本文ここから

開発途上国における効率的な下水道整備戦略に関する研究

氏名 佐藤 伸幸
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第429号
学位授与の日付 平成19年6月30日
学位論文題目 開発途上国における効率的な下水道整備戦略に関する研究
論文審査委員
 主査 准教授 小松 俊哉
 副査 准教授 山口 隆司
 副査 准教授 姫野 修司
 副査 教授 李 志東
 副査 東北大学大学院教授 原田 秀樹
 副査 広島大学大学院教授 大橋 晶良
 副査 舞鶴工業高等専門学校准教授 四蔵 茂雄

平成19(2007)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

第1章 序論 p.1
 1.1 研究の背景 p.2
 1.2 研究の目的 p.3
 1.3 調査対象地域の基礎情報 p.6
 1.4 既往の研究 p.10
 1.5 論文の構成 p.17

第2章 下水道整備事業による効果と課題 ~インドネシア国およびインド国の事例~ p.25
 2.1 インドネシアでの事例 p.26
 2.1.1 下水道整備事業と河川浄化プログラム p.27
 2.1.2 河川水および地下水質 p.31
 2.1.3 今後の課題 p.46

 2.2 インドでの事例 p.48
 2.2.1 ガンジスアクションプラン(Ganga Action Plan:GAP) p.48
 2.2.2 ヤムナアクションプラン(Yamuna Action Plan:YAP) p.51
 2.2.3 河川水質 p.51
 2.2.4 今後の課題 p.55

 2.3 インドネシアとインドの下水道関連予算の比較 p.56
 2.4 小括 p.57

第3章 各種下水処理プロセスの性能評価 ~インド国の事例~ p.63
 3.1 はじめに p.64
 3.2 調査方法 p.64
 3.2.1 UASB法(UASBリアクター + 仕上げ池)の概要 p.64
 3.2.2 安定化池法の概要 p.69
 3.2.3 活性汚泥法の概要 p.71
 3.2.4 担体入り高速活性汚泥法の概要 p.72
 3.2.5 採水および水質分析 p.73

 3.3 結果と考察 p.73
 3.3.1 流入水質 p.73
 3.3.2 有機物除去 p.75
 3.3.3 栄養塩類除去 p.80
 3.3.4 病原性菌の除去 p.83
 3.3.5 今後の課題 p.85

3.4 小括 p.86

第4章 各種下水処理プロセスの費用対効果 ~インド国の事例~ p.91
 4.1 はじめに p.92
 4.2 調査方法 p.93
 4.2.1 下水処理原価関連データの収集及び解析 p.93
 4.2.2 採水および水質分析 p.95

 4.3 結果と考察 p.95
 4.3.1 処理性能 p.95
 4.3.2 下水処理原価 p.96
 4.3.3 COD除去原価 p.105
 4.3.4 今後の課題 p.108

