ラグランジュ的アプローチによる雪崩数値シミュレーション法に関する研究
氏名 大澤 範一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第459号
学位授与の日付 平成19年3月25日
学位論文題目 ラグランジュ的アプローチによる雪崩数値シミュレーション法に関する研究
論文審査委員
主査 准教授 細山田得三
副査 教授 東 信彦
副査 教授 陸 旻皎
副査 准教授 熊倉 俊郎
副査 新潟大学教授 西村 浩一
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第1章 序論 p.1
1.1 研究背景 p.1
1.2 解析モデルの定義 p.7
1.3 研究目的 p.8
1.4 本論文の構成 p.9
第2章 煙型雪崩二次元解析モデルの構築 p.11
2.1 二次元解析モデルへの拡張 p.11
2.1.1 雪崩形状のモデル化 p.11
2.1.2 二次元解析モデルへの拡張 p.12
2.1.3 二次元解析モデルの基礎方程式 p.12
2.1.4 二次元解析モデルの構成関係式 p.15
2.2 斜面形状のモデル化 p.18
2.2.1 局所的な三角形要素を用いた斜面形状の表現 p.18
2.2.2 二次元解析モデルにおける斜面形状のモデル化 p.20
2.3 数値解析条件 p.21
2.3.1 対象地形データ p.21
2.3.2 数値解析条件 p.23
2.4 数値解析結果 p.24
2.4.1 雪崩の流下経路及び底面形状 p.24
2.4.2 主要条件の水平距離変化 p.28
2.5 既存モデルの解析結果との比較 p.31
2.5.1 煙型雪崩の各解析モデルとの比較 p.31
2.5.2 雪崩の流下経路 p.32
2.5.3 雪崩の最大高さの水平距離変化 p.33
2.5.4 雪崩の速度の水平距離変化(Voellmyモデルとの比較) p.34
2.6 結論 p.35
第3章 火砕流への応用 p.37
3.1 煙型雪崩二次元解析モデルとの相違点 p.37
3.1.1 基礎方程式 p.37
3.1.2 構成関係式 p.40
3.2 数値解析条件 p.42
3.2.1 対象地形データ p.42
3.2.2 数値解析条件 p.44
3.3 数値解析結果 p.45
3.3.1 火砕流の流下経路及び底面形状 p.45
3.3.2 主要条件の水平距離変化 p.48
3.3.3 実績火砕流との比較 p.51
3.4 結論 p.52
第4章 流れ型雪崩一次元解析モデルの構築 p.53
4.1 流体力学的手法による基礎方程式の導出 p.53
4.1.1 基礎方程式 p.53
4.1.2 層積分方程式 p.56
4.1.3 フロントからテイルまでの積分方程式 p.58
4.1.4 流れ型雪崩の基礎方程式と積分項の評価 p.59
4.1.5 フロントの流速分布と流下速度 p.62
4.1.6 Voellmy式との関係 p.64
4.2 構成関係式とシミュレーションモデルの構築 p.66
4.3 数値解析条件(全層雪崩を想定した初期条件) p.68
4.3.1 雪崩本体の初期条件 p.68
4.3.2 流下経路の縦断形状 p.69
4.3.3 周囲空気の連行について p.70
4.3.4 細粒子分の雪の取り扱い p.70
4.3.5 クーロン摩擦係数μの設定 p.71
4.3.6 雪の取り込み係数λf, 離脱係数λeの設定 p.71
4.4 数値解析結果 p.72
4.4.1 雪崩の到達距離,最大高さ,ピーク速度の解析結果 p.72
4.4.2 主要条件の水平距離変化 p.73
4.5 実地形を適用した全層雪崩に対する数値解析 p.76
4.5.1 対象地形データ p.76
4.5.2 数値解析条件 p.77
4.5.3 数値解析結果(到達距離,最大高さ,ピーク速度) p.78
4.5.4 数値解析結果(主要条件の水平距離変化) p.79
4.6 結論 p.81
第5章 流れ型雪崩二次元解析モデルの構築 p.83
5.1 二次元解析モデルへの拡張 p.83
5.1.1 雪崩形状のモデル化 p.83
5.1.2 二次元解析モデルへの拡張 p.84
