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アルミニウム及び化学化成皮膜の電気化学的性質に関する研究

氏名 内山 郁夫
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第109号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 アルミニウムおよび化学化成皮膜の電気化学的性質に関する研究
論文審査委員
 主査 教 授 山田 明文
 副査 教 授 松下 和正
 副査 助教授 吉國 忠亜
 副査 助教授 斎藤 秀俊
 副査 東京工業大学大学院総合理工学研究科 教授 徳田 耕一

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第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 本論文の概要 p.3
文献 p.4

第2章 塩化物水溶液中におけるアルミニウムの孔食と表面皮膜の分析 p.5
2.1 緒言 p.5
2.2 実験方法 p.5
2.3 実験結果及び考察 p.6
2.3.1 各種pHにおけるアルミニウムのアノード分極曲線 p.6
2.3.2 定電位分極下の電流-時間曲線 p.8
2.3.3 孔食誘導開始電位 p.17
2.3.4 走査型電子顕微鏡による皮膜表面の分析 p.17
2.3.5 X線マイクロアナライザーによる皮膜の元素分析 p.18
2.4 結言 p.21
文献 p.21

第3章 熱交換器に用いられるAl-1100と流電陽極用Al-Zn系合金の腐食 p.23
3.1 緒言 p.23
3.2 実験方法 p.23
3.2.1 試料 p.23
3.2.2 接触電流及び接触電位の測定 p.24
3.2.3 腐食量の測定 p.24
3.2.4 SEM及びXMAによる観察 p.27
3.3 実験結果及び考察 p.27
3.3.1 接触電流及び接触電位の経時変化 p.27
3.3.2 腐食減量 p.30
3.3.3 試料断面の光学顕微鏡による観察 p.32
3.3.4 SEM及びXMAによる観察 p.35
3.4 結言 p.38
文献 p.38

第4章 塩化物水溶液中におけるステンレス鋼と流電陽極用アルミニウム合金の接触腐食 p.40
4.1 緒言 p.40
4.2 実験方法 p.41
4.2.1 試料及び電解液 p.41
4.2.2 接触電流及び接触電位測定 p.41
4.2.3 腐食減量の測定 p.42
4.2.4 流電陽極試験 p.42
4.3 実験結果及び考察 p.42
4.3.1 接触電流及び接触電位の経時変化 p.42
4.3.2 浸漬試験結果 p.48
4.3.3 流電陽極試験 p.51
4.3.4 分極曲線の測定 p.51
4.3.5 面積効果 p.55
4.4 結言 p.60
文献 p.61

第5章 高温塩化物水溶液中におけるステンレス鋼防食用純アルミニウムとアルミニウム合金のアノード挙動 p.62
5.1 緒言 p.62
5.2 実験方法 p.63
5.3 実験結果及び考察 p.63
5.3.1 自然電極電位の経時変化 p.63
5.3.2 接触電流の経時変化 p.65
5.3.3 浸漬試験結果 p.67
5.3.4 接触腐食電位の経時変化 p.69
5.3.5 SEM観察 p.75
5.3.6 インピーダンス測定 p.75
5.4 結言 p.79
文献 p.81

第6章 淡水中におけるアルミニウムの孔食成長防止電位 p.83
6.1 緒言 p.83
6.2 実験方法 p.84
6.2.1 試料及び試験液 p.84
6.2.2 実験装置 p.86
6.2.3 腐食量の測定 p.86
6.2.4 溶出Al3+の分析 p.86
6.2.5 分極曲線の測定 p.88
6.2.6 SEMによる表面観察 p.89
6.3 実験結果及び考察 p.89
6.3.1 自然電極電位の経時変化 p.89
6.3.2 分極曲線の測定 p.92
6.3.3 人工水中におけるAl-1100の定電位電解 p.94
6.3.4 水道水中におけるAl-1100の定電位電解 p.94
6.4 結言 p.102
文献 p.105

第7章 淡水中におけるアルミニウム合金の孔食成長防止電位と孔食形態 p.107
7.1 緒言 p.107
7.2 実験方法 p.108
7.2.1 試料及び試験方法 p.108
7.2.2 実験装置及び実験方法 p.108
7.3 実験結果及び考察 p.109
7.3.1 自然電極電位の測定 p.109
7.3.2 分極曲線の測定 p.112
7.3.3 水道水中における定電位電解 p.114
7.3.4 人工水中における定電位電解 p.118
7.3.5 アルミニウム合金の孔食形態とその元素分析 p.118
7.4 結言 p.129
文献 p.129

第8章 塩化物水溶液中におけるベーマイト皮膜の電気化学的性質 p.131
8.1 緒言 p.131
8.2 実験方法 p.131
8.2.1 化学化成処理 p.131
8.2.2 自然電極電位,分極曲線及びインピーダンスの測定 p.132
8.2.3 皮膜の厚さの変化 p.132
8.2.4 皮膜の表面分析 p.132
8.3 実験結果及び考察 p.133
8.3.1 自然電極電位及び分極曲線の測定 p.133
8.3.2 皮膜厚さの変化 p.140
8.3.3 浸漬試験後の溶液のpH変化 p.143
8.3.4 化学化成皮膜の表面分析 p.143
8.4 結言 p.146
文献 p.146

