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ヒューマンコミュニケーションを支援するアウェアネス通信に関する研究

氏名 Transuriyavong Suriyon
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第265号
学位授与の日付 平成20年3月25日
学位論文題目 ヒューマンコミュニケーションを支援するアウェアネス通信に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 島田正治
 副査 教授 吉川敏則
 副査 准教授 岩橋政宏
 副査 新潟大学工学部教授 菊池久和
 副査 沖縄工業高等専門学校教授 水野正志
 副査 本学名誉教授 花木真一

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第1章 序論 p.1
 1.1 諸論 p.1
 1.2 本研究の目的 p.4
 1.3 本論文の概要 p.5
第2章 関連研究 p.7
 2.1 ヒューマンコミュニケーションを支援するアウェアネス p.7
 2.2 従来研究のシステム事例 p.8
 2.2.1 ひとのあかり p.8
 2.2.2 MASSIVE, MASSIVE-2 p.9
 2.2.3 FreeWalk p.12
 2.2.4 InterSpace p.13
 2.2.5 Virtual Cocktail Party p.14
 2.2.6 Video Window p.16
 2.2.7 Polyscope (Xerox EuroPARC) p.17
 2.2.8 Portholes (Xerox EuroPARC) p.18
 2.3 従来のアウェアネス通信によって伝達される情報 p.19
 2.4 従来のアウェアネス通信システムの特徴とその問題点 p.21
第3章 アウェアネス通信技術を活用した面談・通話開始支援システム p.23
 3.1 まえがき p.23
 3.2 面談と通信による会話実現過程 p.24
 3.3 アウェアネスを活用した面談と通話開始支援システム -VILLA- p.26
 3.3.1 居場所と都合情報の2次元表示 p.26
 3.3.2 仮想空間内の顔アイコンの性質 p.27
 3.3.3 VILLAシステムの実現 p.28
 3.4 VILLAの運用結果と考察 p.30
 3.5 むすび p.34
第4章 アウェアネス映像通信とプライバシー p.35
 4.1 まえがき p.35
 4.2 アウェアネス映像の利用 p.36
 4.2.1 面談開始支援 p.37
 4.2.2 電話の取次ぎや電話転送先の判断 p.37
 4.2.3 共有スペースや設備などの利用 p.37
 4.2.4 監視支援機能 p.38
 4.3 各種の隠蔽表示方法 p.38
 4.3.1 各利用方法においてアウェアネス映像から得たい情報 p.38
 4.3.2 アウェアネス映像の隠蔽表示方法 p.39
 4.4 人物を隠蔽するシステムの実現 p.40
 4.4.1 システムの機能と構成技術 p.41
 4.4.2 システム構成 p.41
 4.4.3 処理の流れ p.42
 4.5 システムの評価実験 p.47
 4.5.1 実時間顔認識の評価実験 p.47
 4.5.2 各表示方法の有用度と許容度の主観評価 p.49
 4.6 むすび p.55
第5章 JPEG2000を活用したアウェアネス映像通信システム p.57
 5.1 まえがき p.57
 5.2 提案システムの実現法 p.58
 5.2.1 処理の概要 p.58
 5.2.2 帯域分割と帯域合成 p.60
 5.2.3 人物抽出 p.61
 5.2.4 アウェアネス抽出 p.63
 5.2.5 背景合成 p.64
 5.3 システムの評価 p.64
 5.3.1 人物領域のみの伝送 p.65
 5.3.2 上位ビットプレーンのみの伝送 p.66
 5.3.3 一部の帯域のみの伝送 p.66
 5.3.4 全ての併用 p.68
 5.4 まとめ p.69
第6章 結論 p.70
謝辞 p.72
参考文献 p.73
付録A 移動人物を対象とする多方向顔画像取得と認識システム p.78
A.1 システムの概要 p.78
A.2 評価実験 p.80
 A.2.1 顔画像取得の実験 p.81
 A.2.2 顔認識の実験 p.85
A.3 むすび p.88
研究業績一覧 p.90

 近年、分散オフィスに代表されるような物理的に離れた環境を仮想的に統合する通信システムの研究が盛んに行われている。しかし、物理的に離れていることから人間相互のコミュニケーション機会の減少、孤立感、互いの意思疎通の困難さなどの課題がある。これは、偶然に会って気軽に声をかけて立ち話しをするようなコミュニケーションが欠けていることが原因と解釈できる。遠隔通信でのコミュニケーションの開始を通常の会話のように自然な形にするためには、コミュニケーション前にあらかじめ相手の状況を知らせる「アウェアネス」が必要である。アウェアネスとは、お互いの存在や動きの情報を意味し、アウェアネスを伝達することによって人に偶然で会うようなコミュニケーションが促進される。しかし、アウェアネスを伝達することによってプライバシー問題が発生する。
 本研究は、アウェアネスを伝達しつつ、プライバシーを保護する通信方式を確立することを目的とした。以下に、本論文の構成と概要を述べる。

