昼光の色性及び分光分布の合成に関する研究
氏名 小林 和久
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第111号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 昼光の色性及び分光分布の合成に関する研究
論文審査委員
主査 教授 丸山 暉彦
副査 教授 丸山 久一
副査 助教授 宮木 康幸
副査 助教授 唐 伯明
副査 東京農業大学 教授 牧 恒雄
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第1章 序論 p.1
1.1 本研究の背景と目的 p.1
1.2 本論文の構成とその概略 p.3
第2章 合成昼光と標準の光 p.5
2.1 主成分分析による昼光の分光分布の合成 p.5
2.2 CIE昼光 p.8
2.3 標準の光及び標準光源の変遷 p.12
第3章 世界各地の昼光観測とその概要 p.14
3.1 国内における昼光の分光分布の測定とその概要 p.14
3.2 国外における昼光の分光分布の測定とその概要 p.20
3.3 まとめ p.26
第4章 長岡における昼光の分光分布 p.28
4.1 昼光の観測装置と測定要領 p.28
4.2 長岡における北空昼光の色度分布と代表色度軌跡 p.29
4.3 長岡における北空昼光の分光分布 p.30
4.4 NCT合成昼光の物理的,測色的評価 p.33
4.4.1 分光分布の物理的調査と検討 p.33
4.4.2 分光分布の測色的調査と検討 p.36
4.5 まとめ p.40
第5章 北窓昼光の分光分布の測定と物理的,測色的特性 p.41
5.1 北窓昼光の代表色度軌跡と相対分光分布 p.41
5.2 北窓合成昼光の物理的,測色的調査及び検討 p.46
5.3 まとめ p.50
第6章 昼光の分光分布の新合成法 p.52
6.1 実測昼光及び合成昼光の分光分布の比較 p.52
6.2 昼光の分光分布の新しい合成方法 p.54
6.3 新合成方法による修正NCT合成昼光の物理的,測色的評価 p.60
6.4 まとめ p.65
第7章 昼光の相関色温度推測の精度向上に関する試み p.66
7.1 分布温度,色温度及び相関色温度 p.66
7.2 修正定光束法による相関色温度の推測 p.68
7.3 修正2波長法による相関色温度の推測 p.72
7.4 単波長法による相関色温度の推測 p.75
7.5 まとめ p.79
第8章 結論 p.80
8.1 総括 p.80
8.2 結び p.83
謝辞 p.84
文献 p.85
工業色彩管理に用いられる物体色の定量的表示法は1931年にCIE(国際照明委員会)によって勧告され,我が国でもJIS(日本工業規格)で「XYZ表色系による色の表示方法」として取り入れられ,照明,建築,画像,色彩,印刷,写真など様々な分野で多用されている.
XYZ表色系に基づく物体の色は物体固有の分光反射率(或いは透過率),その物体を照射する光源の分光分布及び目の色応答感度(等色関数)の三要素で定量的に表示される.測色用の規定された分光分布を有する光源を標準の光といい,一般照明用タングステン電球を代表する標準の光A,平均昼光を代表する標準の光D65がある.ここで標準の光D65が制定する際の基礎となったのはCIE昼光である.CIE昼光は1960年代始めに欧米で観測した昼光の分光エネルギー分布データを主成分分析して昼光の代表分光分布を与えたものである.その後,CIE昼光として取り入れられなかったものの,昼光の分光分布の観測が日本を含め世界各地で行われ,CIE昼光が他の観測地域の昼光をも代表するものかどうかの検討がなされてきた.しかしながら,我が国を含め,測定装置の精度上,紫外域を含む広範囲な波長での観測が出来なかったか或いは非常に測定精度が悪いのがこれまでの実情であった.
本研究は精度の高い観測装置を用い,年間を通して紫外域から可視域全般の昼光の分光分布を連続的に観測し,最近の長岡における北空昼光及び北窓昼光の実態を明らかにし,昼光の性状に関する総合的な調査検討を行った.そして,物理的,測色的観点から,CIE昼光は日本の昼光をも代表するかどうか検討した.