第9章 塩化物水溶液中における各種ベーマイト皮膜の電気化学的性質 p.148
9.1 緒言 p.148
9.2 方法 p.148
9.2.1 化成処理 p.148
9.2.2 自然電極電位および分極曲線の測定 p.149
9.2.3 ベーマイト皮膜解析 p.149
9.3 実験結果および考察 p.150
9.3.1 自然電極電位及び分極曲線の測定 p.150
9.3.2 ベーマイト皮膜の解析 p.154
9.4 結言 p.162
文献 p.163

第10章 総括 p.164
謝辞 p.168

 工業上重要な金属であるアルミニウム、アルミニウム合金およびステンレス鋼で構成された装置にいったん孔食が発生するとピットが表面から内部に奥深く侵入し、たとえ装置全体としての腐食量は少なくても装置としての機能が破壊されるため、孔食の防止には多くの関心が払われている。これまで孔食の機構に関してはいくつかの説が提案されているにもかかわらず、未だ未解明な部分が数多く残っている。一方、防食法においても数々の方法が検討されているが、決め手となるものがないのが現状である。

 本研究では腐食防食で一番問題になっているアルミニウムやステンレス鋼の局部腐食、特に孔食を防止することを大きな目標として、塩化物水溶液中におけるアルミニウムおよびその化学化成皮膜の電気化学的性質について基礎的な研究を行った。

 本報は第1章の序論に続き、第2章では塩化物水溶液中におけるアルミニウムの孔食とその電気化学的性質および表面皮膜の組成分析について検討した。その結果、海水のpHに等しいpH8.5の0.5mol.dm-3 NaCl中における高純度アルミニウムの孔食発生は孔食誘導電位よりも卑な電位で生成する斜方晶系の化合物と皮膜の境界に生成する亀裂から侵入するCl-によることがわかった。一方、これまでアルカリ性溶液中ではアルミニウムは全面腐食が起こると考えられていたが、pH12の0.5mol・dm-3 NaClのようなアルカリ性水溶液中でもアルミニウムには孔食が発生することが明らかになった。

 第3-5章では防食法として使用頻度の高いカソード防食法を取り上げ、そこで問題となっているアノード材料の電気化学的挙動をgalvanic corrosionの立場から検討し新しい流電陽極材料を開発した。第3章では、熱交換器に用いられるAl-1100を防食することを目的にして、流電陽極材としてAl-Zn合金,Al-Zn-In合金を作製し両者をカップルし接触電流および腐食量等を検討した結果、Al-3~4Zn-0.02~0.04Inが比較的防食効果がよかった。第4、5章では、温水器等に用いられているステンレス鋼の局部腐食を防止することを目的としてAl-Mn合金、Al-Mg合金、Al-Ca合金を作製し40℃および80℃の食塩水中にてその特性を検討した。ステンレス鋼防食用合金は従来考えられたような電位ができるだけ卑な流電陽極材は不要であり、電位はステンレス鋼の孔食電位よりやや卑な電位に保持できるものが理想であることがわかった。寿命、均一溶解性等を考慮するとAl-1%Mnが、またスラッジの無公害性を第一に考えるとAl-1%Caがよい流電陽極特性を示した。また、ステンレス鋼とアルミニウム合金間の接触電流の大きさはアノド材の腐食量と対応し、接触電流とアノードの腐食速度の関係を明らかにした。

 第6、7章では淡水中におけるアルミニウムおよびアルミニウム合金の孔食成長防止電位を液中に溶出したAl3+および試片の孔食成長度から検討した。水道中ではアルミニウムの孔食成長防止電位は-0.35V(vs.SCE)、また、アルミニウム合金の場合は-0.60Vであった。なお、この場合の孔食成長防止電位とはアルミニウムやアルミニウム合金の溶解量および食孔の成長を最小に防ぐことができる電位と定義した。

 第8、9章では化学化成皮膜の電気化学的性質を検討した。第8章ではアルミニウムを高温の純水または高温高圧水蒸気中で化成処理して得られたべーマイト皮膜の電気化学的性質を検討した結果、化成処理をすると処理前に比べて自然電極電位は卑になり、この傾向は化学化成時間が長く、浴温度が高く、アルミニウム純度が高いほど顕著であった。第9章では化成処理(dip)と熱処理(heat)を組み合わせたべーマイト皮膜の電気化学的性質とその皮膜構造を検討した。化成処理(dip)をすると自然電極電位は処理前に比べて卑になり、続いて熱処理をする(dip+heat)と貴にシフトする。dipとheatを繰り返すと自然電極電位は最終段の処理方法に律速されることがわかった。また、化成処理後に熱処理をするとアノード分極曲線の結果から絶縁性が増すことがわかった。SEM,TEM,FTIRから化成処理皮膜はfibrousな外層と緻密な内層の2層構造が確認され、化成処理+熱処理で生成される皮膜はfibrousな外層の一部が脱水され緻密な内層との間に熱酸化皮膜の層ができることがわかった。

 第10章では本研究で得られた諸結果を総括的にまとめるとともに今後の課題について述べた。

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