 Tm3+レーザ及びHo3+レーザの歴史的背景 p.4
(1) Ho3+レーザ p.4
(2) Tm3+レーザ p.5
1-3 本研究の目的 p.6
1-4 本論文の構成 p.7
参考文献 p.9
第2章 LD励起Tm:YAG及びTm,Ho:YAGアイセーフレーザの動作原理 p.12
2-1 はじめに p.13
2-2 アイセーフレーザ p.13
2-2-1 アイセーフレーザ p.13
2-2-2 アイセーフレーザの各波長帯の特長および応用 p.17
(1) アイセーフ波長における大気の透過スペクトル p.17
(2) 背景放射強度(天空輝度) p.19
(3) アイセーフ波長帯の検知器 p.20
2-3 半導体レーザ(LD)励起個体レーザの概要 p.21
2-3-1 LD励起方式の特徴 p.21
2-3-2 LD励起固体レーザの励起方式 p.22
2-4 Tm:YAG及びTm,Ho:YAGレーザの原理 p.23
2-4-1 Tm及びTm,Hoレーザ結晶 p.23
(1) YAG結晶 p.23
(2) YLF結晶 p.24
(3) 希土類イオン p.24
2-4-2 Tm:YAG及びTm,Ho:YAGレーザの発振機構 p.26
2-5 LD端面励起Tm:YAG及びTm,Ho:YAGレーザの理論計算 p.30
2-5-1 準3準位レート方程式 p.30
2-5-2 小信号利得 p.31
2-5-3 レーザ出力 p.34
2-5-4 発振閾値 p.34
2-5-5 スロープ効率 p.35
2-6 まとめ p.37
参考文献 p.38
第3章 外部共振器型LD励起Tm:YAGレーザの動作特性 p.40
3-1 はじめに p.41
3-2 実験へのアプローチ p.41
3-2-1 実験装置 p.41
3-2-2 レーザ結晶 p.41
3-2-3 レーザ共振器 p.42
3-3 レーザ動作特性 p.43
3-3-1 出力の出力鏡反射率依存性 p.43
3-3-2 出力の励起光集光レンズ焦点距離依存性 p.44
3-3-3 出力のTmドープ量依存性 p.46
3-3-4 出力の結晶温度依存性 p.47
3-3-5 発振スペクトル特性 p.48
3-4 まとめ p.50
参考文献 p.51
第4章 LD励起Tm:YAGレーザの小信号利得及び飽和強度の導出 p.52
4-1 はじめに p.53
4-2 小信号利得、飽和強度の導出 p.53
4-2-1 小信号利得の導出 p.53
4-2-2 飽和強度の導出 p.55
4-3 まとめ p.57
参考文献 p.58
第5章 LD励起Tm:YAG及びTm,Ho:YAGマイクロチップレーザの動作特性 p.59
5-1 はじめに p.60
5-2 マイクロチップレーザの原理 p.60
5-2-1 単一モードレーザ p.60
5-2-2 マイクロチップレーザの概要 p.60
5-2-3 マイクロチップレーザの原理 p.62
(1) 単一モード発振レーザ p.62
(2) ホールバーニング効果 p.63
(3) 単一縦モード発振の条件 p.65
(4) マイクロチップレーザの周波数安定性 p.68
5-3 実験へのアプローチ p.69
5-3-1 励起光学系 p.69
5-3-2 マイクロチップレーザ結晶及び共振器 p.70
5-4 レーザ動作特性 p.71
5-4-1 共振器形状の出力に与える影響 p.71
5-4-2 出力の結晶温度依存性 p.72
5-4-3 Tm:YAGマイクロチップレーザのモード構造 p.74
5-4-4 Tm,Ho:YAGレーザの出力特性 p.76
5-5 まとめ p.78
参考文献 p.79
第6章 複合共振器によるマイクロチップレーザの動作特性 p.81
6-1 はじめに p.82
6-2 出力及び波長制御の原理 p.82
6-2-1 マイクロチップレーザの問題点 p.82
(1) レーザー媒質の制限 p.82
(2) レーザー出力の制限 p.82
(3) 発振波長の制御性 p.83
6-2-2 複合共振器 p.83
(1) 複合共振器の発振条件 p.84
(2) 発振波長制御特性 p.85
6-3 実験へのアプローチ p.85
6-3-1 実験装置 p.85
(1) ハイブリッド共振器 p.85
(2) 共振器 p.88
6-3-2 実験結果及び考察 p.88
(1) 出力測定 p.88
(2) 波長制御実験 p.89
6-4 Tm:YLF複合共振器の動作特性 p.89
6-4-1 実験装置 p.89
6-4-2 複合共振器発振実験結果 p.90
(1) レーザ出力特性 p.90
(2) 発振スペクトル特性 p.91
(3) 波長制御特性 p.92
6-5 まとめ p.94
参考文献 p.95
第7章 結論 p.96
7-1 結論
7-1-1 研究結果 p.97
(1) 外部共振器型LD励起Ym:YAGレーザの動作特性 p.97
(2) Tm:YAGおよびTm,Ho:YAGマイクロチップレーザの動作特性 p.97
(3) 複合共振器によるマイクロチップレーザの動作特性 p.98
7-1-2 結論 p.98
7-1-3 本研究の課題と将来展望 p.99
謝辞 p.101
研究業績 p.102