5.1.3 二次元解析モデルの基礎方程式 p.85
5.1.4 二次元解析モデルの構成関係式 p.88
5.2 雪の取り込みと離脱に対する感度分析 p.90
5.2.1 雪の取り込みと離脱について p.90
5.2.2 数値解析条件 p.91
5.2.3 数値解析結果 p.94
5.3 数値解析条件に対する感度分析 p.96
5.3.1 周囲空気の連行について p.96
5.3.2 最大広がり幅に関する無次元係数αBについて p.97
5.3.3 形状係数ξbについて p.99
5.3.4 クーロン摩擦係数μについて p.102
5.4 結論 p.103
第6章 総括 p.104
6.1 結論 p.104
6.2 今後の検討課題 p.106
参考文献 p.107
本研究に関する発表論文 p.111
謝辞 p.112
付録A 福嶋の煙型雪崩一次元解析モデル p.113
付録B 局所的な三角形要素の幾何学的形状のモデル化手法 p.117
国土の大半が山岳地帯である日本では厳冬期から比較的温暖な春先にかけて雪崩が発生し,しばしば被害をもたらしている.雪崩はその運動形態によって煙型雪崩と流れ型雪崩に分類され,また滑り面の位置によって表層型と全層型に分類される.本論文はこれらの雪崩の分類による運動形態の相違点を考慮した上で,その流動を詳細かつ迅速に把握するために,ラグランジュ的アプローチをベースとした雪崩の数値解析手法を開発することを目的とした.
第1章では,運動形態や滑り面の位置による雪崩の分類を示し,その特徴を説明した.また本研究の背景や目的を記述した.
第2章では,サーマル理論を応用した既存の煙型雪崩の一次元解析モデルを基礎に,これを拡張することで煙型雪崩二次元解析モデルを構築した.煙型雪崩は微細な雪粒子と空気の混在した流れであり一般的に大雪煙を巻上げることが知られている.煙型雪崩は内部に浮遊している雪粒子の底面への沈降や,巻き上げにより雪崩本体の雪量が増減する.福嶋はこのような挙動を雪の質量保存式において評価し,煙型雪崩が斜面方向に爆発的に成長する様子を再現した.本論文で提案した二次元解析モデルは,この一次元解析モデルの基礎方程式に横方向の広がりに関する式を追加し,解析領域を雪崩全領域とした.また,運動方程式を二方向に分離し,数値地図を用いることによって任意の発生点からの雪崩の流下経路も推定可能とした.このモデルを2000年3月岐阜県左俣谷で発生した大規模な表層雪崩に適用し,実績雪崩の流下経路や停止位置を再現できることを示した.
第3章では,煙型雪崩と類似した現象である火砕流の二次元解析モデルを提案した.火砕流は火山灰や火山れきで構成される微細な火砕物粒子と空気の混在した固気二相流であり,運動形態において煙型雪崩と類似点が多い.本研究では,火砕流の特徴である発生直後からの急激な温度変化を評価するために,第2章で提案した煙型雪崩二次元解析モデルの基礎方程式に熱エネルギー収支式を追加し,これを火砕流二次元解析モデルとした.このモデルを1991年6月の火砕流により43名が犠牲になった長崎県雲仙普賢岳に適用し,火砕流の発生直後の急激な加速や流下経路,到達距離などを数値解析により表現できることを示した.
第4章では,流れ型雪崩の一次元解析モデルを提案した.流れ型雪崩は積雪層が崩落し斜面方向に流下する雪崩であり,煙型雪崩のように大雪煙を巻上げることは無い.また,流れ型雪崩の場合,進行方向上の積雪層からの雪塊の取り込みや後方への離脱によって内部の雪量が増減する.本研究では,こういったメカニズムを考慮し,流れ型雪崩一次元解析モデルの基礎方程式を導き出した. この一次元解析モデルに地形形状が急勾配斜面から緩勾配斜面に単調に変化していく仮想地形データを流下経路として与え,全層型の流れ型雪崩を対象とした数値解析を行った.この際,モデル中に含まれる雪塊のフロントからの取り込みや後方への離脱を制御する無次元係数を変化させ,感度分析を行った.これにより,本研究で提案する流れ型雪崩の一次元化解析モデルでは雪の取り込みが顕著になれば,雪崩内部の雪量が増加するため,相対的に運動エネルギーも増加する傾向にあることが示された.