 4.4 小括 p.112

第5章 総論 p.117

謝辞

 急速な経済成長と人口増加(特に都市部で著しい)を伴う多くの途上国では、環境インフラの整備が追いつかず、未処理水の垂れ流しによる河川水質の悪化が指摘されている。下水道整備は、これらの問題を改善する上で大きな役割を担っている。また、途上国では財政基盤が脆弱であるため、効率的な整備手法の採用が求められる。本研究では、途上国における効率的な下水道整備戦略について論じることを目的とした。具体的には、世界で最も人口増加が著しい国の一つで、今後も高い経済成長率が見込まれているインドネシア国とインド国で実施された下水道整備事業を分析し、事業を成功させるための方策について論じた。そして、比較的下水道整備が成功しているインド国で採用された各種下水処理プロセスの処理性能や費用対効果を解析し、途上国に適用可能な下水道整備手法について論じた。本研究で得られた知見は下記のとおりである。
 まず、インドネシアとインドでの下水道整備事業における効果と課題について解析して得られた知見について述べた。インドネシアでは、世界銀行や海外経済協力資金の融資を受けながら、下水道整備事業を実施したが、有効に活用できなかった。色々な理由があったが、最も大きな理由は、政府の取組み方であることを明らかにした。また、インドネシア政府は、工場排水の監視強化により河川を浄化するプログラム(PROKASIH)を実施した。しかし、ジャカルタ市内の河川水質はほとんど変化がなく、下水道施設整備が必要であることを提示した。地方分権化によってジャカルタ市の下水道整備は、中央政府(公共事業省)からジャカルタ市下水道公社の責任で実施されることになった。しかし、これまで実績のない下水道公社では、未経験者がほとんどであり、適切な教育プログラムにより、技術的ノウハウを兼ね備えた人材を育成することを提言した。
 一方、インドでは、首相の働きかけにより、下水道整備を主とするGAP(Ganga Action Plan)が実施された。また、YAP(Yamuna Action Plan)では、GAPでオランダ人技術者により技術移転された安価で維持管理が容易なUASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)法が、主な処理プロセスとして採用された。インドでの下水道整備事業は着実にアウトプットを残し、さらなる事業が継続中または計画されている。下水道事業を有効に実施するための一方策として、国として下水道整備の優先順位を明確にすること、また、安価で維持管理が容易な処理プロセスの採用することを挙げ、その重要性について提示した。
 次に、その処理プロセスにおける処理性能調査によって得られた知見について述べた。YAPで採用されたUASB法、安定化池法、担体入り高速活性汚泥法に加え、デリーで運転されている活性汚泥法の各下水処理場を対象として水質調査を実施した。その結果、活性汚泥法や担体入り高速活性汚泥法の処理場では、BODおよびSSの放流基準は満たされていたことを明らかにした。また、UASB法や安定化池法のほぼ全処理場で、処理水でのBODおよびSSは、放流基準に達していないことを明らかにした。UASB法の処理性能を向上させるためには、汚泥管理の強化が必要であることを明らかにし、仕上げ池の滞留時間の拡大、または仕上げ池以外の施設を検討することを提言した。また、安定化池法での処理性能の改善には、嫌気性池の汚泥除去、滞留時間の拡大が必要であることを提言した。同時に流入下水に違法な工場排水が混入している可能性があり、これらの把握および監視が必要であることを提言した。また、改善へ向けて、できるだけ費用がかからない汚泥管理の強化や、工場排水の把握から実施することも提案した。
 最後に、水質調査を実施した各種下水処理プロセスの費用対効果について得られた知見について述べた、費用対効果は、各種処理プロセスの下水処理原価の解析と前述した処理性能をもとに算出した。その結果、UASB法や安定化池法は、活性汚泥法や担体入り高速活性汚泥法より費用対効果において有利であることを提示した。また、大きな投資を必要としない維持管理の強化で、UASB法の処理性能はさらに向上するものと考えられているため、他処理プロセスと比較した場合、UASB法の費用対効果はさらに有利になることを指摘した。
 排水基準を満たすことが絶対条件になると、UASB法や安定化池法は、施設改善の可能性が高く、その場合、大きな投資が必要となる。改善方法によっては、費用対効果の優位性も失うこともあるため、改善方法および処理プロセスの選定には詳細に検討することを提案した。
 一方、インドでの下水処理原価や費用対効果は、日本の値と比較した場合、両国のGDP比より大きくなる傾向を示した。これは、インド人またはインド国政府にとって下水処理は、大きな負担であることを意味する。そのため、下水道整備を推進するためにも低コスト化は非常に重要であると考えられる。早期における公共水域の水質改善の一方策として、排水基準を優先するより、費用対効果が有利な処理プロセスの適用により、汚泥負荷量の削減を優先した下水道整備の実施について提言した。この提言に従い、インドでの用地単価を考慮すると、同国の多くの地域で、UASB法による下水道整備が最も適していることを明らかにした。

 本論文は、「開発途上国における効率的な下水道整備戦略に関する研究」と題し、5章より構成されている。
 第1章「序論」では、途上国における下水道整備の必要性について述べている。その下水道事業を実施する上で抱えている途上国の問題点、また、先進国の貢献できる項目について明確化している。本研究の調査対象地域の基礎情報や従来の報告の概要を示すとともに本研究の目的とその研究範囲を述べている。
 第2章「下水道整備事業による効果と課題~インドネシア国およびインド国の事例~」では、両国の下水道整備事業を比較している。インドネシアの下水道整備事業(河川浄化プログラムを含む)に関して、それぞれの事業をレビューし、その事業の効果として河川水および地下水質を分析・評価し課題について提言している。一方、インドについては、下水道整備事業を主な目的として実施されたガンジスアクションプランやヤムナアクションプランを紹介し、ガンジス川およびヤムナ川の水質の経年変化をもとに事業の効果を示した。そして、この2カ国の事業を比較し効率的に事業を実施するための手法について提言している。
 第3章「各種下水処理プロセスの性能評価~インド国の事例~」では、下水道事業が成功しているインドで採用された下水処理プロセスに着目した。具体的には、UASB法、安定化池法、活性汚泥法、担体入り高速活性汚泥法の各処理場を訪問し、実施した水質調査の結果をもとに、各処理プロセスの処理性能を明らかにしている。また、維持管理における問題点や処理性能を向上させるために必要な改善策について提言している。
 第4章「各下水処理プロセスの費用対効果~インド国の事例~」では、第3章で論じた各種下水処理プロセスの建設費や維持管理費などを整理し、下水処理原価の費用関数を提案している。また、第3章で把握した各プロセスの有機物除去量を”効果”、前述の下水処理原価を”費用”とし、各処理プロセスの費用対効果を提示している。さらに、各処理プロセスの費用対効果の改善の可能性についても提言している。
 第5章「総論」では、本研究で得られた成果をまとめとして述べている。
 以上のように、本論文では開発途上国における効率的な下水道整備戦略に関する知見を数多く収集しており、途上国における下水道普及率の向上に寄与できるものであると言える。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

平成19(2007)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る