 第1章では、アウェアネス通信技術について概説し、本研究の目的を述べた。

 第2章では、アウェアネス通信に関する先行研究の文献調査を行うとともに、本研究の動機および位置づけを明らかにした。

 第3章では、アウェアネス通信技術を利用した面談・通話開始支援システムについて述べた。日常会話や面談などのコミュニケーションでは、相手のアウェアネスに配慮しながら行っている。相手のアウェアネスを確認できない状況下では相手を気遣ったコミュニケーションを行うことは難しい。本研究では、実研究室レイアウト(実空間)とそれ以外の場所を示す仮想の部屋を混在させた仮想環境を2次元グラフィックス上で表現し、その上に自分の居場所を示すメンバの顔アイコンを表示する仮想研究室VILLA(VIrtuaL LAboratory)を構築した。実空間内の顔アイコンを有する持主の居場所を表示する「バーチャルシャドウ」、それ以外の空間に存在する人物の顔アイコンを表示する「アバタ」と区別し、バーチャルシャドウとアバタの特性のそれぞれの違いを明確にした。また、VILLAが提供したアウェアネス機能が面談・通話開始支援に対して有効であることを明らかにした。

 第4章では、アウェアネス通信におけるプライバシーの問題について述べた。現在、遠隔地間を常時ビデオ映像で結び、部屋が仮想的に繋がっている環境を作り出し、人間相互間の意思疎通を容易に促すコミュニケーションの促進を狙いとする研究がある。しかし、常時映像を流すことで被写体動作のプライバシー問題があり、配慮する必要がある。

 本研究では、映像が伝えるアウェアネス情報とプライバシー情報とに大別した。映像で人物動作を示すプライバシー情報は伝達しないアウェアネス通信方式を提案する。具体的には計算機で映像中の人物を認識し、予め計算機に登録された人物に対しては顔を隠蔽したシルエットのみを表示し、登録されていない人物に対してはその人物の顔および動作を映像で示すプライバシー保護を行うシステムの構築を行った。構築したシステムを用いて、シルエットを見る立場からどの程度役に立つか、また見られる立場からどの程度受け入れ易いのかを実験で評価した。
その結果、見る立場からは名前付きシルエット表示がもっとも適し、見られる立場のプライバシー保護を重視すると、名札シルエット表示がもっとも適していることを明らかにした。
さらに、認識対象者の正面顔のみではなく、多方向顔も検出することによって、顔画像認識率が正面顔のみに比べて3.9倍に増加し、取得した多方向顔画像に対する認識率は86.0%であった。

 第5章では、JPEG2000を活用したアウェアネス映像通信システムについて述べた。プライバシー保護を目的としたアウェアネス映像は、表示の抽象化によりデータ削減へ発展する。

 本研究では画像圧縮の国際標準として広く普及しているJPEG2000(JP2K)を用いたアウェアネス映像通信システムを簡便に実現する方法を提案した。提案システムではアウェアネスの表示に必要最小限の信号成分である(1)人物領域のみ、(2)上位ビットプレーンのみ、(3)一部の帯域のみを伝送するため、低ビットレートでのアウェアネス通信の実現性を見出した。アウェアネス通信時のデータ量は、通常の映像通信時の1割程度であることを確認した。
 提案法の特長として、国際標準としてIPコアなどが整備されているJP2Kの要素技術を活用してシステムを構築できる点が挙げられる。

 第6章では、これまでの各章の結論を整理し、本論文を総括した。

 本論分は「ヒューマンコミュニケーションを支援するアウェアネス通信に関する研究」と題し、6章より構成されている。第1章では、研究の背景を述べ、研究の目的および本論文の構成について記述している。第2章では、アウェアネス通信に関する先行研究の文献調査を行うとともに、本研究の動機および位置づけを明らかにしている。第3章では、アウェアネス通信技術を利用した面談・通話開始支援システムについて述べている。日常会話や面談などでは、相手を気遣ったコミュニケーション(アウェアネス)に配慮しながら行っている。本論文では、実研究室レイアウト(実空間)とそれ以外の場所を示す仮想の部屋とを混在させた仮想環境を2次元グラフィックス上で表現し、その上に自分の居場所を示すメンバの顔アイコンを表示する仮想研究室VILLA(VIrtuaL LAboratory)を構築した。VILLAが提供したアウェアネス機能が面談・通話開始支援に対して有効であることを明らかにした。第4章では、アウェアネス通信におけるプライバシーの問題について述べている。現在、遠隔地間を常時ビデオ映像で結び、人間相互間の意思疎通を容易に促すコミュニケーションの促進を狙いとする研究がある。しかし、常時映像を流すことで被写体動作のプライバシーに配慮する必要がある。本論文では、映像で人物動作を示すプライバシー情報は伝達しないアウェアネス通信方式を提案している。具体的には計算機で映像中の人物を認識し、予め計算機に登録された人物に対しては顔を隠蔽したシルエットのみを表示し、登録されていない人物に対してはその人物の顔および動作を映像で示すプライバシー保護を行うシステムの構築を行った。構築したシステムを用いて評価実験を行い、シルエットを見る立場からは名前付きシルエット表示がもっとも適し、見られる立場からは名札シルエット表示がもっとも適していることを明らかにした。さらに、認識対象者の正面顔のみではなく、多方向顔も検出することによって、顔画像認識率が正面顔のみに比べて3.9倍に増加し、取得した多方向顔画像に対する認識率は86.0%であった。第5章では、画像圧縮の国際標準として広く普及しているJPEG2000を活用したアウェアネス映像通信システムを簡便に実現する方法を提案している。アウェアネス通信時のデータ量は、通常の映像通信時の1割程度であることを確認した。第6章では、これまでの各章で得られた結論を整理し、本論文を総括した。
 よって、本論文は工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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