第5章では, 流れ型雪崩の二次元解析モデルを提案した.第4章で提案したモデルは一次元解析モデルであるため,これを第2章の煙型雪崩の流動モデルと同様に横方向の広がりを考慮して解析領域を雪崩全領域とし,その流下経路も推定可能な二次元解析モデルへと拡張した.この解析モデルによって,流れ型雪崩が斜面方向に加速し,緩勾配斜面において強い鉛直方向の重力が作用し減速及び停止に至る一般的な運動形態を表現できることを示した.さらに雪崩の形状などに関して実現象との再現性を高めるためには,サーマル理論によって得られた形状係数などの解析条件を精査すればよいことが示された.
第6章では, 以上の結果をとりまとめ総括とした.
本論文は,「ラグランジュ的アプローチによる雪崩数値シミュレーション法に関する研究」と題し,6章より構成されている.
第1章「序論」では,本研究の背景と目的を述べている.また,運動形態や滑り面の位置による雪崩の分類を説明している.
第2章「煙型雪崩二次元解析モデルの構築」では,サーマル理論を応用した既存の煙型雪崩の一次元解析モデルを,流動幅や流下経路の推定も可能な二次元解析モデルに拡張している.このモデルを2000年3月に岐阜県左俣谷で発生した大規模な煙型雪崩に適用し,実績雪崩の流下経路や停止位置を数値シミュレーションによって再現できることを示している.
第3章「火砕流への応用」では,煙型雪崩と類似した現象である火砕流の二次元解析モデルを提案している.提案されたモデルは,火砕流の特徴である急激な温度変化に伴う空気の粘性の変化を評価するために,前章で提案した煙型雪崩二次元解析モデルの基礎方程式に熱エネルギー収支式が追加されている.このモデルを1991年6月の火砕流により43名が犠牲になった長崎県雲仙普賢岳に適用し,火砕流の発生直後の急激な加速や流下経路,到達距離などを数値シミュレーションによって再現できることを示している.
第4章「流れ型雪崩一次元解析モデルの構築」では,進行方向上の積雪層からの雪塊の取り込みや後方への離脱による質量変化などの流れ型雪崩のメカニズムを考慮した流れ型雪崩一次元解析モデルの基礎方程式を導き出している.この一次元解析モデルに,地形形状が急勾配斜面から緩勾配斜面に単調に変化していく仮想地形データを流下経路として与え,全層型の流れ型雪崩を対象とした数値解析を行っている.この際,モデル中に含まれる雪塊の取り込みや離脱を制御する無次元係数を変化させ感度分析を行い,これにより雪の取り込みが顕著になれば,雪崩質量が増加するため,相対的に運動エネルギーも増加する傾向にあることを説明している.
第5章「流れ型雪崩二次元解析モデルの構築」では,前章で提案した流れ型雪崩一次元解析モデルを二次元解析モデルへと拡張している.このモデルに単純な形状の仮想地形データを与え,雪崩が雪塊の取り込みにより質量を増加させながら斜面を流下し,緩勾配斜面において強い鉛直方向の重力が作用し減速及び停止に至る一般的な運動形態を表現できることを示している.さらに,モデル中に含まれる無次元係数など様々な数値解析条件に対して感度分析を実施し,これらの運動形態への影響を明確にしている.
第6章「総括」では,以上の結果をとりまとめ総括としている.
本論文は,雪崩とその類似現象である火砕流の運動を詳細かつ迅速に推定するために,ラグランジュ的アプローチによる雪崩数値シミュレーション法を提案し,雪崩運動の数値解析手法に関して新たな道を拓いており,工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める.