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紫外線照射による脱塩素反応と微生物分解との併用によるポリ塩化ビフィニル高度分解法の確立とその応用

氏名 志村 稔
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第156号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 紫外線照射による脱塩素反応と微生物分解との併用によるポリ塩化ビフィニル高度分解法の確立とその応用
論文審査委員
 主査 教授 福田 雅夫
 副査 教授 森川 康
 副査 教授 山田 良平
 副査 助教授 岡田 宏文
 副査 講師 政井 英司
 副査 教授 松野 孝一郎

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序章 p.1
第1章 PCB分析系の確立 p.15
1-1 緒言 p.15
1-2 材料と方法 p.18
1-3 結果と考察 p.18
1-3-1 ガスクロマトグラフ質量分析器によるPCBの精密分析 p.18
1-3-2 ガスクロマトグラフ質量分析器の検出限界 p.25

第2章 紫外線照射によるPCBの脱塩素 p.29
2-1 緒言 p.29
2-2 材料と方法 p.31
2-2-1 PCB p.31
2-2-2 照射方法 p.31
2-3 結果 p.33
2-3-1 小スケール実験 p.33
2-3-1-1 異性体を用いた紫外線照射実験 p.33
2-3-1-2 Kaneclor500を用いた紫外線照射実験 p.36
a.PCB濃度が与える影響 p.36
b.溶媒の種類が与える影響 p.36
c.Kaneclor500の脱塩素の経時変化 p.36
2-3-2 中スケール実験 p.41
a.PCB濃度が与える影響 p.41
b.エタノール濃度が与える影響 p.42
c.水酸化ナトリウムが与える影響 p.45
2-4 考察 p.45

第3章 PCB分解菌の探索 p.48
3-1 緒言 p.48
3-2 材料と方法 p.50
3-2-1 培地 p.50
3-2-2 土壌試料 p.50
3-2-3 ビフェニル資化菌の分離 p.51
3-2-4 PCB分解菌の同定 p.51
3-2-5 PCB分解能力の判定 p.51
3-2-6 ファーメンターを用いたPCB分解実験 p.53
3-3 結果と考察 p.54
3-3-1 Comamonas testosteroni TK102の分離、同定 p.55
3-3-1-1 同定 p.55
3-3-1-2 PCB分解能力の評価 p.55
a.増殖菌体を用いたKaneclor300の分解実験 p.55
b.静止菌体を用いたKaneclor300の分解実験 p.61
c.静止菌体を用いた異性体分解実験 p.62
3-3-2 Burkholderia sp. TSN101の分離、同定 p.67
3-3-2-1 同定 p.67
3-3-2-2 PCB分解能力の評価 p.67
a.Kaneclor300を用いた分解実験 p.67
b.異性体を用いた分解実験 p.72
3-3-3 Rhodococcus opacus TSP203の分離、同定 p.73
3-3-3-1 同定 p.73
3-3-3-2 PCB分解能力の評価 p.73
3-3-4 Bacillus sp. JF2BとJF8の分離、同定 p.81
3-3-4-1 同定 p.81
3-3-4-2 PCB分解能力の評価 p.86
3-3-4-2-1 増殖細胞によるPCB分解実験 p.86
3-3-4-2-2 静止細胞によるPCB分解実験 p.86
a.異性体を用いた分解実験 p.86
b.p-クロロビフェニル分解への反応温度の影響 p.90
c.分解酵素の誘導 p.92
3-3-5 10Lファーメンターを用いたPCB分解実験 p.94
3-3-5-1 栄養条件の検討 p.94
3-3-5-2 2,3-dihydroxybiphenyl分解活性の測定 p.101
3-3-5-3 PCB分解に与えるビフェニルの影響 p.101
3-3-5-4 PCB濃度のPCB分解に与える影響 p.103
3-3-5-5 培地のpHの影響 p.106
3-3-5-6 微生物の2段階処理法 p.108

4章 紫外線照射と微生物処理とによるPCBの無害化 p.112
4-1 緒言 p.112
4-2 方法 p.113
4-2-1 小スケール実験 p.113
a.PCBの紫外線照射 p.113
b.微生物によるPCBの分解実験 p.113
4-2-2 中スケール実験 p.114
a.PCBの紫外線照射 p.114
b.微生物によるPCBの分解実験 p.114
4-3 結果と考察 p.114
4-3-1 小スケール実験 p.114
4-3-2 中スケール実験 p.117

