本文ここから

カマキリの卵ノウ高さと最大積雪深との相関に関する実証的研究

氏名 酒井 與喜夫
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第101号
学位授与の日付 平成9年6月18日
学位論文の題目 カマキリの卵ノウ高さと最大積雪深との相関に関する実証的研究
論文審査委員
 主査 教授 丸山 暉彦
 副査 教授 梅村 晃由
 副査 教授 鳥居 邦夫
 副査 教授 宮内 信之助
 副査 滋賀県立大学 学長 日高 敏隆
 副査 長岡工業高等専門学校 教授 湯沢 昭

平成9(1997)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次
第1章 序論 p.1
1-1 研究の背景と目的 p.1
1-2 論文の構成と内容 p.4
第2章 新潟県の雪害と『38豪雪』 p.6
2-1 豪雪地帯の概況 p.6
2-2 我国の主な雪害の歴史 p.10
(1)新潟県の雪害の歴史 p.17
(2)戦後における雪問題への政策的対応 p.22
2-3 『38豪雪』による長岡市におけるに雪害と対策 p.26
(1)長岡市における主な雪害 p.26
(2)記録映画『昭和38年1月豪雪の長岡市』 p.30
(3)長岡市の雪害に対する対応 p.36
2-4 まとめ p.38
第3章 積雪長期予測の必要性と予測限界 p.39
3-1 積雪長期予測の必要性 p.39
3-2 積雪予測の現状とその限界 p.42
(1)天気予報の方法 p.42
(2)降雪・積雪予測の方法 p.43
3-3 まとめ p.45
第4章 諺に見る気象予想とカマキリの特性 p.46
4-1 諺に見る気象予想 p.46
(1)雨と雪に関する降雪の予想 p.46
(2)動物による降雪の予想 p.47
(3)植物による降雪の予想 p.48
(4)人間の身体による降雪の予想 p.48
(5)諺に見る積雪予想の実際 p.49
4-2 カマキリの産卵場所の特性 p.52
(1)カマキリの種類 p.52
(2)カマキリの一生 p.56
(3)産卵場所の特性 p.67
4-3 まとめ p.71
第5章 カマキリの卵ノウ高さによる最大積雪深推定の方法 p.72
5-1 地形、林相による積雪深の変化 p.72
5-2 計測すべき項目とその計測方法 p.76
(1)卵ノウの地上高の計測 p.76
(2)樹高、樹間密度の計測 p.78
(3)斜面の方位と斜面角度の計測 p.78
(4)吹き溜り(吹きさらし)の状態の把握 p.78
(5)緯度、経度、及び標高の計測 p.78
5-3 樹高による補正 p.79
5-4 地形による補正 p.81
5-5 吹き溜り・吹きさらしによる補正 p.82
5-6 卵ノウ観測地点での最大積雪深の推定結果 p.85
5-7 まとめ p.103
第6章 卵ノウ観測地点以外での最大積雪深の推定方法 p.104
6-1 補間法による卵ノウ観測地点以外での推定方法 p.104
6-2 地理的特性を考慮した最大積雪深の推定方法 p.110
6-3 最大積雪深モデル(推定式1)の作成 p.113
6-4 卵ノウ高さモデル(推定式2)の作成 p.117
6-5 最大積雪深と卵ノウ高さとの関係 p.119
6-6 地理的特性を考慮した最大積雪深の推定手順 p.122
6-7 まとめ p.125
第7章 カマキリの生態学的な課題に関する補足 p.126
7-1 産卵時の気象条件に関する考察 p.127
7-2 孵化のための休眠期間の必要性の有無 p.128
7-3 前年度の積雪深の影響 p.129
7-4 卵ノウの移動実験による環境変化の影響 p.131
7-5 カマキリの卵ノウによるその他の気象予測の可能性 p.136
(1)梅雨入り時期の予想の可能性 p.136
(2)冬季間の季節風の強弱予想の可能性 p.136
(3)初雪・根雪時期の予想の可能性 p.138
7-6 まとめ p.140
第8章 結論と今後の課題 p.141
参考文献 p.144
謝辞 p.146
付録資料 p.149