研究の結果,観測した昼光の平均色度軌跡はCIE昼光色度軌跡と若干異なること,CIE昼光の紫外域分光分布は実際の昼光の分光分布を表していないことを明らかにした.そして,その原因究明と実際の昼光の紫外域分光分布により近似する合成方法を考案した.また,現実の比色作業現場で多用されているにもかかわらず,これまで観測例がなかった北窓昼光の様相と性状について明らかにした.
さらに,分光分布の様相から簡便に昼光の相関色温度を推測する方法がこれまで幾つか提案されている.昼光の分光分布観測を通して,これら方法の推測精度の向上を高めるための改良方法および新しい推測方法を考案した.
本論文は第1章から第8章で構成されており,各章の概要と得られた知見を以下に示す.
第1章ではこれまでの昼光観測の歴史的背景と本研究の目的及び意義および本論文の構成と概要について記述した.
第2章では天候,時間,季節などで変化する昼光の分光分布データから平均的昼光の分光分布を求める統計的手法について説明し,この方法を用いたCIE昼光およびCIE昼光に基づいた標準の光について,その内容,成立背景,内在する問題などについて記述した.
第3章ではCIE昼光以外の日本を含めた世界各地における昼光の分光分布観測の概要を述べ,その特徴とCIE昼光との相違について検討した.ここでは特に各地における代表色度軌跡はCIE昼光軌跡が交差している傾向があること,紫外域の分光分布がCIE昼光の紫外域分光分布と差異があることを明らかにした.
第4章ではこれまでになかった紫外域から可視域全域のわたる連続的昼光の分光分布測定を長岡市(長岡高専)で実施した内容を紹介し,そのデータを基に合成昼光を算出し,大阪市,厚木市など国内で求められた各合成昼光と比較検討した.その結果可視域ではいずれも分光分布は同じ傾向を示した.さらにCIE昼光と比較検討したところ,可視域における分光分布は同じ様相であるが紫外域では異なる傾向を示した.また,代表色度軌跡はCIE昼光色度軌跡とはおよそ1200K付近で交差することが明らかにされ,このことによって生じる問題点について論じた.
第5章ではこれまでに報告されていない北窓昼光の分光分布を観測し,その様相を物理的及び測色的に調査した.そして,北空昼光の分光分布との相違を明らかにした.その結果,色度軌跡は全般的に北空昼光の色度軌跡に比べ緑側に隔たり,中でも高色温度では顕著であった.しかしながら,低色温度側ではCIE昼光軌跡にかなり近づき,分光分布も可視域ではよく近似することが判明した.
第6章ではCIE昼光の紫外域の分光分布は実際の昼光の分光分布とはズレがあることを指摘し,その原因は分光分布の合成法に問題があることを明らかにした.そして,分光分布を与える合成式の第1主成分のスカラー係数を色度偏差と逆数色温度を関数,第2主成分のスカラー係数を第1主成分スカラー係数と逆数色温度の関数として与えることによって実際の紫外域の分光分布により近似することを考案した.また,新しい方法によって合成される分光分布の物理的評価を行い,実際の紫外域分光分布によく近似することを示した.
第7章では昼光の色を単的に表現する相関色温度の簡便な推測法について,より推測精度を上げるには選定波長を変えることにより得られること示し,また,色度偏差を導入することによってさらに精度が良くなることを示した.さらに,合成昼光の分光分布の第2主成分は色温度を変化しても大きく変動しない.そこで第2主成分の影響が最も少なくかつ相関色温度と高い相関を有する波長を選定し,単一波長での相関色温度推測式を考案した.そしてその推測精度が他の方法に劣らず良いことを示した.
第8章では本研究の結論と今後の課題について記述した.
以上のように本研究は測色用の標準の光の一つとして,今からおよそ35年前に行われた欧米の観測データに基づいた昼光の分光分布が標準として規定されている現状に於いて,現在の昼光の実態を詳細に調査することは比色関連企業が多い長岡地区にとっての極めて重要なことである.さらに,昼光の観測の整理を通して,その分光分布の合成方法の問題点を明らかにし,その改善案示したことによって,昼光の分光分布のあり方に貴重なデータとして貢献されうると思う.