付録 A1 準3準位レーザのレーザパラメータ計算 p.105
A1-1 準3準位レート方程式 p.106
A1-2 励起条件及び共振器内光子数 p.107
A1-3 小信号利得 p.108
A1-4 レーザ出力 p.110
A1-5 発振閾値 p.110
A1-6 スロープ効率 p.112
参考文献 p.114
付録 A2 複合共振器の理論解析 p.114
A2-1 複合共振器基本モデル p.115
A2-2 複合反射率 p.115
A2-3 発振条件 p.118
A2-4 発振波長 p.120
参考文献 p.122
飛行場や高速道路等の高速交通網の発達に伴い、交通の安全運行のための視程の光学的な評価技術の重要性が高まっている。また、大気汚染、気象観測用としての光学計測技術の開発が待望されている。これらの計測は都市環境等の生活環境の近傍で行う必要があるため、安全性の確保が重要課題となる。アイセーフ領域のレーザは網膜の損傷閾値が他の波長領域のレーザに比べて格段に高いことから、これらの環境計測光源として期待されている。しかしながら、これまでは十分な性能を有するアイセーフレーザが開発されていなかったため、上記の計測は生活環境から離れたところに限定されていた。
視程計とは、大気中におけるレーザの透過率や大気の消散係数を測定することにより視程を計測するものである。視程計用のレーザとしては、小型高効率であること、発振波長が安定であること、及び野外計測のため機械的/熱的に安定であることが必要である。従来の視程計用光源としては、Nd:YAGレーザ等が使用されていたが、安全性の問題から運用上の制約があった。特に飛行場の滑走路においては、着陸するパイロットの視線方向の視程計測(斜め視程計)は重要であるにもかかわらず実現に至っていない。
本論文では、視程用光源として、半導体レーザ(LD)励起Tm及びHoマイクロチップレーザの適用を提案し、その開発を行っている。LD励起Tm及びHoマイクロチップレーザは眼に安全なアイセーフ領域で発振し、小型高効率で高い波長安定性が期待できるとともに、共振器構造がシンプルであり機械的にも頑強といった特徴を有し視程計用として適したレーザである。
本研究において、まずTm及びHoレーザの基礎特性を明らかにするため、外部共振器型LD励起Tm:YAGレーザを開発し、そのレーザ基礎特性を測定した。ここでは出力、発振閾値及びスロープ効率等のレーザ特性についてTmドープ量依存性、励起光集光レンズ焦点躍離依存性を詳細に明らかにした。更に、レーザ特性の結晶温度依存性、及び発振スペクトルの温度依存性について初めて明らかにした。その結果、Tm濃度を減少させることによりレーザ出力及びスロープ効率は増加し発振閾値は減少すること、またレーザ特性は結晶温度に依存し、結晶温度を低下させることによりレーザ出力及びスロープ効率は上昇し、発振閾値は低下すること等を明らかにした。また、この結果を利用してLD励起Tmレーザについてレーザ出力特性から小信号利得及び飽和強度の温度依存性を初めて決定した。その結果、小信号利得及び飽和強度の温度依存性はレーザ出力特性の温度依存性と同様に、結晶温度の低下に伴い小信号利得及び飽和強度が上昇することを明らかにした。
次に、このレーザを視程計に応用するためにはコンパクトで高安定な単一モードレーザを機成する必要がある。そこで本研究において、レーザ結晶及びレーザ結晶の両面に反射鏡を蒸着することによりモノリシック共振器を形成したTm:YAG及びTm,Ho:YAGマイクロチップレーザを開発し、常温発振に初めて成功し、単一縦モード発振を実現した。更に、そのレーザの出力特性、温度特性やスペクトル特性等のレーザ特性を初めて詳細に明らかにした。この研究において、マイクロチッフレーザのレーザ結晶の厚さ、共振器形状(結晶の形状)及び結晶温度を変える事により発振モード特性、マイクロチップ共振器形状が出力やビームパターンに与える影響等を測定した。その結果、マイクロチップレーザによる単一縦モード発振を実現し、さらに単一縦モード出力は結晶温度の低下に対して上昇することを示した。また平面共振器は球面共振器と比べて出力やスロープ効率は低く発振閾値は高いが、レーザの横モード特性は良好で、ほぼTEM00モードの発振が得られることが初めて明らかとなった。
更に、マイクロチップレーザはモノリシック共振器から構成されているため、小型で振動等に強く安定なレーザであるが、発振波長の制御が困難であった。従来の波長制御法は、レーザ結晶の温度制御や、励起光出力制御等により行われていたが、この手法だとレーザや野外の状態に応じた高速な波長制御が不可能であった。本研究において、複合共振器を適用したマイクロチップレーザを考案し、マイクロチップレーザの発振波長の能動制御を試みた。その結果、PZTによるTm:YAGマイクロチップレーザの波長制御に初めて成功した。また、複合共振器をTm:YLFマイクロチップレーザに適用し、極めて広い波長範囲における単一縦モード発振時の波長制御に初めて成功した。
以上の研究によりアイセーフ視程計に適用可能な小型で高効率のマイクロチップレーザ発振器が開発された。