カマキリの卵ノウ高さと最大積雪深との相関に関する実証的研究
 工学的な観点から降雪予測の必要性を整理すると、1~6時間程度の超短期予測の利用としては、降積雪による障害発生初期段階における障害発生個所の監視や即時的な作業に対する指示等がある。6~24時間程度の短期予測は、除雪作業のための待機指示や出勤時期の判断、雪寒対策の準備、さらには道路利用者に対する降積雪情報の提供による交通渋滞の緩和や事故防止等に役立っている。1日から1週間程度の中期予測の利用法としては、屋根雪や路側の雪堤の除排雪のための時期の判断、除雪機械や人員の編成計画等に活用されている。一方、長期予測(1~3ヶ月程度)は、除雪が観測される以前に予測する必要があり、除雪ステーションの設置や除雪機械・人員の配置計画、さらには道路除雪計画の予算立案等にも利用されている。これらの降雪予測の中で、短期から中期予測については、実用的な段階にあるが、長期予測に関しては、予測の地域的な広がりや予測精度の観点から見た場合、必ずしも満足すべき状況にはない。
 本研究は、カマキリの卵ノウの高さとその年の最大積雪深との相関関係を分析し、その結果を用いて最大積雪深の推定の可能性を実証学的に行ったものであり、具体的な卵ノウ高さの調査方法や地形と林相による高さの補正、及び卵ノウ高さに着目した最大積雪深推定結果の妥当性の検証を行った。本論文は第1章から第7章までで構成されており、各章の概略と得られた知見は以下のとおりである。
 第1章では、本研究の背景と目的、及び本論文の構成と内容についての概略を記述した。
 第2章では、新潟県の雪害と北陸地方を襲った「38豪雪」の概要とその他の雪害の分析、雪対策の現状、及び課題について述べている。
 第3章では、積雪長期予測の必要性とその現状についての検討を行った。現在、短期降雪予測システムは、十分実用に耐えうるものが開発・運用されているが、長期予測については必ずしも十分な状況にはない。しかし、積雪地域における日常生活や経済活動、さらには道路除雪計画の策定等においては長期の降雪予測が不可欠であり、信頼性の高い予測方法が必要とされていることを明らかとした。
 第4章では、「諺」に見る気象予想の実態についての調査結果について記述した。これは降雪だけではなく、気象一般に係わるものについて地域別の「言い伝え」とその内容について整理し、現実に行われている「諺」に基づく予想の実態について紹介を行った。しかし、それらの多くは統計学的に見た場合、必ずしも十分なものではなく、その妥当性はかなり問題があることを示した。
 第5章では、本研究の中心的な課題である、カマキリの卵ノウ高さに着目した最大積雪深推定の具体的な方法について検討を行った。始めに実際の積雪状況と地形や林相との関係を分析し、積雪深の変動の原因について検討した。その結果、風の影響と地形や林相の状況により積雪深が大きく変化することが明らかとなった。次にカマキリの卵ノウ位置の具体的な計測方法の説明、さらには吹き溜まりや吹きさらしの影響を考慮するため、卵ノウ高さの具体的な補正方法について提案を行った。補正としては、その難易度から2段階に分けて補正を行う手順を説明した。すなわち、第1段階としては、「樹高」、「斜面方位」及び「斜面角度」による補正であり、第2段階は「吹き溜まり・吹きさらし」による補正である。そしてこれらの結果を用いて、卵ノウ観測地点直下の最大積雪深の推定を行い、時系列的な観点から推定精度の検証を行った。その結果、本研究で提案している方法の妥当性が十分認められた。
 第6章では、卵ノウ観測地点以外での最大積雪深推定方法として、「補間法」と「地理的特性を考慮した方法」を提案した。「補間法」とは、推定したい地点を取り囲むような場所において、卵ノウの観測を行い、それらの結果から推定地点の最大積雪深を推定する方法である。この方法では、推定地点の周辺に卵ノウの観測地点があることが条件となるため、適用範囲が限定されることになる。この問題を解決するために「地理的特性を考慮した方法」を新たに開発した。この方法は、実際の積雪深の値は、地理的な条件(緯度、経度、標高)によりある程度説明が可能であるとの仮説に基づいている。実際に新潟県内にこの仮説を適用したところ、十分その妥当性が認められた。従って、卵ノウ観測地点の地理的な条件により重回帰式を作成することにより、卵ノウ観測地点以外での推定が可能となった。その推定精度を実際に検証したところ、広域的な積雪深傾向を推定する上では十分利用可能であることが確認された。
 第7章では、卵ノウの移動実験の結果と、カマキリの生態学的な課題についての検討を行っている。そもそも積雪深の多い地域に生息するカマキリと、少ない地域のカマキリでは産卵する場合(高さ)におのずと違いがあるのではないかと言う疑問がある。この疑問点に答えるために、卵ノウの移動実験を実施した。すなわち、豪雪地域の卵ノウを雪の少ない地域に移動し、そこで孵化したカマキリがどのような高さに産卵するかを観察するものである。その結果、移動前後の環境の変化による影響は特に認められず、カマキリが生息している地域の環境のみが卵ノウの産卵場所の選定に影響をしているとの結論に達した。最後に、第8章では、本研究の結論と今後の課題について記述した。
 本研究は、新潟県を中心として長野県と富山県の一部地域において、約200箇所のカマキリの卵ノウの高さと最大積雪深との相関関係を過去10年間に渡り観測したものを、統計学的に処理した結果得られたものである。これはカマキリの予知能力の本質を明らかにしようとするものではないが、卵ノウ高さと最大積雪深との相関が高いことを利用し、最大積雪深の長期予測に利用することが可能であることを示した。

平成9(1997)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る