終章 p.120

参考文献 p.123

謝辞 p.127

 PCBは化学的に非常に安定な物質で絶縁性が高いことから絶縁油として変圧器、コンデンサーなどに広く使用された。しかし1970年代に入ってからはPCBの健康への影響が明らかとなり、日本ではカネミ油症を機に1972年に製造が、1973年には使用がそれぞれ禁止された。それと同時にPCBに対して厳しい保管管理規則、環境基準を定めたためにPCBによる新たな環境汚染問題は起きてこなかった。しかし保管されているPCBを処理する努力がなされず、20年以上棚上げされていたためPCB使用機器の紛失、PCB容器の老朽化による漏洩といった問題が生じている。更なる環境汚染を引き起こさないためにも安全かつ迅速にPCBを処理する技術の開発が急務となっている。
 PCBは元来自然界には存在しない化学物質であるが、細菌の中にはPCBを好気的に酸化分解できるものが存在する。我々は土壌中よりPCB分解菌を単離し、PCB無害化処理への応用を試みた。微生物による分解はダイオキシンなどの危険な副産物が生じないという利点があるが、塩素置換数の多いPCB異性体は分解効率が悪い。そこで紫外線によるPCBの脱塩素反応を微生物分解の前処理として併用した高度分解法の開発を試みた。

 第1章 PCB分析系の確立
 PCBには塩素の置換数、位置によって209種の異性体が存在する。「環境基準告示第59号付表5」に定められる分析法では全ての異性体を分離することは出来ず、わずか26個のピークしか確認することができない。個々のPCB異性体を対象として、微生物によるPCB分解特性や紫外線による脱塩素反応の解析をするのにはこの方法は不適であった。そこでキャピラリーカラムを用い、検出器に質量分析器を使用したガスクロマトグラフにより詳細なPCB異性体の分析が出来るシステムを構築した。

 第2章 紫外線によるPCBの脱塩素
 第1章で構築した分析系を用いて紫外線によるPCBの脱塩素反応を解析した。電子供与体としてエタノールを溶媒に用いてPCB溶液を作り、石英セルに入れ紫外線照射を行い継時的な変化を観察した。その結果、オルソ位に置換する塩素は他の位置に置換するものよりも比較的容易に遊離することが確認された。脱塩素効率はPCB濃度に大きく影響を受け、濃度が上昇することによって脱塩素効率が低下することが確認された。溶媒の種類も脱塩素効率に大きく影響を与え、アルカリ性の溶媒を用いることによってPCBの脱塩素反応が促進されることが確認された。

 第3章 PCB分解菌の探索
 1973年にArmedとFochtによって最初の微生物によるPCB分解が報告されて以来、多くのPCB分解微生物が単離・解析されてきた。微生物の単離にはモデル化合物としてビフェニルやp-クロロビフェニルを用いて初期のスクリーニングを行った。無機塩培地上でビフェニルを唯一の炭素源・エネルギー源として成育する微生物を分離し、それらをPCBを含む液体培地に植菌しPCB分解能力を評価した。微生物の分離のため、PCB汚染土壌、種々の化学物質によって汚染されている土壌やヘドロ、PCB汚染していない土壌をサンプルとして用いた。スクリーニングを重ねた結果、高濃度のPCB存在下でも生育しPCBを分解するComamonas testosteroni TK102株とBurkholderia sp. TSN1O1株、6塩素置換体までも分解するRhodococcus opacus TSP203株、好熱性細菌でPCBを分解するBacillus sp. JF2B株とJF8株を代表とする約70種の細菌を分離した。

 第4章 紫外線照射と微生物処理によるPCBの無害化
 第2章で紫外線によるPCBの脱塩素反応についての検討を行ったが、反応生成物であるビフェニルがPCBの脱塩素反応を阻害するように働き脱塩素反応が完全に生じることがないことが明らかとなった。紫外線照射後の反応液中には低塩素置換体が残留し、高塩素置換の異性体は短時間の内に脱塩素を受け低塩素置換体へと変換されていた。また反応液中に残っている低塩化物はオルソ位に塩素置換を持たず、比較的徴生物によって分解されやすい異性体であった。このPCB溶液をC. testosteroni TK102株で分解させたところ、1週間後には完全に分解されていることがGC-MSを用いた分析から明らかになった。このことにより紫外線照射と微生物処理の組合せによってPCBの完全無害化が可能であることを証明した。また、この方法をもちいた実用的なPCB処理システムを構築するための基礎実験として10Lのジャーファーメンターを用いたPCB分解実験を行い、紫外線照射後にC. testosteroni TK102株とRhodococcus opacus TSP203株とを用いた二段階の微生物処理を実施して実用化への可能性を示した。

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